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In-Depth MB&Fが世界で最も野心的なレディスウォッチを製作

最新のレガシー・マシーン フライングTは、注目のジュエリーデザイナー、エマニュエル・タルパン氏(リアーナのイヤリングを手がけた人物)とのパートナーシップによるもの。そしてこの作品は、宝石をセットした時計をいかに厳格に、かつイマジネーション豊かに作るかという重要な教訓を与えてくれる。

MB&Fは、時計のエコシステムにおいてユニークな存在だ。このジュネーブのアバンギャルドな時計メーカーは、物理学と芸術の重要性を強調することで、左脳と右脳の両方に訴えかけてくる。つまり、MB&Fは先鋭的なデザインのなかに時計製造の魔術セットを内包しているのだ。そして、この組み合わせはレディスウォッチの市場では他にほとんど見当たらない。

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 MB&Fのレガシー・マシン フライングTは、これからのレディスウォッチのベンチマークとなるラインだ。そして、その最新作では創業者であるマックス・ブッサーが、尊敬するジュエリーデザイナー、エマニュエル・タルパン氏に声をかけ、新しい2つのデザインを生み出した。

 2019年に誕生したLM フライングTは、主に女性に焦点を当てたMB&Fで唯一のラインだ。「私は、自分が信じていること、時間を伝える3次元の彫刻的なキネティックアート作品を作るためにMB&Fを作りました」。先月、これらの新しいタイムピースのリリース直前に、彼は名誉あるGPHG 金の針賞(エギーユドール。基本的に、アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞するのと同等の価値)を獲得した翌日に偶然私に語った。「私は自分のために創作していたのです。しかし、あるとき、家族の女性たちのために何かを作りたいと思うようになりました。私はずっと彼女たちの影響を受けて生きてきたので、彼女たちのために何かをするという課題を自分に課したのです」

MB&F Flying T

2019年に発売されたフルバゲットセットのフライングT。

MB&F Flying T

2019年に発売されたフルパヴェダイヤモンドセッティングのフライングT。

 メガジュエラーのハリー・ウィンストンに7年間在籍していたにもかかわらず、ブッサーは自分が天才ではないことを認めた。「最悪なのは、ほとんどの人が自分の欠点を否定していることです。私は自分の欠点をかなり自覚していますし、ダイヤモンドは苦手なんです。【ハリー・ウィンストンで】当時、時計にダイヤモンドをつけるのは試練だった。ジュエリーは苦手なんだ」

 それでも、フライングTを発売する前から、"ジュエリーのためのキャンバス "になることは分かっていたようだ。

 このブランドを知る人なら、ブッサーの才能の多くが、最高のものを見極めて呼び寄せる能力にあることを知っているはずだ。ここで、「&F」(MB&FはMax Büsser and Friendsの略)の部分が明らかになる。タルパン氏は、いまやフレンズの一人である。

 ご存知でない方のために、エマニュエル・タルパン氏は30歳の独立系ジュエリーデザイナーで、花や動物にインスパイアされた現代的なデザインで、その分野の人々から広く賞賛される人物だ。しかし、ブルガリとのコラボレーションで女性向けの最新プロジェクトを行ったブランドとしては、これはおそらくありきたりな選択ではないだろう。正直なところ、MB&Fでさえも、タルパン氏が時計ブランドにとって重要な存在であるとは想像していなかったのだ。

 しかし、30秒ほど考え込んだあと、すべてが理解できた。ブッサーの狙いは、独立系で先進的なデザイナーを確保することだったのだ。彼は、ブランドの他のどのカテゴリーでも、従来の方式、あるいはどんな方式にもこだわらない。なぜ、第2ラウンドで他のビッグメゾンに依頼するのだろうか?

MB&F watch

MB&F x エマニュエル・タルパン LM フライングT "Blizzard"(ブリザード)

時計学とジェンダーをめぐる話題は、ここ数年で急速に進化を遂げた。フライングTの誕生年である2019年当時の現状は、すべての時計をユニセックスで扱おう、あるいは、性別で分けなければならないのであれば女性用の時計にも男性用と同じ注意と敬意を払おうという、今日のジェンダーを取り巻く言説からは、とても遠いように感じられる。もちろん、時計の世界では物事には時間がかかる。数年後、生産が時代の流れに追いついたとき、本当の意味で試されることになるのだろう。

 そんななか、いくつかのブランドは前進している。オーデマ ピゲは、おそらく最も重要なハイブランドで、ジュエリーデザイナーのカロリーナ・ブッチ氏とのコラボレーションにより、優れたレディスウォッチを製造している。カルティエ、ヴァンクリーフ&アーペル、ブルガリなど、多くのジュエリーメーカーが、技術面よりもデザインで自ら貢献している。ロレックスは自前でのジェムセッティングを得意とし、パテック フィリップは賢明にもその世界的リーダーであるスイスのサラニトロ社とパートナーシップを結んでいる。しかし、他の時計メーカーはほとんどこのゲームに参加していない。MB&Fは、その一流メーカーの仲間入りを果たしたと言える。

 ブッサーは、宝石をセッティングすること自体が正当な技術であることを理解している。しかし、ダイヤモンドだけでは時計は面白くならない、女性らしくならないことも知っているのだ。ダイヤモンドは怠け者の象徴でもあるというわけ。新しいフライングTのダイヤモンドは、それとはまったく異なるが、ブッサーにとっては納得のいくものである。彼は、時計製造に対するアプローチが逆張り的であるとみなされている業界の人物。そのため、女性向けの時計を製造・販売し、それを正しく行うには理想的な人物と言えるのだ。彼が作った最新のフライングTは、驚くほどモダンで、私が常に推進している「より複雑なレディスウォッチ」という課題に沿ったものである。

MB&F Flying T on wrist

 「今、世界は転換期を迎えている」とブッサーは言う。「一方で、時計界がこの15年間、定義づけをしようとしてきたことがある。レディスウォッチとは何か? 私たちはまだその解決策を見いだせずにいます。MB&Fは、まだそれを解明しようとしているのです"」

 ブッサーは多くの才能を持つ人物だが(この記事の会話からもわかるように、さわやかで正直な人です)、彼は訓練を受けたエンジニアであり、最も顕著な強みは明らかに機械的なものである。そのため、APにとってのブッチともいうべき、MB&Fにとってのタルパンを招聘したのだ。

 LM フライングT "Ice" (アイス)ウォッチと "Blizzard" (ブリザード)ウォッチは、フライングT "blank canvas" ラインの冬をテーマにした2つのバージョンだ。フランス南東部のアルプス地方で生まれたタルパンは、幼少期のスキー旅行やこの地方でのハイキングからインスピレーションを得て、これらのデザインを生み出した。

 これらは直径39mmで、18KWGのケースにフルダイヤモンドセッティングが施されている。どちらもブルーのマットなラピスラズリの文字盤を備え、ドーム型のサファイアクリスタルで保護。ドーム風防はデザインの立体感を高め、その凸型の形状はMB&Fらしい未来的な印象を与える。ムーブメントの縦型構造、そして文字盤のすぐ上にある1ミニット・フライングトゥールビヨンが、これらの時計をオート・オルロジュリーのカテゴリーに位置づけている。時刻は50°傾斜したブルーラピスの文字盤上に、ホワイトゴールドの小さな2本のサーペント針によって表示される。

 さて、次はダイヤモンドだ。

MB&F Flying T x Emmanuel Tarpin watch

"Ice"

MB&F Flying T x Emmanuel Tarpin watch

"Blizzard"

 "Ice"は、ラフカットのラピスラズリ文字盤から吊り下げられたサファイアクリスタルのドームを侵食するように、非対称でギザギザのダイヤモンドがセットされた石英が特徴。3時位置(時刻合わせ)と9時位置(巻上げ)のリューズに2石、中央のフライングトゥールビヨンに3石のパライバが配され、合計2.15ctのダイヤモンドが用いられている。

 "Blizzard "は、異なる種類のラピスラズリが配される。サファイアクリスタルドームの下にはブリリアントカットダイヤモンドが、マットなラピスラズリ文字盤にはクローズドセッティングされたダイヤモンド。合計2.51ctのダイヤモンドと、"Ice "と同じ位置にある3つのパライバトルマリンが特徴だ。

 どちらの時計も、18KRG、チタン、プラチナ製の立体的な太陽型巻上げローターを搭載。280個の部品から成るレガシー・マシン フライングTのパワーリザーブは4日間(100時間)で、これはMB&Fでも最高レベルだ。これらはすべて本格的な機械式時計で、その創造性は鋭くモダンで彼らの創造性が余すことなく発揮され、まるでTEFAF(The European Fine Art Fair)で展示されたアクリルキューブの下にある台座上にあるかのようだ。これらの時計は、時計とジュエリーのクロスオーバーというカテゴリーにおける、デザインの新たな先陣を切るものである。

MB&F Flying T x Emmanuel Tarpin rotor
MB&F Flying T x Emmanuel Tarpin crown
MB&F Flying T x Emmanuel Tarpin buckle

 そして、タルパン(2017年12月にクリスティーズのマグニフィセント・ジュエルズ・オークション(Magnificent Jewels auction)に登場して注目を集め、その後、2019年のアカデミー賞のアフターパーティでリアーナが彼の貝殻のイヤリングを身に着けて、ジュエリー界で有名になった彼のことだ)。彼は、決してクラシックな存在ではない。フランスのアヌシーで生まれ、HEAD(ジュネーブ芸術デザイン学校)に通い、ヴァンクリーフ&アーペルのベンチで3年間を過ごしたあと、2017年に25歳で自身のブランドをスタートさせたのだ。

 彼は顧客のためにユニークな一点物を作り、小規模で個人的なビジネスを好む。「希少性こそが本当の贅沢だ」と、ニューヨークの暗い朝、完璧にミニマルなソーホーのアパートでコーヒーを飲みながら私に言った。「本当の贅沢とは、誰も持っていないものなんだ」。"Ice"と"Blizzard"のフライングTはどちらも8つしかなく、1本17万ドル。

 タルパンは、アルミニウムのような柔軟な非貴金属を好んで使い、ダークマットな金属と単一の宝石や小さくて控えめなダイヤモンドの帯とのコントラストで勝負することが多いのだそう。興味深いのは、ブッサーとのコラボレーションにおいて、タルパンは自身の独立したデザインよりも多くのダイヤモンドを使用することを選択したことだ。

Emmanuel Tarpin's jewelry

エマニュエル・タルパンのジュエリーの一部で、有名なリアーナの貝殻のピアス(左下)を含む。

 クールな色合いのパライバトルマリンと氷のように白いダイヤモンドが冬の雰囲気を醸し出しており、彼独自の美学が貫かれている。このコラボレーションのいいところは、タルピンらしくてひと目でMB&Fとわかるデザインでありながら、両者が新しい方向へと突き進んでいるところだろう。

  "ケースに多くを加えず、ドームの内側に焦点を当てたかった "と語るタルパン氏は、この作品の立体感とボリュームに引かれたようだ。"時計のなかに宇宙があるという発想が好きなんです"

 タルパンは宇宙づくりに夢中だ。彼のアパートは、巨大な色彩のキャンバスや、コーヒーテーブルの上に置かれたマーク・ニューソンの砂時計など、考え抜かれたオブジェに囲まれていた。私はピエール・ジャンヌレのチェアに座り、タルパンと向かい合った。彼は熱心な時計コレクターである夫とこの家を共有しているが、時計はヨーロッパで過ごした少年時代のものである。「私はアルプスで育ったんです。山が好きでスキーをするのも大好き。霜を感じられるようなものを作りたかったんです」

 霜のような見た目を実現するためには、ダイヤモンドをふんだんに使って仕上げることも可能だった。しかし、その代わりに選択した理由を「ラピスの荒々しさとダイヤモンドの輝きのコントラストを表現したかったのです」とタルピンは説明する。

  "Blizzard "は、冬を詩的に表現し、サファイアクリスタルドームの下にセットされたダイヤモンドが、スノードームのように動く地上の雪を表現しており、ちょっとした安らぎを与える。クロコダイルのストラップはマットな質感で、「クロコの輝きをあまり強調せず、時計に注目して欲しい」というのがその理由だそうだ。

MB&F Flying T x Emmanuel Tarpin watch

 サファイアクリスタルの下には大量の石が使われているが、ダイヤモンドは非常に控えめな印象。ラピスラズリのラフカットは通常ポリッシュ仕上げだが、このモデルでは凹凸のある粒状のテクスチャーを採用し、サファイヤクリスタルの透明感とのコントラストを表現。サファイアクリスタルの透明なドームと対照的で、時計が過度に煌びやかになることはない。

 この時計にもうひとつ、より深い複雑性を与えているのがフライングトゥールビヨンという複雑機構を採用していること。フライングトゥールビヨンは通常、文字盤に設けられた開口部を通して見るものだが、このモデルでは1ミニットトゥールビヨンが文字盤上の、垂直に積み重ねられたムーブメントの上に乗っている。トゥールビヨンケージの上部には、トゥールビヨンと同時に回転するシングルパライバが取り付けられている。

 すべての時計がここまで複雑なデザインである必要はないと思うが、MB&Fが本作でやっていることはレディスウォッチの先例となるものだ。高級時計と斬新なデザインの融合、それがレディスウォッチなのだ。本機はひとつの回答である。

MB&F Flying T x Emmanuel Tarpin watch

 タルパンとブッサーは、それぞれのブランドのメッセージを明確にし、一貫性を保つために、小規模で独立した存在であり続けることを好み、その結果、自分たちがやりたいことをやり続けることができるという点で多くの共通点がある。もちろん、MB&Fのような小規模な独立ブランドにとって、時計製造やデザインの限界を超えることが容易であることは理解している。しかし、MB&Fが一種のサブカルチャーとして存在し、やがてメインストリームに浸透し、より広い範囲の時計デザインに影響を与えることを願っている。

 この時計たちのデザインは万人向けではない。これは明らかなことだ。しかし、複雑機構とモダンなジュエリーデザインの組み合わせは、新しい発見がある。タルパンのようなデザイナーが加わることで、宝石の想像力豊かな使い方を常に模索している伝統的業界に、ジェムセッティングの新鮮な視点がもたらされるのだ。柔軟性、流動性、そしてレディスウォッチ市場への敬意を込めて、このモデルが可能性を示してくれることを願う。

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詳しくは、MB&F公式サイトへ。