ADVERTISEMENT
HODINKEEのスタッフや友人たちに、なぜその時計が好きなのかを解説してもらうWatch of the Week。今回ご紹介するのは、ゼニスのヘリテージ・ディレクター、ローレンス・ボーデンマン(Laurence Bodenmann)氏。オックス・ウント・ユニオールやユリス・ナルダンの師匠であるルートヴィヒ・エクスリン博士から譲り受けたゼニスのヴィンテージエル・プリメロについて語ってくれた。
私は自分を人類学者だと思っています。
私の時計作りへの興味は、私が出会うすべての時計は、長い時間をかけてそれを取り囲んできた人間性を解きほぐすことができる糸巻きのようなものだという考えに基づいています。時計は、その人が身につけている時計であれ、その人の手で作られた時計であれ、その人がどのように自分自身や世界を表現しているかを理解するのに最適な道具のひとつだと私は思っているのです。
しかし、私は、時計とはむしろ透明性の高いものであり、個人の表現と論理、あるいは日々の行動の意図的な産物であると考えます。時計は、何がどのように開発されたかを物語ることを特に好む分野なのです。
ローレンスさんの1975年製ゼニス エル・プリメロ パイロット・ダイバーズクロノグラフ。
私自身が所有する時計は、人を通じて私のもとにやってきたもの、あるいは私が開発に携わったもので、私たちとの交流を物語るようなものばかりです。その時計と特別なつながりがなければならないのです。そして、ゼニスで最も身につけている時計は、私がゼニスのヘリテージ部門に就職したあと、2015年に恩師のひとりであるルートヴィヒ・エクスリン博士から譲り受けたものです。それは1975年のエル・プリメロ搭載のパイロット・ダイバーズクロノグラフでした。
30年以上前、エクスリン博士自身が時計師となったときに、自分の時計作りの師匠であるイェルク・シュペーリングという人物から譲り受けたものだそう。エクスリン博士と私はラ・ショー・ド・フォンの国際時計博物館で長年一緒に働いていましたが、私がゼニスに入社したとき、彼は私に「君がこれを持つべきだ」と言ったのです。
スイス、ル・ロックルのゼニス社本社にて。
私は常々、時計のムーブメントやアビヤージュ(habillage・最終工程)がどのように考案されたかに非常に敏感です。それを理解することで、その時計が作られた理由や根拠を読み取ることができるのです。私が心がけているのは、研究対象の時計に話をさせることで、その時計の成り立ちを理解すること。時計が持つストーリーを理解し、それを時計の誕生時や誕生後の人々の関わり方と関連づけることです。
そしてこの時計は、そのヒントをたくさん与えてくれるのです。
本機は、1972年に発売されたテクニカルな時計で、徹頭徹尾「ツールウォッチ」であることを意味しています。1970年代のゼニスのカタログではパイロット・ダイバーズとして販売されていたものの、時計の歴史をご存知の方なら、あまり意味のないことだと思われるかもしれません。パイロットウォッチには、水を吸い寄せるから防水であってはいけないという迷信が昔からあるのです。雲の上を飛んでいるときは、水のなかではなく、むしろ上にいたいもの。
これは明らかにパイロット用のクロノグラフ。タキメータースケールは1000まであり、これは飛行機に乗らなければ無用なものです。そして、この対照的な文字盤と、外部ベゼル上の12時間スケールにより、理論的にはパイロットとダイバーの両方が経過時間を把握することが可能になっています。同時に、リューズとプッシャーに「ダブル防水ガスケット」を採用し、硬化ミネラルガラスを使用した完全防水設計で、回転ベゼルと相まって(当時のマーケティング資料によると)、エル・プリメロ搭載のダイバーズウォッチのなかでも稀有な存在となりました。
私は通常、ゼニスの時計はどれが好きということはなく、どれも面白いと思っていますし、仕事を通じて多くの異なる例を見ることができるのは幸運なことです。私がこの時計を身につける理由は、そのオリジナリティとヘリテージの意義はもちろんですが、私にとってもエクスリン博士の歴史の一部であるからです。そもそも私が時計の世界に足を踏み入れたきっかけを思い出させてくれるのです。
友人や同僚から、なぜこの時計を“オリジナル”のスティールブレスレットで身につけないのかと聞かれることがあります。そこで私は、今つけているグリーンのラバーストラップこそが、この時計の「オリジナル」であり、エクスリン博士が付け加えたもので、この時計のストーリーの一部であることを伝えているのです。
時計が誕生した当時の様子を知ることも大切ですが、その後の人生を尊重することも同じように大切なことです。腕時計のストラップやブレスレットを交換することは、その腕時計と過ごした時間のかけがえのない痕跡になると思うのです。その行為は、オーナーと時計、あるいはオーナーと時計をくれた人とのつながりを表しています。
現代の時計コレクターは、ときに進化に違和感を覚えることがあります。だからこそ、私はゼニスのヘリテージ部門において、変化を疑い、理解し、最終的に価値を見出すための手助けをする仕事だと考えているのです。過去になぜそのようなことが起こったのか、その理由を認識することが、私たちの時代に必要な変化を起こすために必要なのだと、私は強く感じています。
それが本物であるということです。それは、何かが時間とともにどのように進化してきたかを理解することから生まれるのです。
Shop This Story
HODINKEE Shopはゼニスの正規販売店です。
ZenithはLVMHグループの一員です。LVMH Luxury VenturesはHODINKEEの少数株主ですが、編集上の独立性は完全に保たれています。
話題の記事
インディーズブランド、アルトが70年代デザインを取り入れたアート 01を発表
Hands-On カルティエ 「サントス ドゥ カルティエ」デュアルタイムを実機レビュー
Bring a Loupe チューダーのスクエアリューズガード付きサブマリーナー、“ポール・ニューマン”ダイヤル、ジュネーブ・スポーツなど