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腕時計に関して新たな視点を得た2024年

2024年の業界の変化と、自分自身の時計界との関わりを振り返って。

2024年は時計業界において大きな変化が見られた一年だった。消費者の嗜好は変わり、市場全体の需要は軟調が続いている。多くのブランドは新たな戦略を模索するべく再び“白紙”に立ち返り、今後5年間の計画を立て直そうとしているように見受けられた。米国のみならず海外の需要動向が見えにくいなか、ブランドのCEOたちは大手グループ内で移動を繰り返し、マーケティング予算の削減も行われた。一方でインディペンデント系のウォッチメーカーはその勢いをますます加速させている。レジェップ・レジェピ(Rexhep Rexhepi)氏、サイモン・ブレット(Simon Brette)氏、シルヴァン・ベルネロン(Sylvain Berneron)氏といった新たなアイコン的存在が生み出す時計は、急激に増加する需要に対して生産が追いつかない状況だ。さらにカリ・ヴティライネン(Sylvain Berneron)氏のような業界のベテランたちも、納品まで驚くほど長い期間を要する予約注文を受注し続けている。

Nivada 'Grey Glow' Chronoking Mecaquartz

編集チームに加わる前の私にとって、この時計はとても特別なプロジェクトだった。

 個人的にも、昨年は時計に関する自分の捉え方が大きく変化した年であった。夏ごろからこのサイト上で私の名前を目にするようになったかもしれない……、そう、私はHODINKEEの編集チームに加わったのだ。しかし決して、この職場では新顔というわけではない。2024年の10月で、HODINKEEに関わってから4年が経過した。ではこの4年間、私は何をしていたのか? 簡単に言えば時計へのマニア的な情熱はそのままに、異なる形でそれを仕事にしていたのだ。具体的には、HODINKEE Shopをもっとおもしろい場所にするための商品を見つける仕事をしていた。私が携わっていたのは、かつてHODINKEEが正規小売店として取り扱っていたブランドとの協業だった。過去数年間にショップに登場した限定モデルのいくつかには、私が手がけたものもあっただろう。自分がワクワクするようなものを探し出し、時計愛好家の心に響くものを届ける……、それが私がしてきたことだった。

GW5000 'Screw Back Origin'
Toledano & Chan B01
Nivada Grenchen Depthmaster 'Grey Glow'
Timex Seconde/Seconde

 G-SHOCKと協力し、これまで日本国内限定商品(JDM)だったカルト的人気を誇るスクリューバックモデルことGW-5000Uを米国市場に持ち込んだのは特に印象的な出来事だった。またニバダ・グレンヒェンとのコラボで、私の理想を盛り込んだデプスマスターとクロノキングをデザインする機会にも恵まれた。それらはモノクローム配色と大量の夜光塗料を特徴とし、最終的にはGrey Glow(グレー・グロウ)シリーズとして発売された。これらのモデルはすぐに完売した。さらにウニマティック、タイメックス、トレダノ&チャンなどのパートナーたちと特別なローンチに向けて準備を進める過程も非常に楽しい経験だった。そして何より、素晴らしい商品に対して顧客やコレクターが反応してくれる瞬間に最もやりがいを感じた。一方で業界の販売側に数年間身を置いたことで、コスト管理、在庫回転率、売上予測といったビジネス用語が、時計を見るたびに真っ先に頭に浮かぶようになっていた。もはや時計は趣味ではなく、ビジネスそのものになっていたのだ。

そして今、こうして記事の署名欄に自分の名前が掲載されるという新たな立場にいるのは少し不思議な感覚だ。かつてオフィスで時計の話ばかりして同僚を熱いトークに巻き込み、気ままに意見を述べていた私の時計マニアっぷりが実際の仕事へと置き変わってしまったのだから。編集チームに加わってすぐにグラスヒュッテ、クパチーノ、マイアミなどへの出張取材の機会を得て、さまざまな仕事に携わることができたのは幸運だった。今年はさらなる取材が控えており、楽しみな予定がたくさん控えている。

Going down the stairs at the Steve Jobs theater

クパチーノのスティーブ・ジョブズ・シアターにて、Apple Watch Series 10の発表会に参加したときの様子。

 私は時計業界の“販売側”にいた経験から、昨年は時計の世界に対して新たな視点を得ることができたと思う。ただ幸いなことに、先ほど挙げたようなビジネス用語が頭を占めることはもうなくなった。少し自己紹介をするなら、私はコレクターであり……いや、訂正しよう、変わった時計が大好きな人間だ。編集チームのなかでオックス・ウント・ユニオールやクロノスイスを所有しているのは私だけだと思う。またランゲとウブロのような異なるブランドは共存できるし、すべきだとも考えている。一方で、時計好きが盛り上がる話題が、必ずしもその裏で実際に売れているものを反映しているわけではないことにも気づいた。私自身の趣味嗜好とはまるで異なる消費者の心情を理解しようと、努める必要があったのだ。HODINKEEのコメント欄における“総意”が、必ずしも売上トレンドに直結するわけではないこともわかった。そう、ケースサイズやデイト窓の有無といった話題も同様だ。自分に向けて作られた時計ではないと感じたとしても、それが悪いというわけではない。重要なのは、誰か別の人のために作られたものだと理解することだ。

 では私は時計に対して以前より寛容になれたのだろうか? いや、そうは思わない。製品の成功を評価する基準は多岐にわたるし、大学時代にデザインやタイポグラフィについて厳しい批評を受けた経験があるからこそ、客観的な欠点を見過ごすことはない。だが同時に、その時計が何をしようとしているのかという文脈は非常に重要であり、インターネット上の均一化した趣味嗜好によってこの問題が見過ごされがちであるとも感じる。そのあたりの考えについては、別の記事で詳しく語ることにしよう。

 この業界の“こちら側”に来てから、時計が自分にとって何を意味するのか、そしてその魅力をどう語るべきなのかを再発見するチャンスを得たように感じている。言おうとしていることが時計メディアにおける最も陳腐なフレーズであることは承知しているが、私はこの仕事に従事できることをとても幸せだと思っている。趣味が仕事に変わる経験ができる人はそう多くない。そのことを、仕事に疲れたと感じたときは常に自分に言い聞かせるようにしている。ああ、話が少しそれてしまった。

Visiting the Nomos manufacture.

ノモス グラスヒュッテのクロノメトリー工房を訪問。

 2024年のハイライトのひとつは、間違いなくドイツのノモス グラスヒュッテを訪れたことだ。てっきり工房見学が旅の目玉になると思っていたが、今回の旅で最も印象に残ったのはドレスデンでひとりランチをとっていたときのことだった。典型的なアメリカ人観光客のようにビールとカリーヴルストを注文していたのだが、ちょうどヴァイスビールを半分ほど飲んだところで隣に座っていた年配の女性がこちらを向き、「ドレスデンで何をしているの?」と話しかけてきた。「時計について書いているんです」と答え、「明日は時計ブランドのノモスを訪れる予定です」と続けた。

 基本的に時計界隈の外では、ノモスという名前を知っている人に出会うことは少ない。しかしここはノモスの本拠地であり、多くの時計がドイツ国内市場で販売されていることをすっかり忘れていた。だからこそ彼女が「私が持っている唯一の時計はノモスよ」と言ったときには驚き、うれしくなった。彼女はシンプルさに引かれて、何年も前にその時計を購入したと話してくれた。そこで私は時計マニア特有のうんちくを語り始め、ノモスの歴史について簡単に説明した。しかし食事が冷め始めていたので、話を短く切り上げた。それでもその後、私は笑顔を抑えることができなかった。この出来事が、時計について語ることの本当の楽しさを改めて思い出させてくれたからだ。

Habring Erwin Piece Unique

私の“いとしいしと”(ゴラムの声で)。

Zenith Hodinkee Triple Calendar Meteorite

2024年、私のコレクションにもうひとつ加わったのが、隕石をあしらったゼニスとのコラボレーションだ。まるでこの世のものとは思えないほど素晴らしい。

 さて、私自身の時計コレクションについてはどうだろう。昨年はコレクションの整理と統一の一環でいくつかの時計を手放したが、私にとって本当に特別な時計をいくつか迎え入れることもできた。そのひとつが、ハブリング²のエルウィンだ。この時計が届いたのは、私が執筆活動を始めたちょうどそのころで、今でも身につけるたびにワクワクさせてくれる。おそらく、しばらくはこの時計について語り続けることだろう。その一方で、2024年はApple Watchを何年ぶりかに新しく購入した年でもある。選んだのはUltra 2だ。“Designed by Apple in California”と箱に書かれたものが時計と呼べるかどうかというここ10年続いている議論はさておき、私はその議論を超えてこのデバイスが自分の手首に存在する意味を完全に受け入れている。

At a moser party.

 短いあいだではあるが、自分をライターや編集者と呼ぶようになってから業界の内外を問わず実に多くの人々と出会ってきた。今年も間違いなく同じような経験ができるだろうし、この文章を読んでいる多くの読者とも直接お会いできることを願っている。私が初めてHODINKEEを読み始めてから、すでに10年以上が経過している。そして今、この場において自分の言葉で発信していくなかで、かつて自分が愛していた“こだわり抜いた視点”と“個性的なアプローチ”を再びHODINKEEに持ち込みたいと思っている。それは私自身が究極の時計マニアであり、かなりの変わり者であるからにほかならない。

 もし2024年が業界にとって不安定で混乱した年だったとすれば、2025年はこれからの5年間において業界全体がどの方向に進んでいくのかが明確に示される年になるだろうと思う。だからこれからの時計業界というクレイジーな世界がどこへ向かうのか、一緒にその旅路を楽しもうではないか。間違いなく今年も、語るべき人々、訪れるべき場所、そして紹介すべき時計には事欠かないはずだ。