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クイック解説
ロンジン スピリット Zulu Timeは、2022年にロンジン スピリットコレクションに加わったFlyer GMT(もしくはTrue GMT)ウォッチである。2020年に初登場となったロンジン スピリットのデザインコードを踏襲しつつ、時針単独修正機能を備えたこの時計は、発売当時(から現在に至るまで)税込50万円を切るコストパフォーマンスの高さで高い支持を獲得していた。その後、39mm径の小型モデルや軽量なチタンケースモデルが登場し、バリエーションの幅を拡大。現在では、ロンジン スピリット コレクションのなかでも屈指の人気シリーズへと成長を遂げている。
1925年に登場した、ブランド初のセカンドタイムゾーン表示ウォッチ。
Zulu Timeという一風変わった名称は、ロンジンが1925年にブランドとして初めて製造したセカンドタイムゾーン表示の腕時計に由来する。その時計の文字盤には“Z(ズールー、協定世界時を表す)フラッグ”が示されており、その姿はこそ大きく異なるものの、この腕時計からインスピレーションを受ける形で現在のZulu Timeは誕生した。そしてオリジナルモデルの登場から今年で100周年。このアニバーサリーイヤーに、ロンジンはロンジン スピリット Zulu Timeにおいてスペシャルなモデルを発表した。
オリジナルモデルの登場年から、ロンジン スピリット Zulu Time 1925と名付けられた本作。その最大の特徴は見てわかるとおり、18Kローズゴールド製キャップのベゼルインサートにある。僕たち日本人の肌に馴染みよい温かみのあるゴールドは、ロンジン曰く、グリニッジ王立天文台の地面に埋め込まれた“本初子午線を示す銅製の帯”をオマージュしているのだという。本作ではそのゴールドベゼルにサーキュラーサテン仕上げを施すことで、従来のセラミックインサートとはひと味違うスポーツテイストを抑えたルックスに仕上げられた。インデックスおよび文字盤上の表記はベゼルのゴールドとトーンを合わせており、見た目に統一感もある。ステンレススティール製のケースは、直径39mmで厚さが13.5mm。以下にも紹介するようにスケルトンケースバックをスピリットコレクションとして初めて採用したものの、厚みは従来の39mmモデルと変わっていない点は注目したい(ラグ・トゥ・ラグも46.8mmを踏襲)。
文字盤上の表示も大きな変化はない。しかし6時位置、デイト窓の下に目を凝らすと小さく“1925-2025”の彫りが見える。本作がデュアルタイムゾーンウォッチ誕生100周年記念モデルであることを示すものだろうが、この慎ましやかな主張は個人的に好ましい。たとえデイトに目をやったとしても、まず気がつくことはないほどだ。
ムーブメントには従来モデル同様、ロンジン エクスクルーシブキャリバーであるL844.4が搭載されている。COSC認定を受けたムーブメントであり、約72時間のパワーリザーブに2万5200振動/時で駆動とスペック面に変わりはない。ただ、本作ではロンジン スピリットコレクションとして初めてスケルトンバックが採用された。これにより、5Nローズゴールドカラーの特別なローターを裏蓋側から鑑賞することができるようになっている。そのローターの表面には、平面天球図と本初子午線をエングレービング。アニバーサリーモデルにふさわしい、所有欲を刺激する仕様だ。
ブレスレットの接続部には、T字型のパーツを指で押し込むだけで換装が工具なしで行えるインターチェンジャブルシステムを採用。これにより、同じ機構を備えた手持ちのストラップとの交換も容易に行える。なお本作にはスティール製の3連ブレスに加え、ブラックファブリックのNATOストラップも付属する。肉厚でハリのある、非常に上質なストラップで、ラグ幅21mmとストラップの選択肢が狭い本作においては嬉しいオプションとなっている。遊環がメタルでないため、スポーティさが抑えられているのも好印象だ。ストラップ用のバネ棒を取り付ける際は、購入時についてくるスペシャルボックス内の工具を使用するといいだろう。
ロンジン スピリット Zulu Time 1925は2025年5月24日(土)にロンジン 阪急うめだ本店、5月28日(水)よりブランド直営店および正規販売先行店舗にて発売開始。そして、6月14日(土)より全国の正規販売店にて展開される。価格はキャップだけとはいえゴールドベゼルを使用していながら、62万4800円(税込)となっている。
ファースト・インプレッション
デュアルタイムゾーンウォッチの100周年という華々しいタイミングにあっても、ロンジンが僕らの手の届く範囲で記念モデルを用意してくれたことを非常に好ましく感じている。しかもそのデザインも華美すぎず、実用的だ。誤解のないように補足しておくと、本作はロンジンによるデュアルタイムゾーンの100周年を祝う意図のもとに製作されたモデルではあるが、限定品というわけではない。
ロンジンは今回の記念モデルにおいて、5N18Kローズゴールドをキャップでベゼル部分にのみあしらうという、極めて控えめなアプローチを採っている。これにより、アニバーサリーならではの特別感を適度に演出しながら、価格を既存のレギュラーモデルから大きく乖離させることなく抑えた。同じく39mm径で、ベゼル外周に18Kイエローゴールドを採用したRef.L3.802.5.53.6が70万9500円(税込)であることを踏まえると、本作の価格設定は良心的といえるだろう。さらにこのゴールドには過度な光沢が与えられておらず、落ち着いた雰囲気を保ったまま、幅広いスタイルに自然と馴染む仕様となっている。先述の通り、記念モデルであることを強調するディテールも抑えられているため、すでにZulu Timeを所有しているユーザーもその延長線上で自然に使える一本にまとまっている。
一方で、ゴールドベゼルの高級感を後押しするような細やかな配慮も見られる。たとえば、先ほど文字盤上の変更点として“1925-2025”のエングレーブを挙げたが、実は外周のミニッツトラックにも手が加えられている。僕が所有するHODINKEE限定バージョンと比較してみると、今回の記念モデルはミニッツトラックの表情がよりすっきりと整えられており、視覚的に洗練された印象を受けるはずだ。念のため、ロンジンの公式サイト上でレギュラーモデルをひとつひとつ確認してみたが、同様の仕様はほかに見当たらなかった。ロンジン スピリットは、そのルーツを伝統的なパイロットウォッチに持つことから、洗練された外観のなかに計器然とした機能美を内包するコレクションである。しかし今回、ゴールドベゼルを備えた記念モデルをリリースするにあたっては、ツールウォッチらしい実用性をしっかりと保ちつつ、その枠のなかで可能な限りエレガンスを表現しようとするロンジンの姿勢が感じられる。
上が2023年に発表されたロンジン スピリット Zulu TimeのHODINKEE限定モデル。
また、個人的にはチタン×ゴールドのコンビとしなかった点も評価したい。他ブランドのなかには、スポーティさのなかにラグジュアリーを香らせるチタンコンビをいくつか見ることもできる。だがおそらく、ロンジンはステンレススティールならではの輝きと高級感を優先したのだろう。ロンジンのチタンウォッチはサテン、ポリッシュの質感ともに非常に高いものがあるが、使い込むうちに少しずつスティールと輝きに差が出てくる。実際に自然光の下で本作を確認したところ、ポリッシュ仕上げのスティール部分はきらきらと華やかに輝き、光沢を抑えたゴールドパーツとのコントラストが非常に美しかった。ロンジンが素材の選定においても、緻密なバランスを追求していることがうかがえる。
ちなみに、同タイミングでロンジン スピリット Zulu Timeの新色も発表された。色はブルーベゼル×アンスラサイトダイヤル、ブラックベゼル×ブラックダイヤルの2種類。それぞれ39mmと42mmのふたつのサイズが用意されており、ユーザーの好みに応じた選択が可能となっている。ケースはいずれもステンレススティール製で、価格は48万9500円(税込)。50万円を下回る価格設定が維持されており、依然として高いコストパフォーマンスを誇っている。またブラックモデルをよく観察すると、ミニッツトラックの秒目盛りのあしらいが今回の記念モデルと同様に簡素化されており、視覚的にすっきりとした印象を与えている。この仕様変更について今後どのように展開を分けていくのか、もし明確な意図があるのであれば、ぜひその考えを聞いてみたいところである。
写真はともに39mm径モデル。
価格、デザイン、実用性、そして特別感。100周年記念の名を冠したモデルでありながら、ロンジン スピリット Zulu Time 1925は、そのいずれの要素においても巧みにバランスを取っている。鮮やかでスポーティなセラミックベゼルモデルが主軸を成すZulu Timeコレクションのなかにあって、程よい気品と落ち着きを湛える本作は、シリーズに新たな広がりをもたらす好位置にあるように思う。なお、Zulu Tme 1925において僕が特に惹かれたのは、ローズゴールドの色味に本初子午線をイメージさせた点だ。もちろん実物の銅線を見に行ったことはないが、本作を机に置いて、遠くロンドンのグリニッジ天文台に思いを馳せる時間もいいものだった。なにしろこの時計は、旅を想起させるFlyer GMTウォッチでもあるのだから。そうした背景を踏まえると、このモデルのストーリーは見事に整えられているように思う。
もちろん、100万円越えのモデルがひしめくゴールドコンビモデルの入門機としてもおすすめしたい。価格面での魅力は言うまでもないが、ゴールドコンビモデルの醍醐味は、ノーブルな貴金属をさりげなく日常に取り入れられる点にこそある。幸いにも本作はレギュラーモデルだ。検討する時間は、たっぷりとある。
基本情報
ブランド: ロンジン(Longines)
モデル名: ロンジン スピリット Zulu Time 1925
型番:L3.803.5.53.6
直径: 39mm
厚さ: 13.5mm
ケース素材: ステンレススティールケースに5N 18Kローズゴールド製キャップ付きベゼルインサート
文字盤色: マットブラック
インデックス: アプライド
夜光: スーパールミノバ®︎
防水性能: 10気圧
ストラップ/ブレスレット:インターチェンジャブル機能付きステンレススティール製ブレスレット、ブラックのNATOストラップ
ムーブメント情報
キャリバー: L844.4
機能: 時・分表示、センターセコンド表示、デイト表示、GMT(時針単独調整機能付き)
直径: 11 1/2リーニュ
パワーリザーブ: 約72時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万5200振動/時
石数: 21石
クロノメーター認定: COSC認定
追加情報:5Nローズゴールドカラーローターに平面天球図と本初子午線のエングレービング
価格 & 発売時期
価格: 62万4800円(税込)
発売時期: 2025年5月24日(土)にロンジン 阪急うめだ本店、5月28日(水)にりロンジン直営店及び正規販売先行店舗、6月14日(土)より全国の正規販売店にて発売開始
限定: なし
詳細は、公式ウェブサイトをクリック。
Photographs by Yusuke Mutagami & Yuki Matsumorto (wrist shots)
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