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In-Depth ムーブメントデザインが、時計のなかで最もセクシーな要素となるには?

シースルーバックで見せつければよいというわけではない。

時計界隈の私の長年のパートナーである時計職人ジョン・デイビス(John Davis)氏は、2000年代前半にThePuristS.comで時計の技術的なレビューを書いていた。セイコー ブラックモンスターのレビューの冒頭で次のような印象的な見解を述べている。「時計は機械である」と。もちろん彼は正しい。時計とムーブメントは、何よりもまずやるべき仕事をするためのメカニズムである。そして、多くのムーブメントが実用的な外見をしている。数の上では、おそらくほとんどのムーブメントがそうだろう。しかし、それは外見を眺めてもつまらないということを意味するわけではない。私は、どのような種類のムーブメントであっても機械として十分におもしろく、特にその人が機械式時計に初めて触れるのであれば、感じたままに驚嘆することができるはずだという信念を持っている。私が初めて買ったセイコー5の7S26の動きを見るのが楽しみだったように。

 2892、2894、7S26のような量産型ムーブメントは、広義には確かにデザインされているが、そのデザインはすべて工学的な前提に基づいており、最小の製造コストで最大の耐久性と精度を得るために、すべてがミクロン、センチメートル単位で計算されているのである。しかし、ムーブメントの設計は、然るべき人の手にかかれば、芸術的な訓練にもなるのだ。プロポーションのコントロール、ムーブメントの仕上げの効果、プレート、ブリッジ、歯車のレイアウトを適切に組み合わせることで、時間と時計製造に関する哲学の表明のようなムーブメントを得ることができるのだ。7750のようなベースムーブメントが時計製造におけるレーション(軍用携行食)に喩えるならば、デュフォー氏のシンプリシティのようなムーブメントは時計界のル・ベルナルダン(NYにある高級レストラン)のディナーにふさわしい存在と言えるだろう。

Valjoux 7750 Chronograph Movement

上の画像はローターを取り外した純正のバルジュー 7750クロノグラフである。経済性を追求したお手本ともいうべきムーブメントで、信頼性と精度に矛盾することなく、すべてが可能な限り安価に仕上げられている。私はこれまでムーブメントの仕上げについて嫌になるほど尽きることなく書いてきたが、このバージョンの7750には仕上げが一切施されていない。しかし、ここで見るべきはムーブメントのレイアウトとデザインだ。ムーブメントのすべての部品が、テンプ、輪列、脱進機、クロノグラフレバー、カム、ハンマーなどの可動要素をできるだけしっかりと固定できるように設計されている。デザインの観点では、例えば緊急用救命ボートのようなものと共通するところがある。つまり、目的に直接関係のないものは徹底して排除されているという点だ。正直なところ、このムーブメントはお世辞にも美しいとは言えず、ベッドから出た直後のコーヒーを飲む間もないような状態ではあるが、それでもある程度の内部調和が感じられるのは、あるべき場所にあるべきものが備わっているからである。

 スイスの伝統的なムーブメントレイアウトの表現として、この時計はどこに位置するのだろうか。どこにも当てはまらない。これは現代的な工業用ムーブメントのデザインであり、そのレイアウトを決定する制約はドイツ製でも日本製でもカナダ製でも同じように存在する。レンガはロンドンでも東京でもシェネクタディ(NY州の郡)でも、1秒間に32ft(9.7m)の速さで落下する。これは、基本的な物理法則の必然的な結果としてデザインされているのだ。

 デュフォー氏のシンプリシティについて話そう。

Movement, Dufour Simplicity

 機能的には、7750とシンプリシティの構成部品は同じだ。地板、ブリッジ、テンプ受けなどの固定部品が可動部品を固定し、それらが正しく相互作用するようにする。しかし、明らかにシンプリシティは控えめに言っても美観を意識してデザインされている。ムーブメントの仕上げもさることながら、プレートやブリッジの配置、そしてそれらの相互作用など、デザインも陳腐な表現ながら非常に優れている。たとえば、香箱、2番、3番車のブリッジと4番車のブリッジの境目を見てほしい。ムーブメントの端では互いに正確にミラーリングし、3番車の受け石に向かってギャップが移行するとき、パ・ド・ドゥ(二人舞踏)の最後にダンサーが離れるように優雅な空間が広がる。そして、大きなブリッジの端が窪み、波が押し寄せるように鋭く尖った先端へと隆起する。

 ムーブメント全体がその調子なのである。スモールセコンドを搭載した伝統的な手巻きムーブメントの受け石は、当然ながら対数スパイラルを形成するように配置されているが、このデュフォー氏のムーブメントデザインにおける天才性は、その関係にスポットライトを当てた点にある。

Patek Calatrava 6119
Patek caliber 30-255

パテック フィリップが時計製造の特殊な問題に取り組んだ興味深い作品を紹介しよう。新作のRef.6119 カラトラバだ。手巻き式の時刻表示専用ハイエンドムーブメントは、最近ではちょっとした絶滅危惧種で(最近よく言う気がする)、まったく新しいムーブメントを開発することは稀なことだ。このムーブメントでは、パテックのムーブメント製造とデザインの歴史を踏襲した部分と、65時間のパワーリザーブを得るためにふたつの香箱を備えるなど、純粋な技術的配慮の両方がデザインに影響を与えている。その点ではシンプリシティとは異なるものの、新しい現代的なムーブメントとしてはかなり珍しいスモールセコンドを搭載している。待てよ、現代の時計にだってスモールセコンドを搭載する時計は数多いぞ、という声が聞こえるが、ほとんどの場合、スモールセコンドはセンターセコンドとして設計されたムーブメントに追加で組み込まれたものなのだ。

 仕上げの問題はさておき、パテックはムーブメント全体のデザインにおいて実に興味深い仕事をしたと思う。主ゼンマイを収める香箱のブリッジの大きさにもかかわらず、シンプリシティのような伝統的なレイアウトが持つ、自然で螺旋状の美しさを保つことに成功したからである。ムーブメントのデザインは香箱のブリッジによって決定される(かなり大きな面積を占めるため当然のことではある)が、香箱の形状はコントラストと補完性の両方に寄与している。最初はムーブメントのレイアウトがあまり好きではなかったのだが、ここ数ヵ月ですっかり気に入った。

 一方、私がいまだに捉え難いと悩んでいるのが、こちらのモデルだ。

Audemars Piguet Royal Oak 16202
Audemars Piguet Caliber 7121

これが何であるかは誰にとっても明らかだ。新しいロイヤル オーク Ref.16202と新しいCal.7121だ。50周年記念のローターについては、もう文句を言うつもりはない(ただ、スモークダイヤルのイエローゴールドモデルは、なぜかほとんど気にならない、ということは言っておこう。YGは私を寛容な気分にしてくれるのかもしれないが)。

 Cal.7121は、それ単体で見れば、完全に立派な現代のハイグレード超薄型ムーブメントであり、私はCal.2121よりも堅牢で、ほぼ確実に高精度、そして確実にメンテナンスがしやすいように設計したオーデマ ピゲに拍手を送りたい。テンプ受けと香箱受けが互いを引き立てあっていて、見た目も悪くなく、かなり好感触だ。でも、どうしても好きになれないのだ。好きになれないだけでなく、怒りを覚えるのである。ムーブメントに怒りを覚えるなど十分非合理的ではあるが、怒りを覚える理由が間違ったことをしているからというならまだしも、それがCal.2121でないことに怒っているのだ。両親が離婚して、母親が全力を尽くして親切にしてくれる完全にまともな男と再婚した子供のような気分だ。私はそいつに向かって「お前なんて絶対に私の本当の父親にはなれない!」と叫び、自分の部屋まで歩いて行ってドアを叩きつけたい気分なのだ。それはフェアだろうか? もちろん、フェアではない。でも今はCal.2121が私にフライフィッシングや自転車の乗り方を教えてくれたこと、毎晩寝る前のお話を読んでくれたことを忘れることができない。ムーブメントがそんなことをするわけないのだが、そんな気分なのだ。

 時計製造や時計には客観的な尺度もある。防水性、正確なスペック、パワーリザーブなどだ。仕上げに関しては準客観的な尺度である。多くの知識や時計の観察なくしては判断することが難しいからである。しかし、ダトグラフとセリタのSW300にクロノモジュールを追加した時計を並べて、どちらが優れているかという議論が成立するとは思えない。しかし、デザインは、ほぼ主観的なものであり、ムーブメントのデザインに対する反応は完全に個人的なものであるだけでなく、まったく非合理的な場合もあるのである。

 つまり、こういうことだ。例えば、ほうれん草が嫌いなら、スウィートグリーンのサラダでもウッドコックのグリルとフォアグラのパテなどの高級料理でも同じことなのだ。アメリカを代表する美食作家M.F.K.フィッシャーの言葉を借りれば、「知ったこっちゃない!」のだ。