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我々が知っていること
前衛的な時計メーカーであり、時計製造のコンセプトスタジオでもあるMB&Fは約17年前に設立された。その後、同社は他社とは異なる開発や予想外の進化を遂げ、独自のクロノグラフをまだ発表していないことがほとんど信じられない位になっていた。今日、それが変わる。MB&Fは創業17年で20個目のムーブメントを正式に発表した。新しいレガシー・マシン(LM)シーケンシャル EVOは、同社初のクロノグラフであるだけでなく、これまでに見たことのないクロノグラフウォッチとしても抜きん出ているのだ。
では、何がそんなに特別なのか。LM シーケンシャル EVOは、単一のムーブメントにふたつの独立したクロノグラフ機構と表示を搭載し、それぞれ別のプッシャーで操作できるようになっているのだ。ツインクロノグラフ機構は、時計の文字盤上で左右対称に、かつ縦列に配置されている。一方のクロノグラフが3時位置と1時位置に秒と分を表示し、もう一方が相対するものを9時位置と11時位置に配置している(MB&Fの時計ではおなじみだが、6時位置にある小さなレジスターは経過時間を読み取るものでランニングセコンドはない)。
それぞれのクロノグラフ機構を操作するためのプッシャーは、時計の両サイドのケースサイドに配置されている。しかし、ここで注目すべきはそれだけではない。LM シーケンシャル EVOにはMB&Fが「ツインバーター」と呼ぶ機構が組み込まれており、これは各クロノグラフの作動を同期させ、今までにない高度な経過時間計測を可能にする実質的な二元スイッチなのだ。
機能的に言えば、ツインバーターはケースサイドの9時位置にある5つめのプッシャーで、両方のクロノグラフを同時に操作し、それぞれのクロノグラフが現在どの位置にあるのかを確認したり反転させたりできる機能だ。念のため言うと、LMシーケンシャルは、ひとつの時計のなかに、それぞれにプッシャー、コラムホイール、計時表示が備わっているふたつの独立したクロノグラフ機構を搭載している。左側のクロノグラフに触れることなく、右側のクロノグラフを作動させることができる。どこからどう見ても、互いに完全に独立した機能だ。ただし、5つめのクロノグラフ・プッシャーであるツインバーターが作動しているときは別だ。
どちらのクロノグラフも作動していない場合、個々のクロノグラフの秒針がどこで止まっていても(つまり両方が同じ場所で止まっておらず、一方がゼロで他方が15秒の位置など、どんな組み合わせでもだ)、ツインバーターは瞬時に両方のクロノグラフをキックスタートさせることができるのだ。両方が作動している場合、ツインバーターは両方を停止させることもできる。片方のクロノグラフだけが作動している場合、ツインバーターを押すと作動中のクロノグラフが停止し、同時に反対側のクロノグラフがジャンプスタートする仕組みだ。
これらのことが、純粋なクロノグラフの機能としてどのような意味を持つのか、皆さんは今まさに理解し始めているのではないだろうか。LM シーケンシャル EVO は、スプリットタイムやラップタイムなど、さまざまなタイプのタイミングモードやインターバルを計測・追跡することが可能なのだ。ツインバーターの機能を使うものもあれば使わないものもある。いくつかの例をご紹介しよう。
- それぞれのクロノグラフを独立して動作させることで、開始点と終了点が異なる複数のイベント全体を追跡することが可能。
- ツインバーターで計測を開始し、各クロノグラフのスタート/ストップボタンを個別に操作して停止(または分割)することで、同じ時刻に始まり異なる時刻に終了するふたつのインターバルの長さを計測することが可能。最も分かりやすい用途は、ある種のレースである。従来のラトラパンテやスプリットセコンド・クロノグラフとは異なり、60秒以上離れた事象を追跡することが可能なのだ。これは、まったく違うアプローチのA.ランゲ&ゾーネのダブル/トリプルスプリット・クロノグラフと同様の結果をもたらす。さらに、独立したクロノグラフ表示により、スプリットタイムの計測をひと目で確認することがこれまでになく容易になった。
- タスクを開始するときにひとつのクロノグラフをスタートさせ、ツインバーターでそのクロノグラフを停止して同時に2番めのクロノグラフをスタートさせれば、時間を累積的に追跡することができ、両方にどれだけの時間を費やしたかを並べて比較することが可能だ。チェスクロックを使用例として、単純で間接的な比較を考えてみて欲しい。
- もうひとつのモードはラップタイマーを改良したようなものだ。ひとつのクロノグラフをスタートさせ、ツインバーターを作動させて最初のクロノグラフを止め、2番目のクロノグラフをスタートさせ、最初のクロノグラフの時間を記録してリセットし、再びツインバーターのボタンを押すというパターンで、連続したラップごとにこれを繰り返す。
ブッサー氏と彼のチームは、新しいクロノグラフの製作に旧友の協力を得た。ステファン・マクドネル(Stephen McDonnell) 氏は、北アイルランドを拠点とする優秀な独立時計師(オックスフォード大学で神学を学んだ)であり、以前にはMB&Fが2015年に発表した独創的な立体的レガシー・マシン パーペチュアルカレンダーの製作に協力した。マクドネル氏は昨日、ジャック(・フォースター)と私と話す時間を作ってくれた。4年以上にわたるMB&Fとの時計開発の詳細について、興味深いディスカッションをすることができた。ジャックは今日の発表に続いて、近い将来、マクドネル氏から学んだムーブメントの技術的詳細とクロノグラフ理論について深く掘り下げる予定だ。 それは面白いものになると保証しよう。
しかし同時に、LM シーケンシャル EVOのような画期的でエネルギー効率に優れたクロノグラフが発表されることが、いかに素晴らしいことであり、稀なことであるかを強調したい。
LM シーケンシャルムーブメントの構造を簡単に説明すると、ひとつの脱進機とローターであることがわかる。文字盤上で3Hzで振動する単一で大型のフライングバランスホイールがハイポリッシュ仕上げの2脚ブリッジに接続し、ムーブメントの残りの部分の上にあることから、別々のクロノグラフ機構が同じクロノメーターレートで作動することがわかる。
機械式時計であるクロノグラフが常に抱えている最大の問題は、エネルギーを効果的かつ効率的に伝達することにある。クロノグラフは常時作動しているわけではないので、物理的に作動させるとかなりの電力を消費してしまい、ムーブメントの振り角に悪影響を与えてしまうのだ。また、LM シーケンシャルのようにひとつのムーブメントにふたつのクロノグラフが搭載されている場合、その悪影響は当然ながら倍増する。
マクドネル氏は、この振り角の問題を解決するために、ふたつの垂直クラッチを導入した。それぞれがふたつの輪列のいずれかに配置され、最終的に同じガンギ車に収束する。これらのクラッチは、それぞれのコラムホイールと噛み合い、各クロノグラフの連結機構として機能する。この過程で、輪列内の従来の秒車の位置が代わる。この配置により、歯車は一定のトルクを維持することができ、従来のクロノグラフ機構に必要だったフリクションスプリングによる走行テンションが不要になり、振り角が減少する。また、各クラッチシャフトには人工ルビーがセットされ、秒針が振動することなくスタート/ストップすることを保証している。 クロノグラフの各段階における振り角の潜在的な差異を相殺することができるのだ。
これはマクドネル氏の革新的なアプローチの概要だが、その全貌は5つの特許、585の部品、5年近くにわたる骨の折れる研究開発、そして想像を絶するような微細な誤差検証の作業で構成されているのだ。
ジャックによる詳しい解説は、近日中に掲載予定だ。
我々が思うこと
MB&Fの創業者であるマックス・ブッサー氏にとって、クロノグラフは常に重要な存在であった。半年ほど前、ブッサー氏はジャックが司会を務めるTalking WatchesのエピソードにZoomで出演した。25分の対談のうち最初の3分間は1990年の話だった。ブッサー氏は23歳のとき交通事故に遭い、スイス軍での任務を終えた。6週間の療養ののち、彼は当時の「夢の時計」だったゼニスのハイビート エル・プリメロ ムーブメントを搭載したエベルのクロノグラフを購入することができたのだ。
「当時のロレックスよりずっと面白い時計でした」と、彼はエピソードのなかで語った。「立体的なデザインで、バイオモルフィック(生体模型)のようで、すごいと思いました。時計は丸い円筒形のもので、そこに有機的な形がある。ディテールも素晴らしい。今見ても、まったく古びていませんね」
数年後、ブッサー氏は31歳のときにハリー・ウィンストン・タイムピーシーズ(Harry Winston Timepieces)のマネージング・ディレクターに就任した。アメリカ生まれの名門ジュエラー、ハリー・ウィンストンの次世代スポーツウォッチのスタートに彼が選んだのは、どんな時計だったのだろうか。もちろん、クロノグラフである。オーシャン クロノグラフは、ファンキーかつクラシカルなドレス・クロノグラフで、経過時間を計測するための興味深いレトログラード表示を備えている。ブッサー氏、デザイナーのエマニュエル・グーシェ氏、時計師のジャン-マルク・ヴィダレッシュ(Jean-Marc Wiederrecht)氏の共同作業によって、このモデルが誕生したのだ。
このことはマックス・ブッサー氏のキャリアのなかで、クロノグラフというジャンルがいかに重要な位置を占めているかを示している。クロノグラフは時計業界に入る前から彼の生活の一部であり、彼の協力的で起業家的な精神を示す初期の例となったのだ。ハリー・ウィンストンでの6年間の勤務を経て2005年7月、彼はMB&Fを設立した。以来MB&Fは、アバンギャルドな美的実験と一流の時計技術革新を融合した、時計界随一のブランドとなったのだ。
Talking Watches With Maximilian Büsser
スイスの独立系企業であるMB&Fは、規制の枠を破る傾向があり、その典型的なデザイン言語は慣習に逆らった極端なもので、好き嫌いが分かれる傾向がある。そしてそれは新しいLM シーケンシャル EVOにも当てはまることだろう。しかしこの新しいクロノグラフのデザインは、ブランドのアイデンティティを全人的に表現していると感じる。時計のどの部分も場違いな感じがせず、ムーブメントの目に見えるすべての側面、そしてダイヤルカラーの選択が、明らかに考慮されているものなのだ。
例えばムーブメントの仕上げは伝統的かつドラマチックで、コート・ド・ジュネーブ仕上げ、内外部の複雑な面取り、うっとりするような皿ビスなど、すべて手作業で仕上げられ、サファイアクリスタル製のディスプレイケースバックから存分に見ることができる。また、外観もスポーティな要素をふんだんに取り入れていて、これは複雑機構を搭載している点で理にかなったチョイスだ。まるでF1レースチームの最先端技術開発部門から生まれたかのような魅力がある。
LM シーケンシャル EVOのケースは直径44mm、厚さ18.2mmで、そのほとんどがMB&Fの有名なドーム型のサファイアクリスタルで占められている。ジルコニウム製のケースには外装ベゼルがなく、内部のムーブメントとクロノグラフ表示が見えるように配慮されている。MB&Fの説明によると、このクリスタルには腕につけたときに時計の厚みを感じさせないよう、ドーム部分によく見ないとわからないほどのわずかな反りが施されているそうだ。今月初めにジュネーブに行った際、LM シーケンシャルを少し触ってみたが、明らかに大型の時計でありながら、ほかのMB&Fレガシー マシンと比べて違和感を感じることはなかった。
2020年にデビューしたレガシー マシン・パーペチュアル EVOのスポーティなEVOコレクションとして、ラバーストラップとねじ込み式リューズを採用し、80m防水を実現した新LM シーケンシャルが登場したのだ。また、ケースメタルにジルコニウムを採用し、シルバーグレーの豊かな輝きと優れた低アレルギー性、そしてアスレチックウォッチとしての魅力を高めている。この素材はスティールよりも軽く、チタンよりも頑丈なのだ。また、LM シーケンシャルには、MB&Fが開発した衝撃吸収システム "フレックスリング(FlexRing)"が搭載されている。ケースとムーブメントのあいだにある一体型のスティール製ダンパーがそれだ。
LM シーケンシャル EVOは、私の考えでは、MB&Fの時計のなかで最も成功したタイプの代表的なものだと思う。美的にも技術的にも新風を吹き込み、時計本来の面白さが凝縮されているので、最も保守的なコレクターでさえも魅了するはずだ。LM シーケンシャル EVOは、MB&Fブランドの歴史でも重要な位置を占めている。17年間で20個のムーブメントを作るというのは冗談ではないし、クロノグラフの新キャリバーの開発は、時計学的に非常にチャレンジングな領域であることはよく知られている。
ステファン・マクドネル氏は、LM シーケンシャル EVO クロノグラフの影に存在する天才だ。この時計は、彼の真の機械的才能と唯一無二の問題解決能力なしには存在し得なかった。しかし同時に、LMシーケンシャル EVOのリリースは、時計業界におけるビジネスおよびクリエイティブ・リーダーとしてのマックス・ブッサー氏の輝かしい功績であると認めるのも重要だと思う。
我々は、エベルのクロノグラフやハリー・ウィンストンのオーシャン・クロノグラフを通じて、クロノグラフというカテゴリーが、ブッサー氏のユニークな時計製造のビジョンにとっていかに重要であるかを知っている。そして17年間、MB&Fを通じて最もユニークで独創的な時計作りをサポートしてきたブッサー氏にとって、LM シーケンシャルのような革新的な新クロノグラフの開発・発表がいかに重要か、そして時計界にいかに大きな影響を与えるかは明らかだろう。
基本情報
ブランド: MB&F
モデル名 : レガシー・マシン シーケンシャル EVO(Legacy Machine Sequential EVO)
直径 : 44mm
厚さ : 18.2mm
ケース素材 : ジルコニウム
文字盤色 : アトミックオレンジ(化学的気相成長法)または コールブラック(物理的気相成長法)
夜光: あり、数字と針にスーパールミノバ
防水性能 : 80m
ストラップ/ブレスレット: チタン製フォールディングバックルつき一体型ラバーストラップ
ムーブメント情報
ムーブメント : ステファン・マクドネル氏がMB&Fのために開発した完全統合型デュアルクロノグラフシステムで、複数の計時モードを可能にするツインバータースイッチを搭載
機構 : 時・分表示、デュアル・クロノグラフ・セコンドと30分計、9時位置のプッシャーで両クロノグラフ機構のスタート/ストップ位置を反転させるバイナリースイッチによるツインバーター機構、ムーブメント裏面にパワーリザーブ表示
パワーリザーブ : 72時間
巻き上げ方式 : 手巻き
振動数 : 2万1600 振動 /時 (3 Hz)
石数 : 59
クロノメーター認定: N/A
追加情報 : 部品点数585個、12時位置に調整ネジ付きフライングテンプホイール、ブレゲ式オーバーコイル、ダークカラーに仕上げたブリッジ(NAC加工)、ガルバニックブラックダイヤル、ねじ込み式リューズ、ケースとムーブメントのあいだにFlexRingの環状ダンパーを置き垂直軸と横軸の衝撃から保護
価格・発売時期
価格 : 18万ドル(約2300万円)
販売 : MB&F正規取扱店およびMB&F M.A.D.ギャラリーにて販売中。
限定 : なし
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MB&F LM シーケンシャル EVOの詳細については、オンラインでご確認いただけます。
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