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Hands-On ニバダ グレンヒェン トロピカル クロノマスター。お手ごろ価格でチョコレートダイヤルの世界へ

ヴィンテージウォッチにありがちな心配をすることなく、しかもこの価格でチョコレート(ダイヤル)の味わいを楽しむことができる。

Photos by Mark Kauzlarich

“平穏で変わり映えのしない人生を送る男に、ニバダのクロノマスターは必要ない”

 ニバダ グレンヒェンは彼らの象徴的な時計のひとつとなるモデルの最初の広告で、人に退屈呼ばわりするもっとも明快な手法を選んだ。クロノマスター アビエーター シーダイバー(略してCASD)は2020年より、クォーツショックに見舞われた偉大な時計のアーカイブに手を伸ばしつつ、現代的な視点から再スタートを切ったブランドにおけるコアピースの一角を担っている。

 それ以降、ニバダ クロノグラフの復刻モデルには、クロノキングにブロードアロー、ロリポップ、オレンジボーイ、そしてビッグアイと多くのバリエーションが登場している。どれもヴィンテージブランドのファンからするとなじみ深いものばかりだ。しかし、そのなかでもとりわけ傑出しているのが、2022年2月に発表された手巻きの“トロピカル ブロードアロー”である。

Nivada Grenchen's Tropical Chronomaster Aviator Sea Diver

 “平穏で変わり映えのしない人生”を送る人には、何十年も南国の太陽の下で焼かれたヴィンテージウォッチのような新品のクロノマスターは必要ないだろう。また、この時計をただちに“フォティーナ”(訳注:経年変化したカラーリングなど、意図的にヴィンテージテイストを加える手法)だとあげつらう熱狂的な愛好家の海に、わざわざ波風を立てつつ投下する必要もなかった。確かにクロノマスター アビエーター シーダイバーはフォティーナウォッチで間違いない。それに対して異論を唱える人も多くいるだろうが、私はこの時計のことを絶対的に気に入っている。

Photo of vintage Nivada Grenchen CASD Tropical

このヴィンテージのクロトン ニバダ グレンヒェン クロノマスター アビエイター シーダイバーは、『Chronomaster Only』という本に掲載されたことが、復刻へのきっかけとなった。Photo courtesy WATCHFID.

Vintage nivada chronomaster ad

Photo courtesy Nivada Grenchen.

 トロピカルダイヤルについてはさておき、このニバダ グレンヒェンの復刻モデルは、“ブライアン・ケリー(Brian Kelly)”モデルとして知られる、1960年代初頭に製造されたCASDのなかでも極めて特殊な個体を忠実に再現している。ケリーは1963年の映画『フリッパー(原題:Flipper)』で一躍有名になった俳優で、CASDの初代モデルを使用していた。

 そのCASDは文字盤にタキメーターを配したクロノグラフに、ダイバーズベゼルと200mの防水性能、ベゼルによる第2時間帯表示、レガッタのカウントダウンタイマーなどを備えており、当時の市場に出回っていた時計と比較しても注目に値するものであった。コレクター向けに書かれた書籍『Chronomaster Only』の執筆陣によると、このような初期のモデルに見られるそのほかの興味深い特徴として、現在ではすべての個体がブラウンのトロピカルダイヤルを備えていることが挙げられている。

 さて、私はここまでに何度も“トロピカル”という言葉を使ってきた。ほとんどの読者にとってはなじみ深い言葉だろうが、知らない人のために簡単におさらいしておこう。この話題についての私の理解を確かなものにするため、親友であり、まさにTropical Watchという名前のビジネスを営む時計ディーラー、ジャック・コズベック(Jacek Kozubek)に話を聞いた。ここ数年で、驚くほどクールで珍しい外観のロレックスを見かけたなら、それは間違いなくコズベックの手を通っている。

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 1960年代当時、ロレックスにオメガ、ニバダなど多くのブランドが欠陥のある黒い塗料を使用しており、時間の経過とともに茶色く色褪せるようになっていた。この問題が表面化するまでにはかなりの時間が必要だったが、聞くところによると強い紫外線にさらされる熱帯緯度の地域ではより早く発生し始めたという。

 「一般的には、1960年代初期から中期にかけてのロレックスのダイヤルが特に変化しやすいですね」とコズベックは教えてくれた。「ギルト(ミラー)ダイヤルは、ほかのものよりも色褪せが激しい傾向にあります。1962年製のロレックス サブマリーナーの2本線が入ったシルバーダイヤルは、かなり茶色く変色するようです。しかしその時代のものに限らず、茶色くなる時計はたくさんあります。例えば、1969年の赤サブ マークIIの文字盤はトロピカル色に退色することが多いですし、Ref.16520 デイトナも1998年から1999年ごろのものが茶色く変色し始めています」

Tropical Submariner

Tropical Watchが販売した、1960年製ロレックス “ポインテッドクラウンガード” サブマリーナー Ref.5512、ギルト仕上げのチャプターリング付き。

Tropical Submariner

Tropical Watchが販売した、とびきりトロピカルなダイヤルの1962年製ロレックス Ref.5512。

 何よりトロピカルダイヤルはそれぞれがまったく異なる色みとなる。それがトロピカルダイヤルの最大の魅力だ。これらのダイヤルの多くは年月を経るなかでサービス部門によって交換されてしまうため、希少なものとなっている。しかしコレクターが素朴な個性を持つユニークな時計の価値を理解し始めたことで、かつては欠陥とみなされていたものの価値が急騰した。この結果を見れば、その理由は一目瞭然だ。

 トロピカルダイヤルには、ちょっとした“購入時の注意点”がある。トロピカルな雰囲気を出すために文字盤に焼き目を入れたり、ベゼルに人工的なエイジング加工を施すことで“ゴースト”のような質感を出したりする話は聞いたことがある。しかしコズベック氏は、もし誰かがそれを試みたとしても違いは簡単にわかるだろうと言う。「このような素材は経年劣化しやすいものなので、試してみようと思うのはわかります。でも、あまり無理するとダイヤルが破損してしまいますよ」。だからこそ、特に本物を見分ける(見つける)ことができる“売り手”を選ぶ必要があるのだ。

 その価値を考えれば、ヴィンテージの“トロピカル”な時計は私が無造作に身につけるようなものではない。私は自分の時計への扱いが荒い。もっと正確に言えば、明らかに“平穏ではなく変化に富んだ人生”を送っている。私は”6フィート7インチ(約2メートル)の無秩序な手足の塊”という表現がぴったりの人間だ。そのために私の時計は謎の傷や凹みをたくさん拾ってしまう。私は自分のヴィンテージウォッチにも細心の注意を払っているが、他人の時計に対しては特に信じられないほど慎重になる。赤ちゃんのように扱わなくていい時計というのは心強いものだ。

Tropical Submariner

Tropical Watchが販売した、1965年製ロレックス サブマリーナー Ref.5512。ダイヤルに金色で“Tiffany & Co.”のサイン入り。

 コズベックは上のティファニーサイン入りロレックス サブマリーナーをなんと9万ドル(日本円で約1285万円)で売却した(時計を見れば見るほどこの価格が破格に思えてくるのは私だけではないはずだ)。このニバダ グレンヒェンが本物のヴィンテージトロピカルウォッチではないことは明らかだが、30万2500円(税込)という価格が私に多くの喜びを与えてくれたことも確かである。

 この価格なら、トロピカルな味わいを楽しみながらもヴィンテージウォッチのように過度に気を遣う必要はない。この時計の真価はそこにある。今作は何から何まで(防水機能も)すべてを備えた、思う存分楽しむことができるニューモデルなのだ。

Nivada Grenchen's Tropical Chronomaster Aviator Sea Diver

 せっかくの主役なのだからダイヤルについて話そう(ついでに針についても)。いくつかのヴィンテージトロピカルダイアルが、昔ながらの方法で“獲得した”ものではなく“焼きつけられた”ものだという話をしたのを覚えているだろうか? まあ、この場合は事実だ。ニバダ グレンヒェンは、ダイヤルとハンドセットを一括して焼き上げる特殊なプロセスを開発し、下図のようなエイジング加工を実現した。つまり各部品の加工反応によって、それぞれのダイヤルが個性を放つこともあるいうことでもある。

 その独特の質感は自然光の下でさらに際立ち、ダイヤルの色は影の濃いチョコレートからより濃厚なオレンジへと変化する。また、トロピカルダイヤルのユニークな性質もあり、ニューモデルとヴィンテージモデルのあいだには多くの共通点がある。

Nivada Grenchen's Tropical Chronomaster Aviator Sea Diver

 私の手元にある時計では、ダイヤルと針、そして針自体の夜光は控えめに言っても“カリカリ”している。ほとんどのブランドは少し完璧すぎて、少しクリーミーすぎて、全体的に安定した“フォティーナ”に落ち着いている。最初は「ああ、このパティーナはあまり魅力的ではないな」と思ったが、完璧すぎるものよりも真のヴィンテージの特徴に近いことを理解するのにさほど時間はかからなかった。

Nivada Grenchen's Tropical Chronomaster Aviator Sea Diver
Nivada Grenchen's Tropical Chronomaster Aviator Sea Diver

 技術的な観点から見ると、この時計はオリジナルのCASDを偉大なものとした特徴のほとんどを備えており、(ちょっと不必要なほど)多機能である。文字盤にはタキメータースケールと配し、ダイバーズベゼルにはアワーマーカーがあり、第2時間帯表示としても使用できる。

 あいにく、この時計の防水性能は(クロノグラフであることをさておいても)100mしかないのだが、新品でこの防水性能ということは水中に持ち込んでもさほど問題ない(というか心配ない)だろう。実際、この夏の終わりには試してみたいと思っている。また、“オールマイティ”な時計として、3時位置のサブダイヤルには赤いレガッタタイマーのカウントダウンが表示される。

Nivada Grenchen's Tropical Chronomaster Aviator Sea Diver
Nivada Grenchen's Tropical Chronomaster Aviator Sea Diver

 ほかにも素晴らしいヴィンテージの要素が見られる。ダブルドーム型のサファイアガラスを採用したこのモデルは13.75mmとやや厚めだが、幅は38mm、ラグからラグまでの長さが46.5mmとヴィンテージウォッチにふさわしい装着感を実現している。このバージョンのCASDはダイヤルの6時位置に“Chronograph Aviator Sea Diver”と記されているが、これは誤植ではない。“ブライアン・ケリー”のヴィンテージモデルのダイヤルにも同じ文字があったが、後のバージョンでは“Chronomaster”と変更されている。本物であることを示す、素敵で小粋な演出である。

 貫通ラグはいいアクセントであり、ニバダをはじめ、クイックチェンジ式のバネ棒をセットしたストラップを標準オプションとしているブランドには敬意を表したい。私はレザーストラップ付きのモデルを手に入れたが、先日レビューしたニバダの新作スキンダイバーに付いていたラバー製トロピックストラップが手元にあったのですぐに交換した。

Nivada Grenchen's Tropical Chronomaster Aviator Sea Diver
Nivada Grenchen's Tropical Chronomaster Aviator Sea Diver
Nivada Grenchen's Tropical Chronomaster Aviator Sea Diver
Nivada Grenchen's Tropical Chronomaster Aviator Sea Diver

 この時計の内部には、ヴィンテージに見られるようなヴィーナスやバルジューのムーブメントではなく、セリタの主力モデル、Cal.SW510 M BH Bが搭載されている(昨年、Worn & Woundではバルジュー72をリファインしたニバダ グレンヒェンの素晴らしい作品を紹介していた)。これは、時・分・秒表示にクロノグラフ機能、文字盤の9時位置にランニングセコンドを配し、3時位置に30分積算計を備えたコンパックスムーブメントだ。私はこれを、ふたつのサブダイヤルを指す言葉として一般的になっているバイコンパックスではなくコンパックスと呼ぶ。というのも、もともとこの言葉はインダイヤルではなく、複雑機構の数を指していたからだ。私は本来の定義にこだわりたい。

 ムーブメントは2万8800振動/時で駆動し、ウェブサイトにはスペックが掲載されていないものの、手巻きムーブメントでパワーリザーブは48時間程度のようだ。手巻きのCASDは実に優れた選択だと思う。ヴィンテージウォッチのように腕になじみ、ヴィンテージウォッチのように巻き上げられ、ヴィンテージウォッチと同じ感覚を与えてくれるプッシャーを備えつつ、新品ならではの信頼性を実現している。

Nivada Grenchen's Tropical Chronomaster Aviator Sea Diver
Nivada Grenchen's Tropical Chronomaster Aviator Sea Diver
Nivada Grenchen's Tropical Chronomaster Aviator Sea Diver

CASDの夜光は、経年劣化した見た目にもかかわらずしっかりと発光している。

 トロピカルダイヤルを備えた新しいCASDを手に入れることによる数少ない欠点のひとつは、時計のほかの部分がとても新しいということだ。私はPre-War Guitars Co.,のスタッフのことを思い出した。同社は、アコースティックギター製造の黄金期に作られたヴィンテージギター(主にマーティン製)を、軽い使用感から破損といえるものまで、さまざまな程度のダメージを忠実に再現している。当初、人々はフィニッシュにひびが入り、新品のマーティンよりも高価なこのボロボロのギターを信じられないと思っていた。きっと何らかのからくりがあるに違いないぞと。その後、人々は実際に弾いてみて、それが単に見た目だけのものではないと気がついた。そのギターは20倍近い値段のヴィンテージギターに近いパフォーマンスを発揮したのだ。

 私はニバダがトラックの後ろで1マイル(約1.6キロ)も引きずられたようなCASDを作ることで巨大な市場が生まれるとは言わないし、そのほうがいいものができると言っているわけでもない。またニセモノよりも使い込まれた本物のほうがいいということもわかっている。私がただ言いたいのは、それがどのようなものか興味があるということだ。だからアルミニウムのベゼルインサートを数カ月屋根の上に放置して、ゴーストが少し出るようにしたあとでこの時計を見ても驚かないで欲しい。光沢のあるサテン仕上げとポリッシュ仕上げの316Lステンレススティール製ケースに擦り傷がつき始めても、私は決して慌てないだろう。

Nivada Grenchen's Tropical Chronomaster Aviator Sea Diver

 「本物(ヴィンテージ)を買えばいいじゃないか」と正論を言う人も少なからずいるのは確かだ。私はずっとヴィンテージのCASDが欲しかったし、今でもヴィンテージコレクションの入門機としては最適だと思っている。しかし3500ドル(日本円で約50万円)前後から始まり、レアなものやトロピカルダイヤルのものでは7000ドル(日本円で約100万円)以上にもなるため、私がコレクターになり始めたころはパテックのクロノグラフのように手が届かない存在に思えたものだ。

 多くのことを学んで数多くの時計に触れるにつれ、私は結局、その価格帯でもう少し魅力的なほかの時計を選ぶか、あるいはもっと高額なものを買うためにお金を貯める必要があると考えるようになった。今ならきっといいものが買えるだろう。しかし1日を通して、やはり敬意を表して大切に着用しなければならない。それが理由で断念することはないが、私は使いやすさと信頼性のためにヴィンテージのお気に入りを新しいバージョンに買い換えることがよくある。

 上記の理由から今のところは、値段もより手ごろで昔のテイストを味わえる新しいものにこだわっている。また、この時計が“平穏で変化のない人生”を送らないようにするつもりだ。きっと大丈夫だろう。そして、この時計がどのように変化していくのかをとても楽しみにしている。

Nivada Grenchen's Tropical Chronomaster Aviator Sea Diver

ニバダ グレンヒェン “ブロードアロー トロピカル クロノマスター アビエイター シーダイバー”、機械式の手巻きクロノグラフ。直径38mm×厚さ13.75mm、全長46.5mmのポリッシュ&サテン仕上げ316Lステンレススティール製ケース、100m防水。ダブルドーム型サファイアガラス。特殊な焼き付け加工によるユニークな“トロピカル”ブラウンの文字盤と針。ムーブメントはセリタのCal.SW510 M BH B。時・分表示と、9時位置のランニングセコンド。3時位置に30分積算計(およびレガッタタイマー表示)を備えたクロノグラフ。28,800振動/時のムーブメント。ストラップとブレスレットのオプションあり。価格:レザーストラップで30万2500円(税込)から。

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HODINKEE Shopはニバダ グレンヒェンの正規販売店です。コレクションはこちらから。トロピカルブロードアローCASDの詳細については、ニバダ グレンヒェンのウェブサイトをご覧ください。