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Bring a Loupe 40年代のパテック フィリップ、アスプレイによるオーデマ ピゲ、そして航海に挑むジャードゥーなど

オーデマ ピゲのパーペチュアルカレンダーに極めて貴重なユリス・ナルダン、RGケースを備えたパテック フィリップと、今回も豊作だ。

本稿は2020年3月に執筆された本国版の翻訳です。

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前回のコラムを発表してから、今まさに読んでいるであろうコラムが掲載されるまでの数日間は、ヴィンテージウォッチの発掘品部門ではかなり実りの多い日々を過ごしていた。パテック フィリップのRef.1578、アスプレイが取り扱うオーデマ ピゲのパーペチュアルカレンダー、そしてこれまで見たこともないようなユリス・ナルダンなど、オールド&ゴールドの時計が特に多かった。また、より親しみやすいものではシャープなティソやジャードゥーのシータイマーがあり、こちらも決してがっかりさせるものではない。さあ、誘惑の時だ!


オーデマ ピゲ Ref.25548 アスプレイ販売モデル

 私がいつも友人やコレクターの相談に乗るときに言っているのは、好きなものを買いなさい、ということだ。単にお買い得だからという理由で買ってはいけない。誰もが掘り出し物を求めているし、私も例外ではない。だが、もしそれがあなたの収集戦略だとしたら、すぐに自分のコレクションがさほど気に入っていない時計の宝庫であることに気づくだろう。正直に言って、安い時計には安いなりの理由がある。しかし、なかには本当に過小評価されているだけで、賞賛に値するものもある。この導入に続く一流時計メーカーのパーペチュアルカレンダーを期待している人は少ないだろうが、それは当然のことだろう。

 このリファレンスのデザインは、1975年にオーデマ ピゲに入社後、時計界に大きな影響を与えたジャクリーヌ・ディミエ(Jacqueline Dimier)によるものだ。1976年に初の女性用ロイヤル オーク(Ref.8638)を発表したことをきっかけに、彼女はオーデマ ピゲの社内デザイン部門の責任者に昇進した。こうして彼女は、ファンに人気のRef.5548を含むメンズモデルを次々と開発することになる。1977年に発表され、1978年に市場に投入されたこの36mm径のモデルは、その後13年間にわたってパーペチュアルカレンダーの歴史上最も売れたモデルとなった。1984年までに、このモデルはパーペチュアルカレンダーの生産量の60%以上を占めるようになり、その後Ref.25548と改名された。

 このことを知っていれば、今日紹介するモデルもこの時期に製造されたものであることがわかる。そして、Cから始まるシリアル(C-series serial、早口で10回繰り返してみよう!)によっても確認することができる。長期にわたって素晴らしいメンテナンスを受けているようだが、この時計の真の魅力はケースバックにある、アスプレイで最初に販売されたことを示す小売店の控えめなサインだ。英国の大手高級品販売店として知られるアスプレイは、オーデマ ピゲはもとより、時計ブランド全体においてあまりなじみのない小売店のひとつだ。このささやかな文字が刻まれることで、素晴らしい時計が特別な時計へと格上げされるのだ。

 Classic 55のガイ・ゴハリ(Gai Gohari)氏は、この修理したての時計を1万880ドル(執筆当時のレートで約116万5000円)で販売している。


ティソ アンチマグネティーク

 工場出荷時とほぼ同じコンディションの時計を見つけると、何かわくわくする。その時計は、生涯をかけ大切に保管されてきたか、あるいは時計職人の天才的な技術に感服し、何十年にもわたり細心の注意を払って着用されてきたかのどちらかを示している。いずれにせよ、当時の時計オーナーたちの姿を垣間見ることができる。ネタバレになるが、今回のそれは素晴らしかった。実際とてもよかったのだ。前にも言ったようにコンディションがすべてであり、もしあなたもそう思うのであれば、この次の時計をよく見ていただきたい。

 アラビア数字とブルースティール針が調和したこのティソは、ユニークなスタイルの35mm径ステンレススティール(SS)製ケースによって、素晴らしい幕開けを見せてくれた。これらの要素は、60年前の時計ながら十分にモダンな美観をもたらし、そのすべてが見事に維持されている。Cal.27を搭載した初期のタイムピースとは異なり、このモデルには旧型の青色を帯びたムーブメントよりも磁気に影響を受けにくい合金を使用して製造された新しいヒゲゼンマイを搭載している。これにより、ダイヤルにフランス語で“ANTIMAGNETIQUE”とあしらわれている。

 この時計をより魅力的なものにしているのは、オリジナルのレザーストラップとバックルであり、ティソの吊り下げタグとともにラグに取り付けられている。もし私がこの時計を着用するつもりでコレクションに加えるとしたら、このストラップを別のものかSS製のブレスレットに交換するだろう。しかし、私はあなたが所有する時計をどう楽しむかに口出しするつもりはない。教科書的な定義ではヒストリカルウォッチとはいえないが、これほどフレッシュでハンサムなデザインの時計に勝るものはないはずだ。

 日本の川崎にあるスイートロードでは、このすこぶる状態のよい個体を税込22万8000円で販売している。詳細はこちらから。


1939年製 ユリス・ナルダン レクタンギュラーウォッチ

 時計についての文章を書くことは、ある特定の時計がなぜ重要とされるのか、その理由を深く考えさせられるという点で楽しい作業だ。語るべきことがたくさんある場合、その時計はたいてい注目に値する掘り出しものである。特筆すべきことが文字どおりあまりない場合、その時計がどれほどのものかはだいたい想像がつくだろう。過去に友人と、“レア”という言葉を何回も使うと馬鹿っぽく見えるなと冗談を言い合ったことがある。今週分の1回の“レア”は、この時計で使い切った。これはその表現にこれ以上ないほどふさわしい。

 考えられる限りの驚くべき要素を盛り込んだ時計をあなたは見ているのだ。(執筆当時)まだ3月だというのに、この時計は私が今年見たなかで最もクールな時計であり、今後この時計を超えるものはなかなか出てこないだろう。アール・デコ調の古い長方形の時計は腕につけるとやや小ぶりに見えがちで、その独特なヴィンテージスタイルが現代における存在感の薄さを埋め合わせていることが多い。しかし、このユリス・ナルダンは違う。なんと縦が51mmで、横幅は31mmだ。さらに、イエローゴールドケースの上にはホワイトゴールドのパーツがはめ込まれており、ただでさえ力強いデザインをいっそう際立たせている。

 さかのぼること1930年代後半に製造されたこの時計のダイヤルとムーブメントは、おそらくスイスのユリス・ナルダンで作られたのちに英国市場に送られ、ケーシングのうえ販売されたものと思われる。そのことは、内部に記されたホールマークによって裏付けられている。ほとんどのヴィンテージウォッチがそうであるわけではないが、このように外部サプライヤーのケースを使っている個体に遭遇するのは珍しくない。これは、詳細な証明書や書類なしに発見された過去の時計の背景を推測するのにとても役立つ。総合的に見て、これが久々に登場した非常に魅力的な時計のひとつであると強く信じている。そして、私はこの時計が何をもたらすのか、今後も注視していくつもりだ。

 サザビーズはこのユリス・ナルダンを、水曜日に終了するオンラインセールで提供している。落札予想価格は控えめに6000~8000ドル(執筆当時のレートで約70万〜86万円)に設定されている。さらなる詳細は、こちらのカタログをチェックして欲しい。


ジャードゥー シータイマー

 デザインの分野ではニュアンスの使い分けについて言及されることがあるが、同じようなシンプルなデザインばかりでは飽きてしまう。明確な方向性を持ったコレクションは賞賛に値する。しかし個人的には、コレクションを構成するピースのなかにバリエーションやユニークさがあるのが好きだ。このことを念頭に置いて、ここではレインボーカラーや航海を連想させる色使い、そして奇特な人も保守的な人も満足させるようなスタイリングが詰まった、今週紹介する時計のどれとも違う1本を紹介しようと思う。

 大胆で型破りなデザインから隆盛を迎えたジャードゥーの天下はいつしか終焉を迎えたが、時計コレクターのあいだでは今も高く評価されている。1940年代に登場した多機能クロノグラフ、ベゼルメーターは多くの人が知るところだが、このシータイマーはそれとは次元が違う。船員用の時計として発表されたこのツールウォッチは、ラジウムの塗布でアクセントをつけた24時間表示と、異なる勤務時間帯を示す明確に色分された表示が特徴的だ。最も興味深いのは“DOG”と記された9時位置の表示で、船員のシフトが午後4時から午後8時までであることに対応している。なお、“ドッグウォッチ”と呼ばれる交代勤務制は、2時間ずつ前半と後半の2回に分けられて構成されている。知れば知るほどおもしろい!

 ベゼルメーターは滅多にお目にかかれないし、望ましいコンディションで見つかることもあまりない。しかし、先に述べたように、このシータイマーは完全に別格である。この時計は、私が長年時計に携わってきたなかで出合ったたった3つの個体のうちのひとつであり、今後新たに発見することはないだろう。その希少性は、ターゲットとした市場が限られていたことと、防水機能を持たないケースであることが一因だが、ご承知のようにある時代の失敗作が別の時代のヒット商品になることもしばしばある。他人の手首にはないものを探しているなら、もうこれ以上のものはないだろう。

 ジョナサン・クロヴィッツ(Jonathan Krovitz)は、ポリッシュが施されていないこの航海用腕時計を(執筆当時)1900ドル(当時のレートで約20万3000円)と安くで出品している。詳細は彼のInstagram、@johnswatchesで見ることができる。


1949年製 パテック フィリップ Ref.1578

 どう考えてもカラトラバはドレスウォッチのリーダー的存在であり、これからもその座を守り続けるだろう。客観的に見ても、時間表示のみを目的にデザインされた時計で、パテック フィリップのこの偉大なコレクションほどセンスよくまとめられたものはほかにない。これこそが、多くのリファレンスがこのうえなく高い評価を得ていることの理由だ。そのどれもが完璧なのだが、なかにはより強烈な印象を与えるものもある。象徴的なスパイダーラグを持つRef. 1578はこのコレクションにおけるパテックの最高傑作のひとつであり、今回取り上げる個体の写真をひと目見れば、この時計を取り上げた理由がおわかりいただけることだろうと思う。

 このモデルのケースバックの奥にはCal.12-120が搭載されている。このムーブメントは素晴らしいだけでなく、極めて重要な意味を持つ。時計製造の歴史を知る人々や時計愛好家なら、これがRef.96 カラトラバに搭載された初の自社製ムーブメントであり、パテック フィリップにとってとりわけ価値のあるものであることをご存じだろう。言い換えればこのムーブメントは、間違いなく史上最も重要なドレスウォッチコレクションの垂直統合生産に息吹を吹き込んだのである。このRef.1578の場合、その存在はこのモデルが初期のものであることを示唆しているが、考慮すべきディテールはそれだけではない。

 内側に数字の1が刻まれたジュネーブ・シールの刻印が確認でき、ウェンガー社によるケースはローズゴールド製である。ほとんどのモデルがイエローゴールド製であったことを考えると、これはおそらく、この時計における最も魅力的な特徴だ。確かなことは誰も知らないだろうし、正確な数字を知りたがっている人もいないだろうが、ローズゴールドのモデルはRef.1578の生産本数の20%以下であると考えられている。当然ながら、こうした珍しいデザインの時計は特に価値が高い。さらに極め付けはウェンガー製のバックルもローズゴールドで、わざわざ探し回る手間も省ける。

 フィラデルフィアを拠点とするコレクターが、オメガフォーラムにこのカラトラバを希望価格1万7900ドル(執筆当時のレートで約191万5000円)で出品している。スクープの全文はリンク先をご覧あれ。