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1980年代に育ち、当時の時計に夢中になった人間として、私は、80年代ウィークというタイトルをHODINKEEで見たときには興奮を抑えられなかった。80年代というフレーズから、ベン・クライマーが2019年にくれたメールの中で、実際の値段よりも高い価値があると思っている時計にはどんなものがあるのか、友人たちに聞いていたのを思い出した。彼の質問への答えを考えていると、1980年代に生まれた作品がいくつか思い浮かび、あの懐かしい10年間がテーマとして形となってきた。
ブランドたちがクォーツ危機の暗闇から抜け出すにつれて、いくつかの非常に重要で革新的な時計が市場に登場した。これらの時計は、現在の市場での価格を考慮すると、今日のコレクターたちに非常に大きな価値をもたらすものだ。
低コストで非常に正確な、電池式のクォーツ時計の急成長により、スイスの時計ブランドは生き残りに奮闘することを余儀なくされ、結局、無数のブランドが生き残ることはできなかった、これは事実だ。しかし、何年にもわたってスイスの同僚たちと共に働いて私が学んだことの1つは、スイスは非常に高い競争力をもっているということだ。2020年の世界競争力ランキングでも、スイスは3番めに競争力のある国(デンマークとシンガポールに続く)として評価されている。そのような強い競争圧力の下で、機械式時計の分野での驚くべき創造性が生みだされてきたわけだ。
そこで、私がベンに伝えた「過小評価されている」1980年代の私のお気に入りの時計をここにご紹介したい。これらの時計の素晴らしさをお伝えできて、とても嬉しい!
パテック フィリップ Ref. 3940とRef. 3970
パテック フィリップは、1941年以来、永久カレンダーと永久カレンダー・クロノグラフを継続的に製造してきた。製造開始から長きに渡ってユニークな存在であり、このように連続的に製造された永久カレンダーウォッチは、1955年にオーデマ ピゲが画期的なRef.5516(うるう年を示した最初の永久カレンダー)を発表するまで、そしてシリーズ化された永久カレンダー付クロノグラフは、1985年にIWCのダ・ヴィンチ・クロノグラフが登場するまで、他には存在しなかったのだ。
パテック フィリップ Ref. 3940
Ref.3940と3970の両製品は共に、全く新しいムーブメントの先駆けとなった。 1985年に発表された3940は、マイクロローターを備えた超薄型キャリバーである240をベースとして他を圧倒。そのわずか2.4 mmの厚さは、自動巻きムーブメントとしては当時世界で最も薄いものだった。日付と月のインジケーターとして、12時位置に開口部を配していたパテック フィリップのそれまでの永久カレンダーモデル(Ref.1526、3448、3450)からのデザイン面での大きな変化として、3つのサブダイヤルで曜日、月、日付、および月齢を、24時間表示、およびうるう年の表示を共にディスプレイしている。
凹型ベゼルをフィーチャーした美しいプロポーションの36mmケースを備えたこのモデルは、2007年に製造が中止されるまで、少しずつ改良を重ねながら数千個が製造された。今日、学者たちは、1978年にオーデマ ピゲが発売した素晴らしいパーペチュアルカレンダー(QP)のように、Ref.3940はパテック フィリップにとって、1980年代から1990年代にかけての成功の鍵ともなった重要なモデルだという見方で一致している。オーデマ ピゲの自動巻きQPが発売当時、世界で最も薄い永久カレンダー腕時計だったことも意味のあることだ。パテック フィリップはこの3940によって、その世界一の称号を取り戻したというわけなのだ ― スイス人の競争意識の強さを示す一例とも言えるだろう。
フラットで沈んだサブダイヤル、珍しいシャンパンダイヤルのバリエーションのある3940の初期生産品、および光沢のあるラッカー仕上げのダイヤルを備えた初期のプラチナ製の品は特に興味深いが、二次流通市場では依然としてかなりリーズナブルな価格となっている。
パテック フィリップ Ref. 3970
1986年に登場した永久カレンダー搭載クロノグラフ Ref.3970は、デザイン構造についてはその先行モデル、アイコン的な存在だったRef.1518およびRef.2499とほぼ同じものを採用していた。一方ベースムーブメントは、非常に斬新なもので、初期のオメガスピードマスターにも採用されたレマニア Cal.2310から派生した、CH 27-70Qが使われている。これは、パテック フィリップがクロノグラフで使用した最初のバルジュー製ではないムーブメントであった。3970のサイズは36mmで、その直前のモデルであるRef.2499 第4世代の37.5mmよりもやや小さかった。興味深いことに、3970のケースは、名品である1518(35mm)のケースよりも大きく、同じく36mmのヴィシェ(Emile Vichet)製ケースを持つ、非常に希少で人気の高い初期のRef.2499と同サイズである。
3940と同様3970は、機能性と実用性向上のため、9時と3時のサブダイヤル内に24時間表示およびうるう年表示を加えている。同リファレンスは、2004年に製造が中止されるまで、3世代にわたり進化していった。スナップバック式ケースとリーフ形の針をもつ初期シリーズと、リーフ針とねじ込み式ケースバックを備えた第2世代は特に魅力があり、そして希少性が高い。
素晴らしい品質、クラシックな美しさを称えたデザイン、パテック フィリップというブランドの特に意義深い2つのモデルの進化における歴史的重要性、および流通市場における相対的な低価格により、これらの品は多くのレベルで実に魅力的なものだといえる。
ロレックス サブマリーナーRef. 5513、グロスダイヤルのGMTマスターRef. 16750
ロレックスの製品ラインは、1980年代に多くの興味深い開発が行われた。コスモグラフ デイトナは、1988年に初の自動巻きクロノグラフムーブメントを導入したRef.16520、16523、16528により、最不人気品から最も人気のある同社の時計となった。日付のクイックセット機能は、デイデイトなどのモデルを以前よりもはるかにユーザーフレンドリーなものにし、ロレックスのモデル全体に広く採用されたサファイアクリスタルは、アクリル風防中心の古い時代に終わりを告げるものとなった。
1984年頃、エントリーウォッチ的なスポーツモデル(Ref.5513「ノンデイト」サブマリーナーとRef.16750 GMTマスター)にサファイアクリスタルを導入する直前、ロレックスは今日まで続いている重要な文字盤の変更を行っている。1967年以来18年間使用していたマットな文字盤から、ホワイトゴールドの明るいアワーマーカーを備えた、鮮やかな光沢のあるラッカー仕上げの文字盤へと切り替えたのだ。旧型のアクリル風防を使ったモデルは製造終了し、サファイアクリスタルバージョンに引き継がれた。1988年発売のRef.16700 GMTマスターは16750に取って代わり、1990年にはRef.14060サブマリーナー(現在1000フィート/ 330mの防水性を保持)が5513が後を継いだ。
こうした事情により、アクリル風防を使用しつつ光沢のある文字盤を備えたこのようなバージョンは非常にまれであり、5513ではわずか6年間、16750ではわずか4年間しか製造されていない。これらの品は、新旧2つの世界の最良の部分を併せ持っており、なおかつ、これらの希少なバリエーションについての知識が広まっていないため、今でも価格はかなりお手頃である。
IWC ダ・ヴィンチ クロノグラフ
パテック フィリップが1941年に最初のQPを発表した後、IWCが永久カレンダー搭載クロノグラフを製造する2番めのブランドになるだろうなどと、誰が想像しただろうか。IWCが、革新的で群を抜いて優れたダ・ヴィンチ クロノグラフ Ref. IW3750を発表したのは1985年で、パテック フィリップの発売から44年後のことだった。
当時IWCのCEOであった、ギュンター・ブリュームラインに触発された時計技術者のクルト・クラウスは、わずか82個の部品で永久カレンダーモジュールを作ることに成功。永久カレンダーの調整は全てリューズのみで行うことができ、これは業界初となる開発であった。文字盤は、100年に1回進むセンチュリースライド付きの4桁の年表示を備えていた。この時計は、22世紀、23世紀、24世紀を示していくセンチュリースライド付きのパッケージを使うという、機智にあふれたサービスと共に提供された。
翌1986年、ダ・ヴィンチ クロノグラフは、Ref.3755でセラミックケース(酸化ジルコニウムセラミック)を使用した初めての腕時計となった。ここに紹介した1980年代の時計は依然として割安感があり、私の謙虚な意見を言わせていただければ、流通市場における価格よりもかなり高い価値があるはずである。
30年以上の経験を持つコレクターでもあるポール・ブトロス氏は現在、フィリップスオークションハウスの米大陸時計部門の責任者を務めている。2017年10月、ブトロス氏はオークションを主導し、ポール・ニューマンのロレックス「ポール・ニューマン」デイトナに1780万ドル(約19億円)をもたらした。これは、オークションで販売されたヴィンテージ腕時計にこれまでに支払われた最高価格である。
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