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Bring a Loupe オメガ シーマスターのフルセット、ロレックス 燃えるようなゴールドのGMTマスター、そしてエルヴィス所有のクロックまで

今回もヴィンテージウォッチ(そしてそれ以外も!)を世界中からご紹介。

本稿は2020年5月に執筆された本国版の翻訳です。

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今回は一流のコレクションを飾るにふさわしい、目玉商品が目白押しだ。そのなかでも比較的わかりやすいところでは、強烈な個性を放つゴールドのGMTマスターや、オメガによるフルセットのシーマスター300がある。あまり知られていない時計を楽しみたいなら、エルメスで販売されたタバンのクロノグラフや、ホイヤーのコレクターのあいだで語り草となっているプロトタイプのダイヤルを装着したオータヴィアがおすすめだ。さらに、エルヴィスが所有していたクロックと、ビル・グラハム(Bill Graham)がフィル・レッシュ(Phil Lesh)に贈った時計もある。なんだか楽しくなってきたぞ。


ロレックス GMTマスター Ref.16758

 長く使えるように製造された製品は、その経年変化を楽しむことができる。トロピカルダイヤルの時計はその完璧な例であり、特に魅力的な存在だ。それぞれが唯一無二の外観へと熟成していくため、ほかの誰の腕にもない1本限りのタイムピースへと近づく近道にもなる。私がコレクションを始めたころはリッチでトロピカルな色合いが好みだった。しかし長い年月を経て、例えば次に紹介する初期のサンバーストフィニッシュのギターみたいな色合いの時計のように、もっと個性的なものを好むようになった。あなたがゴールドロレックスファンなら、このまま読み進めることをおすすめする。

Rolex

 トロピカルダイヤルの魅力はなんといっても希少性に尽きるが、そのなかでも特にユニークなものが求められる。客観的に見れば、このような経年による劣化はダイヤルの製造上の欠陥によるものだ。ロレックスのために大金を払った人のほとんどは、このダイヤルを見たら修理したいと願うことだろう。そんなロレックスのオーナーが、イエローゴールドの時計のダイヤルをあえてそのままの状態で使用すると決断したのは、同様の理由でダイヤルの交換や再仕上げが行われた時計が非常に多いことを考えると極めて興味深いことである。より高尚な見方をすれば、エントロピーとその欠陥をすべて受け入れたということだ。 しかし、興奮しすぎてはいけない。

 ダイヤル表面のブラウンは経年変化により燃えるような輝きを放ち、独特の個性と風格がにじみ出ている。標準的なRef.16758と比較したとき、この時計の素晴らしさは計り知れない。ダイヤルはさておき、これ以上の熟成は望めない1本だ。厚く研磨されていないケースから色あせたベゼルのインサートに至るまで、この時計はすべての条件を満たしている。私が指摘できる唯一のささいな“欠陥”は、秒針に見られる夜光塗料が暗くなっていることぐらいだ。しかし前にも言ったように、このようなディテールは時計の総合的なオリジナリティと、壊れていないパーツの修理を望まないディーラーの姿勢を物語っている。

 Fog City Vintageのサイトには、このGMTマスターが3万1450ドルで掲載されている(執筆当時。当時のレートで約336万5000円)。


エルメスが販売したタバンの1940年製クロノグラフ
Hermes

 希少性が逆に不利に働く可能性があるのと同様に、探し求めている人にとってもいくつかの利点がある。ある時計がわずかしか現存していない場合、私はちょっとした一覧表のようなものを作成し、最近の個人売買や一般売買の情報を得たらそれに応じて更新するようにしている。こうすることで、万が一探し出す必要が生じたときに、干し草の山のどこにその針があるかを正確に把握することができる。タバンのクロノグラフに興味を持ち始め、その後エルメスのダブルサインモデルが販売されていることを知った私は、この時計が注目に値するものであることを確信していた。今、その1本を手に入れることができるチャンスだと思い、今日までの追跡の記録を詳しく報告することにしたのだ。

 フランスの老舗高級ブランドから販売されていたこのクロノグラフが私の目に留まったのは、2007年12月、パリのアールキュリアルが開催したオークションでのことだった。ツートンカラーのマルチスケールダイヤルと特大のクラムシェルスタイルのケースはコレクターたちの感嘆を誘い、落札価格もそれを反映したものとなった。わずか3年ほどあとに同じ時計が再びクリスティーズに出品されていたが、そこではかなり低い値が付けられ、よりニッチな市場における価値の変動とともに、一部の時計の値付けの難しさが浮き彫りになった。それ以来、この時計は再び公の場に出ることはなく、アメリカでヴィンテージロレックスを中心とした貴重なコレクションに所蔵されている。

Hermes

 最も肝心なのはこの時計のエルメスのシグネチャーが正当なものであることだが、そのダイヤルの美しさには、単に販売店のサインが魅力的であるという以上の素晴らしさがある。2021年のサザビーズでは、若干見劣りはするものの、似たような個体が出品されていた。しかしこの個体とは異なり、ブルーのほかにレッドのアクセントが取り入れられており、テレメータースケールも中央ではなく外周に配置されていた。もしコレクターにアンケートを取ったなら、ほぼ全員がこの繊細で華やかな装飾を選ぶに違いない。とはいえ、この個体が現存する唯一のものであると考えて間違いないだろう。そのため、この仮説上のコレクターたちは興味があれば仲間うちで争う必要がある。これからどんな結末を迎えるのか楽しみだ。

 Claudio Feuermannは、彼の個人的なコレクションからこの聖杯のようなクロノグラフを販売する。希望価格は2万5000ドルとなっている(執筆当時。当時のレートで約267万5000円)。


オメガ シーマスター300 Ref.165.024
Omega

  “審美的”と同じように、“過小評価”という言葉も使い古されていて、結局のところほとんど意味をなしていない。ヴィンテージとモダン両方のコレクションシーンにおいて、この言葉はありとあらゆるハイブランドのハイセンスな作品を表現するために使われており、多くのコレクターがSS製Ref.5711のようなスタイルでビッグヒットを飛ばす夢を抱いていることを物語っている。このことを念頭に置いて、私はこの言葉から脱却し、その代わりに自分が好きなものに情熱を燃やすことを推奨したい。それほど人気がないように見えるものでも、寡黙なコレクターたちが熱狂的に収集していないわけではないことを覚えていて欲しい。

 例を挙げるならば、オメガの“ビッグトライアングル”シーマスター300だ。Instagramのフィードのトップには上がらないかもしれないが、それでもこの時計は間違いなく最もクールなツールウォッチのひとつであり、当時において可読性を最大限に高めるためのあらゆる装飾が施されている。ケースは2mm大きいかもしれないが、マキシダイヤルのRef.5513サブマリーナーによく似たデザインと装着感で、ベークライト製ベゼルのおかげか少しアンティークなエッジもある。もちろんこれはサブマリーナーではないが、コレクターの世界において過小評価され、見過ごされているような時計ではない。あなたが見ているのは間違いなく世界トップクラスの時計だ。信じて欲しい。

Omega

 本日紹介する個体は傑出しており、コンディションと完璧さには相応の対価が必要であることを証明している。研磨されていないミントコンディションであるだけでなく、亀裂のないベゼルが装着され、オリジナルの箱、書類、各種下げ札が付属している。オメガ ミュージアムのアーカイブからの引用によると、この時計は1967年に製造されたのち、イタリアに納品された。過去50年間、あまり着用されていなかったと見て間違いないだろう。次のオーナーにはぜひ使ってもらいたいものだが、このグレードの時計を扱ったことがある人なら、所有することで得られる保護管理者としての感覚を知っているはずだ。このような実例はめったに見られるものではないだけに、様子を見ながら早めに決断することをおすすめしたい。

Omega

 ロイ(Roy Davidoff)とサシャ・ダビドフ(Sacha Davidoff)は、このとんでもなく完成度の高いシーマスター300を3万5000スイスフランで提供するという(執筆当時。当時のレートで約386万7500円)。


ホイヤー 1968年製オータヴィア Ref.7763C SN
Heuer

 時計を探すときに私にとって赤信号となる言葉がいくつかあるが、“プロトタイプ”は間違いなくそのひとつだ。我々の愛する各時計メーカーがプロトタイプの製作に精を出していたとはいえ、ロレックス界隈では空想から生まれたダイヤルを時計に取り付けて、それをプロトタイプと見なすことがちょっとした風習になっている。その大部分はまったくもってでたらめであり、私は数少ないプロトタイプの時計だけを支持しているのだが、次に紹介するのはまさしくそのひとつだ。不明瞭な模造品とは異なり、このホイヤーはまさに正真正銘の本物である。このように素晴らしい外観のモデルが見つかるのは、いつだっていいニュースだ。

Heuer

 今見てもらっているのは、Ref.7763C SNに相当するコンプレッサーケースのオータヴィアだ。厳密にはこれは製造されなかった時計であるが、そのパーツのすべてがホイヤーのものであり、非常に魅力的であることは言うまでもない。ブランドの歴史家や研究者のあいだでは、Ref.7763CとRef.2446Cの両方に少数のシルバーパンダダイヤルが製造されたものの一度も組み込まれることはなく、市場に流通しなかったという見解で一致している。1968年以降、これらのダイヤルのひと握りが流通して取り付けられることで、この個体のような見事な時計や、ダイヤルの信頼性を裏付けるような復刻モデルが実現したのだ。適切な針とベゼルインサートをダイヤルと一緒に取り付けることで、ダイヤルの外観を美しく、かつ製造された時代に合ったものに仕上げるのがポイントだ。

Heuer

 紛れもなくつぎはぎされたものであるにもかかわらず、これらの時計が受け入れられていることに私は常々感心してきた。これは、どんな手段を使っても時計史を記録することの重要性を示すものだ。とりわけRef.7763Cは3つ目ダイヤルの兄弟モデルよりも希少性が高いため、どちらもにせよ入手は不可能に近いものの、私はこのモデルを評価している。これは非常に魅力的なホイヤーのひとつを手に入れるまさに一生に1度のチャンスを提供するものであり、ホイヤーの権威たちにも認められた逸品である。パンダダイヤルのクロノグラフがあなたの心をくすぐるのであれば、何をすべきかはわかっているはずだ。

Heuer

 コレクターの@_passion66_はInstagram上でホイヤーを数点出品しており、そのうちのひとつがこれだ。彼女はこの個体に、2万5000ユーロを提示している(執筆当時。当時のレートで約276万5000円)。


ジャガー・ルクルトのアトモスとアナデジ ユンハンスが奏でる音楽の輝き

 重厚な作品が多かったこの記事の最後を飾るのは、少し軽めの、それでも印象的な作品にしようと思う。私の関心の外のものを物色していたのに、いつのまにかまたしても時計の世界に入り込んでいたのだ。もちろん、こんなに喜ばしいことはない。興味がある人がいるかわからないが……、私の誕生日は9月であり、これから解説する2番目のオークションロットをとても気に入っていることを伝えておく。

 まずはジャガー・ルクルトのアトモスクロックだが、ただの機械式振り子時計ではない。この時計はもともとエルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)にクリスマスプレゼントとして贈られたもので、彼のビバリーヒルズの家が売りに出されるまでそこに置かれていた。その後、友人でありかつてのボディーガードであったソニー・ウェスト(Sonny West)へロックの帝王から贈呈された。この時計にはTCBの便箋に書かれたウェストからの手紙が添えられており、それだけでもかなり見応えのあるものだ。

Junghans

 しかし、本当に盛り上がるのはここからだ。このセールにおけるふたつ目の時計ロットはユンハンスの何の変哲もないアナデジウォッチだが、前述のアトモスのようにこの時計にも秘められた真価がある。この時計は元々グレイトフル・デッドのベーシスト、フィル・レッシュが所有していたものだが、彼に贈った人物の存在がこの時計をさらに魅力的なものにしている。ケースバックには“From your friends at Bill Graham Presents 3-10-00(君の親友、ビル・グラハムより。3-10-00)”と書かれている。この名前はあなたにとってあまり意味がないものかもしれないが、私のようなデッドヘッズ(グレイトフル・デッドの熱狂的なファン)からするとまさに伝説的な存在なのである。サンフランシスコのフィルモアとウィンターランド・アリーナのプロモーター兼オーナーとして、グラハムはデッドを迎え入れ、プロモートしたことで知られており、彼らのファン層の拡大に極めて重要な役割を果たした。メンバーやバンドに繋がりを持ち、その成長と成功の一端を担った人物にゆかりのある時計を所有することは、本当に素晴らしいことだ。

 どちらも6月19日にジュリアンズで売りに出され、落札想定価格はそれぞれ1000から2000ドル(執筆当時のレートで約10万7500円から約21万5000円)、400から600ドル(執筆当時のレートで約4万3000円から約6万4500円)となっている。エルヴィスのクロックについては、こちらをクリックして欲しい。※フィル・レッシュのユンハンスの時計はオークションから削除された