trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

左利きモデルの腕時計の謎を解き明かす。左利き用の腕時計が、なぜ左利きのためだけではないのか

10%の人のための設計課題の解決方法と残りの90%の人が特をするわけ。

ADVERTISEMENT

1952年、チャーリー・チャップリンの手にはヴァイオリンが握られていた。映画『ライムライト』で、プロピアニストを演じるバスター・キートンと共に主役のチャップリンがヴァイオリンを演奏するクライマックスシーンだ。チャップリンのヴァイオリン演奏が飛び出すようなスタートを切った途端、ばかばかしくも崇高な感じで始まるのだが、一瞬止まったかと思うと実に美しい一節へと変わる。その盛り上がりっぷりには、誰もチャップリンが左手で演奏しているなんてことには気づかないほどだ。

 「私は左利きだったので」、「私のヴァイオリンは左手用に、バスバーとサウンドポストが逆向きでした」とチャップリンは後に自伝に特注品であったことを記している。しかし、彼の持ち物は、ヴァイオリンだけでなく、左利きであることを念頭に置かれたものが他にもあった。

 チャップリンは、ケースの左側にリューズが付いたロレックス オイスターも所有していた。この位置にすることで、右手首から時計を離すことなく、利き手を使ってロレックス700シリーズのムーブメントの巻き上げを行えたのだ。言い換えれば、標準的な時計とは正反対の方向を向いているというわけだ。

 彼のロレックスは、当時ロンドンで最も高級な装身具商であったアスプレイ社によってダブルネームで販売された。その時計は、2013年にアンティコルムのオークションに出品され、予想落札額の上限1万1400ドルを突破し、5万1250ドルで落札された。“デストロ”ウォッチ(イタリア語で“右側”の意味)は、その希少性からコレクターたちに好まれている。チャーリー・チャップリンの時計とデストロの組み合わせ? それが推定値を超えて高騰することになんら不思議はない。

 チャップリンの時代には、多くのデストロはメーカー特注で作られていた。例えば、フランス海軍は“スノーフレーク”チューダー Ref. 9401(イカサブ)を1970年からデストロ仕様で発注。他の多くの時計は、技術的な理由からリューズを左側にしているが、これは左利きの人専用のものではなかった。1969年、ブライトリングとホイヤーは共に新しいムーブメントCal.11ムーブメントを使用していたが、左側のリューズは(OnTheDashのホイヤー専門家ジェフ・スタイン氏によると)時計メーカーが開発する際にベースムーブメントにクロノグラフモジュールを追加する唯一の方法だった。

 こうした時計は、左利きと右利きのコレクターにとっては天の恵みであり続けている。しかし、一部のブランドでは今日も生産を続けており、これらの時計は右手首だけでなく、左手首にも装着できるようになっている。

ADVERTISEMENT
最近の左利き用時計の例

 市場に出回っている現代のデストロウォッチを調査していくと、あるパターンにお気づきになるだろう。それらのほとんどが、ツールウォッチであるか、少なくともその世界にルーツをもつものなのだ。

 例えば、ドイツのブランド「ジン」の精緻な時計を見てみよう。

 ジンは、EZM 3EZM 7.S(消防士やレスキュー隊のために開発された)、およびUXシリーズ(特殊部隊向けに作られた)のようなミッションタイマーと呼ばれる時計を作っており、どれも皆左上にリューズをもっている。マーケティング・コミュニケーションの責任者であるティム・バーロン氏(Tim Burlon)によると、左上にリューズがあるジンの時計は、実際には従来のファッションで左手首に着用するように設計されている。リューズが左側にあるのは、「作戦やダイビング、スポーツの際に手の甲にダメージを与えないようにするためだ」と彼は言う。左側にリューズがあることで、手首の関節から離れているため、手首を曲げたときに手に食い込むことがないというわけだ。

 バーロン氏は、自動巻きムーブメントを搭載した時計の場合、リューズが3時位置から離れるようにムーブメントを回転させ、日付ホイールがそれに合わせて変更されると述べている。 しかし、完全にオイルが充填されたUXの場合、クォーツムーブメントは10時位置にリューズを備えていたため、デストロ構成を実行するには、設計段階で「全く新しい設計」が必要だった。 ただし、全体的に見て、ジンの左側のリューズは、エンドユーザーが左利きであるとは全く関係ない。 それは機能的な設計の問題なのだ。

 チューダーは、2016年までカタログにデストロウォッチを載せることはなかった(前述のスノーフレークサブマリーナーは70年代に一度だけされた特注品だった)。現代では、会社は真のツールウォッチ、ペラゴスを取って、それをデストロ構成で再設計し、それを“左利き用”として扱うため、ペラゴスLHDと名付けた。

 ここでも、左側のリューズは、どちらの手首にも装着できる機能的な利点を提供している。「ペラゴスの技術的なスペックをさらに押し上げるため、人間工学に基づいた利点を提供したかったのです」とチューダーの広報担当者は言う。「このアイデアは、見た目の美しさよりも機能的なものでした。だからこそ、ブラックベイシリーズではなく、ペラゴスシリーズの中で実現したのです」と続けた。

 そして、その概念を裏付けるために、彼は時計が誇るデストロの構成をサポートする技術面についての洞察を少し提供してくれた。「LHDは、Cal.MT5612の特別なバージョン、Cal.5612-LHDを搭載しています。なぜか? 我々は、このキャリバーが最も頻繁に配置される位置にあわせて、逆さまにCOSCのテストに合格しています。これには特別なレギュレーションが必要です」

 事例証拠は、ほとんどではないにしても多くのチューダーLHD所有者が右利きであることを示唆している。そして、この時計は、チューダーとロレックスが決して公表しない生産数への興味深い洞察を提供する。各時計にはシリアル番号が付けられているが、制限はない。 どれだけ作られているかを知るには、最近購入した時計の裏蓋に刻まれている数字を確認するだけ。常にケースバックを確認する理由の一つだ。

 IWCもこのデストロウォッチをもっており、「ビッグ・パイロット・ウォッチ」では、少し違ったアプローチをとっている。クリエイティブ・ディレクターのクリスチャン・クヌープ氏は、「私たちは、右手首に時計を装着する人たちがいることに気づきました。しかし、大きな円錐形のリューズのため、人間工学的にも装着性にも最適では有りません。そこで私たちは、ビッグ・パイロット・ウォッチ”ライト・ハンダー”のアイデアにたどり着いたのです」と語る。

ADVERTISEMENT

 ここでも、向きを逆にするには、ほんの少しの微調整だけではいかなかったようだ。IWCがこの時計を構想したとき、「ムーブメントを180°回転させることができると考えていました」とクヌープ氏は話した。「しかし、文字盤をよく見てみると、最初の課題が浮かび上がってきました。ビッグ・パイロットは、中央の秒針と3時位置のパワーリザーブ表示が非対称なレイアウトになっているのです。このレイアウトをミラーリングすると、パワーリザーブの位置が9時位置になってしまい、アンバランスな印象を与えてしまうのです。そのため、3時位置にスモールセコンド、9時位置にパワーリザーブを配置した別のデザインを選択することにしました」

 現代のデストロウォッチは、利き手に関係なく誰にでもメリットがあることは明らかだ。デストロの中には、左利きの人よりも右利きの人にも恩恵を与えるものがあるかもしれない。

 オリスのモダンダイバーズをご紹介しよう。ヘルシュタインを拠点とするメーカーであるオリスは、2010年のカルロス・コステ クロノグラフ リミテッドエディションを皮切りに、最近ではオリス アクイス レッド リミテッドエディションを発表。オリスの北アメリカ社のCEOであるVJジェロニモ氏によると、このモデルは左利きの方を対象としているが、その最大の理由は、「ケースの内側」にプッシャーを配置することで、リューズとプッシャーが手を上げたときに違和感を与えないことだという。さらに、リューズとプッシャーはケースの左側の方がより保護されている。しかし、これは一般的な右利きの人のように左手首にオリスを装着した場合にのみ有効だ。

 左利きのために設計された時計については、それらを着用するための正しい方法が決まっていないことが判明した。