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In-Depth オーデマ ピゲは時計製造においてブラックセラミックをいかにして人気素材にしたのか

夢があるからこそできあがったもの。

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数週間前、オーデマ ピゲは「ロイヤル オーク ダブル バランスホイール オープンワーク」を発表。Webサイトの商品ページにこの時計を掲載するのみで、プレスリリースやメディアへの電撃発表はしないという彼らのニューノーマルなやり方で登場しました。同社は、どちらも必要ないことを知っていたのでしょう。愛好家コミュニティと時計関連のインターネット情報は、オーデマ ピゲに代わってそれを大々的に取り上げました。Instagramを開けば、投稿やストーリーズの数回に1回はその時計についての投稿や写真がアップされており、それを見ずには進めないほど。これは、2020年で最もホットな時計でもあり、最も入手困難な時計の一つであることは言うまでもありません。

 ブランドとしてのオーデマ ピゲについて、同社がどのようにして何千年の歴史をもつ素材をマストハブはものへと変えたのか、そして時計業界の状況など、多くを明らかにします。


時計製造におけるセラミックス

ブラックセラミックケースを初めて採用した「IWC ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー・クロノグラフ」。

 ロイヤル オーク ダブル バランスホイール オープンワークのブラックセラミック製の最新モデルに入る前に、セラミックスについて簡単におさらいしましょう。 セラミックスは、基本的には鉱物と結合剤で構成された物質で、化学組成がガラスのような固体になるまで非常に高温で加熱することで、できあがるもの。人類は2万5000年ほど前から陶器(セラミックス)を作っており、最古の陶器片は紀元前2万4千年にまで遡ります。

 時計製造に使われる現代のセラミックスは、この基本的な定義を踏襲していますが、食器や花瓶に使われるものとはかけ離れています。それは酸化物セラミックスと呼ばれる現代の化合物で、金属の代わりに使うことができ、ひび割れや傷が付きにくいという特徴をもっています。オーデマ ピゲは、酸化ジルコニウムと酸化イットリウムをベースにしたセラミックを使用(酸化ジルコニウムセラミックは、高級時計に多く使われています)。

セラミックを超えた一歩

 セラミックは、時計製造における材料科学の最終到達点ではありません。さらなる技術革新の余地は十分にあります。その一例が、現在IWCに在籍する科学者が開発した独自の素材「セラタニウム」です。セラタニウムはチタンの合金で、金属自体にセラミックスが埋め込まれています。熱を加えると、セラミックスのように化合物全体が変化し、チタンのように軽量で割れにくく、セラミックスのように色がつき、傷が付きにくい素材ができあがりるのです。

 IWCは、1986年頃に発表された「ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー」を皮切りに、セラミック製ケースを採用した最初の時計ブランドです。1994年にその分野で革新を続け、最初として有名なセラミッククロノグラフであるRef.3705をリリース。そこから、あのシャネルJ12(セラミックブレスレットをもった最初のモデルの一つ)やオメガのセラミック製シーマスター、スピードマスター ダーク サイド オブ ザ ムーンなど、セラミックウォッチの様々な系譜を僕らは目にしてきました。もしあなたがこの沼にハマりたいのであれば、もっと深く掘り下げてみることもできます。金属に比べて摩擦係数が低く、幅広い温度範囲にわたって安定し、耐久性に優れているため、ムーブメントにセラミック部品が採用されているのを見つけることもできます。

 僕は、オーデマ ピゲが初めてセラミックスを採用したモデルを調べてみましたが、いまいちピンと来ませんでした。少なくとも10数年前のロイヤル オーク オフショアにセラミック部品を搭載したモデルが発表され、その後、ブラックとホワイトのセラミックケースをもったロイヤル オーク オフショア ダイバーが発表されていました。これらのダイバーズウォッチは、特にセラミックスの仕上げにおいて、現在のセラミック製ロイヤル オークの起源となっています。通常、ブラックセラミックは、鏡面仕上げが施されているか、マットなサンドブラスト仕上げが施されていました。これに対し、APはダイバーのケースに垂直方向のサテン仕上げを施し、他のセラミック製ウォッチとは一線を画す金属質な外観を与えました。しかし、これはほんの始まりに過ぎません。

「ロイヤル オーク オフショアダイバー」でフォージドカーボンケースにセラミックベゼルをもったモデル(左)と、フルブラックのセラミックケースとベゼル(右)を組み合わせたモデル。

 「8年前、我々はセラミック製のベゼルやケースを製造していました。私がCEOに就任したとき、セラミック製のブレスレットを想像しました。それこそが理想だと思ったからです」とオーデマ ピゲCEOのフランソワ−アンリ・ベナミアス氏は言います。「私が得た答えは、それは不可能だろうということでした。複雑過ぎたため、永遠にかかるでしょうと言われました。そしてこう返したのです。“私はまだ48歳です。それを成し遂げるための時間ならたっぷりある。信じられないほど凄いものができますよ”」。

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ブラックセラミックのロイヤル オークたち

ブラックセラミック製のロイヤル オーク ダブル バランスホイール オープンワークの最新モデル(写真:  オースティン・チュウ)。

 オーデマ ピゲはSIHH2017で、ブラックセラミックのロイヤル オーク パーペチュアルカレンダーを発表し、大きな波紋を巻き起こしました。これまで誰もこのような時計を見たことがありませんでしたが、オーデマ ピゲは大掛かりなプロモーションの達人として、この発表を巧みに処理しました。彼らは大騒ぎをすることなく、コレクターや時計好きのセレブたちに興奮を与えたのです。これは、それ以来、彼らのリリースにおける重要なモデルとなりました。

 それからこのコレクションには、他にもオールブラックセラミックのロイヤル オークが4本登場。パーペチュアルカレンダー オープンワーク、トゥールビヨン エクストラ シン、トゥールビヨン クロノグラフ オープンワーク、そして数週間前に発表されたダブル バランスホイール オープンワークです。また、オフショアには、ブラックセラミックケースやホワイトセラミック、さらにはロイヤル オーク パーペチュアル カレンダーのオールホワイトセラミックも存在します。

これまでにフルセラミック化されたロイヤル オークの5モデル。

 これらの時計はどれも複雑かつ高価です。ダブル バランスホイール オープンワークは、800万円を軽く超える価格ですが、オフショア(セラミックブレスを搭載していないモデル)以外のモデルの中では、最も手頃な価格で、唯一1000万円を切るモデルです。これは、標準的なステンレススティール製のロイヤル オークのほぼ4倍の価格であるにも関わらず、全てがそうなのです。

 「この時計は、オープンワーク、手仕上げ、アバンギャルドなデザイン、素材の革新など、常に完璧を追求し続けてきた成果であり、これに僕は大賛成です」とオーデマ ピゲのコレクターであり、Wristcheckの創始者であるオースティン・チュウ氏(Instagramで@horoloupeとしても知られる人物)は述べた。「オープンワークは、APの特徴の一つです。彼らがここで成し遂げたことは、彼らが技術に情熱を注いだとき、いかに創造的で才能のある時計職人たちであるかを示しています」

ブラックセラミック製のロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー オープンワーク。

 これまでのところ、ブラックセラミックのロイヤル オークは全て限定モデルであり“限定生産”の時計で、トゥールビヨン クロノグラフ オープンワーク以外は全てオーデマ ピゲのブティック限定モデルです。つまり、入手が難しいということ。本当に難しく、オーデマ ピゲのブティックの既存顧客である必要があります。最初のロイヤル オークを買おうと思って通りを歩いていても、830万円もの新札紙幣を詰め込んだダッフルバッグを持っていたとしても、何の役にも立ちません。

 “限定生産”というのは、「数多くは作っていないですが、何本かは言えません」ということを表しており、これらの時計が実際にどのくらいの希少性があるのかを知るのは難しいところ。その価格であっても非常に高い需要であるため、比較的大量に作ったとしてもウェイティングリストは作られることになるでしょう。僕はべナミアスCEOに、生産数を共有してもらうことが可能か尋ねました。彼はあまり共有することはできないと言った後、非常に役立つ詳細を一つ提供してくれました。オープンワークパーペチュアルカレンダーの発売により、オリジナルのパーペチュアルカレンダーの生産が終了。全てが終了した時点で、APはオリジナルのブラックセラミック パーペチュアルカレンダーを600本強製造することになるそうです。

この流行の火付け役となった、ブラックセラミック製のロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー。

 それは、APの全体的な生産数の文脈で考えると、依然としてかなり希少です。オーデマ ピゲは年間約4万本の時計を製造しており、2017年1月にセラミックのQPを発表。4年間で約16万本の時計が工場を離れたことになりますが、そのうち、ブラックセラミックのロイヤル オーク パーペチュアルカレンダーはほんのわずかに過ぎないのです。


しかし一体なぜ?

2本のオープンワークブラックセラミックのロイヤル オーク(写真: オースティン・チュウ)。

 「フルセラミックのブレスレットを扱ったことがある人なら、これらの時計がなぜこれほどまでに注目されているのかがよく分かるでしょう」とチュウ氏は述べる。「ブラックセラミックのロイヤル オークのケースとブレスレットの光沢と細部へのこだわりは、美しさと着け心地の良さの両点で他の追随を許しません」

 チュウ氏がここで言及するディテールへのこだわりは、APがケースとブレスレットを金属であるかのように仕上げるという珍しい方法にあります。ブレスレットのコマやベゼルの外側の面にある、磨き込まれたエッジと対照的な、均一で垂直なラインを持つサテン仕上げの表面をもっています。セラミックのような硬い素材では、このようなディテールを実現するのは非常に難しいのですが、ロイヤル オークとその前の世代とを視覚的に結びつけているのは、オーデマ ピゲならではの特徴です。

 クリスティーズの時計スペシャリストであるレベッカ・ロス氏に、これらの時計は長期的にコレクターにアピールできると思うかどうかを尋ねたところ、彼女はこれまで僕が考えたこともないようなことを言い出しました。「例えば、ゴールドの時計に見られるような、時間の経過と共に素材が欠けてしまうようなことは、セラミックでは起こりません」と彼女は言います。ヴィンテージのロイヤル オークに関しては、これは非常に重要なことです。この時計の魅力は、シャープな形状と丁寧な仕上げがほとんどの部分を締めます。エッジが丸みを帯びてきたり、サテン仕上げの表面が鈍くなったりすると、その時計の魅力は大きく失われてしまうのです。このセラミックモデルでは、そのようなことはあり得ません」

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学びとして

ロイヤル オーク ダブル バランスホイール オープンワークのムーブメントは、ブラックセラミック製ケースとブレスレットとの相性が抜群(写真: オースティン・チュウ)。

 では、同社はこのブラックセラミックの波にあと数年乗り続けるのでしょうか? ここにはまだ開拓すべき領域がたくさん残されていて、それだけ需要があるため、ブラックセラミックがすぐに消えるとは思えません。例えば、ブラックセラミック製のROジャンボがあったなら、どれだけ欲しくなるか、想像してみてください。

 そうは言っても僕たちは、新しい素材が時代を席巻するための準備をしているのだと思います。それは何でしょうか? 新しいハイテク素材? 独自の金合金? 下のコメント欄で、あなたの考えを教えてください。あなたの推測は、僕のと同じくらい価値があります。

 オーデマ ピゲでセラミックを長期的に使用していくのかと尋ねたとき、ベナミアス氏は「分からない」と正直に答えました。
「私達は常に素材にこだわってきました。セラミックは、私たちが使うことができるもの、そして私たちが遊ぶことができる素材へのもう一つの冒険でした...これからも、高級時計の世界で通用する新しい素材を追求していきたいと思います。20年後、30年後には、自己修復する素材を使っているかもしれません。誰がそんなこと分かるでしょうか?」