ADVERTISEMENT
ベルの音を聞きながらドアを開けると、目の前に広がったのは、乱雑に並んだキャビネットやテーブル、陳列ケース。平らな面のひとつひとつに、収集品や奇妙なもの、忘れ去られた装身具がぎっしりと並んでいる。お土産のショットグラス、埃をかぶったLP、一つ一つ袋に入った釣り用ルアー、懐かしいモデルカー、アンティークのガラス瓶、素敵なヴィンテージ家具、カナダのホッケーチームを記念した複雑怪奇なアンティークスプーンを想像したなら、それがまさに現実にそこにある。
しかし、その全部を(その気があれば)持って帰れる。オンタリオ州ハミルトン郊外にある馬蹄形の平屋建ての砂利の駐車場に車を停めたとき、僕はあるお宝を目当てにやってきていた。家具や芝生の装飾品、中古の自転車に囲まれたその場所は、窓から見える景色が年代物の看板や詰め込みすぎのキャビネットの裏側で見えなくなっているほどで、溢れんばかりに広がっていた。駐車場の向こう側では、屋台がフライドポテトやホットドッグを提供していた。ひとまず昼食にしようと思った。
時計の袋売りが入手できる場所
数週間前、僕はオンタリオ州の中古品小売業界の内通者(匿名希望のため、“父”と呼ぶことにする)からテキストメッセージを受け取っていた。そのメッセージは、ある市場(基本的に業者向けのガレージセール)で、時計を袋売りしていることを僕に知らせるためのものだった。
こういう場所にくると血が騒ぐ。
伝説のお宝を見つけるチャンスを逃すまいと、僕は期待に胸を膨らませながら周囲を見回した。ポケモンカードやゲームソフトのカートリッジが保管されている鍵付きのキャビネットは無視した。床から天井まで積み上げられたブックシェルフ型スピーカーや各種ステレオコンポのコレクションも、ほとんど目に入らなかった。気に入ったコーヒーテーブルがあったが、値段が気に入らなかった。
数個のキャビネットごとに、僕は腕時計の小さなディスプレイを発見した。たいていは、安物のレプリカ、ちゃんとした懐中時計、ノーブランドの奇妙な記念モデル、たまにセイコーやカシオ、ヴィンテージのグリュエン、そしてひどい偽物が混ざったものだった。そんなこんなで、お世辞にも収集価値のあるものはないものの、ホッケーをテーマにしたガラクタの中から、特別なお宝を見つけ出そうと、静かに複数の部屋を歩き回るのはとても楽しいひと時だった。
そして、それはそこにあった。アンティークコンテストを記念して作られたような皿の上に、僕の時計の入ったバッグが、ぽつんと置かれていた。このブースのコレクションの中で目立つものではなかったが、手書きのラベルにははっきりと“時計袋売り‐50ドル”と書かれていたのだ。
ほぼすべてのケースとキャビネットを洗いざらい見たという安心感から、僕はバッグをレジに運んだ。値切ろうかとも思ったが、日曜の午後にこの店を開いている数少ない店員を相手に無理はしないことにした。それに、50ドルって、いい響きではないだろうか?
大切なのは中身だ
帰宅後、期待に胸を膨らませながら、袋の封を切った。怪しげな袋の中に手を入れ、腕時計を一掴みした。手触りは、車のカップホルダーの底にある小銭のような感じだ。薄汚れて、忘れ去られ、そしてほんの少し毛羽立ったようなあの感触だ。
僕はテーブルの上に賞金を広げ、すぐに、この物語を始めたときから皆さんが想定していたであろうことに気づいた。僕のなかの深いナイーブな部分は、僕は金を掘り当てたかもしれないと信じていたが、この取引の現実は、おそらく僕の投じた栄光の50カナダドルよりもかなり低い価値だった。
僕は必ずしも怒ることができない。ゴミ袋いっぱいのジーンズを買ったら、JNCOやBugle Boysブランドのものが出てきてもおかしくないと割り切っているからだ。
その中には、24本の時計と、1本の深遠なる魅惑のブレスレット(後ほど紹介する‐乞うご期待)が入っていた。24本すべてがクォーツ製で、現行モデルはなく、大半は女性用と思われるモデルで、何本かは同僚も僕にも謎のブランドだった。そこで、良いもの、良くないもの、そして不明なものに分類してみたい。
よいもの
ちなみにこれらの区分けは、僕の興味と、ダイヤルにブランドが表示されているかどうか、判別できるかどうかで判断している。
“良いもの”は、他の時計よりも特別な存在であると感じた4本の時計を選んだ。半透明の緑がかった茶色のスウォッチ(33mm)は、ダイヤルに“Swatch AG 1996”と書かれている。ストラップは無傷だが、バックル(ブルーなので非オリジナルかもしれない)がプラスチックから真っ二つに割れている。
お次は、ジュピターというブランドのレディースブレスウォッチだ。幅11mm強のダイヤルが、わずか18.5mm×27mmのケースに収められており、美しいバロック様式のケースとブレスレットを纏っている。スティール製とは思えないほどの軽さだが、中空リンクによるものかもしれない。その小さなダイヤルにもかかわらず、視認性はかなり高く、この時計を身につけて楽しむ人の姿が目に浮かぶようだ。もちろん僕ではない誰かの話だ。
可憐なジュピターとは対照的に、黒メッキのケースを持つアーミーブランドのフィールドウォッチは、バネ棒1本でストラップにぶらさがっている。ベルクロストラップには“Sport Watch”と誇らしげに書かれている。まるで、サッカーが得意だったおじさんのように。膝を痛める前の話だが。
僕は夜光ダイヤルになると絶望的なまでのロマンチストなので、アーミーベルトはカットし、新しいバネ棒と新しい電池を手に入れるかもしれない。
最後に、2000年代前半に作られた、宗教をテーマにした魅力的な変り種を紹介しよう。シンプルな光沢のある精巧なメッシュブレスに、ブランド名やケースバックに刻印がないこの時計は、記念に作られたものと思われる。ダイヤルの周囲には、“2001年4月27日~5月2日、アレクサンドリア総主教シェヌーダ3世の訪問とシカゴの聖マルコ・コプト正教会の聖別式を記念して”の表記がある。そして、これを見てもチューダー ペラゴスは表記が多すぎると感じるだろうか!?直径33mm、ケースバックは保護シールで覆われたままのグッドコンディションの一品だ。もし読者にシカゴにあるこの教会の信徒がいれば、この時計を喜んで送るので知らせて欲しい。
よくないもの
この種々雑多な時計たちは、古びたスタイルと無味乾燥さで分類されるが、僕は必ずしも怒ることができない。ゴミ袋いっぱいのジーンズを買ったら、JNCOやBugle Boysブランドのものが出てきてもおかしくないと割り切っているからだ。
このグループには、直径33mmの就航15周年記念ウォッチや、ラグが一体化しブレスレットが広がったドラッグストアで売られているようなウォッチ(そのうちの1本はベゼルが欠けているようだ)が数本ある。最後に、Guess、Vanity Fair(グリュエン製)、American Eagle(いくつかの「石」が欠けている)、Marie Lourdesの4本の女性用腕時計が入っていた。
近所のリサイクルショップのジュエリーケースをよく見たことがある人なら、この種の時計が普通に売られていることをご存じだろう。
不明なもの
この20数本の腕時計を締めくくるのは、まったくノーブランド、あるいはブランド不明の13本の腕時計だ。このうち、8本は“N”をロゴにした奇抜なブランドである。画像検索やHODINKEE Slack、さらにはInstagramを駆使しても、このブランドが何なのか、確たる見当がつかない。もし、このロゴに見覚えがあれば、ぜひコメントで教えてほしい。
“N”ブランドの謎とは別に、きちんと刺繍が施されたものや、デニム風ストラップとダイヤルが(とても)ゆるいF.Pジュルヌ風になっているものなど、カフ型ブレスの時計が数本追加されている。また、ブロンズ仕上げの25mm径の時計には、2フィート(約61cm)のストラップが付属し、マルチループを重ねたようなデザインになっている。
投資効果やいかに?
これは間違いなく楽しい試みであり、あなたの子供、姪、甥がクォーツ時計を持っていることを確認するまともな方法(あげようと言っても、持ってるからいらないと言われるだろう)だが、それは当然のことながら、50ドルの袋売りは時計を得るための賢い方法というよりは、トリックであることがわかった。とはいえ、もし自分がHODINKEEの経費枠を持っているのにもかかわらず、時計の袋売りを入手するために使っていないのなら、むしろ一種の問題児ではないだろうか?
勝ち取った気分にはなれないかもしれないが、何も失っていないことは確かなのだから。
番外編:深い謎めいたチャームブレスレット
この袋売りの最後のネタとして、不思議な2連のチャームブレスレットを紹介しよう。このブレスレットは、一人の哀れな人の手首を飾るトーテムコレクションというよりも、様々なチャームを保管するであったと推測される。その多様性の豊かさをご覧いただき、本稿の締めくくりとしたい。
話題の記事
Hands-On ローラン・フェリエ クラシック・ムーンを実機レビュー
The G-SHOCK MRG-BF1000B
The Sports Section あるサッカー選手の新たな目標、それは時計職人になることだった