Editors' Picks バレンタインデーのプレゼントでおすすめの腕時計6選

毎年のことではあるがこのシーズンがやってきた。学生のころは心底憂鬱だったイベント・バレンタインである。この行事は、女子が意中の男子にチョコレートを贈るという儀式と共に、男子側は自身のコミュニティ内におけるオスとしてのヒエラルキーを確認するものだったが（少なくとも僕は、笑）、どういうわけか時計業界においてはそれが逆転しているようだ。

　近年、バレンタインが近くなるとレディスウォッチの限定モデルが多く発表される。また、ペアやシェアといった提案も多くされるが、今回はHODINKEE Japanのエディター3人がそれぞれの観点でバレンタインを彩る時計たちをセレクトした。実際に贈るものやシェア使いするもの、思いを馳せるものなど、ぜひ参考にして欲しい。

 「バレンタインデー＝チョコレート」というイメージも、今ではすっかり昔のこと。このところは、男女関係なく、恋人や夫婦など親密な間柄にある人にギフトを贈ることで相手との関係を深めるイベントという印象が強くなった。それゆえ、時計ブランドもこぞってこの時期に様々な時計ギフトの提案を仕掛けているわけだが、個人的に最も親密さを深めることができるのは、1つの時計をパートナーとシェアすることではないかと思っている。

　同じ時計をシェアするということに、これまでは正直あまりピンと来なかったのだが、シャネルのJ12を実際にパートナーとシェアしてみると「シェアウォッチって思いの外、楽しものだな」と、実感をもってその楽しさを理解できるようになった。そんなわけで、今回は2人でシェアして楽しめそうなオススメモデルを紹介したいと思う。男性目線でのセレクトではあるが、ブランド自体は女性も憧れる有名どころをピックアップしたので、きっと楽しんでもらえるのではないかと思っている。どちらかがギフトとして贈っても良いだろうし、せっかくなら2人であれこれ相談しながら買い物を楽しむのも良いのではないだろうか？

　まずオススメしたいのは、エルメスのスリム ドゥ エルメスである。エルメスにはアルソーやケープコッドなど、いくつかのメゾンを代表するコレクションがあるが、スリム ドゥ エルメスは2015年に登場した比較的新しいものだ。時計としての役割を純粋に追求したスタイルが特徴で、繊細なシルエットのケースに大きなダイヤルを合わせる一方、グラフィックデザイナーのフィリップ・アペロワによってデザインされた独自のインデックスによって、ほど良いカジュアル感もプラスされている。

　パーペチュアルカレンダーやGMTモデルといった高機能モデルもラインナップされているが、シェアウォッチとして選ぶならシンプルな機械式モデルをオススメしたい。理由は39.5mmという男性でも女性でも着けられる絶妙なサイズであることと、何といっても薄いところだ。

　スリム ドゥ エルメスでは、このコレクションのために用意されたマイクロローター式の薄型自動巻きキャリバー H1950を搭載している。厚さはわずか2.6mmで、ケースを含めた厚さも自動巻き時計らしからぬスリムなフォルムを実現。モデル名に偽りなしである。

　なお、スリム ドゥ エルメスではレディス向けに25mmサイズ（こちらは2針のクォーツモデル）もラインナップされているので、男性は39.5mm、女性は25mmサイズを選んで、ペアウォッチとして楽しむという選択肢もある。ちなみに香水、書籍、大型商品などの一部を除きエルメスの公式サイトからギフトとして贈ることもできる。そうしたホスピタリティが高いところもオススメのポイントだ。

　スリム ドゥ エルメス 39.5mmの価格は78万5000円、スリム ドゥ エルメス 25mmの価格は30万6000円（共に税抜）。詳細はエルメス公式サイトまで。

　1本めに紹介したのは、どちらかといえばドレス寄りのモデルだが、スポーティなモデルが好みだという方もいるだろう。そんな人にオススメしたいのが、ショパールのアルパイン イーグルだ。 

　アルパイン イーグルは2019年に登場したものだが、メゾン初のスポーツウォッチであり、初のステンレススティールウォッチであった名作サンモリッツを下地に、全く新しいコレクションとして発表された。

　いわゆる“ラグスポ”に分類されるモデルだが、アルパイン イーグルが他のラグスポと大きく異なるのは、使用されている素材、ルーセント スティール A223である。ショパールのみに供給されるエクスクルーシブな素材で、一般的なSSの1.5倍の磨耗耐性と硬度を備えることに加えて、ゴールドに匹敵する輝きと光度を実現しているというのがポイントだ。ゴールド並みのキラキラとした質感をもつため、適度にドレッシーな印象で、繊細な女性の手元を一層キレイに見せてくれる。

　アルパイン イーグルには、41mmのラージと36mmのスモールと2つのサイズがあるが、シェアウォッチとして楽しむなら36mmのスモールがオススメだ。ラージとスモールでは搭載ムーブメントが異なるが、どちらも高精度なCOSC（スイス公認クロノメーター検定協会）認定の自社製自動巻きが採用されている。

　スモールモデルも男性が着けることのできるサイズではあるが、がっちり体型の男性だとシェアして身に着けるのは少々難しいかもしれない。その場合はラージとスモールでペアウォッチとして着けるのが良いだろう。もちろん、ペアとなると価格もそれなりにするので、相応の出費は覚悟したい。

　アルパイン イーグル スモールの価格は112万円、アルパイン イーグル ラージの価格は147万円（共に税抜）。詳細はショパール公式サイトまで。

　バレンタインデーといえば、女性から男性へギフトとりわけチョコレートを贈るのが日本では一般的ですが、海外では男女間だけでなく家族や友人にカードやプレゼントを贈ることもあります。日本でも最近そういった傾向もあるように感じるので、今回はシェアウォッチとしても使えるようなより汎用性の高いモデルをピックアップすることにしました。

　僕が最初におすすめするのは、ノモス・グラスヒュッテ　タンジェント 33 DUO。同ブランドが得意とするモダンでミニマルなバウハウスの美学に深く根ざしたクラシックモデルです。直径33mm × 厚さ6.5mmのステンレススティール製で、内部には、自社製手巻きムーブメントアルファ.2を搭載。タンジェント33 DUOは、他のノモスのモデルにも似ていますが、アラビア数字のインデックスや、角張ったラグと薄くフラットなラウンドケースが特徴的です。ゴールドの細長い時分針がとてもエレガントな雰囲気を演出しています。

　タンジェントは、伝統的なデザインを忠実に守っており、カジュアルなシーンやフォーマルなシーンでも活躍することはもちろん、男性にも女性にも似合う汎用性の高いコレクション。シンプルなデザインのためストラップ交換の楽しさもありますし、誰から誰へ贈っても喜ばれるギフトになると思います。パートナーとのシェアウォッチにも良いのではないでしょうか？

タンジェント 33 DUOの価格は、17万円（税抜）。詳細は、NOMOS公式サイトへ。

　僕がおすすめする2本めの時計は、タイメックス　Qです。本機は、1979年に誕生した同名モデルを現代的に復刻した時計で、全体のデザインはもちろん、ねじ込み式のバッテリー交換用ハッチに至るまで忠実に再現されています。内部に搭載されているのは、もちろん当時と同じクォーツムーブメント。

　外観は、SS製の角張った特徴的なケースに青と赤のペプシベゼルを備えており、ロレックスのGMTマスターを連想させます。実はオリジナルのタイメックス　Qが登場した1970年代は、手頃な価格帯のブランドがより高価格帯のブランドのデザインを真似ることが当たり前の時代でした。そんな歴史的な背景もこの時計には隠されています。

　確かにデザインを真似ているかもしれませんが、個人的には同社が落とし込んだデザインには独自の美学があり、それは約40年経った今も変わっていないように感じます。それは、リリース当初この復刻モデルが、あまりの人気からすぐに完売し入荷待ちのリストに長蛇の列ができたことからも分かります。先にご紹介したノモスよりもスポーティなデザインでよりカジュアル。クォーツウォッチのため色々と気を使うことなくラフに使えるのもポイントで、デイデイト表示つきのためリモートワークが中心の生活において非常に便利です。

　ケースサイズは、直径38mm x 厚さ11.5mmとこちらもシェアウォッチとして使いやすいサイジング。相手を問わず喜んでもらえるモデルであり、もしかすると時計好きでない人をこちら側に引き込める力をもった時計の一つかもしれません。

タイメックス　Qの価格は、2万2000円（税抜）。詳細は、タイメックス公式サイトへ。

　この時計は見た目の可愛らしさから、完全に女性好みのモデルであるような気がしてしまうが、その実、相当に男性の胸も打つこと請け合いな1本だ。ダイヤルに目をやると、なんとハートマークが配されているように見えるが、これは時の経過と共に動き、20分ごとにその形状を変化させる分針である。この特殊は針は中央の軸にそれぞれ別に接続されており、位置によってそれぞれ異なった速度で回転することでハートの形を変えていくという仕組みだ（オーバル型のダイヤルに沿って見事に形を変えるのは、一見の価値がある。ハート型のカムを挿入することでこれを実現した）。針自体はニッケルリンを原料にLIGA工法で製作。遊びがなく繊細な形状を作り出すことに心が砕かれている。

　ブレゲはなんと、この時計のためにCal.78A0をベースとして新機構をプラス。わずか世界限定28本という時計のためのエクスクルーシブなムーブメントであり、今後、このキャリバーが他のモデルに搭載されるかは出てからのお楽しみ、ということだ。自分用のブレゲを待つ間に、新ムーブを搭載した新作をパートナーに贈るというのも良いものかもしれない。

ブレゲ　クイーン・オブ・ネイプルズ 9825 “ハート・エディション”   Ref.9825BR/S8/964D00D　18KRGケース、36.5×28.45mm、厚さ10.96mm、3気圧防水。ブレゲ数字インデックス、窓での時表示、ハート形の針による分表示。自動巻きCal.78A0、40時間パワーリザーブ、3.5HZ（2万5200振動/時）。世界限定28本、499万円（税抜）。その他詳細は、ブレゲ公式サイトへ。

　何を隠そう、僕はジュエラーウォッチが大好きだ。それはブランドのアイコンに根ざしてデザインされたものが多いからなのだが、シャネルのボーイフレンドはそんな僕にとってまさにツボだ。この八角形の時計は、伝説的な香水シャネル N° 5のボトルストッパーやヴァンドーム広場にオマージュを捧げたもので、男性的なものを通じて女性の魅力を引き出すというマドモアゼル シャネルの精神を受け継いでいる。一方で、その名のとおりボーイフレンドが着けていそうな時計を女性が着けるというイメージもあり、ミディアムサイズであればシェアウォッチとしても最適なのだ。

　このボーイフレンドが2015年に初登場した際、僕はすぐさま恋に落ちてしまった。シャネルのアイコンであるキルティングやツイードパターンを用いたストラップは、同社のバッグやジャケットをなかなか持つ機会がない僕にもその願望を叶えてくれそうな気がする。実は、ボーイフレンドには昨年秋、ストラップがインターチェンジャブル仕様へのアップデートがされており、豊富なカラーとパターンを複数楽しむことができるようになった。モデル名のようにメンズライクなものから発色の良いレッドやピンクなど、より男女で楽しむことができる仕様になっている。

　ここまで書いてきて、ひとつ気づいたことがある。これは完全に僕が欲しいものという目線で見てしまっている。これを贈られる女性たちは、男を子どものようなものだと心得ているだろうから、裏にある"シェア使い"のメッセージも受け止めてくれるだろうけれど。

シャネル　ボーイフレンド　スモール 27.9×21.5mm、厚さ6.23mm、43万5000円。ミディアム 34.6×26.7mm、厚さ7.33mm、ベゼルに64 ブリリアントカットダイヤモンド、101万円（全て税抜）、共にSSケース、インターチェンジャブルのキルティングパターンのカーフスキンストラップ。クォーツ。30m防水。