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Inside The Manufacture F.P.ジュルヌの超複雑時計とその製作現場

特別な時計師によって考案された、格別な時計。

※本記事は2015年2月に執筆された本国版の翻訳です。  

本題に入る前に、グランド・ソヌリとは何か? 他とどう違うのか? という話から始めよう。グランド・ソヌリは、アニメに登場するような複雑機構ではない。グランド・ソヌリは、工芸品における最高峰の地位にあって、小銭をせっせとかき集めて買うステータスシンボルの類まで成り下がったことは一度もない。既製品のグランド・ソヌリをファッションブランドに卸すムーブメントメーカーは存在しない。デュボア・デプラ社のグランド・ソヌリモジュールなど存在せず、中国製のグランド・ソヌリもまだ登場していない。

 グランド&プティ・ソヌリは、高度な複雑機構の世界において、スプリットセコンド・クロノグラフやパーペチュアルカレンダー、そしてかつて神聖な存在であったトゥールビヨンをも凌駕する、非常に特別な存在なのだ。最初のグランド&プティ・ソヌリの腕時計が製造されたのが1940年代ではなく、1992年であったことを考えれば、フィリップ・デュフォーの並外れた技術が理解できるのではないだろうか。2014年10月になってようやくパテック フィリップは、初のグランドソヌリを世に送り出したところだ。個人としても、あるいはブランドとしても、このような時計を製造できる時計師はほんのひと握りしかいない。それだけ特別な存在の時計を、フランソワ-ポール・ジュルヌ氏は2006年に自らの手でソヌリ・ スヴレンヌ として発表したのだ。

グランド・ソヌリ、プチソヌリ、ミニッツリピーターの違いは?

 簡単解説 - ソヌリとは何かをご存じない方のために説明すると、ソヌリはアクティブ・ストライキング機構を備えた時計で、ユーザーが操作させることなく、15分と1時間毎のチャイムを自動的に鳴らす時計を指す。グランド・ソヌリは、1時間単位と15分単位を各々異なる音色で報せる。例えば、3時15分になると、グランド・ソヌリでは、1時間用のチャイムが3回(カンという音)鳴った後、四半時(15分)用のチャイムが1回(ディドンという音)鳴ることになる。3:30になると、再び3つのチャイムが3回鳴らされ、その後、15分用のチャイムが2回鳴らされる。プティ・ソヌリは15分用のチャイムだけを鳴らすので、3時15分になると、最初の15分用のチャイムが1回だけ鳴る。3:00にはチャイムが3回なる。ミニッツリピーターは、もちろん、時、15分、分をチャイムで報せるが、ユーザーによって起動操作される。

 ミニッツリピーターの方が実は製作しやすいが、それはチャイムを内蔵する時計の課題が動力の消費であることによる。ミニッツリピーターは、チャイム機構は起動前にスライドで巻き上げられることが多い。ソヌリでは、常時主ゼンマイから動力を吸い上げなければならない。F.P.ジュルヌのソヌリ・ スヴレンヌ は、ミニッツリピーターを搭載したグランド&プティ・ソヌリだ。

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F.P.ジュルヌ ソヌリ・スヴレンヌの製作現場

 F.P.ジュルヌ氏のブランドとしての最初の腕時計は、一般的な3針時計ではなく、トゥールビヨンであった。この時計が正式に発表されたのは1999年のことで、そのわずか1年後にはジュルヌ氏はソヌリ・ スヴレンヌ の製作に着手することになる。この時計はそのわずか6年後の2006年に発表されたが、F.P.ジュルヌの作品の開発は、ジュネーブ郊外の大規模なチームで行われているのではなく、フランソワ-ポール・ジュルヌ氏という一人の男によって開発されていることを忘れてはならない。また、彼がソヌリ・ スヴレンヌ の開発に着手してから発表されるまでの間には、他にもいくつかの新作を発表しており、この作品だけを開発していたわけではないのだ。

 F.P.ジュルヌのソヌリ・ スヴレンヌ を特別なものにしているのは、この時計が技術的な面で卓越しているだけでなく、10もの特許を取得しているからだ。また、ジュネーブのダウンタウンにある工場で完全自社製造された最初の時計であり、現在ではすべての時計がこの工場で製造されていることは、ジュルヌ愛好家の視点から見ても重要である。

 ジュルヌ本社を訪問する機会は実に特別なことだ。グランド・ソヌリ・ スヴレンヌ のゴングが金属板からカットされている様子は、実に見ものだ。これらの時計が毎年作られるのはほんの一握りだと考えてみれば、なおさらだ。私たちが撮影に訪れた日、彼らは数年分以上のソヌリ・ スヴレンヌ用のゴングをカットしていた。

 このグランド・ソヌリが複数本見られるだけでもまさに考えられないことであり、この高度な複雑時計を組み立てることができるジュルヌのマスター時計師は唯一人である。ジュルヌ氏自身、しばしばソヌリ・ スヴレンヌ を身に着けていて、彼のオフィスの前を通り過ぎるときに、この時計や他の多くの時計をいじっている姿を見つけることができるだろう。彼は来年の業績を心配する代理店や営業マンと取引をしているのではなく、時計を作っているのである。

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 しかし、私の目にソヌリ・ スヴレンヌ が、金庫の中に眠る光り輝くピース以上の存在から実際に身に着けることを目的とした聖杯のような時計に変化したのは、その機能性、仕様、そしてステンレススティール製のケースゆえである。そう、最も複雑で最も高価なモントル・ジュルヌの時計のケースは、クールに見せるための要素としてではなく、その素材が最高の音響特性を持つため、ステンレススティールを採用しており、この時計は、パフォーマンスを追求しているのであって、ラグジュアリーを目的とはしていないのだ。

 ケースとダイヤルは、ジュネーブ郊外にあるF.P.ジュルヌ社工場で完全に自社生産されている。上の画像はジュルヌのケースメーカー、レ・ボワティエ・ドゥ・ジュネーブ社所有の最終研磨機だ。

シンプルに徹するソヌリ・スヴレンヌ

2時側ボタン:ミニッツリピーター起動

4時側ボタン:グランド→プティ→サイレントのモード変更

 この時計は信じられないほど複雑で、6年の開発期間を要し、一人の時計師が582個の部品をすべて組み立てるのに3ヵ月以上を要するものの、ソヌリ・ スヴレンヌ は扱いやすい時計だ。2時位置のボタンでミニッツリピーターを作動させる。4時位置のボタンでグランドモードからプチモード、サイレントモードに切り替わる。時刻はダイヤル右側に表示され、11時30分位置にはパワーリザーブが表示される。まさにシンプルな構成だ。しかし、エンドユーザーにとってこの時計がとてもシンプルに感じられる背景に、その開発においてF.P. ジュルヌに与えられた10の特許がある。ここでは、ジュルヌ提供の特許資料をもとに、簡単な説明を紹介する。

特許1と2

香箱  Brevet -05405504.1 / EP05405504

主ゼンマイの各端から、時方輪列(2)とチャイム用輪列(3)の両方がひとつの香箱(1)で駆動する。主ゼンマイの外端に固定された香箱は、時方輪列(2)を駆動するために歯車(1a)を持つ。主ゼンマイの内端に固定された香箱の主軸(1d)は、歯車(4)を回転させ、片方向ギアを介してチャイム用輪列(3)を駆動する。

パワーリザーブ表示 Brevet -05405505.8 / EP05405505

香箱(1a)と主軸(1d)を介して解放される主ゼンマイには、洗練されたパワーリザーブ表示が必要となる。パワーリザーブ表示には、3 つの同軸作動歯車を用意する。最上側の作動歯車(23)は、軸(22)と歯車(21)の間を連携する。2段目の作動歯車(25)は、軸の巻き上げ方向、または巻き戻し方向に応じて移動する。3段目の差動歯車(26)は、1,2段目の差動歯車と連携し、主ゼンマイの平均パワーリザーブを表示する。

特許3と4

巻き上げと時刻設定機構 Brevet – 05405506.6 / EP05405506

コンパクトな巻き上げと時刻設定機構は長いステムとサイディング用の小径歯車を取り除くことで、ダイヤルの下に格納することができる。このシステムでは、リューズの歯車(8)は、ロッキングアーム(6)と同軸に取り付けられた伝え車(7)と常時噛み合う。巻き上げ用のステム(9)は、リューズの歯車(8)の中心部の四角い穴を通ってスライドする。伝え車(7)は、ロッキングアーム(6)の両端に取り付けられた巻き上げ用中間車(5)と時刻設定用中間車(10)を駆動する。巻き上げ用のステム(9)を引き抜くと、引き抜き用部品(14)がロッキングアーム(6)を回転させ、針をセットするための二番車(11)と伝え車(10)を噛み合わせる。巻き上げ用のステム(9)が巻き上げ位置にある状態では、伝え車(7)の巻き上げ動作によって発生するトルクにより、ロッキングアーム(6)がスイングすることで巻き上げラチェットと巻き上げ用中間車(5)を噛み合わせる。

ソヌリモード選択 Brevet – 05405508.2 / EP05405508

コラムホイールが制御するソヌリ鳴動モード選択表示機構は、最小限の部品でその役割を果たす。回転するコラムホイール(67)は、3種類のレバーに作用する:グランド・ソヌリまたはプティ・ソヌリを選択するためのレバー(73)、サイレントモードを選択するためのレバー(72)、そして選択されたモードを歯ザオ(69a)と小径歯車(71)を介してダイヤル上に表示するバネ式のロッキングアーム(69)である。モード選択ボタン(F)を押すと、ロッキングアーム(68)がバネ式の爪(68a)を持ち上げる。この爪は12本の歯車(67a)を一つずつ引っ張り、連続してコラムホイールを回転させる。

特許5と6

ソヌリ用の歯ザオ Brevet – 05405512.4 / EP0540551

時と分をダイヤル中央から外したムーブメントのレイアウトにより、ソヌリ用の歯ザオを、ムーブメントの中心に取り付けることができる。これにより、精度と制動性を高めるための大型の歯ザオの搭載が可能となった。ソヌリは、同軸上に取り付けられた3つの歯ザオによって制御される:時単位用(37)、15分単位用(38)、そして分単位用(39)である。それぞれの歯ザオには、ハンマーを作動させるためのラチェット歯(37a,38a,39a)が付いている。ソヌリが作動すると、歯ザオは、それぞれのカムにドロップする。歯ザオは、即座にソヌリ用輪列と噛み合いながら、リフトされる。歯ザオがリフトされると、そのラチェット歯(37a,38a,39a)がゴングを叩くための送り爪と噛み合う。各歯ザオが持ち上げられる距離、つまりソヌリを起動するために刻まれた歯の数は、カムの出発点によって決まる。

ソヌリ起動時の動作 Brevet – 05405511.6 / EP05405511

時単位用の歯ザオ(37)には、ソヌリ用輪列が噛み合う専用歯(37c)を設置する。歯(37c)は、ソヌリ用輪列の固定小径歯車(3b)の同軸上に回転するフリーピニオン(44)と常時噛み合っている。ラックを持ち上げるには、ロッキングクラッチ小径歯車(47)がフリーピニオン(44)を噛み合わせてロックし、ソヌリ用輪列から歯ザオに動力を伝達する。ロッキングクラッチ小径歯車(47)の噛み合わせが外れると、バネ式歯ザオ(40,43)が歯ザオの爪(37d)でカム(34)を押し下げる。

特許7と8

ソヌリの開放 Brevet-05405510.8 / EP05405510

1時間に1回、15分に1回、星型歯(49)がそのバネ(51)に反発する力でトリガー(50)を回転させ、チャイムが作動中に動き出すようにした。トリガー(50)はスプリングレバー(52&55)を介して作動し、ロッキングアーム(48)と回転クラッチ(46)の噛み合わせを解除する。これにより小径歯車(44)が解放され、歯ザオがカムの上に落ちるようになる。その後、バネ(56)はロッキングアーム(48)を回転クラッチ(46)に対して戻し、小径歯車(44)を再び噛み合わせて歯ザオをリフトする。ボタン(63)を押すと、ミニッツリピーターが解放される。回転レバー(62,64)がロッキングアーム(48)に作用してクラッチを外し、歯ザオを落下させる。

ソヌリ用ゴング  Brevet-05405507.4 / EP05405507

この新しいデザインは、わずか0.3ミリ厚のゴングから、より大きく、よりクリアな音を生み出すことを可能とする。ゴングをムーブメントの直径を拡げてしまうムーブメントの周りではなく、ムーブメントの上に取り付ける。チャイム機構用のゴングは、フラットなブレード(1)で構成されており、ブレード端(1a)はムーブメントに固定することができる。ブレード形状は、その端がハンマーで叩かれたときに自然な振動音が聞こえるように調整される。

特許9と10

チャイムの自動ブロック Brevet-05405513.2 / EP05405513

主ゼンマイのパワーリザーブ残量が残り24時間に減ると、チャイムは自動的にブロックされる。カム(61)は、パワーリザーブの差動歯車を利用し、パワーリザーブ残量が24時間に低下すると、回転レバー(18)を切り換える。ブロッキング装置(80)は、クラッチ小径歯車(47)を歯ザオの駆動小径歯車(44,45)と噛み合わせたままにして、チャイムを開始するためにラックが落下するのを防ぐ。パワーリザーブ残量が24時間を超えると、カムがブロッキング装置(80)を解除し、回転クラッチ(46,47)をロッキングアーム(48)の制御に戻す。

チャイムの自動ブロックと巻き上げステム Brevet-05405509.0 / EP05405509

この安全装置は、チャイム作動時に巻き上げステムが引き抜かれるのを防ぎ、巻き上げステムが引き抜かれた時にチャイム機構をブロックする。ロック用カム(66)は2つの位置に回転させることが可能だ:1つはチャイム解除ボタン(63)をブロックするためのもので、もう1つは巻き上げステム(9)をロックするためのものだ。巻き上げステムを引き抜くと、レバー(65)が左に押し出され、ロックカムが回転してチャイム解除(62b)を阻止する。ロック用カム(66)は、時単位用歯ザオに接続された回転式スプリングアーム(43)によっても切り替わる。歯ザオがチャイムを始動するためにリフトするとすぐに、アーム(43)がカム(66)を回転させ、ステムブロック装置(66d)と噛み合い、時刻設定のためにステムが引き抜かれるのを防ぐ。

 これら10件の特許により、F.P.ジュルヌは、世界で最もユーザーフレンドリーな、“サルでもわかる”使いやすいハイコンプリケーションの1つと言える時計を生み出した。薄い直径42mmのステンレススティール製ケース、シンプルながらも美しいダイヤル、そして驚異的なCal.1505により、この時計は非常に身に着けやすく、メガコンプリケーションの世界では非常に稀な存在となった。

 さらに、このF.P.ジュルヌ ソヌリ・ スヴレンヌ は、他社のグランド・ソヌリの中では信じられないほど手頃な650,000ユーロに価格設定されている。10件の特許、2006年ジュネーブ時計グランプリ第1位、年間わずか4本しか製造されないという事実、そして今日の最も思慮深い時計師の最高傑作という事実を考慮すると、その価値に異議を唱える者は多くないだろう。

 ミニッツリピーターを搭載したグランド&プティ・ソヌリを所有する機会が少ないことを認識したからか、最近F.P.ジュルヌは、この時計についての美しい本を刊行した。これらの本はF.P.ジュルヌの各ブティックで購入することができるが、ここではこの本を十分に紹介しきれないので割愛する。

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カスタムとメンテナンス性についての留意事項

 ソヌリ・ スヴレンヌ には、シリアルナンバーではなく、ケースとムーブメントに所有者の名前が記される。ジュルヌによれば、これが時計に魂、個性、アイデンティティーを与え、時計が持つべきすべてのものを与えているとのことだ。さらに、各モデルは、通常のルーペ、工具、ブレスレットだけでなく、ムーブメントの部品まで含まれるので、何年も先までメンテナンスを受けることができる。

F.P. ジュルヌ ソヌリ・ スヴレンヌ の詳細についてはこちらから。