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F.P.ジュルヌのクロノメーター・レゾナンスは、難解な時計のひとつだ。工学、音響学、時計製造の伝統的な側面に対して、ある種の信念の停止を要求するとさえ言えるだろう。
レゾナンス(共振)という現象は、まるで手品のように感じられる。“調和振動”などの科学的な大言壮語の背後にある真実を信じろというのだろうか。時計がより正確になるとか? 私は、あなたのことは知らないが、それはすぐに私のウソ発見器が作動するだろう。
18世紀の時計師アブラアン-ルイ・ブレゲとアンティド・ジャンビエは、時計学における共振の概念を開拓し、ジュルヌ、アーミン・シュトローム、ビート・ハルディマン、ヴィアネイ・ハルターといった現代のメーカーが、腕時計への共振の応用を試みている。ブレゲとジャンヴィエの作品に直接影響を受けたジュルヌは、現代の時計師として初めて独自のレゾナンス機構を開発し、1983年にユニークな懐中時計を製作。その後、2000年に初めて腕時計にレゾナンスを応用したスースクリプションシリーズを発表している。
それ以来、F.P.ジュルヌのクロノメーター・レゾナンスは、間違いなく時計メーカーを代表する作品となり、ジュルヌを現代で最も優れた時計学の思想家のひとりとして確固たるものにした特異なクリエーションとなったのだ。オリジナルのクロノメーター・レゾナンスシリーズは、20年の製造期間を経て2019年末に引退したが、ジュルヌは彼の最も認知度の高いクリエーションのひとつを捨てるつもりはなかったようだ。
それから数ヶ月後の2020年、クロノメーター・レゾナンスの新バージョンが正式に発表された。そして、デビューから2年後の今、ジュネーブ旧市街の中心にあるF.P.ジュルヌのマニュファクチュールを訪れ、ようやくこの時計をじっくりと眺めることができたのだ。
まずはじめに - 時計製造におけるレゾナンスの仕組みとは?
レゾナンス、つまり共振は、私たちの生活のいたるところに存在する。ブランコに乗る子どもからギターをかき鳴らす音まで、常に存在する現象だ。時計製造では、ふたつの振動子が並行して動作することで初めて共振が可能になる。それぞれのテンプの鼓動は、やがてふたつのテンプのあいだで同調し、絶えずエネルギーを交換することで、発生する誤差を補正し、時計の精度を保証するのだ。
共振システムのなかには、機械的に結合された双子の発振器を搭載したものもある。しかし、ブレゲが発見し、ジュルヌが現在使用している伝統的な方法では、物理的な接続を必要としないのだ。あり得ない話でしょう? ジュルヌが共振現象にアプローチして精度を維持できるのは、テンプの振動が文字盤の地板に反響して互いに噛み合い、徐々に同調するからだというのが定説になっている。
この共振へのアプローチには、ふたつの大きな脅威がある。ひとつ目は、オシレーターが互いに非常に近い周波数で動作するよう、最初に調整する必要があることだ。開始時のレートが大きすぎると、オシレーターは互いに独立して動作し、共振に遭遇することはない。また、テンプが完全に共振して動き出したら、その調和的な結合が不意に切れてしまわないように、ムーブメント全体の振幅を維持することが重要なのだ。
F.P.ジュルヌは、このふたつの問題に対する対策を、現世代のクロノメーター・レゾナンスで開発した。
何が新しくなった?
クロノメーター・レゾナンスの第一世代は、最初の20年間に何度も美観の調整とアップグレードを繰り返したが、まったく新しいレゾナンスムーブメントがもたらされたのは2020年になってからだった。
新世代のクロノメーター・レゾナンスは、旧モデルとよく似ているが、新Cal.1520の導入が主な要因となって、いくつかの重要な相違点がある。ムーブメントのブリッジにはF.P.ジュルヌ伝統のローズゴールドが用いられているが、Cal.1520の構造は先代から全面的に見直されている。
従来ふたつあった主ゼンマイは、現在はひとつになり、主ゼンマイはローズゴールドの地板の下に隠れ、対向する一対の歯車列を通り、同期しているテンプにエネルギーを供給する。それぞれの歯車列には、ルモントワール・デガリテというイースターエッグが固定されており、歯車列からテンプへのエネルギーの移行を1秒間隔で制御し、時間の経過とともに主ゼンマイが徐々に緩み、振幅を維持するようになっている。
ルモントワール・デガリテを使用することで、コンスタントフォース機構として機能し、Cal.1520の精度、効率、信頼性を高めている。ただし、それは一定時間に限った話だ。新ムーブメントのトータル・パワーリザーブは最大48時間だが、ジュルヌが約束するのは約28時間の等時性動作のみである。28時間程度経過すると、主ゼンマイは個々のルモントワール・スプリングを巻き上げるのに十分なトルクが得られなくなるところまで巻き戻される。共振現象を利用しているわけではないが、同様の結果はベルナルド・レデラーのセントラル インパルス クロノメーターやチャールズ・フロッドシャムのダブル インパルス クロノメーターなど、ふたつの脱進機を備えた他の時計でも見られる。
ムーブメントのアップデートに伴い、クロノメーター・レゾナンスのケース形状も大幅に変更された。オリジナルモデルにあった12時位置のオフセンターのリューズは、従来の2時位置近くに移動し、4時位置のセカンダリーリューズと合わせてより魅力的なものとなっている。
文字盤は、このモデルの特徴であるシンメトリーに一貫してこだわり、時分サブダイヤルと秒サブダイヤルが重なり合う2つのレジスターを備える。両者の唯一の違いは、一方の時分サブダイヤルが24時間表示で、もう一方はより伝統的な12時間表記を備えている点です。文字盤中央の開口部からは、ムーブメント内のディファレンシャルギアが見え、ゼンマイ香箱に蓄えられたエネルギーを対向する歯車列で分配している。
ふたつのリューズのうち、どれが何をするのか覚えるのは少し大変だ。リューズにはまったくラベルがないため、それぞれが別々のサブダイヤルを制御していると思うかもしれない。しかし、そうではないのだ。2時位置のリューズは、それがケースに対して同一平面上にあるときにムーブメントを巻き上げ、それを引き出すことによって、両方の時間と分のダイヤルの時間を設定することができる(24時間表示のダイヤルは反時計回りに、12時間のサブダイヤルは時計回り)。4時位置のリューズを引き出すと、ふたつのスモールセコンドは直ちにゼロリセットされ、時刻と文字盤の下にあるふたつのローターが直ちに同調する。
最終的な考え
このような時計を本当に楽しみ、理解するためには、ある程度の知的幅と、少なくとも忍耐力が必要だ。安っぽいスリルはなく、時間をかけて、高度なクラフツマンシップと時計史への敬意を理解し、評価する必要があるのだ。
正直なところ、クロノメーター・レゾナンスの体験を振り返りながら、腕に巻いたミドルクラスの自動巻きダイバーズウォッチを見ていると、少し物足りなさと素っ気なさを感じずにはいられなかった。
これだって美しい時計であることに間違いはない。そして、共振現象の本質は、時に奇想天外に見えるとしても、実に魅力的だと思うのだ。しかし、新世代のクロノメーター・レゾナンスと一緒にいるあいだ、私はここ数ヶ月のオークションでクロノメーター・レゾナンスの様々なモデルが高値をつけたことをずっと思い出していた。特に、私が最近のオークション動向の中間報告で紹介したフィリップス・ジュネーブでの予想外の出来事の数々を(詳細は記事「2022年春の時計オークションシーズンから読み解く10大トレンドおよび重要ポイント」参照)。
5月の晴天に恵まれたジュネーブの会場で、3つのクロノメーター・レゾナンスが落札された。最初の生産年である1999年の第1世代モデルは、45万3600スイスフランで落札された。その次のロットは、今日お話したモデルと同じ、2021年製造の現行モデルで、現在の希望小売価格の4倍弱(!)の41万5800スイスフランで落札されたのだ。そして最後に、これは2000年代半ばに発表された10本限定のモデルで、ブラックマザーオブパールの文字盤が魅力的なモデルである。このモデルは、総額44万1000スイスフランで落札されている。
クロノメーター・レゾナンスのプラットフォームは3種類あり、それぞれ希少性が大きく異なっている。そのため、最終的な結果に影響を与える興味の度合いも異なるかと思いきや、そうとは言い切れないようである。クロノメーター・レゾナンスの通常の現行モデルが、1999年の第一世代モデルと4万スイスフラン以内の価格差で取引されているのは、まったくもって不条理と言わざるを得ない。
数週間前にF.P.ジュルヌのマニュファクチュールで扱った時計も41万5800スイスフランの価値があったのだろうか。F.P.ジュルヌでは、この時計の定価を18Kローズゴールドで1216万8000円、プラチナで1260万円(ともに税込)と設定している。F.P.ジュルヌ本社の経理担当者は、自社製品の価値を見積もるとき、そんなに的外れなことをするのだろうか? それとも、この時計は本当にそのような価値しかなく、オークションの価格はまったく正気の沙汰ではないのだろうか?
壁に頭を打ち付けて帰りたくなるくらいだ。
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HODINKEEショップでは、F.P. ジュルヌの中古時計を少量販売しています。
その他詳細は、F.P.ジュルヌ公式サイトへ。
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