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Just Because F.P.ジュルヌのオモチャや箱の落札結果にみる、迫り来るバブルの終焉(と、その逆の現象)

我々お気に入りのF.P.ジュルヌグッズを何点かご紹介しよう。

Photos by Mark Kauzlarich

11月の時計オークションについて、次のような噂を聞いたことがあるだろう。バブルの終焉が迫っているが(特に大量生産されたモダンな時計において)、本当に希少で特別なものはまだ上手くいっている。ヴァシュロン・コンスタンタンのオーヴァーシーズ・パーペチュアルカレンダーは(ありがたいことに)定価以下で落札できるが、3本しか製作されなかったミニッツリピーター(諸費用込みで50万ドル)を見ると“不況”が迫っていると言わざるを得ない。F.P.ジュルヌが前者なのか後者なのか、謎に包まれていた。答えは(よくあることだが)、おそらくその両方だろう。

 ジュネーブのクリスティーズオークションで、F.P.ジュルヌのプラスチック製のオモチャが2万5200スイスフラン(約361万円)で落札された。その前には、ジュルヌの化粧箱が3万7800スイスフラン(約542万円)で落札されている。レゾナンス“プレ・サブスクリプション”と呼ばれる時計に100万ドルも費やすことを厭わない人がいる(そう、これはジュルヌの工房から最初に出荷されたレゾナンスの時計のうちの1本であることは理解できるのだが…)この趣味の世界を理解するためには、先入観を捨てる、いや、それが現実だと受け入れる心を持たなければならないと頭ではわかっていても、この事実を理解するのは難しい。それにしても、若いフランソワ・ポールと年老いたフランソワ・ポールのようなオモチャと、それに付随する箱を合わせて6万3000スイスフラン(約903万円)とは。この値段で、時計はもちろん、さまざまなものが手に入る(私なら、税込743万6000円のヴァシュロン・コンスタンタンの新作Ref.222だろう。あなたの好みのゴールドモデルではないかもしれないが、ご参考までに)。

Journe Chronometre Blue Toy Kokies Bait

オモチャのクロノメーター・ブルー

 潮の満ち引きがすべての船を持ち上げるという、コレクターズアイテムがもたらす心理的効果というものがある。カルティエのクラッシュが100万ドルで売られるや、突然、メゾンの味を知るために、かつて数百ドルで売られていた80年代のクォーツ式タンクマストに数千ドルを支払う人々が現れた。また、ポール・ニューマンが所有したポール・ニューマン・デイトナは、1770万ドル(約20億円)で落札され、さらにデイトナに似た時計は、タキメーターで時間を計る間もなく売れてしまう(例えば、Gevrilのデイトナなど)。ジュルヌのトゥールビヨンに数百万ドルを費やす人が現れ、突然、空箱でさえもブラックベイのフィフィティ-エイト12本分よりも価値があるようになったのだ。

 もちろん、ホイヤーのソルナーを使って潮の満ち引きを追跡している人ならわかると思うが、この潮の満ち引きにはひとつだけちょっとしたカラクリがある。それは満ち引きが同時にやってくるということだ。今年のオークションシーズン、何本かのジュルヌは海岸から引き戻され、以前の最高値を証明する高潮の跡をかすかに残すのみとなった。例えば、真鍮製ムーブメントを搭載した初期のジュルヌ トゥールビヨン3モデル(123)は44万1000~47万8000スイスフラン(約6330万〜6860万円)と、落札金額は昨シーズンから約25%下落した。しかし、少なくとも今のところは、潮の流れやトレンドの自然法則に左右されることなく、何らかの形で海岸に打ち上げられたままのものもいくつかあるようだ。比喩はこれくらいにしておこう。

箱のなかに思いを馳せる
Journe Box expensive

箱。しかも空っぽ

 まず、ジュルヌのプレゼンテーションボックスは、クリスティーズにて3万7800スイスフラン(約542万円)で落札された。確かに、時計コレクターは長いあいだ、コルク製のパテック フィリップのノーチラスの化粧箱や、あのロレックス マイダスの聖杯型化粧箱のために、気の遠くなるような金額を支払うことに抵抗はなかった。昨年も、フィリップスでジュルヌのサブスクリプションの時計5本を収納するディスプレイ用ボックスが10万800スイスフラン(約1446万円)で落札されたばかりだ(そのオークションで落札されたサブスクリプションの時計5本と一緒に“No.1”と刻印されたもの)。しかし、長さ約30cmのウォルナット材の箱に5本の時計を収納するにしては、とんでもない金額だ。その代わりに5本の時計のコレクションを揃えることができるとしたら、そちらが得策ではないだろうか。

 この特別な箱は、ジュルヌの2015年限定モデルで、クラシックな38mm径のケースサイズの5本のステンレススティール製の時計のセットを送り出すために作られたものだと思われる。昨年、サザビーズにてこの5本セットが総額約87万ドル(約9303万円)で落札された(うち3万ドル相当がの価格である)。要するに、このセットはコレクター好みの品なのだ。冒頭の話のとおり分類すると、これらの時計は “本当に希少で、実績も申し分のない特別な個体”にしっかり該当する。確かに希少性は素晴らしいが、これらの時計は特別なものでもある。それは、ジュルヌのベストヒットのリバイバルであることだ。ジュルヌの最初の2モデルは、トゥールビヨン・スヴランとレゾナンスで、これらは今でもこの時計メーカーにおいて最も認知度が高く、コレクターも多いモデルだ。2015年のセットにはこの2モデルが収められ、特にオリジナルの38mmサイズで、ほかのモデルもオリジナルの美学を引き出している。例えばレゾナンスはオリジナルと同様、ふたつの対称的な12時間ダイヤルを備えているなど、確実なヒット作となっている。

Journe Stainless Steel 2015 38mm limited edition set

ジュルヌの38mmケースサイズを送り出す、SS製ジュルヌの2015年5本セット。

 コレクター性の高いジュルヌを求めるなら、その方程式はいたってシンプルで、“早く作って、希少性を高める”ことだ。2015年のものだけだが、このセットには初期のジュルヌへのあらゆる特徴が、オリジナルの雰囲気を醸し出している。SS(これもジュルヌには珍しい)であることひとつとっても、コレクタビリティに関しては、*シェフのキス(編注:完璧なモノを表すジェスチャー)*なのだ。

 ちなみに、2015年に発売されたスティール製ウォッチのうち、オートマティックとカレンドリエの2本の定価は、このボックスの落札結果よりも低い価格で販売された。ジュルヌの収集価値は、10年足らずのあいだに大きく向上したのである。

 しかしそれでも、これらの時計が1本も入っていない箱は、空っぽの、かなり役に立たない四角い木箱に過ぎない。

私を弄ばないで
FP Journe Kokies Bait Collection

人形たち

 さて、非論理的な高価な箱に可能な限りの論理を適用したところで、これらの小さなオモチャにも同じことをやってみよう。

 ストリートウェアブランドのBAITは今年初め、ジュルヌとコラボしてKOKIESの限定セットを作った(BAITは今年、H.モーザー ストリームライナーの限定版でもコラボしており、創業者のエリック・ペン・チェンは大の時計コレクターなのだ)。フランシス・フォード・コッポラ×F.P.ジュルヌ オンリー・ウォッチ“FFCブルー”プロトタイプ、クロノメーター・ブルー、サブスクリプション5本セットなど、ジュルヌの時計7本のミニチュア版と、青いブレザーを着た若き日のジュルヌと現在のジュルヌがセットになっている。限定300セット、価格は500ドルで、すぐに売り切れた。つまり、私たちは機械仕掛けのブレスレットに莫大なお金をかけているのだから、人形でも遊びたいと思うのは当然ではないだろうか?

FP Journe Kokies Bait Watches Toys

人形には3種類の時計を装着可能だ

 その数カ月後、ある起業家の委託者がKOKIESのセットをクリスティーズに送り、2万5200スイスフラン(約360万円)という破格の値段で落札されたのだ。確かにこの結果は、センスよりもエゴの強い数人の入札者が、どちらが先に手を引くか、高価なチキンゲームをした結果かもしれない(おそらく実際そうだったのだろう)。とはいえ、1万ドルを超えた時点でも、別の入札者が数人入札しているのだから、市場性はあるのだろうか?(とはいえオモチャが1500ドルを超えるのも珍しくないeBayで検索してもヒットしないのだから、ないだろう)

 “希少で、特別なもの”が好成績を収めるというのはよくある話だが、このふたつのものが、それだけで本当に特別なものなのかどうかは、私にはよくわからない。確かに、ほかとは違うし、ジュルヌらしい輝きを持っている。もしすでに数百万ドルをジュルヌのコレクションにつぎ込んでいるのなら、仲間内で目立つためには、このようなものを手に入れるしかないのだろうか。少なくとも、このようなアクセサリーに大金を使うことは、目立つための方法なのだ(オークションに出品され、数万ドルの値段で取引されたジュルヌのペンもそれに含まれるだろう)。

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 コレクターの世界のあちこちで不合理な熱狂が冷めつつあるとはいえ、“ジュルヌ”と書かれた多くの珍しいものが、いまだに熱狂の波に乗っている。どちらについてもいえよう。ジュルヌは、パンデミック、資金供給の過多、ソーシャルメディア、その他あらゆるものが織り成す残酷な不合理な熱狂の犠牲者であると同時に、その世代で最も重要な時計師のひとりであり、賞賛に値する人物である。

 確かにこのバカげたオークション結果は“市場”の気まぐれを表すいい例にはなるだろうが、実際のところ、市場とは、何を買うか(あるいは買わないか)について合理的あるいは非合理的な決定を下す人々の集まりに過ぎない。そこで、実際に何が起こっているのか、現場(そして界隈)の視点が必要だと考えた。つまり一般の人々、あるいは一般の時計コレクターは、フランソワ・ポール・ジュルヌのことをどれくらい知っているのだろうか? 幸運にも、スタイルエディターのマライカ・クロフォードが最近、F.P. ジュルヌの帽子を使った科学的にも非科学的な人類学の実験を行ったと教えてくれた。その結果は、学術誌に発表されることは当面ないが、おそらく私にとっては、どんなオークションの結果よりもジュルヌの現象を説明する助けになるはずだ。


帽子を使った調査報告
By Malaika Crawford

私の親しい友人のほとんどは、時計の分野には関わっていない。だから、私が外出先で(特に日没後や早朝に。シー、内緒)、私が何をしているかを知ると、友人の友人たちから時計関連の質問の嵐に晒されるのは、おもしろいことだ。彼らはたいていロレックスやパテックが好きで、クラブでデイトナやスカイドゥエラーを身につけるのが好きな人たちだ。私は礼儀正しく、熱心であり続けた。空気を読まない人間だと思われたくないからだ。

fp journe hat

マライカがマディソン・アベニューを歩いているところ(?)のワンショット。Image: Courtesy of F.P. Journe

 それが1年前くらいから、「人気モデルを愛用しているけれど、最近はジュルヌにハマっている」というコメントをいただくようになった。ジュルヌ? あのF.P.ジュルヌのこと? 失礼な言い方だが、クロノメーター・レゾナンス(Chronometre à Resonance)の意味も知らないような人たちが、どうしてジュルヌのことを知っているのだろう? 彼らはジュルヌの時計を持っていたのだろうか、それともただ単に時計通だと思われたいためにその名前を出しただけなのだろうか? これは、ジュルヌが筋金入りの時計コレクター向けのブランドとしてのニッチを失ったことを意味するのだろうか? それとも、ジュルヌは時計(大衆)文化の一部になってしまったのだろうか?

 そこで、私はある人類学的な実験を行うことにした。今年初め、ジュネーブのF.P.ジュルヌ本社を訪れた際、私はベースボールキャップをいただいた。ニューヨークに戻った私は、ある日の午後、ボーイフレンド(彼は時計について何も知らないし、正直なところ、知る必要もないのだが、その方が私には都合がいい)に、あまり事情を説明せずにその帽子をかぶってもらった。私たちはアッパーイーストサイドを散策し、目的の場所にたどり着いた。マディソン・アベニューだ。この帽子に注目する人がいるかどうか、見てみたかったのだ。驚くなかれ、視線が集まり、何人かがうなずいていた。手首に何もつけてないとバレそうなので、ジャケットを羽織っていたのが幸いした。次は、ロレックス プロフェッショナルモデル好きの仲間たちとダウンタウンに行く予定だ。そのときはまた報告したい。

画像はすべてBAIT×ジュルヌ KOKIESのものだ:Courtesy of Mark Kauzlarich

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