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18世紀のイギリスでは、大工であり時計職人でもあったジョン・ハリソンが、木製の時計の歯車を作るための驚くべき方法を開発した。これらの歯車は、温度や湿度の大きな変化にも同心度(編注:同芯度とも。円形状のモノの中心の精度のこと)を保ち、非常に強い歯をもっていた。ハリソンは、特に油分の多いリグナムバイタ材を使用していたため、潤滑油を使用する必要がなく、結果的に長持ちし、より正確な動きを実現した。これらの木製歯車は、驚くべき時計製作のキャリアの一部に過ぎなかった。ハリソンは、歴史上最も重要な発明のひとつであるマリンクロノメーターを発明し、海上での正確な航海を可能にしたのだ。今日、ミシガン州の時計製作者リック・ヘイルは、ハリソンのレガシーを見事な木製タイムキーパーに受け継いでいる。
ヘイルの大がかりな作品は、伝統的な背の高いケースをもつ時計建築ではなく、ムーブメントの内部を見せる現代的なスタイルを採用している。これらのモニュメンタルな時計は、通常、特定の場所に合わせてカスタムデザインされ、製作には数ヵ月から数年かかることがある。ヘイルの歯車は、ハリソンが300年以上前に開発した方法を忠実に踏襲しており、彼の時計の中にはその姿がフルに提示されている。リック・ヘイルの歯車はどのように作られているのか? 聞いてみた。
ステップ1:幾何学を考える
リック・ヘイル;
「私の歯車の構造は放射状の対称性を可能にし、それは温度や湿度の変化によって歯車が全方向に均一に“呼吸する”ことを意味します。厳選されたストックから1つ1つの歯を成形し、歯車の全周にわたって木目の方向が同じになるようにしています。このレイアウトにより、時間が経っても非常に安定し、丸みを帯びた正確な歯車が得られるのです。私はまた、ジョン・ハリソンがシークロック(sea clocks)のために開発した歯車の歯の形状を採用しており、その結果、非常に細長い歯とリグナムバイタから作られた特大のローラーが噛み合い、信じられないほど低摩擦で非常に効率的な歯車を生み出すことができました」
ステップ2:材木を選ぶ
リック・ヘイル;
「安定性を得るためには、木材の選定が最も重要です。私の時計に使われている木材は全て、窯で乾燥させた後、歯車の製造工程の様々なポイントで“馴染ませます”。歯車のスポークは普通、柾目(まさめ)材を選び、フェロ(外周材)は平目材を使用します。これにより、考えうる最高の強度が得られ、エッジ周辺の弱点を排除することができます。均一な強度と剛性を得るために、非常にタイトで真っ直ぐな柾目の平板材から1本1本の歯をカットし、形を整えていきます」
ステップ3:ラフカットとトリム
リック・ヘイル;
「木材を選んだ後、歯車の各部品はノコギリでラフカットし、最終的な寸法まで手作業でトリミングします。この時点で全ての部品は接合の準備が整います。私は大体、小さな歯車にはさね継ぎ接合(一方の板の側面に彫った溝に、他方の板に作った突起を差し込む接合法)を使い、大きな歯車にはキー溝(円形断面の軸に、歯車などの軸と共に回転する部品を固着するための構造)を用います」
ステップ4:接合
リック・ヘイル;
「部品が接着され固定された後、ブランクホイールを最終的な輪郭にトリミングし、緻密な作業が始まります」
ステップ5 :ボーリングと旋盤加工
リック・ヘイル;
「この段階に進むことのできる歯車は、接合部が完璧なものだけです。これらの歯車は下処理をした後、2000kgのドイツ製パンタグラフフライス盤とスイス製の大型回転テーブルを使って、外径と内径を手作業で加工します。私はこれらの優れた機械は私自分が修復したもので、これらは歯車製造専用の機械となっています」
ステップ6:溝を切る
リック・ヘイル;
「外径と内径を旋盤加工した後、歯の溝を切ります。ここで18インチのスイス製回転テーブルの出番なのですが、この機械は±1秒(編注:1°の3600分の1、角度の単位としての秒)の精度で正確な割り出しができます。木工の仕事で、このレベルの精度は過剰に感じる人もいるかもしれません。しかし、直径34インチで240本の歯を持つ歯車を作るときには、この過剰な精度が生きてくるのです」
ステップ7:歯を押し込む
リック・ヘイル;
「歯を溝に合わせて薄くし(勘によって決める微妙な圧力で)、自分で作った手動プレスで一本ずつねじ込みます。ここでは、伝統的な皮の接着剤を使用して歯をしっかりと固定します。全ての歯が挿入された後、歯車は最終的な表面処理を行い、歯の面は均一性を保つために“ほこりを払う”ことになります」
リック・ヘイル;
「ガンギ車の場合、歯は機械上の決められた位置に手動で挿入し、パンタグラフアームと回転テーブルを使って最終的な形状に整えます。この工程は時間がかかりますが、非常にうまく機能します」
ステップ8 :研磨、ラッカー塗装、取り付け
リック・ヘイル;
「歯車のハブに穴を開け、受け座に取り付けるためのザグリ加工(ボルトやねじの頭部が出っ張らないようにするための穴を加工すること)を施した後は、研磨とラッカー塗装、そして取り付けへと進みます」
Wind & Water(風と水)
リック・ヘイルの最新作は、「Wind & Water(風と水)」と呼ばれるクロックだ。2020年12月に完成したこの36インチ×60インチの壁掛け時計は、数年前から開発が進められてきたもので、桜の古木でできた手彫りフレームに加え、デイジーホイールの作動機構、キルティングされたメープルの針、こん棒スタイルの駆動ウェイトとカウンターウェイト、そしてヘイルの特徴的な1軸のグラスホッパー脱進機を採用している。ハリソンの伝統を受け継いで、ヘイルは時計の中の全ての回転部品にリグナムバイタ材を使用。Wind & Waterの歯車装置は、ハリソンの chordal pitch(弦ピッチ)方式に基づいている。ヘイルは依頼を受けた仕事のみをしており、現在は彼がL1と呼ぶ月の満ち欠けを表わすテーブルクロックを開発中だ。
詳しくはClockwrightのホームページをクリック。
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