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Hands-On シャネル ムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライトを実機レビュー

この時計の魅力を語る言葉は数多くあるだろう。だが、そうした言葉が無意味に感じられるほどの美しさが、この時計の魅力を雄弁に語る。

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シャネルでは、毎年異なるテーマで展開される限定カプセルコレクションをリリースしているが、2023年はサイエンスフィクション、宇宙旅行やタイムトラベルの世界観に着想を得たウォッチコレクションとして、シャネル インターステラー カプセルコレクションを発表した。J12、プルミエール、ボーイフレンドといったシャネルのアイコンウォッチをベースにさまざまなスタイルのユニークな限定モデルが登場したほか、自社製ムーブメントを搭載したオートオルロジュリーコレクションにおいても宇宙を想起させるユニークなモデルが製作された。ムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライトもそのひとつだ。

 時計のメディアで仕事をしていると、トゥールビヨンウォッチを見る機会というのは少なからずある(とはいえ、身近な時計とは言いがたいが…)。その際に抱く感想は多くの場合、“よくこんなに精密なものを組み上げられたなぁ”とか、“どうやってこれだけ複雑なものが動いているのだろう”など、その機構のスゴさに関するものがほとんどだ。そうした感想に先立って、トゥールビヨンの時計を見て思わず見惚れてしまったという経験は、この時計をおいてほかにはない。

 筆者の心を奪ったムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライト。モデル名にもあるとおり、最大の特徴はメテオライト(隕石)ダイヤルを採用しているところにある。シャネル曰く、このメテオライトダイヤルを製作するために、さまざまな段階を通じて特別なノウハウを必要としたようだ。

 スウェーデン由来のこのメテオライトは、まず塊から切り出され、研磨・洗浄されたのち、表面の凹凸を生かすために酸で洗われる。その後、地板に直接取り付けられるようにメテオライトにはスケルトン加工が施されるが、それはメテオライトのプレートを輪列の形に合わせてカットして、その仕組みを明らかにするようにデザインされており、極めて繊細な作業が必要になる。カットされたメテオライトは、亜鉛メッキ加工により色が濃くなったステンレススティール製プレート(同じく輪列の形に合わせてスケルトナイズされている)と組み合わされているが、これもメテオライト同様に同じ凹凸をもつ素材はふたつと存在せず、唯一無二のものだ。

 ムーブメントには、シャネルのマニュファクチュールによって設計・組み立てされたフライングトゥールビヨンムーブメント、Cal. 5.1を採用。1分間で1回転するトゥールビヨンキャリッジは78個の部品で構成されている。このキャリバーは昨年発表されたCal.5をベースとしたもので、Cal.5ではフライングトゥールビヨンの中央に0.18ctの大きなダイヤモンドがセットされていたが、Cal. 5.1ではダイヤモンドに代わって自社製ムーブメントの象徴であるライオンの頭部モチーフがあしらわれた。

 言ってしまえば、既存のCal.5のダイヤモンドをチタン製のライオンの頭部モチーフに変更したものだが、その内実は言葉どおりの簡単なものではない。当然ながらそれぞれで素材も形も異なり、トゥールビヨンキャリッジのバランスを取るための設計も異なるからだ。立体的なライオンの頭部は、このムーブメントのために特別に開発されたもの。レーザーで彫刻されるそれは比較的軽量なチタン素材とはいえ、このトゥールビヨンキャリッジが支えられるスペースと重量からすると、開発チームにとっては大きなチャレンジとなったようで、完成までに数年を要したという事実がその困難さを物語っている。

ムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライトを手に取って特に感心したのは、トゥールビヨンウォッチでありながらも、その機構に固執することなく、あくまでもシャネルらしいスタイルを追求しているところだ。というのも、これまでに見てきたさまざまなトゥールビヨンウォッチのなかには、見栄えや技術的なアピールに終始していて、見た目こそ独創的ではあるものの日常的につけてみたいとは思えないものが少なくなかったからだ。

Photo by Masaharu Wada

 この時計はトゥールビヨンであることをことさらアピールはしてはいない。真円のなかに円を描くというムッシュー ドゥ シャネルのデザインコードを守りつつ、オープンワークスタイルのメテオライト文字盤というユニークな外観に自然とトゥールビヨンの存在がなじんでいる。また、ライオンモチーフがあしらわれたSS製3重折り畳み式バックルはシャネルおなじみのバネ式。爪を痛めずに開閉できる構造で扱いやすい。ユニークではあるが、しっかりと日常的につけることが考えられているように感じられた。

 もちろん、見栄えや技術的なアピールに終始した時計があってもいいと思うし、欲を言えば、この時計においても不満に思う点がないわけではない。アワーインデックスがあったほうが時刻が読み取りやすいと思うし、23〜37分にかけてはミニッツインデックスが欠けているため、正確な分表示がわからないという点は個人的な好みからすると気になる点ではある。

 だが、この時計を手に取って考えさせられたのは、現代において日常的に手に取りたいと思う時計は何かを考えたとき、視認性やつけ心地といった実用的な側面はもちろんが大切だが、時計を見て直感的に心を動かれるかどうかということは、それ以上に大切なことではないか? ということだった。そして、それこそがこの時計に込められた最大のメッセージなのだと思うに至った。

 このムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライトの魅力を語る言葉はたくさんある。だが、そうした言葉を飛び越えて、直感的に美しいと感じさせる魅力が確かに感じられるのだ。そういうものに出合える機会というのは、長年たくさんの時計を見ていてもそう多くはない。個人的には、過去に登場したシャネルのトゥールビヨンウォッチのなかでもっとも心引かれるものとなった。シャネルのウォッチメイキング全般を取り仕切るアルノー・シャスタン氏は、以前のインタビューのなかで、シャネルのプロダクトは装飾品として美しいかどうかが一番大切なことなのだと語っていた。ムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライトは、まさにシャネルならではのトゥールビヨンウォッチなのだ。

Photo by Masaharu Wada

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基本情報

ブランド: シャネル(Chanel)
モデル名: ムッシュー ドゥ シャネル トゥールビヨン メテオライト(Monsieur de Chanel Tourbillon Meteorite)
型番: H7956

直径: 42mm
ケース素材: 高耐性マットブラックセラミック×ステンレススティール
文字盤: オープンワークのメテオライト
インデックス: 60分刻みの目盛り入りアプライドリング
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: ブラックカーフのトリミングとライニングを施したブラックナイロンストラップにSS製3重折り畳み式バックル


ムーブメント情報

キャリバー: 5.1(自社製)
機能: 時・分表示、フライングトゥールビヨン
厚さ: 5.9mm
パワーリザーブ: 約72時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 28


価格 & 発売時期

価格: 1705万円(税込) ※価格は公開日時点のもの。
限定: 世界55本限定。

詳細は、シャネル公式ウェブサイトをクリック。

特別なクレジットがない画像はすべてPhotographs by Kyosuke Sato