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Photos by Tiffany Wade
ストーンダイヤルは1970年代をほうふつとさせる。自称1970年代のノスタルジアフリークの私として、理論的には最近発売した37mmターコイズダイヤルのロイヤル オークに妥協することなく専念すべきだろう。
もちろん、私の心の一部はすでに魅了されている。しかし、この時計宛に800ワードからなるラブレターをしたためる前に、いくつかの事務的で一般的な観察をしておく必要がある。
第1に、私はストーン製の文字盤が妙に時計愛好家のあいだで、政略的な統一が図られていることに気づいた。男女間の議論や言説の予期せぬ戦いなしに協議するための、ユニークな中間の場であるのだ。私たちは皆、きれいな石を称賛できる(私もそうできる)。これらの時計はまるで、何年も前に両親とともに自然史博物館へ行ったときのお土産のようだった。あるいは誰もが鉱物科学の基礎を学べると期待して、石英、タイガーアイ、アベンチュリン、黒曜石などの小さな塊をみんなで回した、小学生時代の忘れてしまった授業のどちらか。これがおもしろい話かどうかはわからないが、ストーンダイヤルは宝石と違ってニュートラルな領域である。装飾的であり、万人向けではないが、偏ったものではないように見える。
ストーンダイヤルは時計のジェムセットよりもクセがある。石でできた文字盤は土臭くボヘミアン調だ。これらは大まかだがヒッピー文化を意味する(フェティシズム化され消滅してしまった文化なので、これが今も関係しているかどうかはわからないが、とりあえず1970年代まで遡ることにした)。ヘイトアシュベリーで落ちこぼれた革命家がアメリカの田舎で共同生活を送り、複数の鉱物を両手に持ってPCHを横断しエサレン研究所に向かうように、これは最も表面的な意味でのヒッピー文化である。
そして私たちも知っているように、時計は往々にして広い意味での時代の流れを反映するものである。ここで参照にしている文化的風土は、ファッション、家具、アート、そして時計という、ミッドセンチュリーなスタイルに対する現代の執念だ。流麗なイヴ・サンローランのカフタンを身にまとい、木製の腕輪をつけて、半貴石のビーズの束を何連もつけたルル・ド・ラ・ファレーズ(Loulou de Falaise)のように、いつものブルジョア的なボヘミアンファンタジーに陥ってしまいたくなるが、ただ私は彼女ではないし、今は1973年ではなく2023年だ。だから私の空想を、現代のストーンダイヤルウォッチのようなものにぶつけることにした(そしていい意味で珊瑚のビーズを一連つけるかもしれない。それがなぜダメなのかわからない)。
しかし、ここで本当に厄介な点にぶち当たる。なぜならターコイズダイヤルのロイヤル オークを身につけ、1970年代のサンローランのミューズのコスプレをしたいという思いと同じくらい、ストーンダイヤルは私の審美眼を実際に10段階ほど引き上げる。これらのダイヤルには、単にきれいな色、風合い、質感だけでなく、さまざまなものが詰め込まれている。文字盤が洗練され、適度なキズの量により色が均一に飽和し、またケースやブレスレットとのバランスが取れているように見せるためには、ラピダリー(宝石細工)が完璧でなければならない。このターコイズダイヤルのロイヤル オークは、同カテゴリーのほかの製品と同様、それなりのプライスタグ(正確には税込で764万5000円)がついているため、石の品質やカッティング技術を軽んじているわけではない。
この時計が今年の2月に発表されたとき、“あなたがしているすべてのことをやめて、SNS上でこの時計の美しさを楽しんでください”、という呼びかけをしたが、ラピダリーを間近で見るのとはまったく違う。ダイヤルのひとつひとつをすべて見ることができないのに、判断を下すのは難しい。それらはすべてカットが異なり、メキシコ産ターコイズの模様もすべて異なるからだ。すべては運任せである。
明確なロイヤル オークのデザインと完璧な金属細工を除いて、最も印象的なのは18Kイエローゴールドと鮮やかなターコイズストーンのコントラストだ。ゴールドとブルーは私の心のなかで完璧な組み合わせである。非常に地中海的かつ荘厳で、エジプトのファラオのようでありながら、非常に70年代のテイストもある。これはティファニーブルーとはまったく違う。私が許容できると感じる唯一の比較モデルは、現代のロレックス デイデイトが持つ独自のターコイズダイヤルだろう(私向きの時計ではないが)。
この時計はシンプルさと大きさが調和している。日付窓や秒針、インデックスを採用することなくありのままのストーンを見せることもできただろうし、そのデザインも有りかもしれないが、そうするとよりすっきりとした外観になり、時計っぽくなくなってしまっただろう。とりあえず今はありのままの彼女を受け止めよう。
サイズは37mm径×9.3mm厚と比較的コンパクトだが、ロイヤル オークは一般的なほかのモデルよりもサイズが大きいため、試着したことがない人は、これは通常の39mmのように着用する傾向があることを知っておいてほしい(彼らは私にこう言わせている)。ムーブメントは自動巻きのCal.5900を搭載し、時・分・センターセコンド、そして3時位置には日付窓が表示される。パワーリザーブは約60時間、防水性は50mを確保している。
確かに、ロレックスのデイデイトはストーンダイヤルのカテゴリーではお手本のような時計(これもターコイズは除く)だし、“ヴィンテージピアジェ”は今最高にホットだ。ストーンダイヤルについて考えるとき、オーデマ ピゲは自然と脳内に浮かぶブランドだろうか? いや、そんなことはない。オーデマ ピゲには、60年代から90年代にかけての素晴らしい例がある。ただ私は、時計業界のマイクロトレンドはインターネット上だけに存在する極小な風土のように、何かと尾を引くものだと思っている。“今Xがとても話題を集めているのを知っているよね”と、Instagramのひとつのハンドルネームがもう一方のハンドルネームに伝える。こんなノイズを本当に聞いている人はいるのだろうか。それともこれはエコーチェンバー現象(同じ意見を発信すると自身と似た意見の人が集まること)なのだろうか?
しかし、私たちはいままさに時計と宝石のハイブリッドな領域に存在している。つまり、私はこれを目新しいトレンドとして捉えていない。私はこれを聖杯の領域として見ている。これを実際に見たとき、オリジナルの“Stella(ステラ)”ダイヤルを持つロレックス デイデイトをフィリップスで見かけたときのような、みぞおちにパンチを食らったような感覚は覚えなかった。でもかなり惜しかった。
私は何でも好きになるよう洗脳されて、盲目になることはない。しかしその製品がYG製で、1970年代風の、そしてカラフルな石など、時計に対する自身の趣味がすべて凝縮されたようなものだった場合は、話は別だ。ロイヤル オークかどうかはさておき、このYG製ターコイズブルーダイヤルを持つ時計は、私が求めていたすべてを満たしてくれた。カメラロールに50枚以上の写真があると、それが愛だとわかるだろう。さらに彼女が34mmになったら、あなたも顧客になるかもしれない(ここにウェイティングリストについてのジョークが入る)。
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