Photos by Kasia Milton
※オーデマ ピゲ ロイヤル オークは、その製造工程により生産本数が大幅に増えるような性質のマスプロダクトではない。2022年も続く人気・需要の過熱ぶりにより、残念ながらブティックに問い合わせたからといってチャンスが巡ってくることはないと思われるが、その素晴らしい時計自体の魅力と50年間にわたる豊かな歴史や背景を知り(この記事がオススメだ。「オーデマ ピゲ ロイヤル オークの起源について、あなたが知らない8つのこと」)、まずAPを知ることから始めよう。なお、時計の入荷状況は各国ごと、日本でも地域ごとに差があり、現時点で未定とのことだ。
この時計について、我々は正直なところを口にすべきだろう。ブルーセラミックのロイヤル オーク(すべてがブルー!)はクレイジーだ。常軌を逸しており、これを装着するのも常軌を逸している。だが、そもそも時計趣味というもの自体、まともだったことはあるだろうか? 我々は、だてや酔狂で自分たちのことをオタクだのマニアだのと呼ぶわけではない。こうした呼称は名誉の勲章であり、同じステンレススティール製スポーツウォッチを繰り返し繰り返し欲しがらないようにするものなのだ。
もちろん、今回我々が見ているのは、オーデマ ピゲの6桁(日本円8桁)価格のブレスレット一体型ウォッチ。つまりは、ジョン・メイヤー(John Mayer)、ケビン・ハート(Kevin Hart)、ドレイモンド・グリーン(Draymond Green)、レブロン・ジェームズ(LeBron James)でもない限り入手不可能な時計ということだ。人によってはこうした部分が、時計趣味にまつわる間違いのすべてということになるのだろうが、私にとってはこれこそがこの趣味の美点だ。いつか自分も所有できるかも知れないとの妄想を抱くことなく、遠くからこの時計を恋焦がれていられる。それは、フランシス・ベーコン(Francis Bacon)の絵画や、先日記事にしたばかりのヴィンテージポルシェすべてに抱く気持ちと同じものだ。もし読者の皆さんで幸運にもこれらの新たなパーペチュアルカレンダー(QP)を入手された方がおられるならば、腕に装着した写真をぜひInstagram(@glassofmilt)に送って頂きたい。
前置きはこれくらいにして、すべてブルーでサテン仕上げを施した、1970年代初めのリリース時に時計界を驚愕させた形状を持つセラミック製の、高度な複雑機構を備えた高級時計を見ていこう。オーデマ ピゲのロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー ブルーセラミックだ。
2017年にオーデマ ピゲは、2015年リリースにされたフルSS製モデルをベースとしたブラックセラミックのQPを発表した。そして2019年に、このテーマをホワイトセラミックで再現したブティック限定のレベルアップ版を出した。我々はどちらも気に入った。我々はブルーが好きだ。だからこそ、オーデマ ピゲがまた別のカラーバリエーションを発表し、それがブルーのセラミックQPコレクションだと知ったときには興奮した。HODINKEEのSlackチャンネルは騒がしくなり、電話回線は賑わい、我々は新たな会社休業日を設け、みんなその日に休暇を取った。
しかし、この時計を腕につけてみることができるのはたったひとりのHODINKEEスタッフに限られ、皆さんは今、その人物の記事を読んでおられるのだ。私は思い出す。それはたった2週間前のこと。オーデマ ピゲの小さなレザー製ウォッチケースを手渡され、それを開けると、このブルーの美しい一品が目の前にあった。
この新作時計はまるで映画『カラー・オブ・ハート(原題:Pleasantville)』のなかでトビー・マグワイア(Tobey Maguire)とリース・ウィザースプーン(Reese Witherspoon)が、白黒の世界を鮮やかな色彩の狂気へと変化させるときのような感じだ。これを実際につけてみると、鮮やかなブルーのセラミックウォッチのつけ心地は、ブラックやホワイトのスタンダードなセラミック製とはまったく異なるものだと断言できる。
そしてそれはベストな形で異なるのだ。これほどの派手さをもつ時計を装着することに抵抗さえなければ、非常につけ心地がよいと感じられることだろう。まず、奇跡かと思うほどに軽い。これを手にとるとき、私はかなりの重量を予期していたのだが、実際にはまるでチタン(これもオーデマ ピゲはケース素材によく使う)のような感じを強烈に受ける時計だった。
次に感銘を受けたのが、ケースフィニッシュのレベルの高さだった。サテン仕上げのセラミック面を作り出すのは並たいていの技ではないが、この時計はそれをやってのけている。そしてひとつ言えるのは、セラミックという素材は常にやや光沢を放つものであり、特にこれほど派手な単色使いの時計ならばなおさらなのだが、この表面のサテン仕上げが、そのノイズを消すのにひと役買っているのだ。
ダイヤルの質感からブレスレットのデザイン、ベゼル、クラスプまで、この時計にはロイヤル オークのデザイン的特徴がすべて備わっていることを見て取れる。まさにロイヤル オークの真骨頂だ。41mmというサイズは、月、曜日、日付、ムーンフェイズといったインダイヤルでやや込み入ったダイヤルディスプレーに息つく余裕を与えるだけの大きさを、この時計とダイヤル面にもたらしている。このムーンフェイズ表示は、すべてがブルーという美観に対して非常に映えると私が感じるデザイン上のアクセントとなっている。まるで夜空がブルーのダイヤルに溶け込み、それがケースにも溶け込んでいったかのようだ。コントラストなど必要あろうか?
そして私は、ブレスレットが手首にまとわりつくように馴染むその感覚にも驚いた。セラミックは堅くてなじみにくいというイメージがあったのだが、実際には、SSやチタン、その他の貴金属と同じように、リンクには顕著な流動性がある。そしてそのすべてがバタフライ式に閉じる控えめなクラスプ構造へとつながっていくのだ。
これは既存モデルのカラーアップデートなのであり、使われているムーブメントは引き続き、40時間のパワーリザーブを持つCal.5134だ。ケースバックから見ることができる。この部分はブルーセラミックで作られていない(クラスプ以外では)唯一の場所だ。すべてがブルーの世界からひと休みして、パーペチュアルカレンダーを構成する374個の部品を眺めているのだと考えてみよう。
買うことはできなくても、この時計を扱ったHODINKEEアーカイブス「Second Opinions:高い時計を買わなくても、時計趣味は楽しめる」でこれらの時計をご堪能ください。
心の奥底で、この時計は私向きではないとわかっているのだが、しかしそれと同時に、この時計がかっこいいこと、話題性のある時計であること、そして最終的には世界的な飢餓や気候変動危機を終わらせることも可能な自己資本と購買力をもつセレブたちの腕に収まるのだろうこともわかっている。私はまた、これを見る機会に恵まれた1時間かそこらで、これを本当に理解できるようになったと認めよう。このような時計でオーデマ ピゲは、自らのデザイン言語をモダンな素材やモダンな時計づくりに結び付ける能力があることを示しているのだ。この時計は、臆面もなく派手な外観に本格的な複雑機構をもたらしたという点で、ハイレベルなことをやってのけている。
しかし同時に我々は、一般的なデザイン対象、より広範な時計界から多くの感情を引き出すロイヤル オークそのものを扱っている。そのフラストレーションがロイヤル オーク疲れであれ、店頭で購入できないことによるものであれ、このモデルには時計がもつある種のパワーがあることに気づかずにはいられないだろう。この時計を嫌う人はとことん嫌うと考えて間違いない。そしてそれはわかるが、しかし私は、本物の時計づくりの技をもつ大胆な作品を作り上げたことについて、このマニファクチュールは称賛に値するとも思うのだ。
もしもすべてをセラミックでつくることが簡単ならば、どのブランドもそれをしていただろう。そしてまた、高価格のQPの生産規模を拡大することで安くできるのなら、どこもそうすることだろう。しかしそのどちらも、技術的なノウハウはいうまでもなく、かなりの投資を要する。だからこそ、10万ドル(約1450万円)超えの価格設定になるのだ。
私はこの時計をオーデマ ピゲに返却するために腕から外すとき、これを手放す準備がまだできていなかったことを認める。もしあと30分もらえていたなら、私はまったく新たな人格づくりを完成させていたことだろう。皆さんは新しいダニーを見ていたはずだ。ブルーセラミックのQPをつけたダニーだ。そして人々はこう言う。「わぁ、その時計は君の眼の青さを実に引き立てているよ」。そして私は「知ってるよ」と言い、新たに友人となったレイモンドとともに自分のプライベートジェットへと向かうのだ。誰でも夢を見ることはできる。
オーデマ ピゲ ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー ブルーセラミック。41mm×9.5mm。ブルーセラミック製ケースと一体型ブルーセラミック製ブレスレット。グランタぺストリー模様のブルーダイヤル、スーパールミノバ夜光、20m防水。オーデマ ピゲのCal.5134ムーブメント、パーペチュアルカレンダー(週、曜日、日付、ムーンフェイズ、月、うるう年)付き、時・分表示。価格は要問い合わせで受注生産。
話題の記事
Business News LVMH、F1との10年間にわたるパートナーシップを発表
Introducing 国産初の腕時計にオマージュを捧げた、ポータークラシックとセイコー プレザージュのコラボモデル
Hands-On ノモス グラスヒュッテが新ムーブメント搭載のタンジェント 2デイトを発表