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Interview A.ランゲ&ゾーネ CEO ヴィルヘルム・シュミット氏にブランドのこれまでとこれからの10年についてインタビュー

これまでの10年、そして次の10年。

ヴィルヘルム・シュミット氏がA.ランゲ&ゾーネのCEOに就任してから、2021年1月1日で10年を迎えました。これほど長きにわたってブランドの舵取りを行う人物は時計業界でもそれほどいませんが、同氏は、最初から時計メーカーにいたわけではありませんでした。1963年ドイツ・ケルンに生まれたシュミット氏は、アーヘン大学で経営学を学びます。自動車潤滑油卸売大手のBPカストロール社を経て、BMWに8年間在籍し、ボードメンバーにも名を連ねた人物です。

 今回僕たちは、そのシュミット氏とZoomでドイツと日本を繋ぎ、A.ランゲ&ゾーネのこれまでとこれからの10年について伺う機会を得ました。

1994年: 復興コレクション第一弾

1990年に復活したA.ランゲ&ゾーネは、1994年10月24日、ドレスデン王宮にて、復興後としては初となるコレクションを発表。上の写真左から「ランゲ1」、「アーケード」、「サクソニア」、「トゥールビヨン"プール・ル・メリット"」。パネルの前に立つ人物は左からギュンター・ブリュームライン、ウォルター・ランゲ、そしてハルムート・クノーテ。

和田 将治

シュミットCEOにとって、ランゲのブランディングにおいて最も重要だった時計はどれでしょうか?

ヴィルヘルム・シュミット氏

 これは実に難しい質問ですね。A.ランゲ&ゾーネが復活してから現在までに様々なモデルがリリースされてきました。その中でも最も重要なモデルと言われれば、やはりそれはランゲ1でしょう。

 ランゲ1は、26年経った今も非常にコンテンポラリーなモデルです。タイムレスといっても過言ではないと思いますが、現在では若いコレクターたちからも愛されています。特にストラップを交換して楽しんでいる方も多いようですね。私達が皆さんに提供する際には、A.ランゲ&ゾーネのスタイルを見失わないようオーセンティックに揃えるようにしています。

 そしてもちろん、1994年にランゲ1を含む最初の4本がリリースされてから25周年の節目に発表したオデュッセウスも重要なピースの一つです。

和田 将治

オデュッセウスは、A.ランゲ&ゾーネの中でどのような役割を果たしているのでしょうか?

ヴィルヘルム・シュミット氏

 カジュアルなシーンで身に着けられるランゲのアイデアは、実はかなり前からあったのです。特にギュンター・ブリュームライン(ウォルター・ランゲと共同で同ブランドを復興した人物)がスポーティなランゲを志向していましたが、ツァイトヴェルクが2009年に発表されて以降、新しいファミリーは登場していませんでした。

 全く新しいランゲとしてデザインすることになりましたが、強いデザインの作品を出すとしても、その先を見据える必要がありました。そこに複雑機構を加えても、そのモデルの顔が維持できるかどうか。つまり最初からコンプリケーションの搭載まで見据えていたのです。まだ開発段階のものを語ることはできませんが、これからのオデュッセウスも楽しみにしていてください。

 オデュッセウスの役割は、まずランゲを愛してくださっている方々に新しい価値を提供することができたことが挙げられます。懐中時計など私達のアーカイブに着想を得たモデルはクラシックなデザインです。ランゲはめったにブレスレットモデルを作りません。貴金属のケースを採用し、それにあわせたブレスレットにすると非常に重くなってしまうからです。ですが、オデュッセウスがその部分も担うことができます。そして、これまでにランゲに興味のなかった人たちにもアプローチすることができたのは、非常に大きなことです。

和田 将治

 A.ランゲ&ゾーネのブランド戦略についてもお聞かせください。高級ブランドの中には、生産本数の増やしたり、モデル拡張によるビジネス拡大を顕著にするところも多い中、ランゲは変わらぬ姿勢を維持していますよね?

ヴィルヘルム・シュミット氏

 ランゲでは、3針の時計でも、複雑機構をいくつも搭載したモデルであっても一度組み立てたムーブメントを分解して、再度また組み直す二度組方式を採用しています。その他の技術的なアプローチも関係していますが、そもそも私達は時計を作るために時間をとても要するのです。どのモデルを製造していくかによって変動しますが、年産で数千本程度。実際のところ、今はランゲ1であっても手に入れることが難しいタイミングもあります。需要と供給のバランスですが、年間の生産本数を上回るニーズを感じています。

 価値については、自分たちがどんな存在であるかを示すことこそが最も大切なことだと思います。先に述べた二度組みもそうですが、ランゲの時計作りに対する情熱と誇りをお客様に伝えていくことです。

非常に珍しいスティール製のランゲ1。

和田 将治

 A.ランゲ&ゾーネがこれまでに販売した昔の時計にも需要が集まっていますよね。最近は、オークションシーンも賑わせています。例えば、市場に現れた4本のスティール製のランゲ1などはカルト的人気を形成しつつありますが、こうした熱狂はどうご覧になっていますか?

ヴィルヘルム・シュミット氏

 1994年のステンレススティールのランゲ1が登場し始めるなど、徐々にカテゴリにも入っていますが、ランゲの腕時計は、まだまだ歴史が浅いと認識しています。現状のオークションでは、ヴィンテージウォッチ―とりわけ60年代から70年代ごろのもの―が主流ですよね。

 ただ私は、時計は投資対象で手に入れることはしない方が良いと人にアドバイスします。趣味や純粋な収集としてやるべきだと感じているのです。投資ではなく人生の情熱であった方が楽しいと思いませんか?

和田 将治

 日本市場は、A.ランゲ&ゾーネにとってどのような位置づけでしょうか?

ヴィルヘルム・シュミット氏

 日本とドイツは、もちろん違う点も多いですが、職人によって支えられる伝統的なクラフツマンシップ、専門性の高い技術力や真摯なものづくりへの姿勢など共通点もとても多いと感じます。実際、日本は、ドイツ以外でA.ランゲ&ゾーネが人気になった最初の場所の一つです。

 初めて来日した際にも、ジャーナリストやお客様の細かさや博識さに驚いたのを覚えています。時計市場のことを知りたければ日本の顧客と話す必要があるとまで思うほどで、クオリティに関しては、日本がベンチマークになっています。

和田 将治

 最後になりますが、ランゲのこれらについて教えてください。次の10年の挑戦は何でしょうか?

ヴィルヘルム・シュミット氏

 次の10年に向けて、3つの挑戦があります。

 まず最初の挑戦は、グラスヒュッテと世界をつなげること。当社のドイツ国内の従業員の90%はグラスヒュッテに住み、働いています。ずっとグラスヒュッテにいる者も多く、競争の中にいるという意識はあまりありませんでした。しかし、お客様のほとんど100%がグラスヒュッテ以外の場所にいらっしゃるのです。自分たちの力や強みをしっかりと理解し、それを過大評価したり、満足せず、前に進んでいくことが大切なのです。私達のモットーも「Never Stand Still(決して立ち止まらない)」ですからね。

 2つめの挑戦は、A.ランゲ&ゾーネを続けていくことです。当社では、毎年8月に新しい時計職人、工具職人、研修生の契約書にサインをします。入社してから3年間、次世代を担う人材になってもらうため、そして彼らがこの先ずっと生活していけるようにするため、取り組んでいくことは私の大きな仕事のひとつです。また、若い世代への訴求もそう。今はまだ機械式時計を買う余裕はないかもしれませんが、機械式時計の美しさを伝え、理解していただき、いつか自分でお金を出して買ってくださるような若いお客様を十分に確保しなければなりません。彼らにアプローチするためのマーケティングや考え方は、私達の原動力であり挑戦でもあるのです。

 そして最後に、A.ランゲ&ゾーネの価値です。A.ランゲ&ゾーネの時計は、知る人ぞ知る、時計愛好家たちが、分かっていて楽しめる時計でもあります。自分が識者のような感覚になれると言ってもいいかもしれません。時計を知らない人から、高い時計であると気づかれずに楽しむことができますよね。時計愛好家たちの間の秘密のサインのような、そのような価値は維持していかなければならないと思っています。とはいえ、先程お話したようにそれを伝えていくことも重要なこと。どういう人達に、どのように伝えていくかはこれから先も大きな挑戦となるでしょう。

Never Stand Still.

– ウォルター・ランゲ