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Photos by Tiffany Wade
90年代ウィークへようこそ。この特集では直近10年間で最も魅力的な(そして最も過小評価されている)時計と、20世紀末を特徴付けたトレンドとイノベーションを再考していく。ダイヤルアップ接続を行い、クリスタルペプシ(無色透明のコーラ)を手に取って欲しい。90年代ウィークを記念したWatch of the Weekのコラムニストは、並外れたなコレクターであり、Talking Watchesの卒業生でもあるグレッグ・セルシュ氏だ。
20代の頃、時計を集め始めたとき、新しいものを買う余裕はなかったが、さほど問題にならなかった。楽しむためにやっていただけだったからだ。
しかし、ライカのヴィンテージカメラや古いクルマ、エレキギターのように、人気のある時計の多くは、裕福なコレクターにしか手に入らないように思われた。
それから30年、私はまだ楽しみのためにやっているだけだが、時折“深いところまで泳げる”ような知識と経験も身につけた。
私のゼニスウォッチ好きは有名だ。90年代半ばにこのブランドを集め始めたとき、70年代のエル・プリメロ搭載クロノグラフのファンキーさに引かれ、やがてゼニスの90年代クロノグラフのなかでも、より評価の低いものに行きついた。Cal.400と呼ばれる同じエル・プリメロムーブメントを搭載していたが、それらは私がすでに知っていた70年代のゼニスのワイルドなデザインよりも、50年代のドレスクロノグラフの伝統的な美学に近いものがあった。
これらの時計は90年代を通してアメリカではややレアだったが、最終的にゼニスのブラックダイヤルのクロノグラフを見つけることができた。ヴィンテージのエル・プリメロよりも安価で(ヴィンテージのエル・プリメロを搭載したモバードのデイトロンよりは高価)、私の収集家としてのキャリアに啓示を与えてくれたものだ。品質はどこにも引けを取らず、ムーブメントは史上最高のクロノグラフムーブメントのひとつで、38mmのサイズと薄いケースは私にとってまさに完璧だった。
当時、私が知っていた90年代後半から2000年代前半のコレクターたちは、90年代に作られた時計は“新しいもの”であり、“ヴィンテージ”ではないと考えていた。当時、フォーラムなどでヴィンテージウォッチの“区切り”を設定する議論もあったほどだ。コンピュータを駆使してデザインされた時計はモダンだという意見もあれば、1980年や1985年といった任意の年代を選ぶ意見もあった。いずれにしても、90年代の時計は“ニュー”あるいは“モダン”のカテゴリーに入ることになる。それは、私にとってまったく意味のないことだった。未来のコレクターは、この時計をどう思うのか? 私の90年代のゼニスには、間違いなくヴィンテージの1960年代に設計されたムーブメントが使われていた。当時とほとんど同じように作られていないというのだろうか?
最初にゼニスにはまった数年後、2000年代後半に、私は白磁のようなダイヤルを持つステンレススティールのブランパンをオファーされた。37mmという私にぴったりのサイズだった。その時計は動いておらず、売り手は修理にかかる“数千ドル”をかけたくないのだと私に告げた。私はこのブランパンを、ニューヨークの大きな小売店で働いていた知り合いの時計職人に持って行った。彼は修理するための部品を調達しようと言ってくれた。数百ドルと数週間をかけ、この時計は私の手首にしっかりと収まった。悪くない。
当時、私はブランパンの時計についてよく知らなかったが、私の時計が見て楽しく、つけても楽しいものであることはわかった。ねじ込み式のプッシャーとリューズ、ねじ込み式のケースバック、ケースサイドに刻まれたブランパンの名前、ダイヤルのアプライドマーカーと数字、すべてがとても繊細でバランスが取れていた。時計についてコメントしてくれた人は、「好きだけどブランドはわからない 」と言っていた。ブランパンを知っている数少ないコレクターは、ヴィンテージのフィフティ ファゾムスのダイバーズウォッチしか知らなかったのだ。
私は2000年代後半の、ほかのブランパンにも目を向けるようになった。そのなかには、現行世代のフィフティ ファゾムスを含む、当時のブランパンの最新作も含まれている。定価は、私が買っていたいちばん高価なヴィンテージウォッチの10倍くらいだったように記憶している(ごく例外を除いて)。いつか、また買えるような使い込まれたブランパンに出会えるかもしれない、そう思っていた。そしてそれは思ったより早く実現した。レマン ウルトラスリムは、“アエロネフ”数字と素敵なブレスレットが付いた美しい時計で、最終的に私にオファーされたのだ。最初のブランパンに支払った金額の約2倍だったが、ゼニスのファンでありコレクターとして、ゼニスの伝説的な1930年代の“アエロネフ”フライトクロックのスタイルを踏襲していることに感謝した。だから、私はそれを手に入れたである。
突然、私は予想以上に趣味の世界に入り込んでしまったのだ。この無名の美しい時計に興味を持っているのは、私だけのようだった。結局、ブランパンの90年代後半の“トリロジー”シリーズの一部である、少し大きめのエアコマンド フライバック クロノグラフを購入することにした。その品質は信じがたいほどだ。90年代のブランパンやゼニスを購入するたびに、壮大な自社製ムーブメントはもちろんのこと、全体的なクオリティにますます感心させられた。
私が愛用するブランパンやゼニスのような90年代の特別な高級時計に、なぜ多くのコレクターが引き寄せられないのか、いまだに理解に苦しむ。手作業で組み立てられた限定品の美しさは、「どうしてあの時集めておかなかったのだろう」という後悔の念を呼び起こさないわけがない。
かつて安く買えたはずのヴィンテージが、今は手に入らないと嘆くコレクターの声はよく耳にする。あなたもご存じだろう。ロレックスの“ポール・ニューマン” デイトナ、ユニバーサル・ジュネーブの“ニーナ”、“ビッグ・アイ”、“クラプトン”など、エキゾチックなダイヤルのヴィンテージウォッチがそうであり、パテック フィリップのノーチラスやアクアノートのような、今では手の届かないモダンな時計もそうなのだ。
50年前のロレックスのサブマリーナーやオメガのスピードマスターをめぐって、ディーラーやコレクターが押し合いへし合いをしているあいだに、これらの時計がすべて見落とされていた時代を思い出す。私はいつも“ウィンドウにあったもの”は無視し、引き出しに修理が必要な時計がないかどうか尋ねるのがポリシーだった。私は常に、愛されていない希少な逸品を探し求めているのだ。これらのブランパンやゼニスの時計は、宝石店の引き出しのなかで見過ごされてきた宝石たちを思い出させる。
そして、“ポール・ニューマン” デイトナやユニバーサル・ジュネーブ “ニーナ”のように、90年代の時計でずっと見過ごしてきたもののよさに、人々が徐々に気付き始めると固く信じている。
誰にでも最高の時は訪れるものだ。
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