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Interview ポルシェデザインの時計づくりについて

自社で製造も行うポルシェデザインは、自らの時計コレクションのために新たな未来を創造している。

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 山羊髭をたくわえた時計マニア、フェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェ(Ferdinand Alexander Porsche。初代ポルシェ911のデザイナー、フェルディナンド・ポルシェの孫)が一族の自動車企業を去った後、新たに設立した「ポルシェデザイン・スタジオ」でまずやったことは、世界初となるフルブラックの腕時計のデザインだった。オルフィナとのコラボレーションにより誕生した、パウダーコーティングが施された1972年製のクロノグラフ(当時の時計業界ではPVDは用いられていなかった)は、最近オークションで1500ドルから4000ドル(約16万3000円から43万5000円)にまで価格が跳ね上がった。

時計マニア、F・A・ポルシェ。

左)ポルシェデザイン by オルフィナ、右)ポルシェデザイン モノブロック アクチュエーター クロノグラフ。

 ちょっと待ってくれ、と皆さんは言うかもしれない。「自動車企業を去った」とはどういうことなのか? 文字盤には「Porsche Design」の表記があるではないか? そう記されているのは事実だが、ポルシェデザインは親会社の「ポルシェAG」から独立した組織だ。もちろん、両者の間に協力体制はある。しかしオーストリアののどかなアルプスの村「ツァル・アム・ゼー」の郊外にあるポルシェデザインは独立ブランドで、そのポートフォリオはスイス製時計やアイウェアからナイフ、バッグやスポーツウェアにまで多岐にわたる。

ポルシェデザイン・スタジオのローランド・ハイラー氏。

 ポルシェデザイン・スタジオのローランド・ハイラー(Roland Heiler)代表取締役社長とポルシェデザイン・タイムピースのゲルハルト・ノバク(Gerhard Novak)部長、それに私も交えて、昨年ポルシェデザイン・スタジオで時計について語り合った。2019年にポルシェデザインがもたらした大きなニュースが、「1919 グローブタイマー UTC」だった。42mmのケースには、ストラップ装着用の大きな開口部を備えたモノブロックケースが用いられている。東へ旅する場合は、上のボタンを押すだけで時間を1時間進めることができ、スケジュール通りに西の方へと帰ってくる場合は、下のボタンを押す。日付変更線をまたいだ場合は、ありがたいことに日付表示も自動で追従してくれる。

1919 グローブタイマー UTC。

 「これ以上ないほど簡単に使えますよ」とノバク氏は説明する。本機には5つの針がある。時・分・秒・セカンドタイムゾーン・日付を示す針が、COSC認定ムーブメントのセンター軸に配されている。サンレイダイヤル内側の円には、小さな矢印で示される日付が刻まれていて、大きな矢印は24時間表示の外側の円でセカンドタイムゾーンを示している。混乱を避けるため、9時の位置にはAM/PM表示もある。

 モノブロックケースにはダイナミックに防水処理も施されているため、水中でもリューズやプッシュボタンを操作できる。「プッシュボタンを完全に密封することはできません。その代わり、私たちはムーブメントのクロノグラフアームの部分を密封しています。エンジンを同じように隔離している、ポルシェ・カーのアーチ形のステアリングシステムに似ています。バルブは完全密閉されていますが、可動式です」とノバク氏は語る。

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 1919 グローブタイマー UTCのケースは、ポルシェデザインの2014年以降の全機種と同様、チタン製だ。ブロンズ調ケースのモデルを見つけても、惑わされてはいけない。チタンを600℃以上に熱すると、ブロンズのような色になるのだ。

 2014年、ポルシェデザインは、IWCやエテルナなどのライセンスパートナーとの長年の提携を経て、すべての権利を取り戻し、生産体制を完全に掌握した。これらの提携関係は文字盤に認めることができ、そこにはメーカーのロゴも表示されていた。しかし2014年以降は、ポルシェデザインの時計にいかなるブランド提携も見ることはない。

 「以前は、当社独自の時計を製作したことは一度もありませんでした。私たちが担当していたのはデザイン面でした。しかし、当社のウォッチビジネスを成長させたかったら、最終的な結果の責任の大きな部分を他人に任せるわけにはいかないと気付きました。そんな理由から、あのような大きな一歩を踏み出したのです」とハイラー氏は語る。年産は1万本ほどだという。

 その大きな一歩には、組み立てや設計、アフターセールスサービスを行うスイスの自社マニュファクチュールも含まれており、「designed in Austria, Swiss Made(オーストリアデザイン、スイス製)」のモットーが実現した。

 「ポルシェデザインのデザイン哲学は機能の最適化にあります。フォーム(形状)を本質まで徹底的に切り詰めるのです」とハイラー氏は説明する。

 「これらはすべて、F・A・ポルシェの信条に基づくもので、『フォーム=機能』という言葉に集約することができるでしょう。もし二つのうちの片方が他方を圧倒していたら、それはあまり良いことではありません。なぜなら、片方が妥協しなくてはなりませんから。彼はまた、『製品は生涯の相棒である』という考え方も大いに気に入っていました。何かを買って、それを一生涯持ち続けるのです」

ポルシェデザインのゲアハルト・ノバク部長。

 私に言わせれば、このような哲学を最も体現しているのが「モノブロック アクチュエーター」という、全体がブラックのクロノグラフだ。世界初のチタン製クロノグラフだった「1980 チタニウム クロノグラフ」の後継機。このクロノグラフはおなじみのプッシュボタンの代わりに、ビーズブラスト仕上げの45.5mmケースに埋め込まれた単体のロッカースイッチを特徴としている。

 ノバク氏は言う。「目立つボタンがないため、第一印象ではクロノグラフに見えないかもしれません」

 大きな挑戦は、常にゼロの位置にピッタリと戻らなければならないロッカーアームの回転機構だった。「1万回以上押した後もゼロに戻ることができ、防水ハウジングの筐体に干渉しないテクノロジーを必要としていました。私たちはロッカーを二つめの回転ポイントで安定させることで、問題を解決。極めて高い精度を要した別の挑戦としては、プッシュボタンの部品がガラスに被ってしまうという問題がありました。接触があってはならない部分です。あらゆる方向について、許容できる余地はないのです」。ハイラー氏は誇らしげに語る。

 実際に、ロッカーは極めて安定していた。インタビュー中と、その後実際に装着してみた際にボタンを100回ほど押してみたが、ロッカー機構が常に完全にゼロに戻ることが確認できた。

 自社に完全な権限が戻った今、ポルシェデザインはフライバック・クロノグラフモデルのみでポルシェAGとの提携も行っている。誰でも入手できるモデルもあるが、ポルシェオーナー限定のモデルもある。おそらく最も目を引くのが、所有車のカスタマイズされたインテリアと同じ素材が用いられている、レザーストラップ付きの「クロノグラフ 911 ターボS エクスクルーシブ シリーズ」だろう。ローターはアロイホイールをミニチュアにしたもので、車と同じようなホイールキャップも付いている。ポルシェコレクターは非常に悔しいだろうが、限定エディションに関しては、車の所有車が1本しか購入することができない(車台番号がケースに刻印されている)。

 インタビューの最後に2人は、まだ全然手つかずのF・A・ポルシェの仕事部屋に案内してくれた。70年代のレザー製回転椅子や、オーストリアの家具メーカー「ベネ」の書き物机、それに古風なスタンド式製図板。創業者の時計への興味が、棚に並ぶ何冊かの時計の書籍や雑誌から裏付けられる。私は、彼が2012年に埋葬された丘の上の家族農場の方に目を向けた。彼はどこにいても私たちを見守っているだろうし、ポルシェデザインの今の姿にも喜んでいることだろう。

ポルシェデザインの時計コレクションの詳細はこちらから。