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時計の世界で過ごした5年間

そして、2025年が私たちに何をもたらすのか。

数週間前、HODINKEEの創設者ベン・クライマーが、自分がどれだけ長くこの仕事をやってきたかを社員に話す、なんていうエピソードで記事を書き始めたのを覚えているだろうか? 私は何度もその教えを受けた。自分がまだまだ若いということを思い知らされる瞬間だ。ただその自覚はちゃんとあるからこのエッセイを、時計業界の完全なインサイダー視点として語るつもりはない。ただこの5年間で、それなりにさまざまなものを見てきたと胸を張れるくらいの経験はしてきたつもりだ。

A Rexhep Rexhepi CCII

自身の2024年におけるベストな時計や瞬間を、写真で振り返ってみたいと思う。これはレジェップ・レジェッピのCCII。モントレー・カー・ウィーク中にレンジローバーのイベントで偶然出合った、最高の1本だ。

 簡単にこれまでの経歴を紹介しよう。2019年5月、トニー・トライナが運営していた(現在は閉鎖された)Rescapementというサイトで、初めて時計に関する記事を書いた。その後、金融業界のデスクの片隅で時計の世界を深掘りし続け、2021年1月にニューヨークへ移住。HODINKEE Shopのチームに加わった。当初はヴィンテージ・アソシエイトとしてスタートし、その後コンテンツ・マネージャー、ヴィンテージ・バイヤー、そしてVIPクライアント・アドバイザーと、いくつかの役職を経験してきた。水曜日に行っていたヴィンテージウォッチの新着コレクションを企画・選定する役割から、Pre-Owned(中古市場)の立ち上げ、さらには特別な時計を特別な顧客に向けてプライベートに販売するなど、HODINKEEにおける自身の経歴は商業的側面に編集的なストーリーテリングを少し加えたものだ。

 正直に言うと、最後の部分が今もここにいる大きな理由だ。初めて単独名義で記事を書いたのは2021年12月(その時、ヴィンテージの金無垢ドレスウォッチがトレンドになると予想した!)。それ以来、時間があるときには常にエディトリアルコンテンツにも関わってきた。そしてビジネスがその方向に再びフォーカスし始めたことで、2024年7月、正式に編集部に加わることになった。

A Cartier Santos in yellow gold

昨年見たヴィンテージカルティエのなかでも、特に印象的だった2本を紹介しよう。ひとつ目は、1918年製のイエローゴールド製サントス。

A Cartier Santos in platinum

そしてもうひとつは、1922年製のプラチナ製サントス。鮮明に残るホールマークとケースバックの刻印が特徴的だ。

 なぜこれが重要なのか? ここまでの内容を見てもらえばわかると思うが、私の書く記事はこれまでの経験に裏打ちされている。時計ビジネスの現場で過ごした年月のおかげで、広報担当者やブランド幹部よりも、コレクターやディーラーの友人が圧倒的に多い。だからこそBring A Loupeのような記事やオークションレポート、コレクターズミーティングの現地報告といった内容が中心になり、ブランドの新作発表記事(Introducing系記事)は少なめになる。ジェームズ・ステイシーに止められない限り、新旧問わず、時計そのものに焦点を当てたコレクターによるコレクターのためのコンテンツ提供したいと思っている。

 前段で述べたことは、HODINKEEやほかのメディアが現行の時計をカバーしていることや、それについて書いている同僚たちを軽視する意図はまったくない。むしろそういった時計について語るのは、ほかの人たちのほうがずっと上手だと思っている。

A Zenith El Primero LE for Hodinkee

2024年に登場した、まったく異なる魅力を持つふたつの現行モデルを紹介しよう。ひとつはメテオライト製インダイヤルが特徴的な、HODINKEE限定のゼニス エル・プリメロ トリプルカレンダー LE。

A Hublot x Murakami Tourbillon Sapphire

そしてもうひとつは、ウブロからリリースされたタカシムラカミ トゥールビヨン サファイア レインボーだ。

 時計ビジネスの世界は、もしかしたら読んでいて心を奪われるテーマではないかもしれない(それはあなたが決めることだが)。それでも、私がいつも引きつけられるのはこの分野だ。現行に関して言えば、セリタベースのクロノグラフムーブメントの良し悪しを議論するよりも、そのモデルが市場でどのようなポジショニングを意図してリリースされたのか、という点に興味がある。一方、Pre-Ownedやヴィンテージ市場におけるプレイヤーたちの動向や、彼らの思惑を観察することは、正直なところ私の脳内リソースをかなり占領している。“売り手を見ろ”という古くからの格言がどこから来たのか、考えたことはあるだろうか? 当然ながら、それは自分から買って欲しいと思っているディーラーたちからだ。そしてオークションハウスの従業員がすすめる素晴らしいヴィンテージウォッチは何か? おそらくそれは、彼らの次回オークションに出品されるものだろう。

 私は最新のセイコー 5スポーツ GMTよりも(ちなみにSSK023は素晴らしい時計だ)、8桁もするパテックについて語ることが多いかもしれない。これは自分に酔っているというわけではなく、純粋な興味や情熱から来るものだ。多くの人にとって、時計との関係性は二次的なもの、あるいは単にイチ観客としての視点に過ぎない。もし私がオリスや2499を一度も購入しないとしても、そのふたつの時計や市場での立ち位置を評価する視点は変わらない。オリスを買えるかどうかなんて関係ない。私にとっては観戦競技なのだ。そして時計の世界における究極の観戦競技とは、ハイレベルなコレクションだ。だからこそTalking Watchesシリーズのジョン(ジョン・メイヤーやジョン・ゴールドバーガー)が出演するエピソードが、これほどまでに多く視聴され、称賛されているのだろう。

A Patek chronograph

昨年見たなかで最高のヴィンテージパテックは、1947年製のユニークなRef.1563だ。サザビーズ・ジュネーブにて、手数料込み336万スイスフラン(日本円で約5億8700万円)で落札された。

 Buying, Selling, Collectingのカルティエ マキシ オーバルに関する記事は、実際にその時計を購入する人が数人でも増えれば十分に価値がある。ただそれ以上に重要なのは、このモデル自体や、コレクター市場におけるその位置づけをより深く理解するために書くということだ。時計の世界では、細部を知ることで全体像が見えてくることがよくある。たとえば、なぜカルティエがマキシ オーバルを製造したのかを理解することで、その時代におけるブランドの考え方や市場の動向がより鮮明になる。こういった時計に関する情報の多くは煽情的なものである。しかしReference PointsやBuying, Selling, Collectingが特別なのは、その情報が特定の時計を売ろうとしているディーラーや、次回のオークションで数本の出品を控えているオークションハウスから提供されるものではないということだ。

Three vintage Daytonas

今年の特別な機会を振り返ると…まずは6270、6269、そしてユニークなブラックダイヤルの6269。

Two Patek ref. 5004A's

さらに、ステンレススティール製のパテック Ref.5004 ペア。

 これは時計業界の根本的な問題だと感じている。信頼できる真実や指針、あるいは純粋な意見を提供する情報源などというのものは、何らかの動機なしには存在しないのだ。そしてHODINKEEも完全に独立した存在とは言えない。しかし少なくとも、自分自身の考え得る動機をしっかりと自覚し、それに影響されないよう心がけながら文章を書くことはできる。ともかく、2025年に何を書くべきかを考えるとき、こういったことがいつも頭をよぎるのだ。

 この記事を書くきっかけとなったジェームズからの依頼は、少なくとも部分的には私の2024年を振り返ることだった。2024年は、個人的に大きな変化の年だった。時計を売るためではなくストーリーを語るために見るという、まったく異なる視点を持つようになった。そして大きな気づきもあった。自分には商業的な経験と専門的な知識を編集部に持ち込むという、ほかにはない役割があるのだと。それからもうひとつ、eBayで少し買いすぎた年でもあった。Bring A Loupe用の時計を探している、という言い訳が常にあったからだ。まあこの習慣は避けられないかもしれない。

2024年にeBayで手に入れた時計たちで、私のウォッチボックスはすっかり埋まってしまった。そのなかの1本が、1940年代製のロンジン セイタケだ。

1920年代製のモバード ハーフムーン シルバーケース。

1950年代製、アバクロンビー&フィッチ×モバード サブシー。

フランソワ・ボーゲル製ケースの、アバクロンビー&フィッチ×ミドー シップメイト、1940年代製。

1950年代製のモバード カレンダマティック。同じくフランソワ・ボーゲル製ケース。

1940年代製のモバード ウルトラプラン。

 ベンほど長くこの仕事をしているわけではないが、今や私のキャリアの大半は時計に捧げられている。それ以前も時計には夢中だった。おそらくこの文章を読んでいる多くの人たちと同じように(と勝手に想像している)。ただ、そのころはお金をもらっていなかった。今ではこれが私の仕事だ。そして自分が本当に読みたいと思うようなコンテンツをつくることが私に課せられた使命だ。そのためこのエッセイを簡潔にまとめるなら、これからも自分にしかできないやり方で、この仕事を続けていくつもりだということだ。