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November 25, 2020
November 25, 2020
Talking Watches 時計コレクターとしてのジャン-クロード・ビバー
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Talking Watches 時計コレクターとしてのジャン-クロード・ビバー

時計界の巨人のコレクションの深淵を覗き込んでみよう。

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今回の記事は掟を破ってでもお届けしたい。2013年9月に「Talking Watches」を立ち上げて以来、時計愛好家である読者に向けて守ってきた掟がある。その掟とは、時計メーカーからどんな形であれ金を受け取っている人物は取り上げないこと。突っ込んでいうと、そのメーカーのアンバサダーやどんなに有名なセレブリティも例外ではない。

Talking Watchesが影響力をつけるにつれ、そこで言及された事柄で生じる利害関係も無視できない大きさになるからだ。

今日に至るまで僕たちはその掟を貫いてきた。身銭を切って時計を収集する真の愛好家だけを取り上げてきた。今回紹介する男もその例外ではない。ただ、少し捻りがきいている。

ジャン-クロード・ビバー。その名を知らない人のために簡単に紹介しよう。彼は現在ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー(LVMH)グループのディレクター職にある。その役職は、彼自身が買収して成長させ、2012年初頭に売却したHublot(ウブロ)に加え、Zenith(ゼニスは彼の'弟子'の一人がトップを務めていたが、最近ずっと規模の小さいロレックスという会社に移籍した)、そしてグループの時計部門の目玉というべきTAG Heuer(タグ・ホイヤー )を睥睨できる立場にあるということだ。ビバー氏はこの業界で最も魅力的、革新的、創造的な存在であり、その影響力は孤高である。彼は80年代のBlancpain(ブランパン)復活の立役者であり(後述)、ウブロを含む多くのブランドにおいてもそうだ。しかし、僕たちは彼のキャリアの偉業を讃えるために彼と話したのではない。そう、聞いて驚く彼の時計コレクションについてだ。


オーデマ ピゲ グランド・コンプリケーションの懐中時計

皮肉にも、彼のキャリアはAudemars Piguet(オーデマ ピゲ、以下AP)で始まった。彼は欧州地域の販売ディレクターとして、1970年初頭のロイヤル オークのリリースにも居合わせた。

また、彼はジェラルド・ジェンタという名の男と共にAPの訓練を受けた。APで積年過ごす中、彼はオート・オロロジーにおける芸術性の高さに気づくようになった。彼の最も大きな業績は、BMWの大株主であるカント家のためのグランド・コンプリケーションの懐中時計だった。そのグラコンには、パーペチュアル・カレンダー、モノプッシャー式のスプリット・セコンド クロノグラフ、ミニッツリピーターが搭載されていた。

その時計はビバー氏初の大型ディールだったこともあり、いつか余裕ができたら自分で買おうと決めていたらしい。果たして本当に買ってしまったというわけだ。


パテック フィリップ ノーチラス Ref.3700

AP在籍時、初めてパテック フィリップ ノーチラス Ref.3700を目にした時を思い出すそうだ。若かった彼はその時計を嫌ったそうだ。彼はパテック フィリップのような伝統のあるブランドが同じデザイナーを起用したうえ、同じムーブメントを積んでロイヤル オークをパクるなんて信じられなかったそうだ。今日の彼はこう語る。
「今となっては、どちらが先かなんてもはや誰も気に留めない。各々が確固たる地位を築いているからだ」と。
Ref.3700について考察すると、この時計が彼のコレクションに加わった必然性が見えてくる。

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ブランパン パーペチュアルカレンダー(No.00)

オーデマ ピゲでの任期を終えると、ビバー氏は3年間をオメガでの「ゴールド」コレクションのマネージャーとして過ごした。クォーツショックの最中、オメガは通常コレクションとは別に金無垢の時計を作っていたのだ。この時、彼はオメガが1961年以降に休眠していたブランパンの名義を所有していることを知った。彼は友人と共に、2万2000スイスフランでブランパンの名義を買い取り、全く新しい存在に書き換えようとしていたのだ。そう、真のオート・オロロジーを作る会社をだ。ビバー氏は当時当然とされたことの正反対を選ぶことにした。安価なクォーツウォッチを作るのではなく、伝統的な複雑機構を備えたヴィンテージ感すら醸し出すエレガンスな時計をデザインした。それが、このブランパンの第一号機、永久カレンダーのNo.00だ。


ブランパン ミニッツリピーター(No.0)

 1989年までにブランパンとビバー氏は、1982年に設定した目標を完遂した。ウルトラシン、ムーンフェイズ、永久カレンダー、ラトラパンテ、トゥールビヨン、ミニッツリピーターの6大複雑機構のモデルを世に送り出したのだ。この中で最も製作が困難だったのが、ミニッツリピーターであり、これがまさにその初号機だ。

Editor's Note

閑話休題。ビバー氏のここまでの時計コレクションは実に驚くべきもので、ビバー氏のキャリアの軌跡を感じられるものであり、そして興味深いものだ。この点について異論は全くない。ここからは時計収集という観点で実に厄介な領域に踏み込もうと思う。5年ほど前、ニューヨークのイベントでジャン-クロード・ビバー氏と初めて顔を合わせる機会があった。
当時私はHODINKEEに取り掛かっていて(フルタイムというわけにはいかなかったが)、ジャーナリズムの大学院に応募するための準備の最中だった。私は、若く、何でも吸収し、自分の小さいWebサイトがまさかここまで大きくなるなんて想像もしていなかったころだ。そんな私のためにわざわざ彼は対座して話をしてくれ、私が何に関心があるか尋ねた。

当然、私は「ヴィンテージのパテック フィリップが堪らなく好きです」と答えた。ここでマジに驚いたのが「俺もだよ!」という答えだ。2010年2月7日当時、彼から聞いたのはパテック フィリップの伝統を高く評価し、子供たちに受け継がせるために数本購入したという話だった。私はいたく感銘を受け、その言葉が脳裏に焼きついていた。そしてあの時の彼の言葉がまさに目の前で展開されるのだ。

さて、時は流れて2014年5月、僕はスイスはモントルー郊外にあるビバー邸のダイニングルームに足を踏み入れている。もちろんTalking Watchesの収録のためなのだが、彼は何と「君達が来るのをすっかり忘れていたよ! 銀行の貸金庫にある分を除くと、今あるのはこれだけだな」

大丈夫ですよと言いかけ、やをら不安になった。何せ彼のコレクションの事前情報など何もなかったからだ。彼が本物のコレクターなのかジャーナリストを手玉に取りたいだけの大物なのか見当もつかない。

そして、彼がテーブルの上においたトレーの中身は…。

 答えは出た。パテック フィリップの至高のコレクションが見たければ、ジャン-クロード・ビバーの右に出るものはいない。では、早速見てみよう 

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パテック フィリップ パーペチュアルカレンダー Ref.3448 プラチナケース(生産数2本)

パーペチュアル カレンダーRef.3448 プラチナケース。永久カレンダー機構に初めて自動巻き機構を採用した3448にはイエローゴールドケース仕様がほとんどの他、数本のホワイトゴールドケースが見られる程度で、18KRGやPTの3448なんてものは存在するはずがない。ところが、実際のところ、1997年にフィリップ・スターンは1960年代の先代ムーブメントを搭載した2本の3448の製造を承認していたというのだ(たった2本)。1本はサファイアバゲットのダイヤルで、欧州の貸金庫に眠っているらしい。もう1本は、そうジャン-クロード・ビバーの手中にある。


パテック フィリップ Ref.3670A(生産数16本)

近年のパテックフィリップで恐らくは最も希少で、徹底的に作り込まれている僕のお気に入りでもあるRef.3670A。有名ではないのは、2011年10月にひっそりとリリースされたからで(我々もようやく気付いた程)、あまりの生産数の少なさから手に入れてハッピーな人よりも、買い逃して涙を呑んだ人も多かったことだろう。

このステンレススティールケースのクロノグラフが特別なのは、自社製の近代的なクロノグラフやレマニア製ムーブメントを採用せず、バルジュー23をベースにしたキャリバー13-30を搭載しているからだ。キャリバー13-30は'40-'50年代のヴィンテージ パテックに実際に使用されていたムーブメントで、組み立てられたのは1955年まで遡る(最も古いものだと1930年代)。

16本しか製造されなかったのは、現存するムーブメントが16個しかなかったためであり、ムーブメントが分解されて、洗浄され、再び組み立てられる過程で手が一切加えられていない。それが意味することは、テンプに耐衝撃性能はないということだ。今回この時計をビバー氏の自宅キッチンで目にするまで、私には実際に生産されていたという確証がなかった。


Only Watchで落札したパテック フィリップ Ref.5106R 天体ダイヤル

唯一無二の1本がビバー氏のコレクションにある。パトリッツィ&カンパニー社がオンリーウォッチ2009に出品したRef.5106Rだ。この時計の面白いところは、チャリティーセールが終わった後、スターン氏がビバー氏に購入証明書の宛名人を尋ねたところ、息子ピエールにとビバー氏が答えたことだ。確かに14歳にしては悪くない時計だ。 


パテック フィリップ パーペチュアルカレンダー クロノグラフRef.1518ピンク・オン・ピンク(生産数9本)

Ref.1518。この業界で最も名高いファミリーが打ち出したパーペチュアルカレンダークロノグラフだ。Ref.1518そのものが特別なうえ、ピンクゴールドケースはヤバいシロモノだ。さらに、ダイヤルもPGの「ピンク・オン・ピンク」となるともはや狂気の世界だ。この時計の辿った道も最高で、最初の購入からオークションでビバー氏に売られるまでずっと同じスイス人の元で過ごしたことだ。「ヤバい」という言葉の他、何も思い浮かばない。


イタリアで購入したパテック フィリップ クロノグラフ 大型のピンクゴールドケース

Ref.530は36mm超の「オーバーサイズ」なヴィンテージ パテックのクロノグラフだ。33mmのRef.130、35mmのRef.1579、1463よりも希少性が高い。Ref.530のほとんどは18KYGかスティールケースだが、この美しい時計は何と18KRGケースを纏っている。それに加え、文字盤とケースは70歳を迎える時計としては理想的なコンディションを保っている。

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パテック フィリップ クロノグラフ Ref.1579 プラチナケース(生産数3本)

この時計をビバー氏のダイニングテーブルで見るや、信じられない気持ちになった。この時計を知っているどころか、手に取ったことがあるのだ。

これは世界に3本しか存在しないPTケース製のRef.1579で、2012年11月のクリスティーズの表紙を、エリック・クラプトンのPTケースのRef.2499と、のちに収集家アルフレッド・パラミコ氏の手に渡る法律家J.B.チャンピオン氏特注のパテック フィリップ ジュネーブ天文台モデルが共に飾った。この3本の時計が合計900万ドル(約9億9000万円)以上の値が付いたことを昨日のことのように思い出す。それがまた、なんでジャン-クロードの手元にあるのだろうか? しかしこれは紛れもない事実である。

後の調べで彼が2014年のバーゼルワールドでこの時計を身に着けていたことが判明した。その意図は? 彼はLVMHの時計部門のトップに就任したばかりで、傘下のウブロやタグ・ホイヤー 、ゼニスに恭順の意を示すことをよしとしなかった。そこで、ヴィンテージ パテックを身に着けたというわけだ。


パテック フィリップ パーペチュアルカレンダー クロノグラフ Ref.2499 ピンクゴールド

Ref.2499が史上最高の時計であることはビバー氏を含め多くの人が同意するところだが、この時計はただのRef.2499ではない。第二世代の18KPGを纏うこの腕時計は、デッドストックなのだ。まさにドリームウォッチだ。


パテック フィリップ スプリットセコンド クロノグラフ Ref.1436 ピンクゴールド

ビバー氏のコレクションに満足できない? ではこれはどうだろう。1940年代製「ピンク・オン・ピンク」のスプリットセコンドクロノグラフだ。これは初期型のRef.1436にあたる。実に…実に素晴らしい。 


パテック フィリップ クロノグラフ Ref.1579 ピンクゴールドケース&ブレスレット

Ref.1579がジャン-クロードのお気に入りであることが分かるだろう。PTケースが恐ろしく高い希少性を見せつける一方で、この18KRGの時計にはシンプルな美しさがある。特徴的なツートンダイヤルのこと時計には、オリジナルのローズゴールド製ブレスレットが付属する(画像は省略)。この時計はベネズエラの宝飾店セルピコ・イ・レイノによって販売され、その名がケースとブレスレットに刻印されている。


両面ジュネーブのクロワゾネエナメル・ポケットウォッチ

 希少性に加え、ケースの両面に超絶的な職人技が施されたこの懐中時計はビバー氏のコレクションの中でも異彩を放っている。ジュネーブ湖に浮かぶ帆船の反対側にはジュネーブのダウンタウンが描かれ、ローヌ通りのパテックフィリップの工房が確認できる。 

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ウブロ キングパワー トゥールビヨン クロノグラフ カセドラルミニッツ・リピーター

このインタビューの最中、ビバー氏の腕に巻かれていた時計は? そうウブロのド派手なキングパワーだが、その中でもトゥールビヨン、コラムホイール式クロノグラフ、カテドラル風ミニッツリピーターのコンプリケーションで構成されたモデルだ。48mmのカーボンファイバーケースからは想像もできないほど澄んだ音色を奏でるミニッツリピーターを動画で確認して欲しい。2011年に限定販売されたこのモデルの背後には、もちろんこの男がいたのだが。この時計の販売価格は37万9000ドル(当時)だ。


インタビューを終えて

さて、ジャン-クロード・ビバー氏がビジネスマンであるのと同時に、収集家であることがこの記事からお分かりいただけただろうか。彼はマーケティングの達人(90年代、ジェームズ・ボンドにオメガの時計を着用させた張本人であることからも分かるだろう)であり、彼の決断は時計愛好家に波紋を投げかけることも多いが、しかし彼に流れる血はつまるところ、我々と同じなのである。