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Editors' Picks ガタつく古びたブレスレットへの賛歌

優れていることが素晴らしいとは、必ずしも言えない場合もある。

本稿は2018年1月に執筆された本国版の翻訳です。

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時計メーカー各社は自分たちが作っているものが時代遅れであるという本質的な問題に目をつむりつつ、日々開発を続けている。技術革新とは、時計製造が始まって以来根幹に流れている性(さが)のようなものである。自然に逆らうという困難な試練に立ち向かいながらも、正確な時を刻むためにあくなき追求を続けてきた。トゥールビヨンは重力に逆らい、バイメタルテンプは高温に耐え、ラバーパッキンは湿度に抗う。スーパールミノバはひと晩中輝き続け、年月が経っても黄色く変色することはない。サファイアクリスタルは傷つかず、セラミック製ベゼルも同様だ。そして言うまでもなく、新時代のシリコン製ムーブメントパーツは時計メーカーが磁気という弊害と戦う方法に革命をもたらした。

 そしてブレスレットだ。メタルブレスレットのヴィンテージウォッチを手に取って現代のものと比較すると、その違いは一目瞭然である。伸びてしまうことのない強固なねじ込み式リンク、厳格な規格、ラチェットタイプのバックル、マイクロアジャスト機能、水圧によるネオプレンの収縮を補正する機能などは、すべて過去10年から20年のあいだに改良されたきたものだ。実際、少なくとも時計の素人から見れば、ブレスレットは現在の時計と20年、30年、40年前の時計との最も顕著な違いであることは間違いない。しかし、私は今でも昔の薄っぺらでガタガタで軽いブレスレットのほうが好みだ。

古いサブに同じく古いブレスレットを取り付けるのが、真のクラシックである。

 ロレックスがスポーツウォッチにソリッドなエンドリンクのブレスレットと画期的なグライドロッククラスプを採用するまでの数年間、人々はクラウンの型押しが施されたクラスプと薄っぺらなエンドリンクを備えた時代遅れの薄いブレスレットを非難した。ロレックスはブレスレットのアップグレードゲームに出遅れ、1970年代からも、多くのサブ、GMTマスター、エクスプローラーに見られるのと同じ由緒ある93150ブレスレット(フラッシュフィットタイプ)を、私のRef.14060Mのような最終世代のサブマリーナーに依然として装着していた。私はグライドロッククラスプを備えた近代のロレックスを数多く手に取ってきて、それが優れたエンジニアリングの一例であり、その場で簡単に調整できる、品質の高さがにじみ出る代物であることは認めている。しかし、私は手持ちの古きよきロレックスにいつでも戻れることを何よりもうれしく思う。完璧な重さのブレスレットをはめ、フリップロックのクラスプをダブルスナップで留める。まるではき慣れたジーンズに足を通すような感覚だ。

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 新型のブレスレットは疑いもなく見事に設計されているが、ひとつだけ欠けているのは、旧型のような絶妙な重さを持つ快適なつけ心地だ。オメガであれタグであれ、新しいタイプのダイバーズウォッチに装着されるブレスレットのほとんどは重すぎる。私はこうした時計のほとんどは、ストラップのほうがいいと思っている。その重さの大部分は、プレス加工ではなく切削加工で作られた、部品点数が多い無垢のスチール製のバックルにあるのではと推測している。これは手首周りに均等に重量を分散させると同時に、多くの場合、時計自体の重量をほぼ倍増させることになる。誤解しないでほしいのだが、私は時計に多少の重厚感があるほうが好ましく、しかも手首にぴったりとフィットしていて、自転車のチェーンをつけているような感じがしないものが好きなのだ。

構造上、これらの古いブレスレットは現代のものほど頑丈ではない。

 最近のブレスレットはより複雑な構造になっていることが多い。ラチェットタイプのクラスプは故障箇所が多く、砂や塩分、人間のDNA(指紋)が付着しやすい。以前、ダイビング旅行中に豪華なクラスプにガタがきてしまい、長時間海水に浸したあとで外すのにひじ用のグリースを必要としたことがある。確かに、古いセイコーのジュビリーブレスは南国でむくんだ手首にその場でフィットさせることはできないが、爪楊枝を持ってティキバーの椅子に座れば、数秒後には簡単に伸縮させることができるはずだ。

伸びをチェックする簡単な方法は、ブレスレットを水平に持ち、どのくらい垂れるかを見ることだ。これはまだ結構しっかりしている。

 美観的にも、多くの新しいブレスレットは的外れだ。幅が広く、太くなりすぎ、かつてのようにバックルの部分が優雅に細くなっていないのだ。1960年代に見られた時計のブレスレットの多くは、ラグの部分で幅を広げることで時計自体のラインを強調しており、また、留め具の幅を狭めているために着け心地がよく主張も控えめであった。しかし、現代にもいくつかの例外がある。オリスが誇るダイバーズ65に採用されているリベットスタイルのブレスレットは、ラグ部分の20mm幅からバックル部分で絶妙な14mm幅になり、各リンクにゆるやかにテーパーが施されている。同様に、チューダー ブラックベイのリベットスタイルのブレスレットも、この人気のあるレトロダイバーに最初に提供されたブレスレットから大幅に改良されている。ラグ幅が22ミリでなく、60年代後半の古いC&I社のリベットブレスほど軽くないのが残念だが、この時計によく似合う真のヴィンテージテイストを表現している。もちろん、オリスもチューダーもリベットは本物ではなく、サイズ調整が面倒で、現代のねじ留め式リンクほど頑丈ではない。しかしながら、私は古いサブマリーナーに1970年製のC&I社製リベットブレスを装着しているが、多少伸びてしまっているにせよまだ十分に機能している。

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 このような“フェイクリベット”の例以外にも、ヴィンテージスタイルの時計に装着されるモダンなブレスレットのなかには、昔のブレスレットの魅力を再現しようとしているものがいくつかある。ドクサはモダンダイバーズであるサブにライスビーズブレスレットを装着し、タグ・ホイヤーは素晴らしい復刻モデルであるオータヴィアにビーズブレスレットを採用している。しかしどちらもマルディ・グラ(ニューオーリンズ州で開催されるカーニバル)のネックレスのように、手首のうえにまとわりつくひとつひとつの“ビーズ”がもたらす、歴史的あるインスピレーションの魔法には遠く及ばない。もしかしたら、マルディ・グラのブレスレットこそが最もつけ心地の良いものかもしれない。

モダンなブレスレットでは、この時計の魅力はほとんど伝わらないだろう。

 勘違いしないで欲しいのは、新しいタイプのブレスレットは耐久性、機能性、人間工学など、ほとんどすべての面で優れているということだ。しかし機械式時計を身につけるということは、客観的な要素とはあまり関係ない。私は、オメガのスピードマスターのゆるいエンドリンクの華やかなジャラジャラ音や、サブのフォールドオーバークラスプの満足げなスナップ音、古いドクサ T-グラフが手首からわずかに垂れ下がって細いライスビーズでかろうじて支えられている様子、そして古いセイコーのジュビリーのスリッパとスエットパンツを合わせたような快適なつけ心地が好きなのだ。

 私は、現代のブランドが折り返しリンクやリベットのブレスレット、サイズの合わないエンドリンクや型押しの留め具に戻ることを決して望んではいない。進歩とは、一方向にしか進まない列車だ。しかしだからといって、私がこの列車に乗り続けなければならないわけではないのだ。

Photos by Gishani Ratnayake