trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

In-Depth "防水"時計が存在しない理由

「あなたはその言葉を使い続けているが、それはあなたが思っているような意味ではないと思います」ー 連邦取引委員会、1960年。

ADVERTISEMENT

自称時計愛好家が苛立つ(多くの)ことの1つは、現代の時計用語の使い方だ。これは特に近年の機能に限ったことではないが、自動巻き機構がかなり斬新だった時代には、時計の文字盤上にその機能をもっていると記せばショップのディスプレイケースの中で、ひと際目立つのに役立ったはずだ。説明的な用語使いは、文字盤上にほとんど、または全く情報をのせない懐中時計より、腕時計に非常に多く見られる現象のようだ。しかし、腕時計が徐々に懐中時計に取って代わり、機能や用途が劇的に多様化し始めると、それを表す刻印は徐々に時計の文字盤に忍び寄り、同様に、非常に多くの頻度で時計のケースにも忍び寄るようになった。

“耐水性”。

 よく出てきた言葉に“防水”(waterproof)というのがあるが、当然、広告にも使われた。防水機能を備えた時計が欲しいと思わない人はいないだろう。水は時計製造の最大の敵だ。水が時計ケースに入った場合(入ってしまうものだが)蒸発するまでに時間がかかり、多くの重要な機能をもつ部品はあっという間に腐食してしまうだろう。可能な範囲で水の侵入を防ぐことは確かに便利な機能だ。宣伝する価値はある。それだけでなく、水分はまた時計の文字盤上にも害を与える。多くの古い腕時計は、その文字盤上に、時間による劣化ではなく「万能触媒(=水)」によってもたらされた傷を負うことになる。

1920年3月、エアリアルエイジ誌に掲載された「デポリエ防水時計」の広告。

ウォルサムのデポリエ“防水”腕時計、1920年頃。防水性、防塵性、温度衝撃からの絶縁性を謳ったこの腕時計は、パイロットのローランド・ロールフが1919年に3万4610フィートの世界高度記録を樹立した際に着用していた。

 さて、あなたが時計やヴィンテージ時計に多くの時間を費やすようになると、“防水”と記された時計とそうでない時計があることに気づくようになるだろう。ある種の時計が“防水”と声高に謳う一方で、慎重に“耐水”(water resistant)と記すにとどめるものがあるのはなぜか。多くの場合、後者は、時計が無傷のままでいられる浸水の深さを、メートルまたはフィートで表したものだ。ちなみに、耐水と防水を巡る時計の歴史は長く、非常に興味深いものであり、私たちの多くが思うよりもかなり昔に遡る。水は、時計が存在するのと同じくらいの長きにわたり、所有者や時計メーカーから敵とみなされていた(置時計について:初期のバージクロックは、鉄のムーブメントの場合が多く、その大半は年月が経つと共に使えなくなった。初期の防水時計の開発についてはこちらで見ることができる)。

 もちろん、“防水性”の主張は絶対的なものではない。疑う人もいるだろう。しかし、人々が誤解してしまうことを過小評価してはいけないし、時計の広告主が自分たちの製品が完璧であると思わせたい欲望も無視できない。結局“防水”とは、厳密に言えば、例外を許容する用語ではないし、単に時計が水に対して耐性をもつことを意味する。それ以上の性能無しでも、読者は防水性を謳う広告でケースや文字盤上にその単語を見ることによって、潜在的に深刻な結果をもたらす可能性のある時計を過大評価しがちになるだろう。それにも関わらず、時計メーカーやディーラーは、アメリカでは1960年に連邦取引委員会(FTC)が関与するまで、この用語を平気で使用していた(もっと前だったかもしれないが、私が見つけた中で最も古い時計業界のFTCガイドラインは、その年のものだった)。

"防水" ゾディアック、1950年(画像・Europa Star archives;許可を得て使用)。

 少なくとも広告における事実関係についてガイドラインを設けようとしたFTCの行動は、広告を文字通り受け取りがちな読者に対して、時計メーカーが得られると言っていたものが、必ずしもそうではないということを明らかにしようとした。 具体的に、FTCでは、時計広告で明示された保証について、防水性だけでなく耐衝撃性、耐磁性などについても言及していた。

 このガイドラインは、当然ながらアメリカ市場にのみ適用されたものだ。しかし、これについては時計業界全体に浸透していたようで、1960年代には“防水”という言葉は徐々に人気を失い始め、“耐水”という言葉に置き換えられていった。多くの場合、静止試験で耐性が信頼できると示された具体的な深さについての記述がある。今日では、時計愛好家なら誰もがこの規格の名称を心得ているだろう。耐水時計用のISO 2281と、ダイバーズウォッチ用のより厳格なISO 6425だ。これらの規格が業界全体で採用されるようになったことで“防水”という言葉が完全に代替された。今となっては“防水時計”を謳う広告を探そうとしても徒労に終わるだろう。

ロレックスでの耐水テスト(画像提供:ロレックス)。

 いや、探せるかもしれない? FTCは1999年に1つの決定を発表した。時計のガイドラインはもはや有効性がないものとして撤回され、国際基準を遵守することが世界で普及している点を理由に挙げた。しかし、FTCからのガイドラインが無くなったことで、例の"防水"という用語が少なくともいくつかの方面でまた忍び寄っているように見える。奇妙なことに、時計に適用されたのと同様に、家電製品の広告によって復活したようだ。Apple Watchやフィットネストラッカーのようなスマートウォッチの開発のおかげで、今まで腕時計の防水性について考えたこともないような世代の消費者が、防水性に注意を向けるようになった。この用語は、機械式時計界で再び使われることにはまだ抵抗があるようだ。しかし、何十年にもわたる技術的の進歩のおかげで“防水性”は、今や機械式時計(特にダイバーズウォッチ)において、よりもっともらしく響くかもしれない。おそらく、この分野でもカムバックすることになるだろう。しかしながら、“保証”という言葉には、無視するにはあまりにも偉大な魔力がある。

耐水性と国際基準については、HODINKEEの「What Dive Watch Depth Ratings Really Mean」を参照して欲しい。そして、とんでもなく強力な磁石を使って、2つの時計の対磁性能をテストした「オメガ シーマスター アクアテラ 1万5000ガウスと4000ガウスのネオジム磁石による耐磁性能実験」も見てみよう。