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本記事は2022年11月4日に執筆された本国版の翻訳です;本文中のオークションは全て開催終了しています。
今週開催されるジュネーブの時計オークションについて、100万ドルの時計とは何か、独立系時計メーカーの時計のプレビュー、そして最後にお気に入りの懐中時計を紹介する記事をすでに何本か掲載してきた。しかし、約1週間で1000本以上のロットが落札されるため、取材し切れないほど多くのストーリーが潜んでいる。オークションは世界的に興味深い時期に開催されたが、注目株はこれまで以上にホットなものとなっている。100万ドルのカルティエ シャイヒから、ほぼ同額を記録したデュフォー シンプリシティまで、魅力的で希少な時計は、今もかつてないほどの関心を集めている。しかし、特にこのような時代には、すべての時計をよく見て、特別なものと凡庸なものとを区別することがこれまで以上に重要になるだろう。本記事では、そのような観点から、いくつかの予測を紹介したい。
ローガンはジュネーブ現地でオークションに参加するので、今後数日間のニュース速報に乞うご期待。
1. 私だよ私、VCだ。問題は私なんだ、私なんだってば。
マイケル・B・ジョーダンが今年最高の時計、ヒストリーク Ref.222を着けてInstagramを賑わせているとき、あなたはその勢いを知ることになるだろう。そしてヴァシュロンにとって、今年はさらにいい年になりそうだ。今週ジュネーブで出品される美しく希少なヴィンテージヴァシュロンの数々は、2022年がヴァシュロンの年であることを証明するような素晴らしい品だ。
まずは、3本しか知られていない1961年製のミニッツリピーター Ref.6448である。そう、たったの3本。ヴァシュロンのヴィンテージミニッツリピーターのほとんどは、Ref.4261というモデルだ。Ref.4261は40本しかその存在を知られていないが、ヴァシュロンはほかのリファレンス(Ref.4261のティアドロップ型ラグに対し、Ref.6448はストレート型ラグ)のミニッツリピーターをわずかに製造している。さらに、このモデルはWG製で、バゲットカットのダイヤモンドインデックスを備えており、おそらくユニークピースと思われる個体だ。ヴァシュロンのスタイル&ヘリテージディレクターを務めるクリスチャン・セルモニ氏が解説してくれたように、ヴァシュロンのアーカイブは時系列に並んでいるので、新しい時計が発見されたからといって、次の発見がないとは限らない(アーカイブのすべての行を丹念に調べるなら話は別だが、ヴァシュロンの創業は1755年だということもお忘れなく)。
「これは20年に一度くらいしかオークションに出ないタイプの時計です」とセルモニ氏は付け加えた。私たちは2012年に同様のWG製ミニッツリピーターを記事に取り上げたが、そのときは36万3000スイスフラン(約3229万円)で落札されている。この時計が同じような関心を集めても驚かないでほしい。フィリップスはこの時計に10万〜20万ドル(約1395万〜2790万円)の落札予想価格を提示しているが、これは驚くほど控えめな数字だ(信じられないかも知れないが)。
次に紹介するヴィンテージヴァシュロンのPG製クロノグラフ Ref. 6026は、ミニッツリピーターと同じく1955年製の希少なモデルだ。直径36mmのケースは、ほかのどのヴィンテージヴァシュロンのクロノグラフとも異なり、大きく大胆な傾斜したラグが特徴的だ。
「生産数と希少性という点では、コルヌ・ドゥ・ヴァッシュと比肩しうるでしょう」と、セルモニ氏は、Hodinkeeの読者もよくご存じの、コレクター垂涎のクロノグラフを引き合いに出し、そう語った。セルモニ氏によれば、YGケースのRef.6026はおそらく20本以下、PGが15本弱(フィリップスによればPGは6本知られている)だという。この数字は希少性という点でコルヌ・ドゥ・ヴァッシュに匹敵する。しかもRef.6026は50年代半ばの約1年間しか生産されなかったと考えられている。
セルモニ氏は、コルヌ・ドゥ・ヴァッシュと比較して、「Ref.6026のデザインはよりクラシックで、ケースはとにかく素晴らしい。ラグをご覧いただければ、その仕上げの素晴らしさがよくわかると思います。ミドルケースはサテン仕上げで、ポリッシュ仕上げとコントラストが実によく映えます。素晴らしいタイムピースですよ」
予想として:フィリップスはYGのコルヌ・ドゥ・ヴァッシュを12万6000ドル(約1690万円)で販売したばかりだ。ただ、私はRef.6025がそれに近い値段になるとは思っていない。コルヌ・ドゥ・ヴァッシュは長年コレクターに愛されている時計なので(正直、私もRef.6026が本格的に普及するには覚えやすい愛称が必要だと思っている)、予想されている3万~6万スイスフラン(約445万〜890万円)を超えたとしても驚くことではない。このヴァシュロンRef.6026の詳細はフィリップスでご覧いただきたい。
最後に、サザビーズの重要な時計の主役のひとつは、プラチナのヴァシュロン Ref.4764だ。皆さん、ジャーダ・デ・ラウレンティス(イタリア系の人気シェフ)を思い浮かべて発音してみよう。この時計は、“CIOCCOLATONE(チョコラトーネ)”という愛称で呼ばれている。ヴァシュロンとサザビーが知る限り、これはプラチナ製として唯一のRef.4764である。セルモニ氏は、この時計について尋ねると、「ユニークで、ファビュラスで、アメージング、そしてフェノメナル(目を見張るべきもの)です」と答えた。
この時計がヴァシュロン・コンスタンタンに持ち込まれたとき、オリジナルの模範的な状態を保っていたため、ダイヤルの塵を取り除くだけの作業しかする必要がなかったという。
「おそらく最も重要なことは、大胆なスクエアケースのコンディションがいいということです。特にダイヤルには経年変化がはっきりと現れていますが、このチョコラトーネのオリジナリティはコレクターにとって非常に魅力的なものです」とセルモニ氏は語る。サザビーズによると、このモデルはオークション市場に初めて出品されたそうだ。このRef.4764 チョコラトーネは、サザビーズが50〜100万スイスフラン(約7420万円〜1億4839万円)の落札予想価格を提示している。こちらよりご覧いただきたい。
2. あのブラックダイヤルのパテック Ref.2499は、前回(2000年)落札された時よりも低くなる見込み…
2000年を覚えている? 私はまったく。当時の私はマーシャル・マザーズのLPの歌詞を覚えるので精一杯だった(母さん、ほっといてよ!)。でも、このパテック Ref.2499はよく覚えている。当時この時計はアンティコルムで94万9500スイスフラン(当時の為替で約1億640万円)で落札された。フィリップスは今回、このブラックダイヤルのRef.2499が6本しか知られていないうちの1本であり、オリジナルのダイヤルがブラックであることを証明するパテックのアーカイブ(Extrait des Registres)を持つ唯一の個体だと解説している。
さて、エミネムと同じように、この時計は2000年当時、現在よりもいいパフォーマンスを発揮していたかもしれない。確かに、今でももの凄い数字を叩き出すだろう。フィリップスは40〜80万ドルで落札予想価格を設定した。しかし、それは誰もが “will the real Slim Shady please stand up?(『The Real Slim Shady』エミネム)”のリリックを口ずさんでいたのが過去のものであるのと同様、もはや世界で最もホットな時計のひとつではなくなっている。
ここからが本題だ。このRef.2499が最初にオークション市場に出品されたのは1994年、シルバーダイヤルで5万7125ドル(約715万円)という比較的控えめな価格だった。シルバーダイヤルのRef.2499は、確かにクールでレアな時計だが、それだけであれば、それほど騒ぐほどのものではない。しかしこの時計は6年後に再び登場し、ブラックダイヤルに変更されたのだ! このとき、この時計は94万9500スイスフランという(控えめな)金額で落札されたのだ。5万7000ドルがわずか6年で100万ドルになったのだから、ウォーレン・バフェットも顔負けの投資効果である。では、どのような錬金術で“ありふれた”Ref.2499を100万ドルの時計に変えたのだろうか。フィリップスによると、次のような話だ。
1996年に発行されたパテックのアーカイブには、この時計がもともとブラックダイヤルだったと記載されている。最初のオークションの落札者はこれを見て、パテックに時計を元のあるべき姿に戻すように頼んだと思われる(つまり「スターン様、どうかクリスマスに欲しいのは私のRef.2499にブラックダイヤルを取り戻すことだけです」と懇願したのである)。どうやらパテックはこれを承諾し、フィリップスがいうところの“光沢のあるブラックダイヤルのストックパーツ”、おそらく80年代に製造されたダイヤルをこの時計に与えたようだ。その後、パテックは1997年にダイヤルの詳細な説明と本物であることを保証するアーカイブを新たに発行した。確かにオリジナルダイヤルではないが、これで来歴は十分に証明された。
しかし、以前の記事でも触れたが、2000年当時、100万ドルほどの資金があれば、時計の状態や歴史に関係なく、基本的にこのような複雑機構のパテックしか選択肢はなかった。だからこそ、この時計は大きな結果を残した。現在市場には、ほかにもたくさんの時計で溢れている。このブラックダイヤルのRef.2499は、2000年当時よりも落札額が低くなると予想する根拠である。
3. パテックは結果を出す。しかし、予想どおりではない
ジュネーブ・オークションでは、開催までの数日間、いくつかの異なるパテックのロットが注目を浴びている。トニーが紹介したRef.2499も然り、月曜にクリスティーズで発表されるカルティエのサイン入りファーストシリーズ YG製 Ref.1518(ロットNo.92)もそのひとつだ。
カルティエのサインが入ったRef.1518は、今シーズンの最も重要かつ高い結果を残す時計となる要素をすべて備えている。それはカルティエのサイン入りRef.1518が存在する“唯一”の個体だということだ。この時計がオークションに出品されるのは今回が初めて。ケースはエミール・ヴィシェが製作したものだ。つまり、カルティエとパテックが一体になったものなのだ(ティファニーは誰?)。左上のラグにはカルティエのパンチナンバーと思われる刻印もある。理論的には、この時計が数百万ドル以下であれば、それは残念なことだ。しかし、それは理論上のことであって、現実はしばしば、私たちが望む以上に厄介であり、また複雑なのだ。では、少し掘り下げてみよう。
カルティエの証明書によると、この時計はアメリカ市場に送られたことが確認されており、ニューヨークのカルティエで販売されたRef.1518の唯一知られている個体と一致している。だが、そのRef.1518はダイヤルにカルティエのサインはなく、シリアルナンバーのみであった。このモデルは2010年6月にクリスティーズ・ニューヨークにて30万2500ドル(約2795万円)で落札された。今回のロットには、2002年に発行されたカルティエの証明書と、1945年に製造され、1946年8月7日に販売されたことを確認するパテック フィリップのアーカイブが付属する。
カルティエ・ニューヨークのパテック フィリップの時計は、一般的に信じられないほど入手が困難である。アメリカにおけるカルティエとパテック フィリップの主導的な関係は1930年代から1950年代後半まで続いた。カルティエ×パテック フィリップのWネームに至っては神話に近い存在だ。非常に少数に限られるうえ、さらに少数の複雑機構の時計にのみ適用されたからだ。すべてのルールに例外はあり、そのような例のひとつにRef.130 スプリットセコンド・クロノグラフがある。この時計は1930年にウィリアム・ボーイングが特注し、最近では2014年にクリスティーズにて48万5000スイスフラン(約5745万円)で落札された。しかし、このRef.1518も例外なのだろうか? 確かなことはわからない。私は多くの時計コレクターと話したが、カルティエのサイン入りRef.1518がどうなるのか、意見が真っぷたつに分かれている。結果を待つほかないだろう。
私が今年注目しているパテックのリファレンスは、アクアノート トラベルタイム アドバンスド・リサーチ Ref.5650G-001だ。バーゼルワールド2017で発表されたとき、何てカッコいい時計だと思った記憶があるが、まさかこんなに早くオークション界の寵児になるとは思わなかった。なにしろ、それまでのアドバンスド・リサーチ(それまではカレンダーモデルという形でしか登場せず、総数250本以下だった)に比べれば、500本という比較的量産されたからだ。では、なぜ春シーズンのオークションで、このモデルが熱狂的に支持されたのだろうか。
今年の初め、5月のジュネーブ・オークションでは、サザビーズで69万3000スイスフラン(約9075万円)、クリスティーズで75万6000スイスフラン(約9985万円)を記録した個体があった。その1カ月後、クリスティーズ・ニューヨークでも63万ドル(約8470万円)の値がついた。
これらの予想外の高値は、不合理な熱狂の戯言の一例に過ぎないのだろうか。
今年、好調なアドバンスド・リサーチのアクアノート・トラベルタイムを立て続けに目の当たりにし、よくよく考えてみると、実はRef.5650G-001が6桁台後半、もしかしたら、近いうちに100万ドルの壁を越えるかもしれないと考えると、とても納得がいくのだ。
今あなたが考えていることを当ててみよう。“この人はラリってるの? 100万ドルのアクアノートだって? そんなバカな”。私がそう考える理由を説明しよう。
- まず、アクアノートは非常に魅力的な時計であるということだ。
- 次に、生産数が決まっていること。500本というのは十分すぎるほど多いのだが、公表されているということは、そのリファレンスに固有の希少性が常に存在することを意味する。500本という数は、興味や市場価値に関係なく、それ以上は存在しないということを意味する厳然とした事実なのである。
- 最後に、これはパテック フィリップのスポーツウォッチで、私が知っているなあkで唯一、ダイヤルにある程度の開口部のあるセミスケルトンモデルだということ。パテックはその歴史のなかで、美しいスケルトンのドレスウォッチやポケットウォッチをいくつか製造してきたが、ノーチラスやネプチューン、そしてほかのアクアノートには、GMT機構のコンポーネントを独創的に統合したことを強調するために、これほどまでに大胆に開口したモデルはまだ存在しない。
現実はとてもシンプルだ。本物の希少性と需要が、オークションの結果や時計の評価を飛躍的に高める。私たちはそれを何度も目撃してきたし、Ref.5650Gは今年、かなりクレイジーな結果を残してきた。だからジュネーブで来週行われるふたつのオークションがどうなるか興味深いところだ。
フィリップスは、オークションに出品される密封状態としては初めてと思われる個体(オリジナルの化粧箱ではなく、サービスボックスとサービスプラスチックスリーブに入っている)を出品している。6桁ドルの高値で落札されても不思議ではない。そしてサザビーズでは、53分位置のマーカーが欠けた“工場出荷時のエラー”と思われるダイヤルを持つ、興味深い個体が出品されている。
そういえば、月曜日にジュネーブで開催されるチルドレンアクションのガラでオークションにかけられ、その収益がすべて慈善団体に寄付されるユニークピースであるチタンケースのRef.5270のターコイズダイヤルを忘れてはいけない。この時計が、秋冬シーズンのパテック フィリップの時計のなかで最も高いパフォーマンスを発揮する時計になったとしても、私は驚かないだろう。それもあと数日で判明する。
4. スピードマスター、オークションの永遠の寵児となる
昨年11月、フィリップス・ジュネーブで開催されたRef.2915-1を覚えているだろうか? もちろん覚えている。その数週間後にフィリップス・ニューヨークで落札されたティファニーブルーのRef.5711を凌ぐ、私がオークション会場で体験した最も予想外の瞬間だった。
スピードマスターは地球上で最も人気のある時計のひとつだが、オークションにおけるその成功は決して保証されたものではない。確かに特定のRef.2915や2998があちこちで6桁ドルの値をつけることはあったが、2019年に行われた比較的控えめなスピードマスター50周年記念のアポロXIオークションを除けば、デイトナやカレラ、ロイヤル オークのようにスピーディを中心とした大きなテーマ別オークションは一度も開催されたことがないのだ。
そして、オークションにおけるスピードマスター市場のパフォーマンスに影響を与える可能性のある最大の外部要因のひとつが、ムーンスウォッチの存在である。スウォッチとオメガのコラボが、標準仕様の現行スピードマスターの需要を劇的に高めたことはよく知られている。そのため、オメガは今年、2度に渡って希望小売価格を引き上げ、代理店ネットワークの再入荷要求に応えるのに苦労しているほどだという。
同様にオメガの経営層がスピードマスターを、ハロー効果をもたらす製品として明確なビジョンを持っていることは間違いない。そうでなければ50万ドルの値札を付けたスピードマスター クロノチャイムのような時計を発表する動機は見当たらない。もしオメガがスピードマスターをこのような価格で販売できると信じているのなら、オークションの世界でも同じような需要があると考えるのが自然だろう。
来週は、その仮説を検証するのに興味深い週になりそうだ。フィリップス・ジュネーブ・ウォッチオークション:XVIでは、3本のロットが、かなりの注目を集めるはずだ。ロット No.72は、スピードマスター Ref.145012のケースとダイヤルを流用したフライトマスターのプロトタイプだ。ロット No.73はSS製のスピードマスター Ref.345.0022.105で、1990年代初頭にミール宇宙ステーションの軌道上で1年を過ごしたスピードマスターシリーズとして製造された28本中の1本だ(今年5月にアンティコルム・ジュネーブでYG製の希少なモデルが31万2500スイスフラン、約4105万円で落札されている)。ロット No.74はオリジナルのスピードマスター アラスカプロジェクトで、アラスカIとアラスカIIのあいだの過渡期のリファレンスと思われ、5分ベゼルとバランスのよい陽極酸化アルミニウムの赤いケースプロテクターシールドがある(アラスカプロジェクトが好きな人は多く、アラスカII プロトタイプが今年5月にフィリップス・ジュネーブで52万9200スイスフラン、約6950万円で取引されている)。
そして、フィリップスのカタログの最後のほうに、トロピカルダイヤルの非常に魅力的なRef.2998-1が掲載されている。これは、その素晴らしいコンディション以外では必ずしも特別なものではないものの、昨年の今ごろ世間を賑わせたトロピカルダイヤルの2915-1の予想外の成功との類似点を想起しないわけにはいかない。フィリップス以外では、サザビーズが最初期の2915を持っており、コレクタープールの最上位にある初期のスピードマスターへの関心の指標となる可能性がある。
隠れた名品の数々
さて、入札に参加する前に最後に“隠れた名品の数々”を何本か紹介したいと思う。必ずしも主役級ではないものの、私たちがクールだと思う時計たち。歴史的に重要でありながら、ちょっとニッチな時計、あるいは単に私たちが好きな時計だ。いずれにせよ、ここでは人目につかない最後のロットを何本かご紹介しよう。
2本中1本のカルティエ ベニュワール オブリークが熱狂の的に
正直なところ、これは自分用に隠しておきたかった。しかし、オンライン入札の最初の3日間で、この商品は急騰し、秘密が暴かれ、価格は当初の控えめな落札予想価格である5000~8万スイスフランをはるかに超えており(もちろん私の予算も)、ロレックスのオペラグラス(クリスティーズでも出品)をかけても、ほとんど見ることができないほど遠くへ行ってしまった。これはカルティエのヴィンテージベニュワール・オブリーク・ドライバーという、今まで聞いたこともないような時計だ。クリスティーズによると、この種の時計としては2番目に知られているものだそうだ。つまり、私が知る限り、2006年にアンティコルムにて約1万9500ドル(約230万円)で落札されたこのベニュワール・オブリーク・ドライバーが、公に販売された唯一の個体ということになる。アンティコルムでの出品は1967年のカルティエ・ロンドン(クラッシュが発表された年と同じ!)、クリスティーズの出品は市場に出たばかりの個体で、シリアルナンバーも極めて近いことから、出自が共通していることは間違いないだろう。
さらに予想するのであれば、この曲がったバスタブのような時計は最低でも予想最低落札価格の10倍以上(≒5万ドル)の値で落札されると見ている。奇妙な形、カルティエ・ロンドン、2本中の1本。今、注目を集めるカルティエの特徴をすべて備えているからだ(クラッシュ、ペブル、シャイヒなども参照)。このベニュワール・オブリークは、11月15日までクリスティーズのオンラインオークションに出品されているので、こちらでチェックしてみてほしい。
パテック Ref.3940と3970のモデル末期の個体に病的なほどの執着を持っているので、この1本を紹介する。
パテックよ、これが君らのやり方かと唸りたくなるほどだ。私にとってパテックのRef.3940(パーペチュアルカレンダー)と3970(パーペチュアルカレンダー・クロノグラフ)は、史上最高の複雑時計であり、彼らがいうとおり、今手に入れられるなかでも最良のものだ。どちらも伝統的な36mmケースでありながら、まったく現代的な感覚も備えている。Ref.3940/3970はともに1980年代に発表され、2000年代初頭まで生産された。
しかし、パテックは生産終了後もずっと、Ref.3940と3970(そのほかいくつかのリファレンスに加え)の極めて美しい、そして限定モデルを、パテックの創業175周年を記念した2015年のサーチ・ギャラリー(Saatchi Gallery)で開催された大展覧会を祝して製造したのだ。これらの限定モデルはすべて特別なダイヤルを備えており、Ref.3940のダイヤルは、基本的により現代的なRef.5140と同じような外観になっている。
サザビーズ・ジュネーブでは、RGケースに美しいチョコレートブラウンダイヤルのRef.3940R “サーチ”が出品されている。もちろん人々が熱狂するようなプラチナとサーモンダイヤルの組み合わせではないが、これらの“サーチ”パテックの最近の歴史が示すように、このモデルはうまくいくはずだ。
6月、サザビーズは、ブラックダイヤルにシンプルなブレゲ数字“12”を配した非常に豪華なRef.3970EP “サーチ”を売却した。正直にいって、今まで見たRef.3970系で一番セクシーだった(クラプトン、あなたがお持ちの時計も素敵だけど)。そして10月、サザビーズがPGケースのRef.3970サーチをもう1本販売した。この2本のRef.3970は、どちらも予想をはるかに超える50万ドル以上の価格で落札された。確かにRef.3970は、より複雑で見栄えがいい。私はブレゲ数字のダイヤルで気に食わないものに出くわしたことがないので多少贔屓目にはなるが、このRef.3940も素敵な時計だ。そして、もしサザビーズ関係者がこの記事をお読みなら、この調子で続けてほしいと伝えたい。希少なサーチ・パテックを提供することは、時計がその推定価格を上回ることを確実にするためのレシピのように思われるからだ。この特別なサーチ・ロンドンエディションは、それぞれ5本しか製造されなかったといわれている。
サーチ・パテックといえば:フィリップスには、このサーモンダイヤルのRef.5070Gもある。一見、あのサーチ・ギャラリーの大展示会のために作られた個体のように見えるが、実はこのサーモンダイヤルは、その2015年の展示会の前に顧客向けに特注されたものなのだそうだ。その成り行きにも期待しよう。
ローガン流とっておきの逸品
以下では、私のトカゲのような頭脳とショッピングのウィッシュリストから、今シーズンの注目株をすばやく選んでみた。
サザビーズには、王室とつながりのある1950年代の超クールなブレゲが出品される。サザビーズのカタログに掲載されているサザビーズのカタログに掲載されたロットNo.94は、ブレゲの歴史のなかであまり触れられたくない時代の作品ではあるが、当時もフランス王室に大きな影響力を持っていたらしい。このユニークな時刻表示のみのブレゲは、手彫りギョーシェダイヤル、YG製ケース、そしてプゾー社製手巻きムーブメントを搭載している。1955年3月3日にM・ドゥ・ブルボン王女が購入し、以来、ブルボン家の所蔵となっている。
私の文句なしのお気に入りの時計のひとつに、ロンジン 360エボーシュを搭載したヴティライネン クロノメーター27がある。2000年代後半に発表されて以来、このモデルはほとんどオークションに登場していないが、フィリップスでは今週末に1本が入手可能となった。私が見つけた過去のオークション実績によると、2013年のクリスティーズと、2017年のサザビーズの2件だけだ。いずれの個体も毎回10万ドル未満で落札されている。フィリップスの時計は、その呪縛を解くことができるだろうか?
A.ランゲ&ゾーネのバゲットダイヤモンドをセットした第1世代のダトグラフほど、(私にとって)バラ色のものはない。わずか20本しか製造されなかったこのモデルは、ほとんど市場に出回ることはない。アンティコルムでは、この20本のうちの7本目が今週末出品される。サクソン地方のお色気全開な時計製造。ランゲといえば、クリスティーズで超レアな変り種のグランド・ランゲ1・バロッツィをお見逃しなく。
最後に、1990年代のブランパンの時計をこよなく愛する者として、誰かがものすごく喜びそうな、とっておきの1本を紹介しよう。ブルネイのスルタンは、1990年代半ばにプラチナ製のヴィルレの少量生産を依頼したようだ。コレクションの通常の伝統的なドレススタイルを避け、まったく型破りで最高にスポーティなものを製作した。アプライドされたアラビア数字とソード型針にはたっぷりと夜光が施され、6時位置にはブルネイの紋章が非常にモダンなスタイルで描かれている。ディテールのひとつひとつが意外性に富んでいることに、私はすっかり魅了されてしまった。ご自身の目でクリスティーズを覗いてほしい。
以下のリンクから、今後開催される5つのオークションのカタログを閲覧し、入札に参加することが可能だ。
- アンティコルムのジュネーブ・オークションは2022年11月5日から6日まで、ホテル ボー・リヴァージュ(Hotel Beau Rivage)で開催される(すでに終了)。詳細情報はこちら。
- クリスティーズのシングルオーナー“レジェンダリー・アンド・ユニーク・ウォッチ”オークションは2022年11月6日、フォーシーズンズホテル・デ・ベルグで開催される(すでに終了)。詳細情報はこちら。
- クリスティーズの“レアウォッチ”オークションは2022年11月7日、フォーシーズンズ・ホテル・デ・ベルグで開催される(すでに終了)。詳細情報はこちら。
- フィリップスの“ジュネーブ・ウォッチ・オークション:XVI”は2022年11月5日から6日にかけて、ラ・レゼルブ(La Reserve)で開催される(すでに終了)。詳細情報はこちら。
- サザビーの“インポータント・ウォッチ”オークションは、2022年11月9日にマンダリン オリエンタルで開催される(すでに終了)。詳細情報はこちら。
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HODINKEE Magazine Japan Edition, Volume 9