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First Take カルティエが製造したカラビナウォッチクリップ

少し意外だっただろうか? ただし、これが来ることは予想できたはずだ。

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先週、カルティエは多形体ハイジュエリーコレクションの一環として、ユニークなカラビナウォッチを発表した。見た目はアール・デコ調で、時計付きのカラビナクリップとしても十分に機能するアイテムだ。この宝石をあしらったオブジェを最初に見たとき私は狂喜に打たれ、そのすぐあとにはInstagramでこの新しい宝石セットのカラビナクリップが大好きだと暴走したが、実はこれは意外な事実ではなかった。ファッションにおけるワークウェアとユーティリティに焦点を当てて考えると、これはある意味理にかなっているのだ。

 前回のLVショーに登場したファレルの写真を拡大してみて欲しい。ジュンヤ ワタナベ マンの2005年SSコレクションから(私が個人的に覚えている限り)、2017年のルイ・ヴィトン×フラグメントデザインのためのキム・ジョーンズによる玉虫色のクリップに至るまで、カラビナクリップは以前からランウェイで広く使われてきた。しかしカラビナの存在感は大手ファッションブランドだけにとどまらない。ヘロン・プレストンのオレンジ色のカラビナストラップや、クリストファー ケインの23年SSコレクションのクリップ、ロンドンを拠点とするチョポヴァ・ロウェナのスカートは、複数のカラビナでつなぎ合わせられている。ジュエリーブランドもこのトレンドに参加しており、マーラ・アーロンやイーラ、さらに東京を拠点とするブランド、アンブッシュはカラビナクリップでイヤリングやネックレスを作っている。挙げればきりがない。

Carabiner clip

 宝石がセットされたカラビナは、カルティエのヘリテージに敬意を表しながらも、完全にモダンなパッケージになっている。カラビナはネックレスやイヤリングのような重みや女性らしさを求めるものではなく、タフでエッジの効いたアクセサリーだ。クリップにはダイヤモンドを敷きつめたダイヤルがあり、その周囲をエメラルドとチャンネルセッティング(レール留め)されたサファイアで縁取っている。12時位置にはルビー、その両脇にラピスラズリ、オニキス、ブラックスピネル、ターコイズ、クリソプレーズのビーズを配置。カラビナはサファイアのカボションを押すと開く。隠されたボタンを押すと、チャンネルセッティングのスクエアルビーに縁取られたパヴェダイヤモンドのバンドが作動する仕組みだ。なかにはクォーツムーブメントを搭載している。

Making the Cartier carabiner

 ここでは、メディアを賑わせている“首に巻く腕時計”(あるいはそのほかの意外な体の部位)についての議論を深く掘り下げないことにする。しかし単に宝石があしらわれたカラビナではなく、機能的な時計を備えたカラビナでもあるこの新しいハイジュエリーアイテムの文脈を理解するために、この時計を身体の装飾品として無視するのは間違いだ! テイラー・スウィフト(Taylor Swift)リアーナ(Rihanna)が首(それと足首)に時計をつけていて、ジュリア・フォックス(Julia Fox)が全身に時計をつけているのなら、ウォッチジュエリーの元祖を振り返るべきだろう。

 19世紀のベル・エポック時代には、ペンダントウォッチ人気が顕著で、時計はシャトレーヌ(腰に身に付ける留め具)にもつけられていた。それとヴィクトリア女王が1851年に購入した、ブルーエナメルとダイヤモンドのパテック フィリップ製ペンダントウォッチも忘れてはならない。それ以前の18世紀には、女性がふたつの懐中時計を腰につける“ダブルリスト”が流行した。

Cartier lighter

Image: courtesy of Christie's

 カルティエの話に戻すと、同社は20世紀初頭から、ウェアラブルで機能的な腕時計の“オブジェ”を作るビジネスを展開してきた。30年代に作られたゴールドやエナメルの札入れ(そのなかにはポケットに入れるとダイヤルを保護するために時計が回転するものもあった)から始まり、ゴールドのシャープペンシルに小さな時計がついたものまで(これらを何と呼ぶかは難しい)、さまざまなヴィンテージの装身具が市場に出回っている。またコンパスと時計がセットされた回転するカフリンクス、ジャガー・ルクルトムーブメントを搭載したベークライトとゴールドのバックワインドクリップウォッチ、さらにはデザイナーのジーン・トゥーサン(Jeanne Toussaint)が1920年代後半に設立したカルティエの “S”(シルバー)部門が開発した、シルバーのペンナイフもあった。彼女が監修した実用的なオブジェは、装飾の程度も軽くて手に取りやすく、世界恐慌の時代に大成功を収め、贈り物としても人気を博した。

Cartier clip

 この2024年のリリースに最も近いヴィンテージアイテムは、ゴールド、スティール、銅でできた1937年のポケットマルチツールだろう。SS製のナイフの刃、カットされていない銅製の鍵(つまり、自分の仕様に合わせて鍵をつくってもらうことができる)、伸縮式のシャープペンシルが組み合わさっている。そして時計も!

Cartier tool

 時計ディーラーであり、ヴィンテージウォッチ・オブジェの専門家でもあるFoundwellことアラン・ベッドウェル(Alan Bedwell)氏は、「このコンセプトを忘れてはいけません。時間の使い方は、最近私たちがごく当たり前のこととして受け止めているものです」と語る。「スマートフォンやスマートウォッチ、安価なデジタルウォッチは、世界中の正確な時間に、誰もが一瞬でアクセスできるようになりました。これらの壮大な芸術作品がつくられた当時、時間を知り、それをある程度“コントロール”することは、それ自体が贅沢なことでした。そのためお金を持っている人はどこにいても、例えばデスクの前にいても、電車で移動しているときも、オフィスで働いているときも、その“コントロール”を享受したかったのです。カルティエのようなラグジュアリーブランドの仕事は、できるだけ多くの工夫を凝らして、こうした人々の生活を豊かにすることでした。ペン、レターオープナー、マネークリップ、口紅ケース、ライターなど。ムーブメントが小型化し、信頼性が高まるにつれて、可能性は無限に広がり、デザイナーはより独創的なアイデアを持つようになりました」

Cartier objects

ミニチュアクロックと、ベークライト製のマネークリップがセットされた口紅ケース。Images: Courtesy of FD Gallery

 もし私がカルティエのハイジュエリーの顧客だったら、すぐにカラビナのリストに名前を載せただろう。ジーンズにクリップで留めたり、リビエラのネックレスにペンダントとしてつけたりしていたはずだ。だってそれができるのだから。これはアール・デコのカルティエを、現代風にアレンジした完璧なアイテムである。地味な提案だが、ぜひ次はプレーンなイエローゴールドで作ってみて欲しい。

カルティエのタイムピースについては、カルティエ公式サイトをご覧ください。