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Photos by Jared Soares
アルバート・クームス(Albert Coombs)氏の時計収集の旅は、途中、見慣れた場所を何度も訪れた。そして、未知の領域に踏み込んでいく。
彼は父親の時計(この場合はセイコーだ)への憧れからまず始まった。そして、その時計を借りるようになった(多くがそうするように)。そして、ロレックスのGMTをきっかけに、高級時計の世界に足を踏み入れることになる。
それ以来、37歳、ワシントンD.C.で歯科医をしている彼は、人間関係と忍耐によって素晴らしいコレクションを築いてきた。また、彼は時計愛好家のための先駆的なコレクターグループも共同で設立した。
そのグループ、CP Timeは、クームス氏と彼の友人C'Q・ゴットリーブ(C'Q Gottlieb)氏が、時計ブティックに通ったり、時計メディアを眺めたりしても、自分と同じような人をあまり見かけないことから、これは本当に自分のための空間なのだろうか、というような気持ちを持つ人たちとつながって生まれたものだ。Instagramのアカウントから始まり、口コミで広がり、アメリカ国内外でミートアップを主催するコミュニティにまで成長した。多くの人にとって歓迎すべき空間となったが、当然のことながらその一方で、反感を抱く人もいる。
「ブラックカルチャーの多くは包括的で、このクラブはそれを体現していると感じています。私たちは、不当な扱いを受けることがどのようなものかを知っているので、誰もが公平に扱われることを望んでいるんです」とクームス氏は言う。「いちばんのコメントは、HODINKEEのInstagramでご覧になったと思いますが、“もし私が白人の時計コレクタークラブを始めたらどうしますか?”というものです。まぁ、まず第1に、それらは単にクラブと呼ばれるだけです。しかし、第2に、もしその人が白人の時計コレクタークラブを始めたとして、白人の時計コレクターとしての経験が、“私は排他的だ”というものであるなら、それはまったく異なる考えになるでしょう。だから私はたいてい、“あなたは本当に興味があるんですか? それとも荒らしているんですか?”とする質問するのです。彼らが“いえ、興味があるんです”と答えたら、“なるほど、じゃあ話しましょう”と言います」
このクラブは、規模や地域だけでなく、そこに集まる人々の多様性においても成長を遂げてきた。「クラブを始めた当初は、ほぼ90%が黒人でした。ですが、今では60%くらいです。このクラブはどんどん大きくなり、さまざまな人が集まるようになったのです」
クームス氏は、個人的なコレクションにおいても、オープンマインドでエキサイティングなアプローチをとっており、それぞれの経験から学び、より多くの知識と記憶に残る瞬間を常に追い求めている。以下で、彼のお気に入りの4つの時計と、人生とは何かを思い出させてくれるアイテムについて紹介しよう。
彼の4本
ウォルサムの腕時計
この時計はあまり外に出ない。「私は人生で多くのものを大切に扱ってきませんでしたが、この時計だけは本当に大切にしています」とクームス氏は言い、「子供たちにも触らせない唯一の時計です」と話す。クームス氏は、祖父の1950年代の腕時計を父親から譲り受けたあと、手入れをし、ピカピカにした状態で保管している。
彼の祖父がジャマイカで50ドルほどで購入したもので、金銭的な価値はそれほど高くはなく、「今は70ドルくらいの価値だと思う」と言うが、クームス氏の大切な宝物のひとつだ。「祖父は、あまり感傷的な人ではありませんでした。本当に楽しい人でしたが、晩年、彼は父にあげられるものがあまりなかったのです。そこで、商船隊時代の北極圏の洒落たプレートと、ローズゴールドの指輪、そして時計を残したのです」
パテック フィリップ 5320G 永久カレンダー
クームス氏はこれまでにもパテックを所有していたが(代表的なのはグリーンの5711)、この時計は彼のコレクションの旅において新たな1歩を踏み出すきっかけとなった。「この時計は、私が初めて本格的にパテックの世界に飛び込んだものです。初めてのグランドコンプリケーション、初めてのスポーツウォッチではない時計、そしてそれまでの私の趣味とはまったく違うものでした」と彼は言う。「コレクションをしている友人のひとりは、“ついに大物に手を出したね”と言っていました」
クームス氏はこの時計のヴィンテージ感に引かれ、祖父の懐中時計に美学を見いだしたが、この時計は自分を少し背伸びさせ、少し格好よくさせてくれるのだそうだ。この時計を手に入れることは、彼にとってちょっとした“神頼み”だったが、その意外性と品質の高さは、コレクター心をくすぐるようなものであったという。「時計を買うたびに、どんどん減っていくと思っていたのです。でも、あのときはドーパミンとセロトニンが一気に出てきて、それがずっと続いたのです。その後、私は実際、これまでのコレクター人生で最も長いあいだ、何も買わずに長い時間を過ごしました。なぜなら、私はそれほど特別なものを追いかけているのだと感じざるを得なかったからです」
ロレックス デイトナ メテオライト Ref.116519LN
クームス氏は大学を卒業したばかりの20年ほど前に、私たちを引き戻した。歯学部に入学したばかりの彼はローンで生活していたが、“バスに乗らずに歩いてスーパーに行けば、2ドル浮く”というような、多くの人が経験したことのある計算をしながら生活していた。友人の父に、ホワイトゴールドのメテオライト デイトナを試着させてもらったところ、彼の心に何かが灯ったそうだ。「その時計を見て、“いつかこれを手に入れるんだ”と思ったのを覚えています。どうしたらいいのかわからなかったですが。参考までに当時は1万6000ドルでした。でも、一生懸命働いて、この時計を手に入れるんだと誓ったのです」
話は飛んで2017年頃、この時計は製造中止になってしまったが(しかも1万6000ドルよりも遥かに高い金額だった)、クームス氏はまだその夢を叶えようとしていた。彼はスティール製のデイトナを試したが、どうもしっくりこなかったため、貴金属なら大丈夫だろうと、エバーローズゴールドを購入することにした。数週間後、友人から電話があり、メテオライト デイトナを紹介されるが、彼はエバーローズゴールドを返品することも売買することもできず、せっかくの宝物を逃してしまう。「時計に関しては2度と妥協しないと決めたことは、私にとって特別なことでした」と語る。
彼はメテオライトへの夢は諦め、楽しくコレクションを続け、最終的にパンダダイヤルのデイトナを手に入れて満足した。そしてそれを父親にプレゼントしたところ、自分以上に入ってもらえたそうだ。こうして時計のカルマとでもいうべき、メテオライト パンダから解放されたのだ。
クームス氏なじみの正規販売店から、彼に取りかかっていると打診があり、そして13カ月後、その時計は届いた。クームス氏は息子を学校に送り出したあと、シカゴ行きの飛行機に飛び乗り、担当ディーラーとハグをして時計を手に取り、飛行機で家に戻り、息子を迎えに行った。「この時計を初めて見たときの息子の写真があります。彼は“手に入れたの?”と言い、そして私は“やったぞ、息子よ”と言いました。彼は大喜びでしたよ」
パテック フィリップ アクアノート 5164A
クームス氏とパテックの出合いは、このアクアノートからだった。ブティックで中古の時計を見かけて、手首につけてみてひと目惚れしたそうだ。
当時、彼にはまだ購入資金がなかった。そして、数年後に資金が貯まり購入しようとしたところ、その時計は正規店では手に入らず、グレーマーケットでの価格も制御不能な状態になっていた。しかし、この時計は、彼が親しくしている正規販売店のおかげで手に入れることができた。ようやく手に入れた時計に興奮したクームス氏だったが、その瞬間を息子と分かち合えたことは、本当に特別なことだったようだ。
「体験や人と結びついているものが多いですが、私がこの趣味に惚れ込んでいる理由は“人”なのです。時計は、私たちがより深いつながりを持つための手段なのだと思います。より深いつながりを作るための気づきを与えてくれるのです」
もうひとつ
カッパの杖
クームス氏は、カッパ・アルファ・プサイ(Kappa Alpha Psi)のメンバーだ。彼の父親もカッパ、ビジネスパートナーもカッパ、そして多くの友人もカッパのメンバーだ。「時計クラブと同じように、大学卒業後もみんなをつなぐ社交クラブなのです」
カッパのメンバーになるために、クームス氏はいくつかの課題と挑戦をクリアしなければならなかったが、それを乗り越えたときにこの杖を受け取った。この杖は白い杖から始まるが、次第に挑戦や重要な瞬間を表すマークで埋め尽くされていくのだ。
「私たち社交クラブの基本的な目的は、人間が関わるあらゆる分野で尊敬すべき成果を挙げることです。私はそれが大好きで、歯科医であろうと、父親であろうと、夫であろうと、息子であろうと、運動であろうと、どんなことにもベストを尽くそうと、それに従って人生を歩んでいます。そして、この杖を指の上でバランスをとることで、1歩下がって、見直して、自身のバランスを保つことを思い出させるものでもあります」
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