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In-Depth グランドセイコー SLGH007 “年輪”限定モデルとSeries 9 デザインについてデザイナーの酒井清隆氏が明かす

新しいハイビートキャリバー9SA5を搭載した4つめのタイムピースは、プラチナケースで新たなSeries 9デザインを採用したモデルである。


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セイコーが140周年を迎えるというのは、信じられないがカレンダーは嘘をつかない。1881年に服部金太郎が創業したセイコーという会社は、140年間時計事業を展開してきたが、今日もセイコーとグランドセイコーの新しい時計が続々と発表されている。グランドセイコーも140周年記念の新作モデルを発表。グランドセイコー SLGH007は、木目が特徴的で木の年輪をイメージした質感のある文字盤を採用している。

 文字盤の具体的な質感はさておき、デザインはグランドセイコーの新しいSeries 9というコンセプトに則ったもので、ピラミッド型の時針と非常に精巧なインデックス、特徴的な針、そして44GSを進化させたようなケース形状が特徴的である。

 本機は、Series 9デザインがグランドセイコーから正式に発表され、新キャリバー9SA5を搭載した2番めの時計だ。最初のモデルは、通常生産モデルのSLGH005“白樺”である。SLGH007は、ハイビートの新キャリバー9SA5を搭載したSeries 9デザインのプラチナケースモデルで、140本の限定生産。価格は、600万円(税抜)となる。

 Series 9デザインは、これまでのところ9SA5ムーブメントを搭載した時計でのみ採用されていることは偶然ではない。同社の書籍「Japanese craftsmanship: Watchmaking The Grand Seiko Way」によると、Series 9は9SA5ムーブメントのフラットな形状を活かしたデザインとなっているのだという。グランドセイコーのデザイナー酒井清隆氏は同書の中で、「ケースサイドの逆斜面を大幅に減らし、思い切ってストレートな広い垂直面にすることで、あえてケースサイドに厚さをもたせ存在感のある造形にしました」と語っている。

「切り立つようなケースサイドの垂直面や、緩やかなカーブを持つかん(ラグ)上面から、スパッと深く先端を切り落としたかん足など、塊を削いだような緊張感のある造形を取り入れることで、張りのある軽快さをもつケース形状を実現しています。人々がより能動的に、アクティブに活動するという現代の文脈を踏まえながら、フォーマルなシーンだけでなく、どんなシーンでも合う腕時計を目指す上で、より安定感のある、腕なじみに優れた装着性をもたせることは必然でした。これを実現するための要となるのは、腕時計の重心位置です。ムーブメントに厚さがあると、重心位置はおのずと高くなりますが、その逆に、ムーブメントが薄ければ薄いほど、重心位置を下げることが可能になります。このデザインでは、薄型ムーブメントという利点を活かし、裏ぶたの厚さを極限まで薄くすることで、可能な限り重心位置を下げました。さらに、40mmのケースサイズに対して、かん幅を22mmとかなり広くすることで横方向のぐらつきを抑え、より腕にフィットする装着性を実現しています」

 Series 9のデザインプロセスは、2017年から始まっており、酒井氏によると、1998年に小杉修弘氏がデザインしたメカニカル9S5シリーズのケースデザインを出発点にしたという。「その頃の日本は、より艶感のある車や、スーツや革靴もよりドレッシーで、きらびやかな趣を有したものが広く親しまれる傾向にあり...それから20余年の時を経て、グローバル化が進み、身に着けるものにしろ、生活に必要なものにしろ、現代では、それぞれに必要な機能を備えながら、よりシンプルに洗練されたデザイン性を持ち合わせたものが主流として好まれる傾向にあります」

 「あらゆるものごとについて、個々がより主体的に考えるようになり、自ら選び取った生き方、働き方を重視する人が増えている今、会社に着ていく服装ひとつとっても、決して一様ではなく、スーツの人もいれば、そうではない装いの人もいます。一日中、デスクに座って従事するというよりは、より多面的に活動しています。こうした変化によって、腕時計を着けるシーンも自ずと変わってきますし、それは、加速する時代の変化によって、今後より一層、広がっていくことが予想されます。この先の未来を見据えて、グランドセイコーらしい王道となる次のデザインを追求すること。それが自身に課せられた使命であると深く心に刻みました」

 この本ではまた、Series 9デザインの不可欠な部分であるケースのザラツ研磨に関する酒井氏の洞察を提供している。

 「ヘアライン特有のマットな質感を存分に活かすことで、腕時計全体に落ち着いた輝きや、スポーティな印象を与えることができるのではないかと考えました。新しいデザインでは、ケースサイド、ガラス縁上面、かん足の上面をはじめとするパーツにヘアライン仕上げを施し、全体的に落ち着いた趣を与えながら、鏡面を部分的に入れることで、美しいエッジが際立ちシャープな印象に仕上がっています」

 グランドセイコーのファンであれば、針と文字盤の構成(「太く堂々とした時針は、極限まで太く、分針は細く長く」)と目立つ深い溝のあるインデックス(「視認性を向上させる」)についての彼の考えを高く評価するかもしれない(時間を読み取りやすくするために、時針の中心を通る印刷線と各インデックスの中心部の溝カット面は同じ幅にしています)。

 Series 9のデザインがこれまでのものからの顕著な逸脱であるとすれば、Cal.9SA5はさらにそうだ。このムーブメントは、技術的特徴と美学の点で、以前のハイビートキャリバーからのステップアップを表している。

 最大の変更点は、従来のレバーよりも効率がよく、パワーリザーブを増やすことができる新しいデュアルインパルス脱進機だ。9SA5のパワーリザーブは80時間だが、9S85では55時間である。また、9SA5は、9S85の28.4mm x 5.99mmに対し、31.0mm x 5.18mmとより薄型化されている。

 ムーブメントの構造は、以前のグランドセイコーの機械式ムーブメントの場合よりも著しく曲線的であり、ローターの肉抜きも通常よりも大きくなっているため、下にあるブリッジの全体的な形状がよりはっきりと見える。9SA5は、ハイビートシリーズキャリバーのよりフラットでエレガントなものグランドセイコーのブランドに求められている。トランスパレントバック越しに見ると、間違いなくそれが垣間見えるのだ。

グランドセイコー「年輪」SLGH007をHODINKEEのヴィンテージウォッチのシニアカテゴリマネージャー大村沙織(約14cmの手首)が着用。

 Series 9のデザインは、ムーブメントを中心にデザインされたケースであるため、少なくとも今のところは、ハイビート9SA5搭載モデルにのみ展開されることを、我々HODINKEEはグランドセイコーに確認をとった。スティール製の通常生産モデルである白樺はもちろんのこと、9SA5を搭載した二つの限定モデルが登場している。我々はSeries 9のさらなる発展に期待すると共に、限定モデルとスティール製の白樺の両モデルを実機で見るのを楽しみにしている。

グランドセイコー ヘリテージコレクション セイコー創業140周年記念限定 “年輪” SLGH007: ケース、プラチナ製。サファイア風防(表面にボックスシェイプ)、Series 9デザインで、ザラツ研磨による鏡面仕上げと繊細な筋目で仕上げられたケース。日常生活用強化防水(10気圧)。ムーブメント、ハイビートCal.9SA5。デュアルインパルス脱進機、3万6000振動/時、47石。80時間パワーリザーブ。平均日差+5/-3秒。プラチナ製クラスプ。世界限定140本。税抜価格600万円。2021年7月23日発売予定。グランドセイコーブティックフラッグシップ、グランドセイコーブティックおよびグランドセイコーサロン限定販売。詳細はグランドセイコー公式サイトへ。

Photographs by ティファニー・ウェイド(Tiffany Wade)。酒井清隆氏のコメントは、書籍『Japanese Craftsmanship: Watchmaking The Grand Seiko Way』より抜粋。