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Auctions フィリップスオークションに登場した無銘のミニッツリピーター・クロノグラフ

ごく普通のクロノグラフ・キャリバーの裏には、特別なものが隠されていた。

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1991年、一人のコレクターがジュネーブのジャン・ピエール・ハグマンの工房にやってきて、風変りな依頼をした。それは、カスタムのクロノグラフとミニッツリピーターを同じ時計に搭載したいというものだった。ハグマンは、素晴らしいケースづくりで知られているが、ムーブメントに関しては問題を解決するために必要な人物を知っているだけだった。隣の工房はF.P.ジュルヌのもので、ジュルヌが実際にピアジェのために顧客の要望にぴったり合うモジュールを製作していたことを知って、ハグマンは喜んだ。

 フィリップスによると、ジュルヌがモジュールをハグマンに提供し、ハグマンがこの依頼品のケースを製作したという。このあたりから話がはっきりしなくなってくる。誰がこの時計を組み立てたのかははっきりとしないが、その時計師がジュルヌから提供されたモジュールをバルジュー7750に取り付け、ハグマンのケースに装着したことだけは分かっている。ダイヤルにはサインが無い。アメリカのフィリップス時計部門責任者であるポール・ブトロス氏は、「誰がこのダイヤルを作ったのか、モジュールをムーブメントに組み込んだのか、誰も知らないのです。非常に複雑な作業であり、素人ができることではありません。残念ながら、ハグマンはこのプロジェクトが行われたことは覚えているものの、ダイヤルやムーブメントに関する具体的な内容や詳細については、ジュルヌとのつながり以外のことは覚えていないのです」と語る。HODINKEEはフランソワ・ポール・ジュルヌ氏に連絡を取ったが、彼はこのプロジェクトへの貢献についてコメントを拒否した。また、ハグマンにも詳しい話は聞けなかった。このように、この時計にはまだ謎が残されている。

ダイヤルにブランド名がないことに注目。

 この時計は、最初のコレクターが15年ほど前に別のコレクターに売却し、今回はその2番めのコレクターがフィリップスに委託したものだ。これはジュネーブ ウォッチ オークション: XIIIに出品される。この時計の予想落札価格は1万900ドル〜1万6300ドル(約120万〜約180万円)で、ミニッツリピーターとして十分な価値があり、ましてハグマンがケースを製作し、ジュルヌがムーブメントの技術を提供したものなのだ。

 F.P.ジュルヌはこの30年間でかなり有名になった。ハグマンは愛好家の間ではそれほど知られていないかもしれないが、彼のキャリアには“究極の3大時計”のケースを作ったことが含まれる。オーデマ ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタン、パテック フィリップのケースを製作しているのだ。今回の時計は、後に業界の巨匠となる2人の才能がコラボレートして生まれた希有なモデルなのである。

1990年代にF.P.ジュルヌがピアジェのために製作した、非常に複雑で印象的な時計。非常に少数のコレクション。 画像はAntiquorumより

 ハグマンは1984年にキャリアをスタートさせ、瞬く間にケースメイキングの大御所となり、インディーズ時代のフランク ミュラーやロジェ・デュブイなどのデザインを手がけた後、 ジャン-クロード・ビバー がTalking Watchesのエピソードで語っているブランパンをはじめ、ハイエンドなレガシーメーカーのケースを手がけるようになった。ハグマンは2017年に引退したが、アクリヴィアを支える若きスター、レジェップ・レジェピ氏とペアを組むために戻って来た。彼がOnly Watch 2019に貢献したことを覚えている人もいるだろう。現在、ハグマンはレジェピのケースメイキング部門を統括している。

 しかし、ハグマンの真骨頂は、パテック フィリップのミニッツリピーターケースを手がけたことであろう。彼の“JHP”の刻印が入った時計は、パテックコレクターの間でも人気が高い。パテックの専門家でコレクタビリティ(Collectability)の創設者であるジョン・リアドン氏は、「彼が製作したパテックのケースは私も好きですが、特にミニッツリピーター用のケースが好みです。ハグマン氏が製作したミニッツリピーターのケースには、文字通り違いが感じられます。我々が皆亡くなった後も、彼の声が常に時計を通して直接聞こえてくると思うと、安らげるような気がします」と語る。ハグマンは、Ref.3974とRef.3972のケースを製作した。近年、多くのモデルが販売されており、2019年にクリスティーズで販売された3974や、2018年にフィリップスが販売したモデルのように高い評価を得ている。

ハグマンのケースを採用し、Only Watchに出品されたクロノメーター コンテンポラン。

ベンが指摘するように、F.P.ジュルヌ氏は一般的な時計メーカーのエクゼクティブとは違う。実際、彼は経営者というよりも、真の時計職人なのだ。その個性的なスタイルは業界でも高く評価されており、彼の時計は流通市場で驚くほど高値で取引されている。つまり、ジュルヌは現在最も注目されている独立時計師の一人なのだ。

ジュルヌは長い道のりを歩んできた。スティール製のアストロノミック スヴランは、業界で誰もが称賛する彼の最近の作品だ。

 この時計は、ブランドや大手時計メーカーのものではないため、ロットナンバー91は“Anonymous(無銘)”とカタログに記載されている。謎めいた名前だが、オークションカタログ用語で“署名のないもの”を意味する。ブトロス氏は、この時計を気付かれないようにするのは簡単だったろうと言う。「しかし、この時計には驚くほど面白いストーリーがあり、素晴らしく複雑なムーブメントが搭載されているのです」

 ジュルヌのモジュールは、ダイヤルとムーブメントの地板の間に設置されており、シースルーバック越しにハンマーが見えないようになっている。当時、モジュールを搭載できるクロノグラフムーブメントには、他に選択肢がなかった。ケースバックから覗くと、シンプルに仕上げられたバルジュー7750のように見える。

手首に“アノニマスウォッチ”を装着。

 刻印のない時計では、知名度の高い時計で自分のセンスの良さを証明しようとするコレクターたちを惹きつけることはできないだろう。この時計は、歴史的に意義のあるインディペンデントウォッチに情熱をもつ人にとって魅力的な時計であり、何より、業界の2大巨頭によって作られたバルジュー7750に搭載されたミニッツリピーターモジュールの複雑さを理解するためには、必ずしもダイヤル上のブランド名など必要ないのだ。

フィリップスの「ジュネーブ ウォッチ オークション: XIII」は5月8~9日に開催される。この「Anonymous (無銘)Watch」のロットナンバーは91で、5月8日に出品される。