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Dispatch H.モーザー×アルピーヌ・モータースポーツ F1スペインGPでの共演

H.モーザーが仕掛けた、オートオルロジュリーとアナデジコネクテッドテックの意外な融合を読み解く。


轟音が鼓膜を揺さぶり、熱気がまとわりつく。私は日焼けし、水分補給もままならない。なぜならここはモータースポーツの楽園、F1スペイングランプリのフリー走行セッションの現場だからだ。それでも、ファンとしてではなく、ジャーナリストとして冷静さと理性を保とうとしている。

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  先々週のタンタンの記事を読んだ方ならご存じかもしれないが、H.モーザーは2024年のスタジオ・アンダードッグのド派手なデュオを凌ぐ、驚きの2本セットを発表した。この2本のうち特に予想外だったのが、アナログとデジタルを融合させたテクノロジー満載のハイブリッドかつコネクテッドモデルという、新たな試みを体現したストリームライナーだ。同社の象徴的なコレクションに属するこのモデルは、果たしてやり過ぎだったのだろうか?

 観戦席の下に位置するピットでは、アルピーヌのメカニックたちが最終エンジンテストの熱気に耐えている。そんななか、H.モーザーのCEOであるエドゥアルド・メイラン(Edouard Meylan)氏に、新作に対する世間の反応について尋ねた。「非常に好意的でした。思っていた以上にね。というのも、私は常に多くの批判を覚悟しているんです。今回のような、人々の期待とは大きく異なるプロジェクトの場合は特にです。しかし人々は製品そのものだけでなく、H.モーザーの挑戦的な姿勢や、新たな可能性を探る姿勢にも目を向けてくれているんです」と彼は語る。

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H. モーザーのCEO兼オーナー、エドゥアルド・メイラン氏。

 モータースポーツとのパートナーシップはどうあるべきか、今回の新作はその考えを実践的なアプローチで体現したものだ。この取り組みがほかの時計ブランドに対して、パートナーにより深く関与するきっかけになると思うかを彼に尋ねた。「そうなればいいですね。市場はブランドに圧力をかけているとは思いますが、人々が見たいのは、単にアンバサダーが時計をつけているだけのパートナーシップ関係ではありません。そうした関係性は、もはや本物とは思われない時代です。ブランドはその関係を越えて、もっと深く関わる必要があると思います」と彼は答えた。


 技術を詰め込んだストリームライナー・アルピーヌ メカニックエディションに関して、この新たなアプローチの今後の発展の可能性についてメイラン氏に尋ねた。「すでに第2世代の構想は固まっていて、機能や表示の変更を加える予定です。ただ、まずはユーザーの反応を見てからですね。実は第3世代についてもすでにブレインストーミングを行っていて、そこではさらに先を目指すつもりです。そしてF1シーズンが進むなかで、F1チームからのフィードバックも重要になります。なぜなら、彼らにとっては“メカニックエディション”がツールとなるのですから」と語る。

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レース開始が間もなくであることを通知する、H.モーザー ストリームライナー メカニックエディションのデジタルスクリーン。


トラックサイドで試す、ストリームライナー ドライバーズエディション

 このスケルトン仕様のストリームライナーを、ドライバーたちが実際のF1レース中にコックピットで着用し、ちらりと目をやることはあるのだろうか? 答えは明らかに「ノー」だ。というのもFIA(国際自動車連盟)の規定により、レース中の時計やジュエリーの着用は禁止されているからだ。しかし、それによってこのシャープなモノクロームデザインの魅力が損なわれることはない。ラグ・トゥ・ラグの全長は45mmと、直径39〜40mmの多くのモデルよりも短く、42.3mmというケースサイズから想像されるよりもはるかに快適な装着感をもたらす。とりわけ、爽やかなホワイトのスレンダーなラバーストラップとの組み合わせにおいて、その快適さはいっそう際立つ。

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 もちろん、ストリームライナーのブレスレットが持つ、アルマジロを思わせるシックな魅力も大好きだ。しかし放射状のヘアライン仕上げが施されたケースのミッドナイトブルーPVDにホワイトが映えるこの組み合わせは、実に見事である。この価格帯であれば、バックルも同色の仕上げを期待するコレクターもいるかもしれないが、あえて一般的な尾錠を採用したスリムでカジュアルなつけ心地が、むしろ快適性を高めている。

 バルセロナの朝の暑さのなか、BWTアルピーヌF1チームのメカニックたちを取材しつつ撮影していた私は、ハイエンドなスポーツウォッチを片腕にブレスレットやホスピタリティバンドを重ねてつけたダブルリスティング状態だった。

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 雲ひとつないバルセロナの空の下、太陽の強烈な日差しが照りつけるなかでもスケルトンダイヤルの視認性はしっかりと確保されていた。もちろんクロノグラフの秒針が鮮やかなレッドやオレンジであれば、視認性はさらに向上するかもしれない。しかしそれでは、このモデルが持つインダストリアルな魅力が損なわれてしまうだろう。

 休憩中のひととき、私はアルピーヌのドライバーであるジャック・ドゥーハン(Jack Doohan)氏と5分ほど話す機会を得た。それは、彼にとって特別な瞬間でもあった。というのも、このストリームライナー ・アルピーヌドライバーズエディションは、H. モーザーのマニュファクチュールにおいて、彼と(BWTアルピーヌF1チーム所属の)ピエール・ガスリー(Pierre Gasly)氏によって共同でデザインされたモデルであり、この日が彼が初めて量産型の実機を目にする機会だったのだ。

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アルピーヌF1のドライバー、ジャック・ドゥーハン氏。

 「本当にクレイジーだよ。最初に取りかかってからいろんなスケッチやプロトタイプを見たけど、そこから最終的にこういうかたちになるなんて」とドゥーハン氏は語る。「僕はスケルトンデザインの大ファンだし、ストリームライナーは本当に美しい。だけどF1の世界では、何もかもがカバーの下で行われているんだ。だからこうして機構が見えて、内部で何が起きているのか、そしてどれだけディテールに凝ってるのかがわかるのは、本当にクールなことだよ」

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 我々はオープンワーク仕様のダイヤルとそこから見えるローターが、F1エンジニアリングのマイクロな再現のように感じられる点についても語り合った。そしてドゥーハン氏はそのデザインプロセスを振り返ってこう続けた。「正直に言って本当に楽しかったよ。時計に対する情熱は、H.モーザーの工房を訪れパートナーシップを始める前からあったけど、ここまでじゃなかった。でも実際の製造現場を見て、どれだけの努力、時間、そして精度がひとつひとつの部品に注がれているのかを知ってから、H.モーザーのものづくりに心から惚れ込むようになったんだ」

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ピットで試すストリームライナー メカニックエディション

 ケース直径42.6mmのメカニックエディションは、ストリームライナーという名と美学を受け継ぎながら、クォーツとデジタルとが融合した新たな形態を持つモデルである。アナログとデジタルの融合という最新の挑戦に対して懐疑的になる者もいるかもしれないが、私にとってこれはゲームチェンジャーだ。このフォーマットにおいて、時計製造のクラフツマンシップをここまで高度に体現したブランドはほかに存在しない。実際、タグ・ホイヤーやウブロもかつてこの領域に挑戦したが大きな成功には至らなかった。

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 ストリームライナーのケースは、放射状のヘアライン仕上げによって一段上の質感を備えた、堂々たる美しき野獣である。12時位置に配されたフュメラッカー仕上げの小さなインダイヤルはひと目でモーザーのものだとわかる意匠で、視認性の高い夜光が小さな針に備わっている。ポリッシュ仕上げのドーム型ダイヤルは、深いブラックのベース上に浮かぶよう配置されており、鮮明なディスプレイがその存在を際立たせている。この表示を実現しているのが、スイスのスマートウォッチメーカー、シークエントと共同開発した独自ムーブメント Cal. DI0である。

 日常使いにおける機能性にも優れており、ケース右側のセンタープッシャーによって直感的に機能が呼び出せる。世界各地の主要都市を一覧で表示するGMTモード、パーペチュアルカレンダー、そしてスプリットセコンド クロノグラフを搭載し、それぞれの機能は応答性のいいふたつのプッシャーで操作をする。ハイブリッドムーブメントは時刻表示のみのモードで約1年のパワーリザーブを誇り、そのうえケース左側に配された大型のSYNCボタンもまた好奇心をくすぐる存在となっている。

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 またアプリと接続することで、直近3戦分のF1レーススケジュールが自動的にダウンロードされ、それぞれに対応するカウントダウンやアラートがダイヤル上に示される。フリープラクティスや決勝レースの前にはカウントダウンメッセージが表示され、レース開始の約60分前には振動による通知が行われる。同様に、残り30分、10分、5分、そして1分というタイミングでも振動で知らせてくれる。

 これは、レースファンにとって非常に魅力的な機能である。だがこの時計を真に特別なものにしているのは“チーム”機能である。BWT アルピーヌF1チームのピットクルー数名に話を聞くと、すでにこの時計を着用し、実際に活用していた。SYNCボタンを1回押すとレースのカウントダウンが表示され、2〜3秒長押しすると12時位置のアナログ時刻表示以外の機能がすべてロックされ、レースチーム専用の通信ツールへと切り替わるのである。このレーシングモードでは、バイブレーションの直後に最大18文字の重要メッセージが表示され、さらにメッセージが長い場合にはフォントを縮小することで最大24文字までの表示が可能となっている。

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 表示は、直射日光下であっても非常に見やすく、チーム無線よりも速く情報を伝達できると、シークエント社のCEOであるエイドリアン・ブッフマン(Adrian Buchmann)氏は説明する。「バーレーンでのレースでは無線の死角が存在し、何度か信号が届かないことがありました。レーシングモードにロックされたこの時計は、そのような状況での情報伝達のセカンドソースとして機能します。チームのiPadから送信し、ピットエリアに追加アンテナを設置することで対応しています。iPhoneのBluetoothは5〜10mですが、我々は小規模環境用の長距離Bluetoothを使っています。ここピットレーンでは最大50mの通信範囲をカバーしているため、ほかのどのネットワークよりも高速に情報を届けることができます」

「市場はブランドに圧力をかけているとは思いますが、人々が見たいのは、単にアンバサダーが時計をつけているだけのパートナーシップ関係ではありません。そうした関係性は、もはや本物とは思われない時代です。ブランドはその関係を越えて、もっと深く関わる必要があると思います」

– H. モーザー CEO エドゥアルド・メイラン

 また、ブッフマン氏はエドゥアルド・メイラン氏のさらなる開発に対する考えや、リストテックにおけるより持続可能な視点へ賛同を示している。「H.モーザーとこのプロジェクトを始めたとき、私がいちばん懸念していたのは、10年後、15年後、あるいは20年後にこの時計たちがどうなっているかということでした。初期のポラールやガーミンのウェアラブルを見れば分かるように、すでにすべてが時代遅れで、実質的に使えなくなっています。実際、現在では時刻さえ設定できないものもあるのです。」と語る。ブッフマン氏との会話、そして先週公開されたタンタンによる2本の時計に関する記事へのコメントをふまえると、この非常に予想外な時計に対する戦略の一端を垣間見る、興味深いひとときであった。

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F1を通じてH.モーザーとアルピーヌをつなぐもの

 青空とスペインの熱波に包まれたF1レースウィークという華やかなサーカスに加われば、どれだけ客観的なレビューであっても、その評価に色がついてしまうのは避けられない。しかし、このスピード、轟音、そして匂いが織りなす美しき奔流を前にしたとしても、今日のH.モーザーが見せたレーシングパートナーシップへの取り組みにはただただ感嘆させられた。

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 すべての人がスマートウォッチやコネクテッドウォッチ、あるいはストリームライナー メカニックエディションのようなハイブリッドモデルを求めているわけではない。だが精緻に仕立てられたスティールケースと快適な装着感、そして控えめながら実用的なテクノロジーの融合は、リストコンパニオンとして今週末をとても楽しいものにしてくれた。そして私はすっかり魅了されたのだった。だがもうひとつのモデル、ミッドナイトブルーのドライバーズエディションも忘れてはならない。こちらは驚くほど現代的なクロノグラフであり続けるモデルに対して、快適で控えめなモノクロームの解釈を与えた1本である。さらに、さりげなくレーシング要素も取り入れられている。

 これは完全に憶測に過ぎないが、もしかすると、いや本当にもしかするとだが、メカニックエディションを活用したことがBWTアルピーヌF1チームのパフォーマンス向上にひと役買ったのではないか? ピエール・ガスリー選手は、バーレーングランプリ以来となるトップ10入りを果たし8位でフィニッシュ、チームに4ポイントをもたらした。コンマ数秒を争うこの競技においては、わずかなアドバンテージがシーズン終盤には大きな違いとなって現れるのだ。

詳しくは、H.モーザーの公式サイトをご覧ください。

Photos by Thor Svaboe