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Retailer Spotlight カーショップから北陸最大級の時計専門店へ。WING 金沢店は個々の人生に寄り添う

古きよき日本の伝統と、欧州文化である機械式時計の世界を融合するWING 金沢店。カーショップとしてスタートしたユニークな出自と、“モノありき、より人ありき”を社是とする提案型接客の真意に迫る。

2015年の新幹線開通で関東からの観光客が増えた石川県・金沢。その翌年、金沢のファッション街である堅町ストリートに移転オープンしたWING(ウイング) 金沢店は、ブライトリングやIWCなどに加え、パネライやタグ・ホイヤーなどの取り扱いも新たに始め、店の規模・在庫数ともに北陸最大級の正規時計店となった。古都・金沢の“和”と、スイス時計の“洋”を融合した店内に、金沢在住アーティストの作品を展示するなど、ユニークなショップ形態も全国に知られている。だが、そもそもWINGの歴史が、カーショップから始まったことをご存じだろうか?

業界初のカー用品専門店WINGをオープン。

 WINGを一代で築き上げた現会長の石橋喜代志氏は、20歳まで横浜で暮らしていた。しかし父親が経営していた建設会社が倒産。夜逃げ同然で、ひとり大阪へ向かい、カー用品店のアルバイトを始めた。そこで生来のビジネスセンスと懸命な努力が認められて、石川県・小松の新規店舗に配属され、やがて店長に抜擢される。だが、またも苦難が石橋氏を襲った。当時勤めていた会社の親会社が倒産してしまったのである。

1988年、MSS(ナカミチスペシャルショップ)に認定される。1992年から2年連続でナカミチ・モービル・サウンド売上げ第1位に。

ホールド性能に優れたドイツのレカロシート。100年を超える歴史を誇るプレミアムな専業メーカーだ。

 別の大手企業から好条件で誘われたが、倒産した小松店の恩義ある債権者から“店を続けて欲しい”とのリクエストを受け、それまでの人間関係を優先した。そのときの石橋氏(現会長)は25歳。社名は若いころ夢中になったサッカーの“WING”から取った。攻守両方を担うポジションだ。

ブライトリングの取り扱いを始めた頃のディスプレイ。当時はまだ時計店に卸されていなかったブランドだが、輸入元と直接取り引きを始めた。

WINGのコンセプトをさらに突き詰めた店舗を1993年にオープン。ブライトリング、ゼロハリバートン、コンタックスなどカー用品以外の取り扱いも拡大した。

 1984年にカーショップWINGを創業した石橋氏(現会長)が目指したのは、小物や雑貨を置かない業界初のカー用品専門店。ショールーム的なこだわりの詰まった店づくりは一部で注目を集めた。

 「自分が気に入ったものだけを売りたいと考えていました。高級オーディオのナカミチ、シートはレカロ、ホイールはBBS、それぞれのジャンルで一流のものだけを並べました。でも当初はまったく売れませんでしたね。ましてや値引きもしなかったので」

 それでも諦めずに“本当にいいものは価値が永続的に続く”ということを伝え続けた。すると、おもしろいカーショップがある、と聞きつけた雑誌の取材を受けた。少しずつ商品が売れるようになり、だんだんと取材も増えていった。

 1992年と93年にはナカミチの販売で2年連続日本一に輝いた。だが、このときすでにクルマ業界の落ち込みが始まりつつあり、高品質な商品を作っていたブランドの一部が安売りに走ったのだ。そんな量販店志向の広がりを見て、当時の石橋氏(現会長)は“この業界は先がない”と直感したという。

 「だから、カー用品だけでなく、“クルマに乗るスタイル”を提案できないかと考えました。そんなときに出合ったのがブライトリングです。当時の取引会社がカー用品とは別部門で輸入していたブランドで、これは時計というよりも計器。腕につけるだけで、自分がドキドキするような魅力を感じました」

 試しに仕入れたブライトリングの販売方法が、また秀逸だった。ヴィンテージカーにはナビタイマーを、スポーティなクルマにはクロノマットといった具合に、カーライフをよりよくする組み合わせを提案したのだ。他店と差別化した斬新な接客スタイルは、クルマ好きだけでなく時計愛好家のあいだでも評判となり、IWCやジラール・ペルゴなど、ほかの時計ブランドからも正規取り扱いを持ちかけられた。こうしてブライトリングを中心とした高級腕時計の専門店をオープンしたのが1996年。WING 金沢店の前身となるアネックス WINGの誕生である。

現在のWING 金沢本店。

数々の挫折を経験し、人生の浮き沈みを味わってきた石橋氏(現会長)には、事業を行う上で大切にしている信念がある。

「当たり前のことですが、“モノありき、より人ありき”って僕は社員によく言うんですよ。WINGでは素晴らしいモノだけを置いているんですが、そのモノ以上に魅力がある人間が販売しなければ、そのモノは売れないし、そのモノが生きていかないと思うんです」

 作り手の想いやその価値を、WINGのスタッフは具体的にライフスタイルに置き換えてお客様に説明し、納得してもらう。価値を理解したうえで購入していただく。すると、大切に扱ってくれる。だから、いいものはずっと残るのだ。

 例えば、時計専門店を開くきっかけになったブライトリングについても「ブライトリングには哲学があります。最初に出合った当時はまだ知る人ぞ知るブランドだったけれど、本当にいいものをお客様に広めていきたいという思いが僕にはあった。その思いに共感してくれるお客様は根強いファンになってくれる。これこそ小売業の原点です」

2016年に堅町ストリートに移転オープンしたWING 金沢店では、パネライ、タグ・ホイヤーなどの取り扱いも同時にスタート。IWC、ジラール・ペルゴ、ゼニスのほか、2階フロアではブライトリングのコンセプトショップ、スピリット オブ ブライトリング金沢 by WINGを展開する。

 惚れ込んだモノが市場に認められるには時間がかかるかもしれないし、成功すれば追随者が増える。そのときは、また新しい分野に目をつける。石橋氏(現会長)は、まさに“開拓者”だった。歳を重ね、人の時間や歴史を見つめるようになったいま、氏は自分を受け入れ、成長を育んでくれた金沢の文化に想いを寄せる。

 「金沢の職人の技術と、スイス機械式時計と文化はどちらも“本物”。だから両者のよさは融合すると考えています」

 WING 金沢店の内装に無垢材や欅の一枚板を使用したり、コーヒーカップを九谷焼で揃えているのも、そんなこだわりからだ。石橋氏(現会長)の狙いどおり、和と欧風の様式を融合した店内ではミュージアムのような雰囲気を味わうことができ、つい長居したくなるほど居心地がいい。

WING 金沢店の2Fに併設された商談ルーム。古都・金沢の“和”を感じさせる内装は特別感にあふれている。

 「最近は、父親が購入したブライトリングを息子に譲るのでメンテナンスしてほしいという相談も増えました。人それぞれの歴史と絆を感じる瞬間です。そこに立ち会えるのが、私にとっては大きな喜び。息子さんに、お父さんが購入してくれたときのことを話していると、時計屋になって本当によかったと思いますね」

 そして2020年、WING設立36周年を機に、代表取締役社長を長男の智晴氏に譲り、自身は会長に就任した。

 金沢店を中心に、現在のWINGは小松店、イオンモール白山店、富山店も展開する。「この4店舗で扱っているのは、時代を超えて受け継がれていく価値あるものばかりです」と石橋智晴社長は語る。

 「WINGは機械式時計に出合って、“価格競争”から“品質重視”に切り替えたことで経営危機を乗り越え、時計専門店として成長しました。ただ、現在はスマートフォンの浸透などで時計離れが進んでいます。時計のある豊かな文化を引き継ぐためにも、まずは時計を腕にする習慣から若い世代に広めていきたいと思っています。いまの世の中、一生使えるものは少なく、機械式時計はそのひとつに入る貴重な存在です」

 「WINGの社訓は“モノありき、より人ありき”。仕事に限らず、何事も人がいて世の中が成り立っています。スタッフについても、いかに楽しんで仕事に向き合えるか。時計販売が商売ではありますが、その前にお客様とスタッフは人対人なので、個人的にも仲良くなって信頼関係を築き、時計の販売だけでなく、その方の人生にプラスになるように寄り添うことが大切だと思っています」

 石橋氏(現会長)の想いは、確実に次の世代へと受け継がれているようだ。

【WING 金沢店】
■住所:石川県金沢市片町1-3-15
■TEL:076-223-5582
■営業:平日12:00~19:00 休祝日11:00~19:00 ※水曜日定休

その他の店舗や、詳細についてはウイングレボリューション公式サイトへ。

Words: Takahiro Ono