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In-Depth ロレックス ミルガウスとオメガ シーマスター アクアテラ 1万5000ガウスと4000ガウスのネオジム磁石による耐磁性能実験

さて、これはとても面白いことになりそうだ。

「科学をもってこれに挑む。」(キミコ、ドレスデン・コダック) 

※本稿は2016年7月にHODINKEE US版で公開された記事の翻訳です。

 最新の製法と素材は、日常生活の中で遭遇しうるあらゆる磁場に耐性がある時計を作ることを可能にした。さらにそれは非現実の世界にも踏み込んで、あらゆる耐性をもつ時計を作ることさえ可能にしている。我々が目にする磁石、磁気。時計デザイナーが磁場との戦いにこれほどまでに力を入れてきた理由、そして我々が時計のユーザーとして実際にそこから何を得られるのかを見ていこう。そのため、ここではいくつかの小さな実験を行う…。慎重に。

 最悪の場合、磁気は時計を使い物にならなくしてしまうため、時計製作者は磁気について気にかけている。磁気によって時計が使用不能になるにはいくつかのパターンがある。現代のニヴァロックス合金は弱い磁場に対してそれなりの耐性があるが、時計が強力な永久磁石、特にいわゆるネオジム磁石(希土類磁石。最も強力なタイプで、その強力さゆえ、バッグなどの留め具としてよく使われている)に直接接触すると、ヒゲゼンマイは磁化してしまう。ヒゲゼンマイ同士がくっつきはじめ、その張力を増加させるだろう。磁化した時計は、強すぎるヒゲゼンマイを入れたかのように動作する。テンプはもはや完全な弧を描いて振幅運動できないため、時計の進みが速くなる。私がこれを初めて経験したのは、ネオジム磁石の留め金が付いた携帯電話ケースの上に誤ってスピードマスターを置いたときだった。自分が何をしたのか瞬時に理解して時計を離したが、すぐに1時間当たり10分程度進みが速くなった。オメガブティックに行って消磁機にかけると直ったが、このことは印象に残った。現代生活で強い磁場に遭遇することは比較的まれだが、潜在的には非常に現実的な問題でもあるのだ。 

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磁気とは何か?

 耐磁時計を理解し、ユーザーとしてそれを比較できるようになるには、磁気とは何か、磁気がどのように測定されるかについて、少なくとも少しは知っておく必要がある。 

   日常生活の中で磁気の発生源となるものには2つある。電磁石と永久磁石だ。電磁石は、磁場が電流によって作られる磁石であり、永久磁石は、電流を流さなくてもそれ自体が磁場をもった磁石だ。どちらも時計に危険を及ぼす可能性がある。かつては、磁石の影響を受けるのは特定の物質だけと考えられていたが、現在では全ての物質がある程度の影響を受けることが分かっている。しかし、日常生活で感じられるほど強い磁場を発生させるのは、いわゆる強磁性体だけである。強磁性体とは磁化できる物質のことで、強磁性体以外の磁気相互作用(2つの磁石の間で働く引力、斥力)は一般的に弱すぎて知覚できず、検査機器を使って検出する必要がある。

  磁場は電場を変化させることによって発生するということを覚えておくと、磁気が何から生まれるかを理解しやすくなる。逆もまた同じで、環状の金属線内の磁場を変化させると、電流が発生する。この関係性は、1831年にマイケル・ファラデーによって発見され、発電機やモーターの原理となっている。 

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 電場を変化させれば磁場が発生することを覚えているなら、強磁性を理解できる。全ての物質に存在する電子は動いており、電子は荷電粒子であるため、この動きが磁場を発生させる。電子はスピンと呼ばれる性質をもっており、通常は対になっている。対になった電子は物理法則により同じスピンをもつことができない(パウリの排他原理と呼ばれる)ため、互いに逆向きのスピンをもっている。そのため、通常、対になった電子により発生する磁場は互いに打ち消し合うことになる。しかし、物質によっては対になっていない電子をもっているものがある。鉄のように最外殻の電子殻に4つの電子をもっている物質では、不対電子が同じスピンをもつことが許されている。これらの不対電子は固有の大きさと向きをもつ(言い換えればベクトル場)小さな磁場を発生させる。 

 鉄のような強磁性体では、これらの小さな磁場を並べて足し合わせることで、知覚できるほど強い磁場を作ることができる。十分に強い磁場の中に鉄を置くと、鉄の中の磁区(原子の磁気モーメントの向きのそろった小区域)は、外部からの磁場を取り除いてもそろったままになる。永久磁石の完成だ。既知の最も強力な永久磁石はいわゆるネオジム(レアアース)磁石で、注意しないと怪我をするほどの強さである。(以下は、磁気がどのように動作するかを非常に単純化したモデルだが、話を続けるには十分だ)。 

 上の写真は、簡単な科学実験のために購入したネオジム(レアアース)磁石だ。注文する前にこの小さな猛獣の磁場強度をチェックしなかったが、おそらくすべきだった。これはネオジム磁石としてはかなり大きい。コンシューマ向け製品として目にするどんなものよりはるかに大きいだろう。箱から出して、冷蔵庫のドアから外すのにどれくらいの力がいるのか(両手でとても力強く引いた)分かったので、インターネット上でネオジム磁石の強度計算機(ネットには本当に何でもある)を見つけるまで探し回った。判明したのは、このサイズと組成の磁石には4000ガウスを超える表面磁場強度があるということだ。これはMRIマシンで見られるような磁場強度だ。鉄板からこの磁石を引き剥がすのには90ポンド(約41kg)の力が必要だ。特に他の強磁性体のそばで不用意に扱えば、皮膚を引き裂いたり指を折るのに十分な速さと強さでくっつくこともあり得る。 

 今、私が4000ガウスの磁石でレンチを手に(痛々しく)くっつけているのは、ガウスやテスラのような抽象的なもので磁場の強さを表現するよりも、写真で見た方が磁石の強さが分かりやすいからだ。実は磁場にはBとHの2種類がある。いわゆる磁場Bは、自由空間における磁場の強さの尺度であり、テスラ、またはガウスで測定される。1テスラは1万ガウスだ。典型的な冷蔵庫の磁石は約50ガウス、我々の実験用磁石は約4500ガウスで、ほぼ0.5テスラ。これは従来の時計を破壊するのに十分な強さだ。
 ニヴァロックス合金が登場する以前の時計に使用されていた普通のスティール製ヒゲゼンマイは、外部磁場に非常に弱いのは言うまでもないが、現代の標準的なニヴァロックス製ヒゲゼンマイを使用している時計でさえ、我々がテストに使用したものと同じくらい強力な磁石であれば瞬時に使用不能になってしまうだろう。ミルガウスとシーマスター アクアテラ 1万5000ガウスは、2つとも高い耐磁性をもつと評価されているとはいえ、このような強力な磁石を使用するというのは少し気掛かりだった。車にエアバッグが装備されているのを知っていることと、エアバッグがちゃんと作動するか確認をするためにわざわざレンガの壁に突っ込むのは別のことだからだ。 

 ところで、時計の磁気への耐性がアンペア毎メートル、ときには短くA/mと表記されているのを見たことがないだろうか。A/mは、もう1つの磁場、いわゆる磁場Hの強さを表すために使用される(これに相当するエルステッドも同様)。磁場Hは、基本的に磁場Bの強さのことだが、磁場全体で物質内部に及ぼす効果を含める。幸運なことに耐磁性のある時計を比較して購入する我々にとって、空気中であろうと真空中であろうと、磁場Bと磁場H、つまりガウスとエルステッドは、ほとんど同じだ。エルステッドからA/mへの変換はもう少し複雑だが、具体的な例を示すと、有名なIWCの耐磁時計、インヂュニア 500,000A/mは、ほぼ7000エルステッド/ガウスの磁場に耐性がある。1000ガウスの耐磁性は、約8万A/mに相当する。 

 ご覧のように、磁場Bと磁場Hは、異なる視点から見た同じ現象であるため、実際にはそれほど違いはない。 

【豆知識】人間の脳は、約1ピコテスラ、または0.0000000001テスラの磁場を作り出す。この磁場は非常に弱いため、検出にはSQUID(超伝導量子干渉計)というすごい装置が必要だ。 


時計 vs 磁石

 十分に強い磁場が、強磁性部品をもつ時計を物理的に損傷させるのは明らかだが、時計製作者や時計ユーザーは、もう少し微妙な影響を心配している。 

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 上の写真は20世紀初頭のウォルサム リバーサイド 16サイズの懐中時計で、単一素材のテンプ、そしてエリンバー(ニヴァロックスの先駆け)のヒゲゼンマイが使用されている。ヒゲゼンマイは、重力が振り子に与えるのと同じ影響をテンプに与えるためにある。つまり、振幅運動中に振り子やテンプを押せばその力とちょうど釣り合った力で中央へ戻される。これを妨げるものは全て、時計の精度に支障をきたすことになる。 

 前述のように、磁化の最も一般的な影響は時計が進んでしまうことだ。ただ、もっと捉えにくい影響もある。ニヴァロックスのように強磁性材料を含むヒゲゼンマイが周囲の磁場にさらされている場合、合金中に磁気が徐々に蓄積されることで、ヒゲゼンマイの温度補正性にも影響を与え、温度によって異なる速さで動き始めることがある。この問題は、2004年のHorological Journalに掲載された時計製作者ギデオン・リビングストン(Gideon Levingston)氏による記事で説明されている。彼は当時、この問題に対処するために炭素繊維製のヒゲゼンマイを組み込んだ“カーボンタイム”脱進・調速機構の開発に取り組んでいた。しばらくの間、カリ・ヴティライネン氏の仕事を追いかけていた方は、PuristsProが時計製作者で時計ライターのカーティス・トムソン(Curtis Thomson)氏を通じて2006年に報告したので、カリ・ヴティライネン氏が自身の時計の1つにカーボンタイム脱進・調速機構を使用したことを覚えているかもしれない。 

 言うまでもなく、磁場は時計や時計のユーザー、そして時計製作者にとって大きな問題となり得、すぐに目で見える場合や微妙で捉えにくい場合がある。ここでは、この危険に抵抗するために作られた2つの時計を見てみよう。

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マネをしてはダメ。

 実験のために磁石は発泡スチロールの箱の上に置き、磁石と時計がどちらも破損しないように、折り重ねた布を間に挟んだ。先ほど、磁石と強磁性体を使った実験(この“実験”とは“重い鉄や鋼を適当に選んでくっつけてみる”という意味)を何度か行ったが、くっつけたものに傷がついたり磁石が少し欠けたりして、HODINKEEのデーモン・コア(臨界事故を起こしたロスアラモス研究所の実験用プルトニウム。転じて、安全性を度外視した危険な実験やそれに伴う素材の意)の取り扱いには十分な注意が必要だと感じた。結果は、控えめに言って興味深いものだった。 

 最初に試したのは、オメガのシーマスター アクアテラ 1万5000ガウス。この時計をとても慎重に磁石の上に設置してみたが、目に見える影響は全くなかった。磁石にさらした後、24時間作動させたところ、時計の精度に明確な揺らぎは見られなかった。この時計のためにオメガが採用した解決策は、テンプ、ガンギ車、アンクル、ヒゲゼンマイを含む全ての重要な部品に非強磁性素材を使用することだった。興味深いことに、ステンレススティール製の時計全体は、磁石の影響をほとんど受けなかった。加えられた磁場が時計を持ち上げるほど強くはなかったことには驚いた。 

 次いで、ミルガウス。さて、こちらの実験は緊張した。ミルガウスは“4000ガウスの永久ネオジム磁石に耐えられる”とはうたっておらず、その名の通り、1000ガウス(ミル=フランス語で1000)だ。驚き、そして安心したことに、時計への目に見える影響はゼロで、実際にはオメガと同様に、ケースとブレスレットの間で引き合う力はほとんどなかった。オメガと同様にミルガウスを24時間使用してみたが、精度に揺らぎがあったとしても、それは目に見えるものではなかった。 

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結論と分析

 この小さな実験からいくつかの興味深いことが出てきた。まず第一に、これらの時計は2つとも、日常生活で遭遇するような磁場をはるかに超える強さの磁場にさらされても、見たところ影響を受けなかったということだ。少なくとも、非常に強力なレアアース磁石を注文し、時計にくっつけるのが好きな人でもない限りは… 。

 第二に、どうやらこれらの時計は2つとも、いわゆるオーステナイト(それゆえ十分な耐磁性をもつ)ステンレス鋼を使用している。結論として、316L(オメガは推定)と904L(ロレックスは確認済み)は2つとも、冷えた状態で鉄の結晶が非強磁性になっている鋼だ。このような強力な磁石でも、最小限の引力しか得られなかったのだ。MRI装置の中でロレックスを身に着けていて、だれかがスイッチを入れたときの恐ろしい結果を常に想像するが、実際には多くの人が思っていたよりも劇的ではないのかもしれない。 

 第三の興味深い点は、ミルガウスの結果とオメガの結果の間には、全く見分けられるような違いがなかったことだ。これは最初、驚くべきことのように思えるが、1956年の初代ミルガウスは、従来のスティール製アンクルとヒゲゼンマイをムーブメント(Cal.1080)に搭載し、軟磁性体の鉄でムーブメントを覆うことで高い耐磁性を実現したことを思い出して欲しい。最新のミルガウスでは、非強磁性のパラクロムヒゲゼンマイを採用し、さらにガンギ車とアンクルにも非強磁性の素材を使用しており、これらの改良により耐磁性は1000ガウスを軽く超える。実際のところ、ニオブジルコニウム合金と非強磁性の調速・脱進機構の使用は、IWCがインヂュニア 500,000A/mで採用した戦略である。前述のように、500,000A/mは約7000ガウスだ。

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 ロレックスはミルガウス内部の磁気遮蔽に使用している素材を明らかにしていないが、ニッケルと鉄の合金であるミューメタルの一種であると考えるのが妥当だ。ミューメタル合金による磁気遮蔽は、磁力線に好ましい経路を与えることによって機能する。つまり磁力線は、ムーブメント自体のスティール部品を通らず、迂回してケースを通る。(ミューメタルという用語は、透磁率のシンボルであるギリシャ文字のμ(ミュー)に由来している。ミューメタルは磁場に対して非常に高い透磁性をもつ)。ところで、“軟(磁性)鉄のインナーケース”という言葉を聞いたことがあるかもしれない。純鉄はたしかに鉄と比べて柔らかいが、ここでは“磁気的に柔らかい”という意味だ。硬磁性体は外部磁場が除去された後も磁化されたままだ。一方、軟磁性体は磁力線を伝導するが、磁化されたままにはならない(時計の周りに磁気シールドを作る場合には明らかに軟磁性体が望ましい)。 

 また、時計の磁気シールドがファラデーケージと呼ばれるのをよく聞くが、厳密には正しくない。ファラデーケージは、網状の構造や隙間のない筐体でできており、電場を遮蔽するためのものだ。ファラデーケージは銅やアルミニウムで作ることができる。しかし、これらの素材では磁場から保護することはできない。(電磁気力がその特性を発揮する時、共通することもある。電磁波の周波数が約100kHzを超えている場合、ファラデーケージは、誘導磁場から保護することができる) 

 ユーザーにとって2つの疑問は、第一にどちらの時計が優れているか、第二に時計ユーザーとして磁気からの保護を気にする必要があるかということだ。  

 私は、ユーザーにとってのメリットは間違いなくあると思う。オメガとロレックスの間の大きな違いは、耐磁性に関して言うなら、オメガは、ロレックスよりもはるかに広い製品ラインで磁気耐性ムーブメント技術を展開していることだと思うかもしれない。しかし、磁気に対して最もぜい弱な時計部品はヒゲゼンマイであり、ロレックスのパラクロムヒゲゼンマイは耐磁性素材で作られていることを覚えておく必要がある。客観的にこれらの2つの時計の技術的な優位性をテストするには、日常生活で遭遇するよりはるかに強力な磁場が必要になるだろうし、そのようなテストは、現実的な観点を明らかに逸脱したものになるだろう。 

 誰もがこの2つの時計の中で気に入るものがあるはずだ。だが、どちらかを選ぶには、非常に個人的な好み、伝統、スタイルと、いくつかの技術的な問題との間でバランスを取る必要がある。個人的には、ミルガウスの稲妻のような秒針が魅力的だが、あくまでも私の考えだ(子どもの頃に電気事業の広報キャラクターとして使われていた電流を擬人化したキャラクター、レディ・キロワットを思い起こさせるが、年がバレてしまう…)。少なくとも、この実験を終えて強く確信したのは、どちらの時計のユーザーも磁場による影響とは無縁になるだろうということ、そして、どちらの時計を選ぶかは磁気への抵抗とはあまり関係なく、デイト表示が欲しいかどうかで決まるかもしれないということだ。 

ミルガウスのグリーンクリスタルはとても素敵だ。 いつも不思議であったが、どうしてシーマスター アクアテラ 1万5000ガウスには “バンブルビー ”というあだ名が付かなかったのだろうか。