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Second Opinions 無限の可能性を持つカスタムウォッチを、もはやタブーとするべきではない

今やスニーカーやクルマを簡単にデザインできる時代だ。時計も同じように自由にデザインできていいはずだ。

HODINKEEに入社する前、私はリーバイスに勤めていた。そこで誰もが当たり前のように捉えていたのは、リーバイスのジーンズは、いわば“個人を表現するための白紙のキャンバス”であるということだった。クリエイティブな部署では、この言葉をまぶたに刻み込んでいたほどだ。私たちは常に顧客に501をカスタマイズする方法を教えていた。破いたり、裾を折り返したり、パッチを当てたりやステッチをつけたり。ペンキを塗るなんてこともあった。何でも自由に、だ。とにかく自分だけの1本を作ることが重要なのだ。

 しかし、私が時計業界に飛び込んだとき、このようなことはあり得ないとされていることに驚かされた。この業界では、何が何でもオリジナルの状態を守らなければならないのだ。時計はいじくり回すと価値が下がる。針やベゼルを交換することは忌み嫌われる。ダイヤルに名入れを施すのはダサい。アフターマーケットで宝石をセットすることは、極度に軽蔑される。

 そして、私も納得するようになった。腕時計を作るには、たとえ大量生産品であっても、大変な労力が必要だからだ。その腕時計を作った人たちが、それを守ろうとする気持ちもわかる。時計製造の最高傑作を作ろうとしているところに、素人にモナリザにヒゲを付け足される真似をされてはたまらない。しかし、このような考え方は、時計業界をカスタマイズへと向かって否応なく突き進むほかの業界から遅れた存在に追いやっているのである。

 今日、ナイキのWebサイトでは、自分だけのエアフォース1をデザインすることができる。ゴルフクラブメーカー、テーラーメイド社製のピッチングウェッジは、クラブ面の角度を調整することができる。EVのテスラでは、考えうる限りのオプションを組み合わせることができる。愛犬をカスタマイズするだってできるのだ! 郊外にはゴールデンドゥードル、パグル、コッカプーなど、飼い主の美的感覚やアレルギーの好みに合わせてブリーディングされた混血種が溢れている。

A silver watch on a red background

元テニスプレーヤー、ジョン・マッケンローのサブマリーナー。

 しかし、もし新しい時計に特別なダイヤルカラーを求めても、望みは薄い。時計メーカーはまず応えてくれないだろう。スティール製のスポーツウォッチは好きだけど、全体がブラックのほうがいいと思っている人は、自分でPVD加工の専門店を探すほかないだろう。私のように、メルセデス針がドイツの某自動車メーカーがスポンサーになっている時計のためのものだと思っている人は、時計をフランケンウォッチに変身させることなく針を交換することはできないのだ。さらに、もしこのような改造を施した場合、時計メーカーはその時計を修理することを拒否するだろう。なぜなら、彼らに言わせればオリジナルのパーツしか交換を許されないからだ。

 このような罰則的な姿勢は、反消費者的であり、無粋である。そして、細部まで仕様を選べる時計愛好家は、唯一無二の作品を依頼できる金銭的余裕のある人たちだけということになる。VIPの顧客、メガコレクターの皆様、(皮肉をこめて)おめでとう! では、ブランドと何十年も付き合いのない私たちはどうすればいいのだろう?

 選択肢はいくつかあるが、いずれも欠点がある。

 ひとつはグレーマーケットでカスタマイズされた時計を購入することで、少なくとも代理店よりは多くの選択肢を与えてくれるだろう。例えばお望みであれば、ダイヤルにスカル(髑髏)をあしらったミルガウスを見つけることができるだろう。しかし、グレーマーケットには、望む時計をゼロからデザインする術はなく、手先の不器用な技術者がムーブメントを壊してしまっているのではないかという疑念がどうしても付き纏うものだ。

 それよりも、時計のカスタマイズを専門に行う信頼できる工房に依頼するほうが、はるかに高価ではあるが、賢い選択だ(ニッチ中のニッチな話だが)。私は特に3つの工房を気に入っている。ひとつは、ジョン・マッケンローのサブマリーナーをスケルトン化し、左利き用に改造した実績を持つ工房、アルティザンズ ドゥ ジュネーブ(Artisans De Genève)だ。もうひとつは、ロイヤル オーク Ref.15450STを真っ白にマシュマロ化したことで知られるMAD Paris。そして最後に、ニューヨークのデザイン会社、クロイスター・ウォッチ・カンパニー(Cloister Watch Co.)は、ヴィンテージウォッチのレストアと再構築を専門としている。いずれも、オリジナルを凌駕する時計が得られる。

 しかし、これらの企業は、訴訟の沼を避けるために慎重にならなければならない。Webに掲載されているアルティザンズ ドゥ ジュネーブの苦渋に満ちた免責事項を読んでみよう。

ARTISANS DE GENÈVEは独立工房です。弊社のWebサイト上では、限られた能力の範囲内で、お客様のご要望に応じて時計をカスタマイズするサービスを提供しています。なお、時計の製造・販売は行っておりません。

弊社は、カスタマイズをお引き受けするお客様の時計のメーカーと提携しているわけでも、メーカーから認可を受けているわけでもありません。また、メーカーも無許可の第三者による自社製品の改造やパーソナライゼーションを認めていません。

したがって、弊社のカスタマイズサービスは、私的利用を目的としてのみ提供されます。それ以外の使用、特に商業的な使用は、ARTISANS DE GENÈVEが認めておらず、弊社の保証は無効となります。

弊社の保証”という表現に注目してほしい。果敢にも時計のカスタマイズを依頼する顧客は、メーカーの保証が無効となるため、カスタマイズをする側は独自の保証を提供するのだ。そもそも高級時計を完全に意のままに購入する余裕があるなら(細かい仕様を変更できる特注の費用が払えるならなおさら)、地元の時計店にチューニングを依頼できるだろうが、それでも独自保証は心強い配慮であり、時計メーカーの制裁的対応を(心理的に)緩和するものだ。

 いずれにせよ、最終的に欲しい製品を手に入れるためには、たくさんの関門をくぐり抜けなければならない。しかも、こうした複雑なルールは、時計の特定のパーツにしか適用されないのが不思議なところだ。時計の部品によっては、メーカーを刺激したり、純粋なコレクターを憤慨させたりすることなく、改造が許されるものもあるのだ。ここでは、時計の世界に初めて足を踏み入れた人が、どの部品がフェアなゲームなのか知る由もないだろうから、簡単にその内訳を説明しよう。

three gold watches

クロイスター・ウォッチ・カンパニー(Cloister Watch Co.)の3本の美しい時計たち。

 ストラップを交換しても見咎められることはない。ケースバックのエングレービングも許容範囲内だ。ムーブメントに手を加えるのは御法度だが、かなり極端な例だろう(趣味で古いマスタングのエンジンを修理するように時計を扱うのであれば、別だが。その場合肝心なのは自分でメンテナンスすることなので、やるなら極めてほしい)。

 カスタマイズという点では、ダイヤルは最も議論を呼ぶパーツだ。不思議なのは、訓練を受けた時計職人にとって、ダイヤル交換は決してリスクの高い作業ではないことだ。ちょっとした美容整形みたいなもので、大掛かりな心臓外科手術とはワケが違うのだ。

 Webサイトで時計を選び、ダイヤルを自分でデザインできたら、顧客としてどれほど満足することだろうか想像してほしい。もし、それが難しいのであれば、在庫のダイヤルカラー(ブラック、シルバー、ブルー、グリーン)をそのまま販売し、最寄りの正規販売店でダイヤル交換を受け付けるようにすればいいのだ。カウンターに十数種類のカラーバリエーションを並べ、その奥に時計職人を配置して、即日対応できるようにするのだ。そうすれば、どれだけ儲かるか想像してほしい。

 しかし、それもダメらしい。ここでもオリジナルであることが幅を利かす。デザイナーの意図が優先されなければならないのだ。その歯痒さは、S.キューブリックの映画『博士の異常な愛情/または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』に登場するジャック・D・リッパー准将を思い出させる。彼が共産主義の洗脳によって「我々の貴い体液を汚し、枯らそうと企んでいる」と盲目的に恐れているのに匹敵する。

 時計メーカーが、支配権を失うリスクよりも、収益源を犠牲にすることを選ぶという事実は、抵抗勢力がどれほど強固なものであるかを物語っている。しかし、もし、ある勇敢なブランドが、サイクリストがペロトン(Peloton, 米エアロバイクのメーカー)から離れるように、群れから抜け出せば、ほかのブランドは必死に追随するだろう。

 それが伝統的なスイスの企業にとって不合理なことであるなら、日本に目を向けるといい。セイコーは、1969年に世界初のクォーツウォッチを発売し、スイスを屈服させるほど業界を混乱させたことがある。また、セイコーにはすでに盛んな改造コミュニティがあり、セイコーは安価ゆえにチャプターリング交換くらいのバチ当たりは大した冒涜にはならないとばかりにパーツ交換を楽しむ時計コレクターの緩やかな連合体が存在する。Instagramの@seikomodderのようなフィードを見ると、改造にいそしむ人々の無限の想像力に圧倒される。もしセイコーが改造コミュニティーを公認し、サポートし、何でも屋のようにパーツを販売すれば、膨大な好感度を得ることも、少なくない額の利益が生まれることだろう。

a black seiko watch

Courtesy of @seikomodder.

 利益といえば、センスのいい1点もののオーダーメイドウォッチは、工場で何百と(何千と)量産されたオリジナルよりも価値がある(はずだ!)と考えるのは、きっと私だけではないだろう。だって、希少性が価値を高めるのではなかったか?

 私は、ある種の時計がとても素晴らしく、そのままにしておくべきだということは認める。しかし、パテック フィリップのグランドコンプリケーションとセイコーのツナ缶のあいだには、広大な中間領域があるのだ。その中間領域でこそ、カスタマイズ文化が開花するはずだ。

 Bamford Watch Departmentは、Build Your Ownツールでタグ・ホイヤーのモナコ、ブルガリのセルペンティ、ゼニスのクロノ エル・プリメロなどのケース仕上げ、ストラップのステッチ、カラーリングなどのディテールを調整する素晴らしいアイディアを展開している。これがスタートだ。こういう技術があることを証明するものだ。一方、香港のUndoneでは、500ドル以下のオーダーメイドウォッチを中心にブランドを立ち上げ、その体験を民主化し、時計が高速艇よりも安い値段でカスタマイズできることを実証している。

 では、私と一緒に夢想してみよう。スイスの大手時計メーカーが、不透明なキャンセル待ちシステムを透明なオーダーメイドプロセスに切り替えたユートピアを想像してみてほしい。時計メーカーは適正な価格を提示し、あなたは半分を前払いし、残りの半分を納品時に支払う。そして、納品日が到来すれば、あなたは希望どおりのサイズ、形、色、仕様の時計を手にすることができるのだ。

 これは妄想ではない。良識なのだ。

a panerai with blue dial

Courtesy of Cloister Watch Co.

 今のところ、腕時計のカスタマイズを本当に受け入れている大手メーカーは、アップルだけだ。若干バイアスがかっているかもしれないが(なぜなら私のキャリアにはAppleの本拠地クパティーノでの滞在も含まれるからだ)、世界で最も人気のある腕時計、Apple Watchが徹底的にカスタマイズ可能なのは偶然ではないだろう。クロノグラフ、GMT、カリフォルニアダイヤル、ワールドタイムなどのダイヤルが標準装備され、パーソナライズするためのオプションも無限に用意されている。

 アナログ時計の業界では、スマートウォッチの脅威が叫ばれているが、なぜ誰も大規模なカスタマイズで対抗しないのか、私には理解できない。確かに、各メーカーは物流面で難色を示すかもしれないが、消費者の嗜好の急速な変化に対応することほどは難しくはないだろう。今日の消費者は、欲しいものを、欲しいときに、欲しいだけ欲しいのだ。そして、既存の手段で手に入らないものは、必ずほかの方法を見つけるのである。

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