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今週もBring A Loupeの時間がやってきた。時計収集の世界ではよく“レア”という言葉が使われる。しかしオークションハウスのカタログではあまりにも多くの副詞とともに乱用されるため、私はこの言葉を使う際には極めて慎重になるべきだと考えている。今週のセレクションはまさに私が考える“レア”もののいい例だ。事実として希少で、次に同じものが販売されるまで数年待たなければならないような時計である。
“レア”ものについてさらに論じる前に、“古きよきHODINKEE”時代から続く今週のお気に入り連載の直近の記事を振り返ろう。ひどい写真が掲載されていたユニバーサル・ジュネーブのトリコンパックスはまだ販売中であり、タンタンが選んだグランドセイコーも同様に残っている(Bring A Loupeの選定がすべての人にマッチするわけではない。タンタンも気にしなくていい)。また、テナンツオークショニアズ(Tennants Auctioneers)は直近でカルティエで販売されたモバード エルメトを出品している。そして結果としてミドーのマルチフォートは279ドル(日本円で約4万円)で売却され、フィリップスから出品されたパルミジャーニのクロノグラフは予想落札価格を大幅に超える1万9050スイスフラン(日本円で約316万円)で落札された。
希少であることが高額であることとイコールであるわけではない。もちろん希少な時計はプレミアム価格がつくこともあるが、そのプレミアムが正当化されるのはその時計が“レア”であり、かつ“魅力的”である場合のみである。それでは今週のセレクションを見ていこう。
ロレックス オイスター パーペチュアル Ref.1002 ブレゲ数字のインデックス付き 1976年製
ロレックス オイスター パーペチュアルのRef.1002自体はそれほどレアな時計ではない。しかしこの文字盤を持つとなると話は別である。正確にいうと、この文字盤を持つ個体は市場に3本しか確認されていない。今年5月、ジュネーブオークションに訪れた際、その3本のうちのひとつを初めて目にした私は驚愕した。これはまさにロレックスマニアにとって夢のような時計である。アプライドのインデックスが大きく印刷されたブレゲ数字に変わるだけで、“スタンダード”なオイスターが本当に高いレベルへと引き上げられているのだ。
これらの時計はすべて比較的直近で市場に登場しており、それに関する研究も進んでいる。3本すべてにおいて、文字盤の裏側に当時のロレックスの文字盤サプライヤーであるバイエラー(Beyeler)社の署名が同じように入っていることで、これらが同じ、恐らくは少量のロットに属し、同時期に製造されたという説が立てられている。このケースは1976年にさかのぼるが、これは現在までに確認されているなかで最も古いものであり、ほかのふたつはその数年後に製造されたものである。
ブレゲ数字は希少性を演出するだけでなく、時計全体の外観にも大きな影響を与えている。5月に見たときに驚いたのは、単に今まで見たことのないヴィンテージロレックスであったというだけではない。もちろんそれも一因ではあった。しかしそれ以上にデザインがどれほど優れているか、そしてシンプルなオイスター パーペチュアルがどれほど魅力的かというのも大きかった。私のお気に入りのパテックにもブレゲ数字が使われていることがあるが、これらの希少なオイスター パーペチュアルにはそれ以上に引かれる何かがある。なぜならこのスタイルは“ロレックスらしくない”としか言いようのない独特なものだからである。
売り手であるコレクターズコーナーNY(Collectors Corner NY)のウェスが、この3本のうちのひとつのロレックスを2万9900ドル(日本円で約420万円)で提供している。こちらでチェックしてみて欲しい。
カルティエ ロンドン デカゴン 1960年代製
上記ロレックス オイスター パーペチュアルと同様の数しか確認されていない時計として、オークランドの小さなオークションハウスで出品されていたカルティエ ロンドンのデカゴンも今週のセレクションに加えよう。正直に言って驚いた。実際のところ偽物だと思っていた。しかし念のため出品者であるクラーズ・オークション(Clars Auction)に連絡し、ムーブメントとケースバック内側の写真を依頼したところ、本物であることが判明した。
このようなカルティエ ロンドンの時計が販売される場合、HODINKEEではそれだけで記事が1本できてもおかしくない。特にこの時代に作られたロンドン製の時計の魅力は何度も語られており、市場でもその評価が裏付けられてきたが、それでも改めて強調する価値がある。カルティエ ロンドンの時計はひとつひとつハンドメイドされたものだが、1960年代の技術と知識を背景にしているという点で1910年代初期のカルティエウォッチに近しい趣を期待することができる……、そして単純に身につけやすい。カルティエ ロンドンはオリジナルのクラッシュ、ペブル、マキシ オーバルだけではなく、1960年代からはほかにもカルティエらしい美学を体現しながらも奇抜な形状の時計が登場している。デカゴンもそのひとつだ。
最後にオークションで見たデカゴンは、2021年10月にモナコ レジェンズ グループ(Monaco Legends Group)で行われたオークションで最低落札価格を大幅に上回り、最終的に5万5900ユーロ(当時のレートで約600万円)で落札された。私は運よくジャスティン・グルーエンバーグ(Justin Gruenberg)氏の店、キーストーンを訪れた際に2本のデカゴンを目にすることができたが、このモデルが本当に特別であることは確認済みだ。実際にはやや不格好にも見えるが、マライカ・クロフォードが言うように“不恰好な美しさ”を有しているのである。
入札者への注意点:すでに気づいているかもしれないが、今回のクラーズのデカゴンには後年カルティエのサービス用ダイヤルが装着されたようだ。これは時計の価値に影響するが、その希少性を損なうわけではない。入札の際は、その点を考慮するように。
このカルティエ ロンドン デカゴンは、クラーズ・オークションのExquisite Diamonds & Watches Auction(極上のダイヤモンドと時計のオークション)のロット5115として出品されている。想定落札価格は5000~7000ドル(日本円で約70万〜100万円)である。
ユニバーサル・ジュネーブ “ポーラー”ルーター Ref.20217-3 1950年代製
ユニバーサル・ジュネーブ ポールルーターは、HODINKEEのヴィンテージウォッチ体験において中核をなす時計である。 単に所有して身につけるのが楽しい時計というだけでなく、このモデルには非常に興味深い歴史があり、時計業界、特にHODINKEEの記事で詳しく取り上げられている。ポールルーターに関する本も存在する! この時計に関する要点を簡単にまとめると、ポールルーター、そして今回紹介する“ポーラー”ルーターはSAS(スカンジナビア航空システム)とユニバーサル・ジュネーブが関わったプロジェクトの結果として誕生したものだ。1954年、SASが初めてコペンハーゲンからロサンゼルスまで北極上空を通過して直行便を運航した。この出来事は2024年の現在に読むと大したことないように思えるが、当時は非常に重要な出来事だった。いずれにせよSASはこのフライトを記念してユニバーサル・ジュネーブに時計の製作を依頼し、ブランドは当時23歳のジェラルド・ジェンタと契約、こうして“極地飛行”を記念したポーラールーターが誕生したのである。
ポーラールーターのスペルは長続きしなかった。なお誤字ではないので注意してほしい…、この記事でも間違えないよう非常に気をつけて書いている。約1年後の1955年にはポーラールーターはポールルーターとなった。総じてポーラールーターの名前を冠した時計は約300本製造され、そのうち半数は文字盤にSASのロゴが入っている。
今回紹介するモデルは、商業用に製造された170本のポーラールーターのうちのひとつである。約1000種類のリファレンスが存在するポールルーターの世界において、170本というのは非常に希少である。私自身、5年間にわたって黒文字盤のポーラールーターを探してきたが、売りに出されたのは2〜3本程度しか見たことがない。
このモデルはシルバーの文字盤であり、私が探していたものとは少し違うが、状態は素晴らしく全体的な風合いも魅力的だ。唯一の“欠点”は売り手が指摘しているとおり、交換されたリューズである。
イギリス、ビバリーのWaecce Watchesがこのポーラールーターを4686ドル(日本円で約66万円)で販売している。詳細はこちらから確認可能だ。
ギュベリン バゲットダイヤモンドのカーディナルインデックス付きドレスウォッチ 1950年代製
私はギュベリンの時計には特別な愛着があり、eBayの検索結果を保存している。ギュベリンは長年、パテック フィリップの小売業者として知られているが、パテックだけを扱ってきたわけではない。ルツェルンに拠点を置くこの宝飾店は独自のホワイトラベル(OEM)製品も手配しており、それらには単に“Gubelin”とだけ署名されている。これらの時計のクオリティには多少ばらつきがあるものの、最高級のものはオーデマ ピゲによって製造されており、下位モデルでもエテルナなどのブランドが手がけている。
今回紹介する時計は、ヴィンテージ時代のギュベリンのホワイトラベルの品質を示す素晴らしい例である。私はこの時計が1954年に行われたこの宝飾店の100周年記念のタイミングで製造されたものだと考えている。この節目を祝うためにギュベリンはオーデマ ピゲに依頼し、ジュビリーシリーズとして知られる200本の時計を製造させた。eBayの売り手にムーブメントの写真を依頼したが、このギュベリンはおそらくAPによって製造されたものではないだろう。しかし文字盤やケースの質感は非常に似ており、この時計はギュベリンが扱うAPの時計に似た外観を持ちながら、少し手ごろな価格帯で提供された代替品だったのではないかと推測している。
製造元は不明だが、この時計が希少であることは確かだ。ブランドとして高く評価されているギュベリンの署名があり、バゲットダイヤモンドのカーディナルインデックス(12、3、6、9時位置)がセットされたドレスウォッチは、特にホワイトゴールド(WG)製のものはそう頻繁に出回るものではない。マライカの記事にある1950年代の同時代のモデルを見ればわかるが、パテックにとって希少なディテールであったなら、その時代のほかの時計ブランドにとっても同様に希少だったのである。
eBayでセントルイス在住の売り手がこのギュベリンをオークションに出品しており、終了は9月16日(月)の午前10時30分(日本標準時)である。この記事を執筆した時点で入札額は830ドル(日本円で約11万7000円)となっていた。
ユニバーサル・ジュネーブ Ref.20105 1949年代製
最後に紹介するのは、小振りなユニバーサル・ジュネーブである。そのとおり直径は30mmで、ケースはフランソワ・ボーゲル(François Borgel)製だ。私のFB製ケースに対する愛は尽きることがなく次々と発掘しているが、今回の時計は私にとって新たな発見であった。これまでにFB製ケースを使用したユニバーサルはあまり見つけられず、ざっと調べてもこの特定のリファレンスのほかの個体を見つけることはできなかった。正直なところこれは少し謎が多い時計だが、非常に希少なものだと考えている。私の目にはこの時計の真正性に関して何も問題や異常が見られないが、必要ならコメント欄で誰かが指摘してくれることを願っている。
eBayでフロリダ州ボカラトンの売り手がこのユニバーサル・ジュネーブを出品しており、オークションの終了は9月16日(月)の午前11時6分(日本標準時)である。この記事を執筆した時点で入札額は42ドル(日本円で約6000円)だった(編注:該当の商品は紛失、または破損などの理由により削除されている)。
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