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Found 初期のトゥールビヨンウォッチのひとつを発見(しかもオメガ製だ)

2017年11月、フィリップスによるジュネーブ・オークションに真の傑作が出品された。

本稿は2017年11月に執筆された本国版の翻訳です。

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2017年11月11日、フィリップスによるジュネーブ・ウォッチ・オークション:SIXが開催される。いまさら驚くべきことでもないかもしれないが、今回も何をピックアップするか迷うほどに素晴らしいロットが並んでいる。そのなかに、私が特に注目している1本がある。やや専門的な話になるが、フィリップスがこれまで出品してきたなかでも最も歴史的かつ技術的に興味深い時計だ。

 トゥールビヨンウォッチは、今ではどこにでもあるとは言わないまでも、少なくとも特別な存在ではなくなった。ただし本当に優れたトゥールビヨンには、これまでもこれからも称賛されるべき価値がある。そしてこれは機械式時計全般にも当てはまる。普及度の面でも、私たちが何を称賛すべきかという観点でも同様だ。

 しかしながら、かつてトゥールビヨンは極めて希少な存在だった。その理由は明白で、製作には高度な技術と精密さが求められたからだ。トゥールビヨンの製作は名声だけでなく、天文台クロノメーターを競う栄誉をかけた争いの場でもあった。そして最も有名な天文台トゥールビヨンのいくつかは、時計業界の名門ブランドによって生み出された。特に有名なのが1940年代にパテック フィリップがてがけたものだ。そのうちひとつのトゥールビヨンムーブメントは、パテック フィリップのフィリップ・スターン(Philippe Stern)氏のためにケースに収められ、実際に同氏が着用していた。現在それは、パテック フィリップ・ミュージアムに収蔵されている。

 最初のトゥールビヨンウォッチは、リップによって作られたと言われており、1931年または1932年に長方形のトゥールビヨンウォッチのプロトタイプが製作された。腕時計に理論上搭載可能な非常に小型のトゥールビヨンムーブメントはほかのメーカー(パテックを含む)でも製作されていたが、それらは主に天文台クロノメーター競技用であったり、メーカーの技術力を示すためのものであったため、一般的に腕時計としてケースに収められることはなかった。同様の例としてル・ロックルのフリッツ・アンドレ・ロベール・シャルー(Fritz-André Robert-Charrue)が製作し、1945年ごろに完成したトゥールビヨンムーブメントが挙げられる。直径はわずか19.7mmであった。

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 最初期のトゥールビヨンに関心のある人なら、オメガの19石 Cal.30 Iトゥールビヨンムーブメントの存在もご存じだろう。これらは合計12個製作されたそのすべてが直径30mmで、ジュネーブ天文台コンクールの腕時計部門で競うために設計された。最近まで、これらのムーブメントは実際にはケースに収められてこなかったと考えられていた。しかし1987年にオメガは12個のうち7個を発見し、再仕上げ・組み立てを行い、腕時計としてケースに収めてコレクター向けに販売した。そのうちのひとつは現在もオメガミュージアムに収蔵されている。しかしフィリップスの出品物はスティールケースで、1947年にプロトタイプとしてケースに収められたという経緯を持つようだ。

omega 30 I tourbillon, cased in steel in 1947

 特筆すべきは、このムーブメントがこれまで確認されていた12個のうちのひとつ含まれていないという点だ。オメガのアーカイブにある書簡や図面を引用したフィリップスの解説によると、このムーブメントは写真の腕時計のプロトタイプとして特別に製作された可能性がある。このロットの説明文には、次のように記されている。

 「1947年の日付が記された手紙がオメガミュージアムに保存されており、そのなかでジュウ渓谷の時計学校の校長であるマルセル・ヴュイユミエ(Marcel Vuilleumier)氏はアメリカやイギリスの時計の台頭を懸念し、スイスの時計産業が精密時計の開発に注力する必要性を強調、トゥールビヨンウォッチの製作を提案している。最近1947年のトゥールビヨンウォッチのプロトタイプケースのオリジナル設計図が発見されたが、これはCal.30 Iトゥールビヨンムーブメントを量産腕時計に組み込むための取り組みが進められていたことを示している」

Omega 30 I Wristwatch Prototype Tourbillon
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 これまで知られていた12個のムーブメントと同様に、これは純粋に計時性能を追求した機械であった。トゥールビヨンが垂直位置での精度向上にわずかな優位性をもたらし、天文台コンクールでも検討する価値があると考えられていた時代に製作された。仕上げの面で語るべき要素ほぼ皆無だが、それもそのはず、このムーブメントの製作者たちは外観の美しさにはまったく関心がなかった(ジョージ・ダニエルズは著書『Watchmaking』で、「時計職人が技術的課題を持たないときに、彼らは仕上げを楽しむのだ」と述べている。確かにCal.30 Iの製作者たちは、まさに技術的課題と格闘していたのだ!)。

 このムーブメントでも特に注目すべきは、トゥールビヨンの回転周期が7.5分である点だ。通常の60秒とは大きく異なるこの遅い回転速度により、テンプと脱進機の位置を絶えず変化させることができ、高速回転による慣性負荷を抑える効果があると考えられていた。また、ギヨーム(バイメタル)テンプとスティール製のヒゲゼンマイを搭載している。当時、ニッケルスティール製のニヴァロックス系ヒゲゼンマイが普及し始めていたが、ギヨームテンプのほうが温度補償性能に優れていた。

 風変わりななトゥールビヨン、精密調整されたテンプ、最高品質の素材と構造を誇るこのトゥールビヨンウォッチは、20世紀中盤の腕時計技術の最先端を象徴する存在だ。ふと思い返してみると、そのわずか10年後に最初の電気式腕時計が登場したことも興味深い。1957年にハミルトンからエレクトリックが発表されたが、機械式時計に対する実用的な優位性はなかった。しかしわずかその3年後に登場したブローバ アキュトロンは本当に革命的な時計だった。

 この特別なオメガのトゥールビヨンはオメガミュージアムの承認を受け、フィリップスに出品された。オメガのアーカイブにはこのムーブメントがケースに収められた当時のオリジナル写真も残されており、リストにはそれらが掲載されている。機械式時計の精度追求に魅了される人、本物の時計製作の歴史を手にしたいと願う人にとって、これ以上ないほど特別な1本だろう。

 この歴史的に極めて重要な時計のエスティメートは10万3000〜20万7000ドル(日本円で約1256万〜2525万円)だが、実際にはこれを大きく上回る可能性もある(編注:142万8500スイスフランで落札。当時の為替相場で換算すると、約1億6285万円になる)。ロット182の詳細な説明は、こちらで確認可能だ。