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Hands-On ロルカという名のマイクロブランドが、私にとって理想の36mm GMTを作り上げた

スイス系カナダ人のニューヨーカー、ジェシー・マーチャントの処女作、モデル No.1。これは、世界中に発信する価値がある。

1カ月前、コーヒーと白身魚のサラダ、薄切りにしたトマトを挟んだエッサ・ベーグルのエブリシングを食べながらInstagramで週末恒例の時計チェックをしていたとき、ある投稿が私の手を止めた。大食漢の私にベーグルを置かせるのは容易ではないのだが、その土曜日の朝は、まるで石ころみたいに手から転がり落ちてしまった。

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 その投稿は西海岸に住む私の時計仲間、@garactaleとしても知られる西岡 傑(愛称は“スグ”)のもので、GMTウォッチには見えない、いや、これまで見たこともない時計が紹介されていた。私は視力が衰えたてきた年配者がするように眼鏡を持ち上げ、スマートフォンを目に近づけた。スグと私の手首はよく似ていて、この時計は彼にぴったりと合っていた。しかしなぜだろう? 私は時計界のネス湖を見るような気持ちで、36mmのGMTを見つめていた。

the Lorca GMT watch lying on a shelf

 私は時計を趣味にしはじめたころから、懇親会や記事の下にあるコメント欄のような場所で、36mmのGMTについてうるさいぐらい力説していた。いつも人々は優しく肯定しながら私から距離を置き、手元にきらめくサイドキック(相棒)、つまりバットガールのほうへと去って行ったものだ。GMTはかつて手首の太いパンナム航空のパイロットが使っていたもので、40mmが妥当なサイズだというのが定説になっている。だが、そんなことはどうでもいい。確かに、私のお気に入りの時計のひとつには、60年代半ばに作られたロレックスの1675 GMTがある。そして、どのブレスレットよりも腕になじむのでレザーストラップをつけている。しかし、この時計はまったくの別物であった。

 その時計はロルカ モデル No.1という。24時間表示を備えたステンレススティール製の固定ベゼルは、ロレックスのエクスプローラー IIを彷彿とさせる。文字盤の中心からはミニッツインデックスが放射状に長く伸びており、きれいなブルズアイを形成している。私は時計に関する記憶を探ってみた。グライシン エアマンのヴィンテージに少し似ているだろうか? 現行のモデルでいうと、どこかローラン・フェリエのガレ トラベラーのようでもある。しかし、いろいろと比較した結果、この時計は天才的な発想に基づく唯一無二のプロダクトであるという結論に達した。

man in chair wearing lorca watch

 その発想の主は、現在ブルックリン地区に住むカナダ人シンガーソングライター、ジェシー・マーチャント(母親がスイス人なのが決め手)である。マーチャントのツアーミュージシャンという職業が、このモデルの開発のきっかけとなった。彼はヨーロッパと北米のツアーに参加するために、GMT機能を搭載し、200mの防水性能を備えた、スタイリッシュで洗練されたデザインの時計を望んでいた。ホテルのプールに入り浸りながら、幾多のブックツアー(各地をめぐるプロモーション)を乗り越えてきた私にとって、マーチャントの条件はまさに理想的であった。私は彼に会わなければならない。この時計を、身につけなければ。

 数週間後、私はイーストビレッジのモロッコ料理店で彼の向かいに座ってラムのタジンを食べながら、恒例となった午後7時のマティーニを飲み、その手首にはロルカをつけていた。ダイヤモンドカットが施されたインデックスがキャンドルの光に照らされて輝き、ライスビーズのブレスレットは上品でしなやかな印象をふりまいていた。この時計は、すべてが完璧に近い。マーチャントが持ってきたGMTは、ブラックダイヤルとシルバーダイヤルの2種類。シルバーには控えめなエレガンスが漂うが、老眼の私にはブラックダイヤルの方がわずかに見やすく見えた。

lorca watch

 マーチャントにこのGMTモデルに影響を与えた時計について尋ねると、まるで百科事典のように複雑な答えが返ってきた。思ったとおり、究極のデザインに影響を与えた時計はなかったようだ。その代わりに、彼は1950年代と1960年代の時計について、大学院で行う研究レベルの深掘りを行なってくれたのである。例えば、ニーナ・リントモデルのクロノグラフに見られたフラットベゼルやRef.166.010のオメガ シーマスター、IWC マークXIIの2フックエンドリンク、偉大なロレックス Ref.1600に、ヴィンテージのジャガー・ルクルト メモボックスなど。そして、GMTのシルバーインデックスバージョンに影響を与えた、祖父の所有するリチャードの懐中時計についてだ。ウォルト・ホイットマンを引用して言わせてもらうなら、ロルカ モデル No.1には“contains multitudes”……、すなわち“多くの要素が含まれている”。

close up of lorca watch dial GMT hand

 “マイクロブランド"という言葉は、"オート・オルロジュリ(高級時計)"の対極にある呪いの言葉のように語られることがある。しかしここ数年、既製品のムーブメントを使用することで2000ドル以下に抑えた、独創的で素晴らしい時計を目にするようになった。 これら傑作たちは、レーザーの焦点のように鋭いビジョンを持つ唯一無二のクリエイターから生み出されている。シカゴのブランド、オーク&オスカーでチェイス・ファンチャーが作るサンドイッチダイヤルや、グラスゴーのアンオルダイン(anOrdine)を手がけるルイス・ヒースがエナメル細工で描く、華麗な極彩色の世界を思い出して欲しい。マーチャントの時計もまた、そのような孤高の作家性を体現した例のひとつといえるだろう。

lorca watch
close up of lorca watch dial
close up of strap of lorca watch

 この時計がどのような美的感覚から生まれたものなのか、最初は理解しがたいかもしれない。例えば、ブランド名や“20 ATM GMT”の文字、デイト表示やアワーベゼルには複数のフォントが使用されている。しかし結果として、不協和音ではなく、これしか選択肢がなかったかのような不思議な一貫性が感じられるのだ。詩的なニュアンスの"Lorca"は筆記体で表現されるべきだが、“20 ATM”はそうではない。36mm(ベゼル込みで37mm)の文字盤には多くの要素が盛り込まれているが、余計なものは何もないように思える。

Gary Shteyngart looking at a watch while sitting in a chair

 ロルカをつけ、プールで幾度となく泳いだ1週間。私がなぜほかのどんな機能よりもGMTウォッチを愛しているのか、これまでとは違った視点で考えるようになった。旅行で頻繁に身につける時計だから、自然とノスタルジーを誘うのである。 それらはV.S.ナイポール著『The Enigma of Arrival』のように、はるか昔に行った旅を思い起こさせる。しかしそれと同時に、ほんの数時間で地球の裏側にいける魔法にも気づかせてくれるのだ。また、旅に出て数時間、あるいは数日後という短期間に現れるノスタルジー、すなわちホームシックの存在もある。そんなときには、ホームタイムを示す針の存在が、家族や子供、恋人、見慣れたランドマーク、そして週末に歯のあいだに挟まるベーグルなどの代役になってくれる。

drilled lugs on the Lorca GMT watch
the bracelet on the Lorca GMT watch

 ほかの腕時計と違い、GMTウォッチは旅における神秘と、家を離れて初めて見えてくる故郷という概念の両方を内包している。かつてイタリアに1年以上滞在したことがあるのだが、そのときは偉大なイタリア小説ではなく、旅立ったばかりのニューヨークを舞台として本を書いていた。モンゴルのユルトやローマのワインバー、あるいは行きつけの油くさい食堂で文字盤を見つめているときでも、美しく構築されたGMTウォッチは異なるふたつの地点を結ぶ架け橋となってくれる。

lorca watch on wrist

 さて、時計マニアが大激怒するような話題に挑戦してみようと思う。そう、ロルカは“Caller”(“Flyer”に対して)GMTであり、ローカルタイムの時針を単独で設定することができないのである(“Caller”GMT、“Flyer”GMTについての詳細はこちら)。GMTウォッチはやはり“Flyer”がいいだろうかと聞かれれば、そのほうが便利なのは間違いない。しかし、6時間以上飛行機に乗るのであれば、そのなかの数分間を時計の設定に費やすことは大きな問題ではないだろう。むしろ心を静めて無心になれる時間であり、お気に入りの時計と戯れ、始まったばかりの旅に備えて時計と自分自身を調整するいい機会でもある。私のロレックス GMTマスター 1675は日付のクイックチェンジ機能を備えていないため、時計の調整はなかなか面倒だ。しかし、ジェットエンジンが私を眠りへいざなう前に作業をするのが楽しみにもなってきている。ちなみに、マーチャントはミヨタの新しい“Caller”GMTムーブメントの使用も検討していたが、ミヨタをしのぐ精度(±4秒)で信頼に足るソプロッド製トップグレードムーブメント、C125を採用した。

The caseback of a Lorca GMT watch
The box for the Lorca watch

 私のお気に入りの時計のひとつに、超薄型のアクアノートがある(あらゆる理屈に反してメタルのブレスレットをつけているが)。予約受付の開始を3月7日(火)に設定したロルカ。その価格は1450ドル(4月に1750ドルに値上げし、11月に出荷予定)とアクアノートよりもはるかに手ごろにもかかわらず、腕につけた感触には似ているところもある。薄型(厚み11.2mmはGMTとしては驚異的)でありながら驚くほど頑丈な時計は、それだけでユニークな存在だろう。ロサンゼルスのゴージャスなプールで泳いだり、大西洋の青く泡立つ海を泳いだりするときに、このようなクラシックなプロポーションの時計を身につけるのは最高の気分だ。ロルカ モデル No.1 GMTはまるでひとりの男の想像力の深淵から湧き出たかのようで、ついに私のコレクションの隙間を埋めてくれる存在が現れたことに、この上ない喜びを感じている。この時計はまだ発売されていないが、すでに私の分はキープさせていただいている。

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詳しくは、ロルカの公式サイトをご覧ください。