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Business News 時計ブランドの戦略に一石を投じる ? G-SHOCK初代モデルが⽴体商標を取得

ロゴのない時計全体の形状そのものが登録されるのは国内初。国産時計メーカーとして注目すべき快挙だ。

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カシオを代表する腕時計ブランドであるG-SHOCK。そのなかでも今やブランドのアイコンともなっているG-SHOCK初代モデルの形状が、特許庁より立体商標として認められ、2023年6月26日に商標登録第6711392号として登録された。ロゴや文字のない腕時計の形状そのものが立体商標登録されるのは今回が初めての事例となる。

 ⽴体商標とは、⽴体的な形状に商品やサービスを識別する機能があるものとして商標登録を認める制度だ。⽴体商標の事例としては不⼆家のペコちゃん(第4157614号/1998年)・ポコちゃん(第4157615号/1998年)のほか、コカ・コーラ瓶(第5225619号/2009年)などがあるが、これまで⽴体商標として認められてきたものは老若男女を問わず広く一般に認知され、生活のなかに密接に関わるものばかり。対して腕時計はどうだろう。今や腕時計をつけないという人も少なくないという状況を考えると、これまでの事例と比較すると腕時計はニッチな存在だ。そんな腕時計で立体商標を認められたということは、初代モデルのフォルムがもはや広く世間一般の人たちにG-SHOCKとしてその存在が認知されているのだというお墨付きともいえる。言葉にすると簡単だが、腕時計でこれが認められたことは極めて異例のことなのだ。

 いかにしてG-SHOCKが⽴体商標を取得するに至ったのか。今回の⽴体商標取得を企画し、登録を実現した⽴役者であるカシオ知財渉外部の松村聖子氏と同部 商標意匠室の米倉雅子氏に話を伺った。

⽴体商標出願時に提出された画像。写真提供:カシオ計算機

佐藤杏輔(HODINKEE Japan)

 まずはG-SHOCK初代モデルの⽴体商標を取得することになった経緯について教えてください。

松村聖子氏

 「商標は独自の商品やサービスを識別するためにロゴや製品名などを取得するのが一般的ですが、今回のように立体商標を取得し更新し続けることで、私たちカシオはデザインや形状に対して半永久的に独占し使用することができるという強い権利を持つことができるのです。初代モデルはG-SHOCKの象徴のような存在ですし、カシオにとってもずっと守っていくべき形であると考えています。今年はG-SHOCK誕生40周年という記念すべき年でありましたので、その一環で取得プロジェクトがスタートしました」

 「もともと立体商標という制度(1996年の商標法改正により初めて認められた)がスタートした当時から、当社としてはG-SHOCKの象徴的な形である初代モデルで立体商標を取得したいという思いがあったと聞いています。そこでまず2005年に立体商標取得を出願しましたが、そのときに認められたのはCASIOやG-SHOCKのロゴが入ったもので、ロゴがない形のものは認められませんでした。2回目のチャレンジとして動き出したのが今回のプロジェクトです。2020年の秋にプロジェクトがスタートして、2021年4月に出願。それから2年2カ月後の2023年6月26日に承認されました」

カシオ計算機 開発本部 知的財産統轄部 知財渉外部 部長 松村聖子氏。

カシオ計算機 開発本部 知的財産統轄部 知財渉外部 商標意匠室 室長 米倉雅子氏。

佐藤杏輔(HODINKEE Japan)

 2回目のチャレンジで取得できたわけですが、今回はどのようなポイントが認められたのでしょうか?

松村聖子氏

 「ケースがあってストラップがあってという腕時計の形は一般的なものですので、通常こうした一般的なものは商標登録できません。ただし、今回のG-SHOCK初代モデルの場合は、この形状が耐衝撃構造を持っているという独自のデザインがあります。そして同じ形状を継続して使⽤してきたこと、それが世の中に広く認知されていることを証明して登録に至りました。単に長年使われてきたから認められるわけではありませんし、またどのくらいの期間使用されていてればよいというような明確な基準やルールがあるわけでもありません。長期間の継続使⽤ということは重要ですが、特にそれが広く認知されていることがポイントになります。審査に際し、証明するためのさまざまな証拠を提出することになるのですが、紙の資料だけで段ボール3箱ほど提出することになりました」

佐藤杏輔(HODINKEE JAPAN)

 資料としては、どんなものが提出されたのですか?

米倉雅子氏

 「具体的な資料としては過去の雑誌の記事などが多かったですね。特に継続的に使われているというところを示さなければなりませんので、古い記事から新しい記事までを網羅的に提出することになります。初代モデルには40年もの歴史がありますから、提出すべき資料となる記事の洗い出しは人海戦術です。さまざまな部門に声をかけて資料を集めました」

 集められた証拠および主張に関して、どんなポイントが事実として認められたのか。実はこと細かに公開されており、特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」で登録番号(第6711392号)を入力することで閲覧することができる。そこでは次のような情報が事実として認められると記載されている(以下の表現はわかりやすく編集したものだ)。

  1. 1. 1983年に、G-SHOCKのファーストモデルであるDW-5000(以下該当モデル)が発売されている。
  2. 2. 該当モデルはCASIO、 G-SHOCKなどの文字や時刻表示部などを備えるが、その外観はおおむね八角形状のベゼル(その中央に時刻表示部)を有し、左右に凹凸部やボタンを設けたケース、その上下につながる横方向に連続した溝を有するストラップ(各部位の表面に2個ずつ穴を設けている)を組み合わせた商品形状で構成されている。
  3. 3. 該当モデルには、そのデザインを再現した後継商品であるDW-5600C-1(1987年)、GW-5600J(2005年)、GW-5000(2009年)、GB-56000AA(2012年)、GMW-B5000TB(2019年)などが発売されている。
  4. 4. 該当モデルに係る商品の販売数量は10万本(1998年)、14万本(2005年)、29万本(2015年)、38万本(2018年)あったとされる。
  5. 5. 該当モデルおよびその後継商品がインターネット記事情報、雑誌、新聞およびテレビ番組などにおいて商品写真を伴う紹介記事が掲載・放映されている。

 加えて、認知度に関するアンケート調査とその回答も証拠として提出された。実際に第3者を通じ、日本全国に居住する16歳以上の男女1100人にアンケート調査を実施。該当モデルに相当する画像を提示し、思い浮かぶブランドやメーカーについて自由回答式、多肢選択式でそれぞれ尋ね、自由回答式で55.09%、多肢選択式で66.27%がカシオ、G-SHOCKなどと答えた。これも証拠のひとつとして用いられており、2020年のプロジェクトスタートから証拠提出の準備をはじめ出願後の2021年の秋頃に提出された。

立体商標の適用はG-SHOCK初代モデルそのものに限らない。色や素材を問わず、G-SHOCK初代モデルに連なる形状を持つモデルが対象となる。その適用対象にはG-SHOCKのほか、Baby-Gも含まれる。

 先述のとおり、時計の形状が立体商標として認められることは初となるが、これはどのくらいハードルが高いことなのだろうか。提供された資料(カシオ計算機調べ)によれば、2022年の国内商標登録件数全体は約18万件あるのに対して、⽴体商標登録件数は約200件。そのうち⽂字のない⽴体商標の登録件数は約50件で、今回G-SHOCK初代モデルが登録された使⽤による識別能⼒(商標法3条2項)の適⽤、つまりは長年の継続使用が認められての登録件数は約3件と、1年ほどに数件の狭き⾨となっている。

 また、過去に時計関連で同じように継続使⽤による識別能⼒の適用によって、今回のような文字のない⽴体商標が認められた例は、パネライのレバーロック式リューズプロテクターくらいである(ちなみにこれは商標登録第6080187号として、2018年9月14日に登録された)。これにしても、時計全体ではなくリューズプロテクターの部分適用なのだ。

佐藤杏輔(HODINKEE JAPAN)

 G-SHOCK初代モデルが立体商標として認められましたが、どんな利点があると考えていますか?

松村聖子氏

 「重複になりますが、これからも半永久的にG-SHOCK初代モデルの形状をカシオのものとして独占・保護することができますので、第3者による模倣品対策として一定の抑止力になると思います。それに今回の立体商標の取得はそもそもブランド戦略の一環として目指したものです。これまでブランドの象徴のような存在であったものの、なかなか表現しづらかった価値が明確になったのではないかと思っています。特に近年G-SHOCKでは5000、5600シリーズをマスターピース戦略として普及価格帯からMR-Gのような高価格帯まで幅広く展開していますが、目に見えない価値を可視化できた今回の立体商標の登録は、会社として戦略的にブランド価値の向上を図っていく上でとても意義のあるものになると考えています」

 現時点では立体商標取得に伴う特別モデルの開発や、G-SHOCK初代モデル以外での立体商標取得などは検討していないとのことだったが、少なくともこれまでブランドの象徴となるカタチ、スタイルとして大切にしてきたものを明確にブランドの価値として表現できるものであることを示したことは、今後の時計ブランドの戦略に一石を投じる可能性があるのではないだろうか。

クレジット表記のない画像はすべて、photos:Keita Takahashi