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Hands-On オメガ スピードマスター '57 キャリバー9906を実機レビュー

モデルチェンジを果たした新しいスピードマスター '57。最大の魅力はディテールにこそあると思う。

スピードマスターといえば何を思い浮かべるだろう。時計好きの多くはおそらくムーンウォッチをイメージするのではないだろうか。スピードマスターはアメリカ航空宇宙局(NASA)の公式装備品として採用され、6度に渡る月面着陸プロジェクトにも携行されたオメガを代表するモデルのひとつ。時計史にその名を刻む伝説のクロノグラフといって間違いない。

 スピードマスターのファーストモデルが発表されたのは1957年のこと。もともとは宇宙へ行くために特別に製作されたわけではなく、市販品として販売されていた時計だった。本来のスピードマスターとは、モーターレース関係者やスポーツカー愛好家のための時計として開発されたモデルなのだ。そして原点であるレーシングクロノグラフとしてのイメージを色濃く受け継ぐコレクションこそ、スピードマスター '57である。

 そんなスピードマスター '57が2022年、マスター クロノメーター仕様となってモデルチェンジを遂げた。新たなコレクションはファーストモデルにインスピレーションを得た特徴的なデザインを引き継ぎつつ、サイズをはじめとして細かくディテールを変更。ダイヤルはブラック、ブルー、バーガンディ、グリーンの4色、それぞれにブレスレットとレザーストラップ仕様が用意され、計8つのステンレススティールモデルがそろう。全モデルの撮り下ろし撮影は叶わなかったものの、今回はブラック、ブルー、バーガンディダイヤルの3モデルを実際に手に取ることができた。

撮影できたのは、ブラックダイヤルにブレスレットのRef.332.10.41.51.01.001、ブルーダイヤルにレザーストラップのRef.332.12.41.51.03.001、バーガンディダイヤルにブレスレットのRef.332.10.41.51.11.001の3モデル。


手巻き化を遂げた新しいスピードマスター '57

最初のスピードマスター '57のリストショット。2013年のベン・クライマーによるHands On記事より。

 さっそく新しいスピードマスター '57に触れた感想を……といきたいところだが、その前にスピードマスター '57の来歴について触れておきたい。新作はデザインこそ従来のモデルとあまり変わらないように見えるが、随所に変更が見られる。新旧で何が違うのかを知ることは、その魅力を理解する近道になるだろう。

 最初のスピードマスター '57が発表されたのは2013年のことだ。実は当初のデザインは現在と少し違っていた。太めのストレートラグを持ったケース、SS製のベゼルを合わせるところは新作と比較しても大差はないが、ファーストモデルを彷彿とさせるアローハンドを採用していたのは3時位置に設けられた12時間と60分の同軸積算インダイヤルのほうで、メインダイヤルの時・分針にはアルファ針が採用されていた。そのため、パッと見の印象はスピードマスターのセカンドモデル、CK 2998(1959年誕生)のスタイルに近い印象だった。9時位置のスモールセコンドにはクロスデザインがあしらわれ、夜光もグリーンに発光する現代的なスーパールミノバが施されていた。そうした全体のディテールも相まって、最初のスピードマスター ’57はシャープでモダンな雰囲気が漂うモデルであった。

最初のスピードマスター '57のケースバック。2013年のベン・クライマーによるHands On記事より。

 そして何より違うのはムーブメントだ。新作は手巻きムーブメントを採用するが、当初のスピードマスター '57ではCal.9300、自動巻きのコーアクシャルムーブメントを採用していた。ケース径は41.5mmで、ケース厚は15.82mm。ケースバックは縁が膨らんだボックス型サファイアクリスタルを用いたシースルーバック仕様で、ポコっと膨らんだその様は、小ぶりなケース(といっても41.5mmあるのだが)に大ぶりなムーブメントをぎちぎちに詰め込んだ印象を与えていた。

2013年に発表された最初のスピードマスター '57。Ref.331.10.42.51.01.001。

2015年に登場したマイナーチェンジ版のスピードマスター '57。Ref.331.10.42.51.01.002。

 変化が見られるのは2015年。ダイヤルデザインが現行モデルに近いスタイルに変更になったのだ。具体的にはメインダイヤルの時・分針がファーストモデルを思わせるアローハンドに変更され、ちょうど入れ替えるかのように3時位置の12時間と60分の同軸積算計インダイヤルの針がアルファ針のスタイルになった。

 変更点はそれだけではない。2015年版モデルではアプライドインデックスではなく、ダイヤルを彫り込み、そこに夜光塗料を塗布した凹型インデックスを持つ、いわゆる“サンドイッチ”デザインに変更となった。さらにスーパールミノバには経年で焼けたような色合いを再現したフォティーナ(オメガではヴィンテージと呼んでいる)のスーパールミノバが採用された。加えてブレスレットの仕上げも、2013年版モデルでは外側のリンクがヘアライン(ブラッシュ)仕上げ、センターリンクがポリッシュ仕上げだったが、2015年版モデルではその逆となる外側のリンクがポリッシュ仕上げ、センターリンクがヘアライン(ブラッシュ)仕上げとなった。なお、搭載ムーブメントは変わらずCal.9300でケース径も41.5mmのままだが、ケース厚は15.82mmから16.17mmと少し厚くなった。


スピードマスター '57で注目すべき外装の進化

 そして2022年新作として登場したのが、新しいスピードマスター '57だ。一見すると変わったところはあまり感じられないが、ダイヤルだけでもいくつか細かな変更が加えられている。2015年版モデルと同様、“サンドイッチ”スタイルのダイヤルデザインだが、いちばん大きな変化はダイヤルの表面仕上げがマットブラックから表面を荒らしたサンドブラスト仕上げになった点だ。これによりずいぶん力強い印象になり、さらにやや太く、深くなったインデックスの彫り込みがさらに力強さを加えている。またムーブメントの変更に伴い、ダイヤル6時側のプリントは“CO-AXIAL MASTER CHRONOMETER”となった。

新しいスピードマスター '57のケースバック。

 前述したように、新しいスピードマスター '57はムーブメントが自動巻きから手巻きへ変更された。手巻きとなったことの影響は大きく、ケース厚は従来モデルの16.17mmから12.99mmへと3mm以上も薄くなり、ケース径も41.5mmから40.5mmへと1mmのサイズダウンを果たした。またベゼル幅もわずかに細くなったようだ。

 自動巻きと手巻きという違いはあれど、実は従来モデルのCal.9300と新作が持つCal.9906のスペックにそれほど大きな違いは見られない。パワーリザーブはどちらも60時間。コーアクシャル脱進機や、シリコン“Si14”製のフリースプラングテンプ、並列に配された2重香箱の採用、ニヴァショック(耐衝撃システム)の搭載、時針のみを1時間単位で動かせるタイムゾーン機能など共通スペックも多い。それもそのはず。Cal.9300の後継にあたるCal.9900(※)を手巻き化したのがCal.9906なのだ。ちなみに蛇足になるが、日付なしバージョンがCal.9908で、昨年発表されたスピードマスター クロノスコープに採用されている。

※Cal.9900は、Cal.9300のスペックに加えて1万5000ガウス耐磁性を備え、スイス連邦計量・認定局(METAS)認定のマスター クロノメーターを取得した自動巻きムーブメント。

ブラックダイヤル

ブルーダイヤル

バーガンディダイヤル

 新しいスピードマスター '57で注目すべきは豊富なダイヤルバリエーションだ。サンドブラスト仕上げのブラックダイヤルのほかに、ロジウム仕上げ、ホワイトスーパールミノバを塗布したアプライドインデックスを持ったサンブラッシュ装飾&PVD仕上げのブルー、グリーンダイヤル、 そしてニス塗装によるマットな質感のバーガンディダイヤルを加えた4つのバリエーションがあるのだ。従来のスピードマスター '57にもダイヤルバリエーションは用意されていたが、ここまでバラエティに富んだラインナップは今回が初である。

 そしてもうひとつ見るべきなのがブレスレットだ。薄くなった新しいスピードマスター '57に採用されているのは、2019年に発売されたスピードマスター アポロ11号 50周年記念限定モデルにインスピレーションを得たフラットリンクブレスレットだ。ラグ間20mm、バックル側15mm幅の徐々に細くなっていくデザインで、ブレスレットのリンクの長さは5.5 mm、厚さは約2mmある。といっても、その記念限定モデルのものと同じではない。新しいスピードマスター '57では、オメガが特許を取得するコンフォートリリースシステムによって2ポジション、2.3mmのサイズ調整が可能なクラスプを持つ新しいブレスレットが採用された。

コンフォートリリースシステムを持つクラスプ。写真の“PUSH”部分を押しながらブレスレットをスライドさせることでブレスレットサイズの微調整が可能。


思わず見惚れてしまう新型ダイヤルの魅力

 ブレスレットのサイズ微調整機能はあると非常にありがたい。デザインこそ違うが、筆者愛用のスピードマスター 57 クロノグラフ 38.6MM 1957 トリロジーのクラスプにもサイズの微調整機能が採用されており、日々その恩恵にあずかっているのでその便利さは声を大にして言いたい。朝晩の微妙な手首のフィット感の違いなど、わざわざ工具を使用せずに調整できるのは本当に楽なのだ。オメガは近年発表する多くの新作にこのブレスレットのサイズ微調整機能の採用をすすめているが、これは今後も標準装備として欲しいと思っている。今回のような比較的薄いブレスレットとクラスプでも採用できるのだから、決して難しいことではないだろう。

コラムホイールの動きはかろうじて見せるように配慮されているが、歯車やレバー類の動きはシースルーバック越しでも見えない。

 どうしても気になったのは、ムーブメントだ。個人的に引っかかったのはスペックではなく、そのスタイルである。オメガ独自のアラベスク模様のコート・ド・ジュネーブ装飾のブリッジは確かに美しい。それは認めよう。もちろん、その美しい装飾を眺めて楽しみたいという人もいるとは思うが、あえて言いたい。シースルーバックにする必要があったのだろうか? 

 コラムホイール式にせよカム式にせよ、クロノグラフをシースルーバックにする醍醐味はクロノグラフが騒動する様子を見ることができるところにあるのではないかと筆者は思っている。本機の場合、ムーブメントの大部分をプレートが覆い、クロノグラフが作動する際の歯車やレバーなどのダイナミックな動きを見ることができない。自動巻きならローターに隠れて見えずらいので諦めもつくが、この時計は手巻きなのだ。個人的にはあえてシースルーバックにするのであれば、クロノグラフの動きが見られるムーブメントのほうがよかったのではないかと思うし、Cal.9906のようなブリッジで輪列が覆われるムーヴメントなのであれば、シースルーバックでなくてもよかったのではないかと感じられた。みなさんの考えはどうだろう?

 さらに好みが分かれるのは日付けだろうか。日付表示を嫌がる時計好きの方は多い。そもそも日付なしバージョンであるCal.9908(スピードマスター クロノスコープに搭載されている)が存在しているのだから、それを使用して欲しいという声も聞こえてきそうだ。また、日付表示は3時位置に設けられていることが多いため、シンメトリーデザインが崩れることを嫌いな理由に挙げる人も多いだろう。ただし本機の場合、日付けは6時位置にあり、デザインの邪魔もしていないし、インデックスの上部と揃うように配慮されているので位置も適切だと思う。

 今回、実機に触れて本当に悩ましかったのがダイヤルだ。正直なところ、どれも魅力的だったからだ。どれも同じような仕上げの単調なダイヤルカラーではないのだ。サンドイッチスタイルのブラックダイヤルは、これまでのどのブラックダイヤルのスピードマスターとも異なり、適度にミリタリーライクな雰囲気が筆者には魅力的に映った。また、ニス塗装だというバーガンディダイヤルもマットな質感で、落ち着いた印象だ。

 そして今回触れた3つのダイヤルのなかで、筆者が最も魅力的に感じたのはブルーダイヤルだ。PVD仕上げによるブルーは発色が非常にキレイだった。単調になりがちなラッカーやペイントの色味とはひと味異なり、とても見応えがあるのだ。ダイヤルが太陽に晒される屋外ではサンブラッシュ装飾が際立ち、光が当たらない角度では上品な印象を与える。それにアプライドインデックスは明るいところでも暗所でも見やすかった。3モデルのなかで最も表情の変化が感じられて、個人的にはつけていていちばん楽しかった。また、これまでのスピードマスターではあまりなかったダイヤルカラーという点も新鮮に感じられたのかもしれない。そういった意味ではグリーンダイヤルも珍しいカラーリングだが、今回は残念ながら撮影をすることができなかったので、機会があればブルーダイヤルとつけ比べてみたいと思う。

 いずれにせよ、新しいスピードマスター '57はダイヤルやブレスレットなど、細部の作りに着目して選ぶべきモデルだと筆者は思う。その理由は現実的な話になってしまうが価格にある。スピードマスター '57 キャリバー9906の価格はブレスレット仕様が118万8000円、レザーストラップ仕様は114万4000円(ともに税込)。一方、定番モデルのスピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル(ドーム型強化サファイアガラス風防タイプ)の価格は税込で99万円だ。例えばともにブレスレット仕様で比較すると20万円弱も価格差があるのだ(ちなみに強化プラスチックガラス風防タイプの場合は88万円のため、なんと30万円以上も変わってしまう)。なお、スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナルのブレスレットには、工具不要のサイズ微調整機能は採用されていないことを付け加えておこう。

 どちらも搭載ムーブメントや、スペックが違うために単純な比較はできないが、スピードマスターにツールウォッチとしての魅力をいちばんに求めているのなら、この価格差は許容しづらいと思う。マスター コーアクシャル化はされているとはいえ、スピードマスター '57をわざわざ一般受けしづらい手巻きにして薄型化を図り、高級・高額化させたのはなぜか? 新しいスピードマスター '57のディテールからは定番のブラックダイヤルのムーンウォッチでは得ることのできない、その魅力の一端を強く感じることができるはずだ。スピードマスターにおける高級時計としての進化。それこそ、オメガがこの新しいスピードマスター '57に込めた最大のメッセージなのではないだろうか?

オメガ スピードマスター '57 キャリバー9906。直径40.5mm、厚さ12.99mm。ステンレススティールケース。ダイヤルはブラック、グリーン、バーガンディ、ブルーの4色。50m防水。手巻きCal.9906(直径32.5mm、厚さ6.4mm)。60時間パワーリザーブ。METASによるマスター クロノメーター認定。ブレスレット仕様が118万8000円、レザーストラップ仕様は114万4000円。ほか、スペックの詳細はオメガ公式サイトをご覧ください。