Introducing MB&Fがジュネーブ・ウォッチ・デイズで最もクールな調整機構を発表

2022年8月29日（月）から9月1日（木）まで、スイスの文化的中心地にてジュネーブ・ウォッチ・デイズが開催された。HODINKEEでは今後何日かかけて、ブルガリ、MB&F、オリス、ウルベルクやそのほかのブランドのトップリリースのすべてを詳細に取り扱っていく。

　LMスプリットエスケープメントは、まさにMB&Fのレガシー・マシーンシリーズの5代目と言えるものだ。2017年の発売当初は、LM1、LM2、LM101、レガシー・マシン パーペチュアルカレンダーに続く、レガシー・マシン コンセプトの5番目の作品であった。しかし、このモデルは、独創的でエキセントリックなスイスの時計会社にとって、ちょっとした原点回帰の瞬間であるとも考えられる。

　時分表示、パワーリザーブ表示、デイト表示を3つのサブダイヤル上に分けているだけにも関わらず、高度に研磨されたアーチ型のV字型ブリッジによって、脱進機が文字盤の上に宙吊りになるユニークなアプローチになっているのだ。このスプリットエスケープメントは、おそらくこの時計の最初のディテールとして、あなたの目を引くことだろう。しかしそのとき、奇妙なことに気づくかもしれない。テンプに衝撃を与えるための典型的なレバーとガンギ車は、いったいどこにあるのだろうかと。この時計はいったいどんな時計学の黒魔術で動いているのだろうか？　とね。

　スプリットエスケープメントの“スプリット”とは、振動するテンプとその駆動レバー、ガンギ車、軸受けと石のあいだにある開放的なデザインに由来しており、時計の名前にその秘密が隠されている。テンプが主役であることは明らかだが、脱進機に必要なほかの部品は文字盤の下に配置され、見えないようになっているのである。一見すると、テンプはV字型のブリッジから完全に切り離されているように見えるが、実は11.78mmという非常に長いテンプ受けがあり、天まで届くテンプ受けとスイスレバー、インパルスジュエル、インパルスローラーの下層での動きを結びつけているのだ。

　11.78mmという大きさのなかで、エネルギーを適切に伝達するための公差は、想像を絶するほど微小だ。スイスの伝統的なレバー脱進機の構造を考えてみよう。駆動用ガンギ車、レバー、テンプは通常、すべてが滞りなく結合するよう順番に配置されている。ここで、そのすべてを約1cmずつ意図的に崩し、細いポールだけですべてが問題なく動作するようにすることを想像してみると...。かなりクールだよね？

　この型破りなアプローチは、私の絶対的なお気に入りのMB&Fのふたつの時計、驚くほど賢いLMパーペチュアルカレンダーと、最近リリースされたクロノグラフの強烈な印象のLMシーケンシャル エヴォの背後にいるアイルランドの首謀者、ステファン・マクドネル氏の脳から生まれたものだった。スプリットエスケープメントのアプローチは、実はマクドネル氏とMB&Fが2015年にLM パーペチュアルカレンダーの内部で初めて採用したもの。はるかにシンプルなLMスプリットエスケープメントの時計は、永久カレンダー機構を排除した以外はLMパーペチュアルカレンダーと多かれ少なかれ同じだと理解しても間違いではないだろう。MB&Fだけが思い描く手法で、レガシー・マシーンシリーズの基本に立ち返ったアプローチなのである。

　2022年、MB&Fはスプリットエスケープメント エヴォにふたつの新しいカラーバリエーションをコレクションに加えた。ひとつは、魅力的なスカイブルーのベースダイヤルとスレートグレーのサブダイヤルを特徴とし、通常生産が開始されるもの。もうひとつは、ブラックベースのダイヤルとダークブルーのサブダイヤルが特徴的で、ビバリーヒルズのMB&F LABで限定25本が販売される。なお、MB&F LABとは、MB&Fが一部の市場で展開している新しい店舗コンセプトで、MB&Fの旗艦店であるMAD Galleryの小さな兄弟店として運営されている。ビバリーヒルズのMB&F LABは、Westime Jewelersによる。

　本機では、ラバーストラップ、ねじ込み式リューズ、80m防水、そしてMB&Fが開発した独自の衝撃吸収システム「フレックスリング」（ケースとムーブメントのあいだにある一体型スティール製ダンパー）など、スポーティなデザイン要素がさらに高められている。エヴォコレクションに含まれる最初のLMスプリットエスケープメントは、実は今年の初めに発売された「UAEゴールデン・ジュビリー」だ。この地域を代表する高級時計販売店Ahmed Seddiqi & Sonsの依頼により、アラブ首長国連邦建国50周年を記念して作られたサーモンダイヤルの10本限定モデルであった。

　レガシー・マシン スプリットエスケープメント エヴォとレガシー・マシン スプリットエスケープメント エヴォ ビバリーヒルズ・エディションの価格はともに8万ドル（約1133万円）だ。

　MB&Fがエヴォ プラットフォームを導入したのは2020年で、私が初めてエヴォをフル装備したレガシー・マシンを記事として扱ったのは、今年の初めに見たシーケンシャル・クロノグラフだった。前世代のLMと比較して、手首に装着したときのインパクトにそれなりの感動を覚えたことを覚えている。MB&Fが大型の時計を製造していることに疑問の余地はない（彼らはその事実から目を背けてはいない！）。しかし、ラバーストラップとベゼルレスなケースが加わったことで、全体のシルエットがよりダイナミックに、より愛らしくなった。もし私がMB&Fのオーナーなら、エヴォの追加コンポーネントによって、朝のストラップ装着がずっと楽になると想像するだろう。特に硬いアリゲーターレザーストラップに比べるとね。

　MB&Fがひとつやふたつの“スポーティな”リファレンスに注力するのではなく、レガシー・マシンの全ラインナップにエヴォのデザイン要素を拡大することを優先していることにポジティブな印象を受けた。また、スプリットエスケープメントは、より複雑なLMパーペチュアルカレンダーのスピンオフモデルでありながら、MB&Fらしいクリエーションであることも高く評価できる。

　私はMB&F QPが大好きだが、スプリットエスケープメントを手に入れたとしても、まったく物足りなさや失望を感じることはないだろう。特にスイスの伝統的なレバー機構を採用した時計は、通常とはまったく異なる方法で調整機構を見せることに重点を置いているため、この時計は非常に稀な存在なのだ。この時計は、その純粋な時計学的アプローチによって、独自の美学を表現している。まず最初に気づくのは、非常に大きなバランスホイールが、黒魔術によって自由に回転しているように見えることだろう。

ブランド: MB&F
モデル名: レガシー・マシン スプリットエスケープメント エヴォ 、レガシー・マシン スプリットエスケープメント エヴォ ビバリーヒルズ・エディション（Legacy Machine Split Escapement EVO Sky Blue; Legacy Machine Split Escapement EVO Beverly Hills Edition）
直径: 44mm
厚さ: 17.5mm
ケース素材: グレード5チタン
文字盤色: スカイブルー、ビバリーヒルズ・エディションはブラックのベースプレートにメタリックブルーの文字盤
夜光: あり、インデックスの数字と針にスーパールミノバ
防水性能: 80m
ストラップ/ブレスレット: 一体型ラバーストラップ、チタン製フォールディングバックル

キャリバー: LM スプリットエスケープメント
機構: 時、分、日付、パワーリザーブ
パワーリザーブ: 72時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2.5 Hz / 1万8000振動/時
石数: 35
クロノメーター認定: N/A
追加情報: MB&Fのためにステファン・マクドネルが開発したムーブメントスプリットエスケープメント（分割された脱進機）。テンワは文字盤の上で吊り下げられ、アンクルはムーブメントの下側に配置。ふたつの香箱を搭載した手巻き式ムーブメント上部に従来型調整スクリューを備えた、専用の直径14mmのテンワ。全体に最高の手仕上げ、面取り加工を施した内部の縁（手作業で研磨）、研磨した面取り部、コート・ド・ジュネーブ装飾、手作業によるエングレービング。ケースとムーブメントのあいだに取り付けられたフレックスリングと呼ばれるリング状の緩衝装置で、縦横方向に衝撃から保護。ねじ込み式リューズ、総部品数298個、両面無反射コーティングのサファイア風防をフロントとバックに使用。

価格: 8万ドル（約1133万円）
入手方法: MB&F　レガシー・マシン スプリットエスケープメント エヴォ スカイブルーは限定ではなく、MB&F販売店にて販売される予定。MB&F　レガシー・マシン スプリットエスケープメント ビバリーヒルズ・エディションは、Westime Jewelersが運営するビバリーヒルズ MB&F LAB限定の25本限定発売となる。
限定: ビバリーヒルズ・エディションは25本限定