我々が知っていること
ダニエル・ロートの復活は、トゥールビヨン・スースクリプションのイエローゴールドモデルから始まった。この時計は、ルイ・ヴィトンのラ・ファブリク・デュ・タンの技術を背景に、静かで自信に満ちた形で登場した。スースクリプション形式で販売され、限定20本のみの生産という希少性を持ちながら、過去へのオマージュと同時に高い技術力を示したモデルであった。この特別な時計の発表は2023年3月だったが、その後2024年8月にはトゥールビヨンのローズゴールドバージョンが登場した。こちらはレギュラーモデルとして、製造数量に制限があるものの、スースクリプションではなく通常販売となった。同じ流れで、超薄型のエクストラ プラットも展開。イエローゴールドのモデルはスースクリプション形式で2025年1月に発売され、約3ヵ月後にローズゴールドバージョンが発表された。
ロートブランドの復活による第2のモデル、そのふたつ目のバリエーションとしてエクストラ プラットのローズゴールドモデルが正式に発表された。本作は5Nローズゴールドで仕上げられ、デザインはほぼそのままにスースクリプション方式ではなく特定の小売店を通じて販売される“通常”モデルとして展開される。
時計のシルエットは変わらず、縦38.6mm×横35.5mmのダブルエリプスケースに、厚さはわずか7.7mmという超薄型設計が特徴だ。今回のローズゴールドモデルは5N合金の温かみが加わり、すでに優雅なラインを一層やわらげている。また新たな生産戦略により、ブランドの存在感をさらに広げる狙いがうかがえる。さらに、今回のモデルからはシースルーバックが採用された。これまでのスースクリプションモデルはクローズドバックだったが、2025年の今ではムーブメントの美しい仕上げを鑑賞できるようになっている。これまでのスースクリプションモデルは時計愛好家にとって特別な存在だったが、新しいデザインでは実際にムーブメントを目で確認できる喜びも加わったのだ。
時計を裏返すと、昨年発表されたCal.DR002が姿を現す。これは手巻きムーブメントで、ルイ・ヴィトンのラ・ファブリク・デュ・タンにおいて、マスターウォッチメーカーであるミシェル・ナバス(Michel Navas)氏とエンリコ・バルバシーニ(Enrico Barbasini)氏の指揮のもと設計・仕上げが行われたものだ。エクストラ プラットおよびこのダブルエリプスケース専用に製造されたCal.DR002は、まさにダニエル・ロートに期待されるすべてを体現している。仕上げに関しては、写真だけでも手作業による丸みを帯びたポリッシュ仕上げのアングラージュ(面取り)や鋭い角の仕上げが確認できる。これらは手作業でなければ実現できない精緻なディテールだ。また、今回のモデルでは巻き上げ時のクリック感にも特別なこだわりが見られる。実際に手に取って体感したが、このこだわりは確かに価値があるものだった。エクストラ プラットの巻き上げは非常に心地よい体験である。
新しいエクストラ プラット ローズゴールドのダイヤルも際立っている。先代のエクストラ プラット スースクリプションと比べてもその違いは明らかだ。今回は控えめなツートン仕上げで、ダイヤルはふたつのパーツで構成されている。手作業で施されたギヨシェ模様が特徴で、ベースには無垢のホワイトゴールド製ディスクが使われている。ていねいにハンドデコレーションされた直線的なギヨシェ、ギヨシェ・アン・リーニュが施されており、質感が与えられるとともに、往年のロート氏のデザインを思い起こさせる。ダイヤルの外周には5Nローズゴールドの見返しリングが配置され、ブラックのローマ数字を美しく囲んでいる。針はブラックコーティングされたステンレススティール製で、ルミノバは使用せずとも鮮やかなコントラストを生み出している。全体として層の重なりが美しく、見事な仕上げだ。
ダニエル・ロート エクストラ プラット ローズゴールドはブランドの“通常”カタログに位置付けられており、製造数に明確な制限は設けられていない。価格は4万9000スイスフラン(日本円で約860万円)である。
我々の考え
ダニエル・ロートの復活が発表された2023年9月、正直なところ懐疑的に思った人も多かっただろう。実を言うと、私もそのひとりだった。ヴィンテージ、あるいはネオヴィンテージとしてのダニエル・ロートの魅力を知る者として、LVMHによる復活が2020年代半ばにどのような形で展開されるのか、疑問を抱いていたのだ。しかしその先入観はいまや大きな期待へと変わっている。ラ・ファブリク・デュ・タンから送り出される製品を目にするたびに、その完成度には感心せざるを得ない。
全体的にディテールの完成度が素晴らしい。確かに、今回の記事の主なポイントはケース素材の変更や、随所に見られる微細な調整だ。そして、ローズとグレーのトーンが生み出す美しさも間違いない。しかしエクストラ プラット ローズゴールドは単なる素材変更にとどまらず、ダニエル・ロートというブランドの伝統の継承であり、より充実したカタログを構築するための一歩でもある。
これは決して偶然ではない。ダニエル・ロートが最初に創業された1989年から1990年代初頭にかけても、同じような歩みがあった。1989年にトゥールビヨン、1990年にエクストラ プラット、そして1991年にはパーペチュアルカレンダーが発表された。これは、今世紀の多くの独立系時計師たちの歩み方とも共通している。慎重に、そして細部にこだわりながら、ゆっくりとコレクションを拡充していく手法だ。このレベルの時計を作るには、最初の年にいきなりフルラインナップを展開するのではなく、ひとつひとつていねいに積み上げていく必要がある。それが理にかなっているのだ。
では、そのディテールとは何か。実物を手に取って見るのが一番だが、写真からでも新生ロートのこだわりは伝わってくる。例えば、わずかに再解釈されたケースデザイン。ミッドケースが再設計され、上部と下部のバランスが均等になるよう配置されている。ヴィンテージのエクストラ プラットでは、トップの部分がやや裏蓋よりも厚くなっていたが、今回のデザインではバランスが調整されている。ギヨシェパターンの変更も見事だ。ロートはスースクリプション版でクル・ド・パリを採用していたが、1990年代のエクストラ プラットの大半は今回のローズゴールド版と同じギヨシェ・アン・リーニュのような直線的なパターンが施されていた。このようなデザインの選択や参照は失敗しやすい部分だが、新生ロートは間違えることなく、それを見事に再現している。
基本情報
ブランド: ダニエル・ロート(Daniel Roth)
モデル名: エクストラ プラット ローズゴールド
型番: DBBD01A1
ケースサイズ: 縦38.6mm×横35.5mm
厚さ: 7.7mm
ケース素材: 5N ローズゴールド
文字盤色: ホワイトゴールドのベースに直線的なギヨシェ装飾、5N RGの見返しリング
インデックス: ブラックのローマ数字
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: カーフスキンレザーストラップ、ラグ幅20mm
ムーブメント情報
キャリバー: DR002
機能: 時・分表示
パワーリザーブ: 65時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 21
クロノメーター認定: なし
追加情報: 手巻きムーブメント。ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトンにて開発・組立した手巻き式ムーブメント。ミシェル・ナバス氏とエンリコ・バルバシーニ氏が監修。
価格 & 発売時期
価格: 4万9000スイスフラン(日本円で約860万円)
発売時期: 発売中
限定: なし
詳細はこちらをご確認ください。
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