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In-Depth アクアスター ディープスターが再浮上

ジャック=イヴ・クストーが愛したクロノグラフを引っさげ、歴史的なダイバーズウォッチブランドのひとつが復活した。

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本稿は2020年10月に執筆された本国版の翻訳です。

スペリオル湖はフランス人探検家によって名づけられた湖だが、その名前の由来はこの湖が地球上で最大の淡水湖であることや、絵画のように美しくも険しいその海岸線のためではない。五大湖のなかで最も北に位置することが由来である。北緯46°から49°のあいだに広がるこの湖は、1年をとおしてほとんど温かくなることがない。夏の終わりには表面温度が少し高くなり、岩だらけのビーチで子供たちがはしゃぐこともあるが、少しでも深く潜ると水温はほぼ氷点近くまで下がる。2020年の8月下旬、深さ76フィート(約23m)の地点での水温はわずか摂氏9℃(華氏43℃)だった。その冷たさで、私の手は感覚を失いそうになっていた。

マデイラ号のひっくり返った甲板上にある巨大なウインチを探索する。この115年前の難破船には、いまだにロープがしっかりと巻かれている。

 私は1905年11月に、スペリオル湖北岸の崖で難破した全長436フィート(約133m)の鋼鉄製スクーナー船、マデイラ号を探索していた。ダイビングを始めて以来、マデイラ号の探索は私にとって毎年恒例の冒険となっている。五大湖は沈没船の数とその保存状態の素晴らしさから、世界でも屈指のダイビングスポットだ。マデイラ号の沈没地点は自宅から高速道路を3時間ほど走った先にあり、週末に気軽に訪れることができる。何よりこの沈没船には、岸から泳いでたどり着けるのが魅力だ。1955年、ミネソタ州ダルースを拠点とする本格的なダイビングクラブ“フリジッド・フロッグズ(Frigid Frogs)”が初めてこの船を探索した。彼らがこの名を冠しているのは、どんな季節でもゴム製のウェットスーツに薄いグローブ、シングルタンクを背負い、ダイブコンピュータなしで潜っていたからにほかならない。当時は低体温症やレギュレーターの凍結、潜水病のリスクが非常に現実的な問題だった。私は快適なドライスーツに身を包み、マデイラ号の崩れた船尾の周りを泳ぐたびに、ダイビング黎明期のダイバーたちに思いを馳せる。

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 ダイビングはテクノロジーのスポーツであると同時に、伝統のスポーツでもある。アイガー北壁を開拓した登山家の名前を冠したルートを進むように、歴史的な沈没船へ潜ることは楕円形のマスク、ツインホースの呼吸装置、そしてダイバーズウォッチを身につけてここに潜った先人たちと私を結びつけるのだ。私は水深、潜水時間、上昇率、減圧停止時間を記録するデジタルダイブコンピュータを装着しているが、今なおアナログのダイバーズウォッチを使うも好きだ。ダイバーズウォッチは、私が使う装備のなかで最もノスタルジックな存在だ。そして今年(執筆当時)のマデイラ号へのダイビングでは、懐かしさを漂わせる現代的な時計を着用した。アクアスターのディープスターである。

アクアスターのディープスターは、前身となるヴィンテージの魅力をそのままに、わずかにサイズアップしている。

 アクアスター自体は多くの人にとってあまりなじみのない名前かもしれないが、おそらく1960年代で最も革新的なダイバーズウォッチブランドであり、ベゼルから水深計に至るまで12以上の特許を取得している。その起源は、当時スイスで最も古い時計ブランドのひとつであった由緒あるメゾン、ジャン・リシャールにある。同ブランド初のダイバーズウォッチこそが、1958年に発売されたアクアスター モデル 60であった。このモデルはやがて1960年代を代表する、のちに“スキンダイバー”と呼ばれるようになったケースを持つ時刻表示のみの控えめなダイバーズウォッチだった。長いアーチ状のラグのあいだにはケースがフラットに続いており、リューズガードはなく、横から見ると薄くカーブした形状になっている。セイコーが2020年に発表した62MASがこのスタイルを採用していることからもわかるように、このケーススタイルはその後数え切れないほどのブランドで採用され、その人気は今日まで続いている。シンプルで装着感がよく、フォルムに60年代の雰囲気を色濃く残している。

 モデル 60は1960年にジャック・ピカール(Jacques Piccard)とともにマリアナ海溝の海底に史上初めて潜ったとき、バチスカーフ潜水艇トリエステ号のなかでアメリカ海軍大佐ドン・ウォルシュ(Don Walsh)が着用していた。そう、潜水艇の外側にロレックスのディープシースペシャルが取り付けられていた話の方が確かに有名だが、トリエステ号のなかにいたウォルシュはアクアスターの時計を着用していたのである。

アクアスターの古い広告。社長は時計業界の伝説的人物であるフレデリック・ロバート。

 1962年、モデル 60で成功を収めたジャン・リシャールはサブブランドとして正式にアクアスターを立ち上げ、当時同ブランドのオーナーであったジャン・ロバート(Jean Robert)の息子であるフレデリック・ロバート(Frédéric Robert)が統括することになった。フレデリックは熱心なスキューバダイバーであり、セーラーでもあった。現代なら“ウォーターマン”とでも呼ばれていただろう。彼は海面上、海中、海面下それぞれでの使用に特化してデザインされた時計や計器の開発に情熱を注いだ。数年のうちにジャン・リシャールの名前は完全になくなり、アクアスターは独立したブランドとなった。以降はダイバーズウォッチだけではなく、リストコンパス、温度計、水深計、レガッタの名で知られる革新的なセーリングタイマーなども製造するようになった。アクアスター 63は風防のクリスタルの下に斬新な回転式インナーベゼルを備え、時計の巻き上げや時刻修正と同じくリューズで操作できるようになっていた。この機能はアクアスターが特許を取得している。このダイバーズウォッチはその名を広める決定打となり、アメリカ海軍のSEALAB計画参加者を含む海軍のダイバーや探検家、コンシェルフ実験を行ったジャック=イヴ・クストー(Jacques-Yves Cousteau)の潜水技術者団のメンバー、そして難破したオランダのフリゲート艦バタヴィア号を発見したオーストラリア主導の調査隊のダイバーたちにも使用された。このバタヴィア号の歴史は非常に興味深い。しかしアクアスターにおいて最も象徴的な時計であるが、今日コレクターに求められているモデルは別にある。そう、ディープスターだ。

珍しいタキメーターベゼルを備えた、1970年代のデュワードとダブルネームのディープスター。

 ディープスターは、30分積算計をひとつ備えた手巻きクロノグラフとして1965年に発表された。 ひときわ目立つホワイトのサブダイヤル、エレガントなスキンダイバーケース、そして角ばったアプライドマーカーによって古い写真でもすぐにそれとわかる。しかしディープスターで特に画期的だったのは文字盤ではなかった。そう、ベゼルである。ベルギー人ダイバーであり科学者でもあるマーク・ジャシンスキー(Marc Jasinski)がデザインしたこのデュアルスケールはステンレススティール(SS)製のリングに刻まれており、潜水経過時間を記録するだけでなく、ダイバーがダイブのあいだに必要とする水面休息時間や次のダイブの減圧時間を推定することもできた。後者の機能は、フランス海軍が開発した減圧スケジュールに基づいてアクアスターが作成したダイブテーブルと連携していた。複数のダイブに対応する機能は時計ではまったく新しいものであり、驚くべきことにこの機能は数十年後にダイブコンピュータが登場するまで再登場することはなかったのだ。

妻と一緒に写っているフィリップ・クストー(Philippe Cousteau)は、長年ディープスターを愛用していた。

 ディープスターは1960年代を通じてクストーと彼のチームが数多くの探検で着用し、70年代半ばまで彼らの手首に装着されている様子が写真で確認できる。フランスのフリーダイバー、ジャック・マイヨール(Jacques Mayol)が長年ディープスターを愛用していたのは減圧ベゼルのためではなく、深い無呼吸潜水で息を止めている時間を計るために使っていたクロノグラフを必要としていたためだった。1968年、マイヨールがひと息で75mの深度記録を樹立したときに身につけていたのがこの腕時計だ。

 フレデリック・ロバートは1970年代初頭にアクアスターからオメガに引き抜かれ、よく知られているいくつかのシーマスターやとりわけ有名なフライトマスターを含む、70年代の多くのアバンギャルドなツールウォッチをいくつも生み出した。 アクアスターはそのニッチな時計シリーズを開拓し続け、レガッタと2番目に有名なダイバーズウォッチであるベントスをさらに進化させた。しかしクォーツショックが広がるにつれてアクアスターの名声は聞かれなくなり、現代において忘れ去られてしまったクォーツ製品をいくつか製造したのち、最終的に電子レガッタタイマーのニッチなメーカーとなった。そして2018年、2000年代初頭にドクサのダイバーズウォッチ、“サブ”シリーズを復活させたリック・マレイ(Rick Marei)がアクアスターのオーナーたちに新世代のためにアクアスターの象徴的なダイバーズウォッチを再現することを持ちかけた。この生まれ変わったブランドの最初の時計こそが、ディープスターである。

ヴィンテージの風格を持つディープスターからは、1960年代のダイビングの魅力がにじみ出ている。

 ダイバーズクロノグラフには何とも言えない魅力がある。 ケースに余分な穴が開いていたり、時刻表示のみの時計に比べて文字盤が見づらかったりと、ダイビングには最も実用的なツールとは言えないが計器としての力強さと威厳を宿っているのだ。インダイヤルの積算系や、目立つプッシュボタン、回転ベゼル、そして(ドライスーツの上から巻くための)長いラバーストラップが組み合わさることで独特の存在感を放つ。このディープスターは1960年代らしいフォルム、筆記体のロゴ、SS製ベゼル、アール・デコ調のマーカーを備え、ダイバーズクロノの力強さをヴィンテージのホイヤーやスピードマスターのようなエレガントさで和らげている。そしてなんと、レザーストラップとの相性も抜群なのだ。

アクアスターの“ヒトデ”ロゴがリューズを飾る。

 1960年代のディープスターは直径37mmで、現代のダイバーズウォッチと比べると小振りだった。2020年の復刻版では40.5mmにサイズアップしつつも、適度なコンパクトさを維持している。ラグ・トゥ・ラグは51mm、自動巻きムーブメントを搭載し、防水性能は200mに向上。ドーム型サファイアクリスタルを除いた厚さは15mm弱だ。この新しいディープスターを腕に装着すると決して軽やかな印象ではなく、しっかりとした重厚感のある時計だと感じる。頭でっかちに見えずバランスよくデザインできているのは、計算されたサイズアップとスキンダイバーケースの持つ独自の構造によるものだ。それらに合わせてラグ幅もヴィンテージの20mmから22mmへと拡大されており、ケース全体のプロポーションと絶妙に調和している。

復刻版ディープスターは40.5mm径にサイズアップされた。

 自動巻きムーブメントに関していうと、アクアスターはスイスのマニュファクチュールであるラ・ジュー・ペレにコラムホイール式バイコンパックスクロノグラフムーブメントを依頼した。55時間のパワーリザーブを誇り、両方向巻き上げでありがたいことにリューズ操作時に“ゴーストデイトポジション”がない。このような象徴的な復刻モデルにふさわしいムーブメントであり、クロノグラフ使用時のプッシュボタン動作は予想どおりスムーズで反応もいい。精度も素晴らしい。私が毎日着用していた個体は、2カ月以上装着するなかで時刻調整が必要となったのは一度だけだった。ムーブメントには控えめな装飾が施され、アクアスターの有名なスターロゴが入ったスケルトンローターで仕上げられている。しかしそれは表だったものではない。それはヴィンテージモデルと同じアクアスターの文字のロゴと歯車状のツールグリップをあしらった堅固な裏蓋の後ろに(私としては、まっとうなダイバーズはそうあるべきものと考えている)スマートに隠されているのだ。

1960年代に作られた、最もよく知られている裏蓋の一種。

 このムーブメントに加え、美しいクロノグラフの精緻な再現、限定版(各色300本)ということで、かなり高価な時計になると思うだろう。しかしこのディープスターの予約価格(当時)は2790ドル(日本円で約43万円。予約期間終了後は3590ドルで日本円で約56万円、現在は税込62万7000円)で、これはロンジンの手ごろな価格帯のヘリテージ クロノと同程度であり、チューダーのブラックベイ クロノの4900ドル(日本円で約75万6000円、現在は税込で80万円程度)を大きく下回る価格だ。ドクサのサブ 200T.グラフの復刻版では、はるかに洗練に欠けるムーブメント(バルジュー7734)を搭載し、ラバーストラップで4860ドル(日本円で約75万円)と非常に高額で販売されている。ディープスターは1965年の価格設定を継続しているわけではないが、パンデミック真っ只中の2020年を意識した価格設定であることは間違いない。

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 ベゼルについて話そう。なぜってベゼルがなければ、この時計はただのクールなモータースポーツ用や宇宙飛行士用の時計になってしまうからだ。 アクアスターは単純な経過時間計測用やタキメータースケールを備えた“ラリー”バージョンなど、いくつかの異なるベゼルを提供していたが、ディープスターが最もよく知られているのは、この反復潜水用のベゼルだ。おそらく、もうひとつの有名なダイバーズベゼルと比較するのが最もわかりやすいだろう。ドクサのサブ 300は、そのオレンジの文字盤を除けばデュアルスケールの“ノーデコ”ベゼルが特に有名だ。このベゼルに刻まれたマークによって、ダイバーは水面まで減圧することなく、所定の深度にどれだけの時間とどまることができるかを判断することができる。確かに便利だが、これはその日の最初のダイブにしか使えない。1、2時間後に再び海に入りたい場合はどうすればいいのか? 残念ながら、ドクサのベゼルでは対応できない。なぜなら、体の組織や血流には1回目のダイブで蓄積された窒素がまだ残留しており、これを考慮しないまま2回目のダイブを行うと、関節や臓器、脊柱で窒素が気泡となって発生し、病気や麻痺、あるいは死に至る危険性が高まる。これが恐ろしい潜水病(減圧症)だ。

水中に長居は無用、深入りも無用。ディープスターのベゼルは、登場した当時は画期的だった。

 ディープスターのベゼルはこの残留窒素を考慮し、水面休息時間(次のダイブまでのインターバル)に応じて、2回目のダイブのための新たな潜水時間を計算するのに役立つ。 これは時計の時針を使って行う。水面に浮上したら、時針の反対側にベゼルをセットし、ダイブテーブルの正しい数字(1.5、1.4、1.3など)に合わせる。時間が経過して時針が動くと、ベゼルは体内の窒素の“係数”の減少を示し、これをアクアスターのダイブテーブルと組み合わせて2回目のダイブのために新たな減圧時間を決定することができる。だが注意して欲しいが、同ブランドの新しいディープスターにこのダイブテーブルは付属していない。 オリジナルのチャートのベースとなったフランス海軍の減圧表はすでに時代遅れであり、2020年に発売される時計にそれを提供するのは無責任であるだけでなく、法的にもリスクがある。しかしネット上でこのダイブテーブルの写真を見つけるのは簡単なので、私は徹底した時計ジャーナリズムの精神でそれを使ってみることにした。安心して欲しい。私はダイブコンピュータも装着していた。

 私のマデイラ号への最初のダイブでは、水深27mまで潜った。 ディープスターのラチェット式両方向回転ベゼル(一方向ベゼルがいかに過大評価されているかについて語り始めたら止まらなくなるので、ここでは控える)にある内側の目盛りを使って潜水時間を計ったところ、32分だった。さて、先述のアクアスターのダイブテーブルによれば私は水深3m(1960年代当時の一般的な減圧水深)で約4分間の減圧停止をするべきだった。私のガーミンのダイブコンピュータは、私が潜っていた時間ずっと最大深度にいたわけではなかったことを考慮し、より浅い地点にいた時間に対して“補正”を行ってくれたため、厳密には減圧の必要はなかった。しかし、水深5mで3分間の“安全停止”を行うのが一般的だ。そのため、結果的に私はアクアスターとガーミン ディセントの指示にほぼ沿った形となった。

9℃の水中において、ディープスターは私の凍った指よりもよく働いてくれた。

 浮上時、私はベゼルをリセットして、外側の目盛りの“1.5”マークが時針と一直線になるようにした。このセッティングはダイブの深さと時間に基づき、再びダイブテーブルから導き出されたものだ。約2時間後にようやく指の感覚が戻ってきたころ、ディープスターの時針はベゼル目盛りの“1.3”の位置に移動していた。もし私が前回と同じ水深27mで32分間のダイブを繰り返すとしたら、通常の減圧停止時間を3倍にする必要があり、12分間の減圧が必要になる。水温9℃の環境で44分間のダイブをするには、使い古したグローブでは心もとない。それに日が暮れ始めていたし、おいしい昼食と温かい岩の上でのひとときが、もう半マイル(約800m)泳ぐ気持ちを削いでいた。32分のダイブのために往復6時間の運転は効率が悪いようにも思えるが、ここは無理せず引き上げるのが賢明だろう。私は荷物をまとめ、帰宅するために南へ向かった。これで今回のマデイラ号へのダイビングは完了だ。

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 私は7月中旬からこのディープスターを着用しているが、実はマデイラ号へ潜る前にスペリオル湖の別の沈没船でこの時計を試していた(パンデミックの影響で、ダイビング旅行の目的地もころころと変わる)。このクロノグラフの初ダイブは、スペリオル湖の別のエリア、ミシガン州アッパー半島のグランドアイランド沖で行った。そこに沈む沈没船は、マデイラ号とは対照的なものだった。マデイラ号が鋼鉄製の巨大船だったのに対し、バミューダ号はそれ以前の時代に建造された木造帆船で、高品位の鉄鉱石を大量に積んでいた。またバミューダ号はマデイラ号よりもはるかに浅い水深10mの地点に沈んでおり、水温が高く、光がよく届き、長時間の潜水が可能だった。ディープスターの減圧スケールはこのダイブでは必要なかった。実際アクアスターのダイブテーブルには21mより浅い水深のデータは掲載されておらず、シュノーケリング程度の深さに分類される。それでも、この時計は十分なボトムタイマーとして機能し、オレンジ色の鉄鉱石の塊がいまだに散乱する崩れかけた船倉を探索する際に美しく映えた。

このディープスターを身につけての初ダイビング。沈没したスクーナー船バミューダ号の貨物倉へ。

 このディープスターの復刻版には3つのカラーがある。ヴィンテージブラック、ブルーレイ、そして私が着用しているスティールグレーだ。ブラックとグレーは歴史的なオリジナルモデルに基づいたもので、近年ヴィンテージ市場では高額で取引されている。その多くは経年変化によって濃いトロピカルブラウンの風合いへと変化している。1960年代にはブルーのバージョンは存在しなかったが、新作の写真を見る限り雰囲気にぴったり合っていると感じる。それに、最近はブルーの時計が人気を集めている。ディープスターには文字盤と同色のソフトなトロピック社製ラバーストラップが付属し、さらにシェルコードバンのストラップもセットになっている。どちらのバンドにも、アクアスターのロゴが入ったピンバックルが採用されている。

崩壊したバミューダ号の甲板上をホバリング。

 ヴィンテージモデルの魅力を可能な限り忠実に再現することを目指したこの時計に、欠点を見出すことなどできるだろうか。私はダイバーズウォッチのポリッシュ仕上げの表面があまり好きではなく、ディープスターのベゼルは文字の小ささもありやや読みにくいと感じる。スイープ秒針には夜光マーカーを施すなどして、もう少し視認性を向上させてもよかったかもしれない。それに水中で使うべきでないプッシュボタンを備えた時計で、30分積算計がダイビング時にどれほど役立つかは疑問だ。しかし、これらは些細なことにすぎない。ダイバーズウォッチがクストーやジャック・マイヨール、そしておそらくフリジッド・フロッグズのようなダイバーのために設計され、実際に使用されていた1960年代半ばごろのモデルを、今さら批判することに何の意味があるのだろうか。彼らの選択に異を唱えようなどと、私が言える立場ではない。

ディープスターはレザーストラップにも合う(ラバーより合うかも?)。

 つまりディープスターを手にするなら、そのデザインと機能を受け入れ、批評の対象は装着感と仕上げに限られるべきだ。そしてあらゆる点で私はこの時計を過去10年間で登場した最高の復刻ダイバーズウォッチのひとつだと考えている。セイコー、ドクサ、ロンジン、そして多くのブランドから数々の名作が登場したことを思えば、決して軽々しく言えることではないことは理解して欲しい。私はヴィンテージのディープスターをコレクションに加えたいと長年思っていたので、多少のバイアスはあるかもしれない。しかし深く冷たい水の沈没船へと潜りながら手首を見ると、新しいディープスターがそこにあるという感覚は何とも言えず特別なものだった。窒素酔いのせいか、鏡を見ると祖父がこちらを見返しているような、何とも言えない不思議な感覚に陥った。ただ記憶のなかの祖父よりも若く、健康で、そして驚くほどハンサムだった。

長い水面休息にぴったりだ。

 秋も深まり、スペリオル湖のダイビングシーズンも終わりに近づいている。水温はさらに下がり、日が短くなり、湖は荒れ始める。11月が船乗りにとって最も過酷な月であるのも不思議ではない。もちろんそれでもフリジッド・フロッグズを止めることはできなかった。彼らは氷に穴を開けて、ダルース周辺の沈没船に潜ることで知られていた。
ハイテクな防寒ダイビングスーツやデジタルダイブコンピュータを手にした私たちは、進化したのか、それともただ軟弱になっただけなのか。無鉄砲なダイバーと年老いたダイバーはいるが、年老いてなお無謀なダイバーはいないと言われている。しかし新しいディープスターは、その常識を覆す存在だ。

アクアスター ディープスターは現在62万7000円(税込)で、ヴィンテージブラック、スティールグレー、ブルーレイの3色展開。詳細はアクアスターのウェブサイトを参照。

Photography by Gishani Ratnayake