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Auctions クレイジーなプロトタイプ パテック フィリップ アクアノート

このミステリアスな時計は、本物なのか偽物なのか?

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こんな不思議な話について書くのは久しぶりです。この時計を初めてアンティコルムのオークション(5月11日土曜日に開催)カタログで見たとき、偽物に違いないと確信したからです。なぜなら…見れば分かるでしょう? ダイヤルに実際に“プロトタイプ”と書いてあるステンレススティールのプロトタイプ・パテック フィリップ アクアノートを信じろと? そんなおかしな話はない。しかし、念のため時計のエキスパートやコレクター達に感想を求めたところ、どうやら我々は本当に特別なモノを目の当たりにしているとようやく分かってきたのです。全員がこのユニークなアクアノートが本物だと、もしくは、“ほとんど”本物ということで一致しました。

アクアノートは1997年にRef.5060として発表されました。今ではさほど特別感はなくなってしまったが、パテック フィリップが、自動巻きムーブメント搭載の36mmステンレススティール製の時計をラバーストラップで発表した事に当時誰もが度肝を抜かれたそうです。1990年代は現在のようにノーチラス全盛期というわけでもなく、この時計はパテック フィリップの長い歴史の中のどの時計よりもカジュアルでアプローチしやすい腕時計でした。後にRef.5165アクアノート”ジャンボ”が登場し、さらに複雑化された仕様に仕上げられます。トラベルタイムRef.5164A、5968Aクロノグラフや新しいカーキグリーンの5168Gはファンがとても多く、購入までに数年待つこともあるのです。

アクアノートの標準的なバリエーションであるRef.5060A。

ここで紹介しているのはプロトタイプ アクアノート 5060Aですが、他の5060Aとはひと味違う。このシリーズは基本的に時間と日付のみを表示しますが、このプロトタイプにおいてはパワーリザーブ表示が11時30分の位置に追加されています。この理由として、ノーチラスRef.3710にも搭載されているキャリバー330/196が使用されているため(ダイヤルのレイアウトも一緒)。実際には、330/196はアクアノートには用いられず、代わりにもっとベーシックなキャリバー330SCが最終的な製品としての5060Aに選ばれました。それからも、このようなパワーリザーブ表示が搭載されたアクアノートは一度も見られず、誰もが知っているようにこのようなムーブメントと表示を持つのはこのプロトタイプだけなのです。ムーブメントの話の続きですが、330/196の右側に“LABO No.o4”と刻印されていることが挙げられます。これは、おそらく実験用に作られた特別な時計であることを、暗に示しているのでしょう。

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スタンダードな5060Aともう一つ大きく違うのがダイヤルです。グリッドパターンは無く、アプライドされたアワーマーカーには夜光が施されているものの、とてもさり気ない。針は他のノーチラスモデルにも使用されているものに似ていて、アクアノートで一般的に見られる広めの針とはやや違うものです。4時に‬あるパテック フィリップロゴの下に入る“プロトタイプ”の文字が一層特別感を加えています。アクアノートがノーチラスから独立したシリーズであることを示す印とも言え、これには僕の心が妙に弾むのです。パテックがどのような適応力と変化でそれぞれのモデルに独自のデザインランゲージをもたらしたのかその実情が垣間見えます。

キャリバーナンバーの上部にはユニークな暗号が。

文頭でも述べたように、初めてこの時計を見たときは単なる偽物か、未完成作品だと考えました。果たしてパテックがダイヤル上にあのように“プロトタイプ”と書くのでしょうか? もしも本物であれば、なぜアンティコルムのカタログの表紙ではなく、真ん中に載っていただけなのでしょう? 僕よりもパテック市場や時計師たちの事情に詳しい人たちに調査したところ、その結果に驚かされたのです。

この一週間ほど話を聞いたディーラー、コレクター、エキスパートの誰もが名前は公表しないことを条件に話してくれました。パテック フィリップとアンティコルムの間に板挟みになりたくないというのが本音のようですが、曖昧な答えを想像していた僕の考えとは裏腹に、いろいろな見解が飛び出したのです。

ダイヤル上には“プロトタイプ”の表示と共に、まさにノーチラスのパーツが配されている。

最初に話を聞いた数人はこれについて無条件に多くを語り、奇妙に見える時計だが特に怪しくはないと答えました。最近のアクアノートとノーチラスのコレクションを見ると、エキスパートたちはこの時計が5万〜8万スイスフラン(約550~876万円)という大金で取引されるという予測を立てました。専門家の一人は、時計が“80%本物である”と答えた理由について、ダイヤルに“プロトタイプ”と書いているのにケースには何もないことを懸念していた。確かにそれが時計を台無しにする事はないけれど、完璧ではなくなる気がします。

調査の中で一番興味深かったのが、パテック フィリップがオークション前にこの時計の購入をアンティコルムに持ちかけたという噂。買い値が受け入れられなかったためパテック フィリップも断念したが、アーカイブからの抜粋や具体的な証拠の提供も同時に拒否したというのです。繰り返しですが、この情報は匿名により提供された噂なので軽い気持ちで聞いてくださいね。

これまで作られたどのアクアノートにも似ていない。

たった一人、この時計に疑いの目を持っている人がおり、彼は、いくつかの理由により、誰一人としてオークションに入札を入れてはいけないと警告しました。ダイヤルのプリントが怪しいのと、何よりこの時計の製造場所がはっきりしない。本物のパテックであれば、オークション後に保有権の主張をしないでしょうか? 過去にも例があり、様々な結果が生まれているのです(中にはロレックスのプロトタイプの購入者が所有権を勝ち取った有名な話もある)。彼は、同じようなリスクを負わないで欲しいとオークション参加者に忠告をしたのです。

この様な時計には、教えて欲しい疑問がたくさん生まれます。結果的に、時計コレクターのコミュニティには良いことではあります。こうであろうという考えに問いを与え、知識をより広めようと導き、そして価値そのものについて意味を問いかける。こういう流れになればさらに魅力的なマーケットと、時計コレクションとの対話が自然と生まれます。もちろん、驚くようなオークションの結果にも繋がるかもしれません。

この時計は、5月11日に開催されるアンティコルム ジュネーブにて、ロット276で登場します。推定価格は5万〜8万スイスフラン(約550~876万円)だが、最終的にどのような値段がつくのかは想像もつきません。予想額より低い値がつくかもしれないし、数十万スイスフランで売れるかもしれない。僕らはその結果を待つのみです。

(当記事は2019年5月9日書かれたものです)