ADVERTISEMENT
伝統主義者は、ドレスウォッチには貴金属ケース、複雑機構なし(スモールセコンドも日付表示も何もなし)、レザーストラップという条件が必要だと言うだろう。私はこの文章を、アリゲーターストラップを装着したカルティエのタンクを身につけながら書いている。私がドレスウォッチを好きな理由は、その歴史や小ささ、相対的な価値など、たくさんある。
しかし、このドレスウォッチの厳密な定義は、過ぎ去った時代の慣習にあわせるために開発されたものだ。今日、私はタンクをスウェットパンツと合わせている(嘘じゃないぞ!)。
この10年ほどは、ヴィンテージロレックス、パテック フィリップ、オーデマ ピゲなどのステンレススティール製ウォッチやスポーツウォッチのコレクターが増える一方で、ドレスウォッチはあと回しにされてきた。しかし、ここ2〜3年、何かが変わってきた。同じようなスポーツウォッチに飽きたのだろうか。カルティエやA.ランゲ&ゾーネ、パテックやAPのドレスアップされたモデルなどに興味を持つ人が増えたのである。前世紀末のネオヴィンテージと呼ばれる曖昧なカテゴリーの腕時計が、インディーズから大手メゾンまでドレスウォッチに牽引され、ひとつのカテゴリーを形成したのだ。
確かに、これらの多くは伝統的な意味でのドレスウォッチではないが、ドレッシーであることは間違いはない。2022年で一番のドレスウォッチを考えるにあたり、私たちは皆さんが期待するようなブランドの時計に注目。カルティエ、パテック、そしてロンジン。しかし、ひとつの時計が他を圧倒していた、レジェップ・レジェピクロノメーター コンテンポラン II(RRCCII)である。
もちろん、時間表示のみ、貴金属ケース、エナメル文字盤など、ドレッシーな美意識が完璧に表現されている点も魅力だが、何よりも、その時計作りと伝統へのこだわりに敬意を表したいのだ。
RRCCIIを見れば、誰でもわかることがある。それは、ドレッシーな時計であること。伝説のケースメーカー、ジャン-ピエール・ハグマン氏(パテックやオーデマ ピゲのケースを手がけていた人物で、このプロジェクトのために引退を撤回)が製作したケース、一から作り上げた新しいデッドビートセコンドキャリバー、グラン フー・エナメルの文字盤。そして、これらすべてが、スイスで最もエキサイティングな若手時計職人、36歳のレジェップ・レジェピ氏の手から生み出されているのだ。
RRCCIIを紹介したとき、ローガン・ベイカーはこのモデルが伝統的なドレスウォッチでないことをすぐに指摘した。文字盤のレイアウトは、ミッドセンチュリーのオフィサーウォッチのクラシカルな雰囲気を踏襲しており、偶数のインデックスがローマ字で配置され、"セクター・アジャセント"とでも呼ぶべき文字盤上のラインが交互に配置されている。しかし、ハグマン氏手掛ける貴金属ケース、エナメル文字盤、手仕上げのムーブメントなど、これらのクラシックな要素が、RRCCIIを2022年のベストドレッシーウォッチとして際立たせているのである。
レジェピ氏は2018年にオリジナルの「クロノメーター コンテンポランを発表し、その年のジュネーブ時計グランプリ(GPHG)でメンズウォッチ賞を受賞し、ブレイクした。以来4年間を続編の開発に費やし、2022年初めのHodinkee マガジン Vol.10で「美学的には同じだが、まったく違うことをしたかった」と説明している。RRCCIIで、彼はまさにそれを達成したのである。私たちは、オンリーウォッチオークション 2021で、最初のユニークピースのクロノメーターコンテンポランIIが80万スイスフランで落札されたときに、そのプレビューを見ることができた。確かにRRCCIIはオリジナルのクロノメーターコンテンポランに似ているかもしれないが、文字盤やケース、キャリバーに至るまで、より洗練されたものになっているのだ。
RRCCIIのストーリーは、レジェピの新キャリバーRRCC02から始まる。オリジナルがシングルトレインのムーブメントであるのに対し、この新キャリバーはふたつの主ゼンマイと輪列を持ち、ひとつは脱進機、もうひとつはデッドビートセコンドメカニズムにパワーを供給する。
また、同氏は秒針のゼロリセット機能を追加した。リューズを引き出して時刻を合わせると、12時位置に送られ、正確にセットできる。ムーブメントの仕上げは、レジェピ氏のブランドであるアクリヴィアにとって、美的にも一歩前進したものとなっている。ブリッジにはアクリヴィアの特徴であるボンベ(丸みを帯びた)スタイルの幅広のアングラージュ(要するにブリッジのエッジに施された面取り)、テンプコックのキャップにもブラックポリッシュ、アクリヴィアによると輪列の手磨きだけで140もの内角があるそうだ。しかも、ギアだけでだ。
RRCCIIのケースは、アクリヴィアとレジェピ氏にとって、また新たな一歩を踏み出すことになった。アクリヴィアのメインアトリエの向かいにあるジャン-ピエール・ハグマン氏の工房で製作された(2022年初めにハグマン氏の工房を訪ねた「スイスの伝統的ケースメーカーの牙城、ジャン-ピエール・ハグマンのアクリヴィア工房を訪問」は2022年のお気に入り記事のひとつ)。よりスリムで、よりシャープなアングル、15個の部品から構成され、レジェピ氏とハグマン氏の小さなチームによって作り上げられたものだ。
彼らはコンピューターを使わない。ハグマン氏のように、50年以上も自分の手でケースを作り続けている人はそれを必要としないのだ。この新しいケースは、5Nローズゴールドまたはプラチナ製で、それぞれ50個ずつ用意されている。
ジャン-ピエール・ハグマンのアクリヴィア工房
2022年初め、私たちは伝説のケースメーカー、ジャン-ピエール・ハグマン氏の工房を訪ねた。現在81歳のハグマン氏は、パテック フィリップやオーデマ ピゲなどのケースを作ることにそのキャリアを費やしてきた。しかし今、彼はレジェップ・レジェピースのクロノメーターコンテンポランIIのケースを製作しているのだ。
最後に、文字盤はオリジナルのクロノメーターコンテンポランよりもリファインされている。ローズゴールドのケースには半透明のホワイト、プラチナのケースにはグレーブラックの焼成エナメルが使用されているが、ダイヤルは2ピースになっている。サブセコンドダイヤルは手彫りのグラッテ(gratté)パターンが施され、ほかの部分と融合している(この融合により、RRCCIにあったゴールドの止め輪が取り除かれている)。
「レジェピ氏は時計製造の歴史を理解し、それに敬意を払っている」と、作家でありコレクターでもあるゲリー・ゲッツ氏(Gary Getz)は本誌のプロフィールで語っている。「彼は伝統の解釈と、建築的なシンメトリーを軸とした独自のデザイン哲学を持っている」。確かにレジェピ氏は伝統を重んじながらも、それに縛られることはない。RRCCIIは、何世紀にもわたって受け継がれてきた時計作りを、彼自身が現代的に解釈したものなのだ。
クロノメーターコンテンポランは、1945年や1965年からタイムマシンに乗り、まるで昨日アクリヴィアの工房を出てきたかのような、そんな印象を与える。RRCCIIが新旧のコレクターに愛される理由は、このタイムレスな品質、つまり美観と実際の時計製造の両方にある。
しかし、どの時代でもあるような“タイムマシン”(時の機械)に対するコレクターの愛は、レジェピ氏と彼のクロノメーターコンテンポランのみならず、はるかに広がっている。カルティエのCPCPや現行のプリヴェコレクション、フィリップ デュフォーやロジャー・スミスなどのハイエンドインディーズ、さらにはバルチックのような小さなブランドでも、クラシックなスタイルやサイジングへの評価が高まっていることがそれを物語っているのだ。
いや、ドレッシーな時計は次の「ハイプ」対象ではない。少なくとも、私はそうでないことを望んでいる。しかし、レジェピ氏やRRCCIIのように、時計と時計製造の歴史と伝統に敬意を表したいと考えるコレクターにとって、ヴィンテージ、ネオヴィンテージ、あるいはアクリヴィアのようなモダンインディーであろうと、ドレッシーな時計ほどふさわしい場所はないだろう。
Shop This Story
アクリヴィアについての詳細は、公式サイトへ。また、Hodinkee マガジンのVol.10では、レジェップ・レジェピとアクリヴィアについて詳しくご紹介しています。
話題の記事
The G-SHOCK MRG-BF1000B
The Sports Section あるサッカー選手の新たな目標、それは時計職人になることだった
Hands-On クリストファー・ウォード トゥエルブ Xをハンズオン