2013年にHODINKEEで初めて紹介したオリジナル マイアミビーチ アンティークショー(OMBAS)は、遡ること10年以上前から、祖母のお気に入り(金無垢時計が占める)という枠を超えて大きな進化を遂げてきた。時計愛好家たちにとって毎年欠かせないイベントとして1月上旬から中旬に開催され、世界中から訪れる来場者と出展者を迎えている。
私がOMBASに参加するのはこれが3回目だ。初めて訪れたのは2020年で、直近では3年前の2022年だった。改めて振り返ると、時が経つのは本当に早い。それほど長い期間ではないように思えるが、このショーはここ数年で大きく変貌を遂げた。ディーラーや時計収集家の参加者が大幅に増え、米国最大の時計イベントになったと言えるだろう。端的に言えばOMBASは長年にわたり時計愛好家にとって“価値ある”イベントであり続けてきたが、時計業界の著名人たちが次々と参加し、口コミでそのいい評判を広めたことで、その価値はさらに高まっているということだ。
このショーにはディーラーだけでなく、無名のジュエリーや、骨董品のオーナーが持ち込んだ時計が山ほど並ぶ。少し気取ったように聞こえるかもしれないが、この週末は時計の売買と同じくらい、時計コミュニティが集まり交流する場としての意味合いが強い。そしてここで言う売買とは、大半の場合、ショーケースのなかの時計に思わず見入ったり、いつかHODINKEEのイチ編集者が1518を手に入れる日が来るだろうかと想像を巡らせたりすることを指している。
自身のブースに立つメンタウォッチのアダム・ゴールデン(Adam Golden)氏。
モメンタムドバイが取り扱う華やかなデイデイトとデイトジャスト。
こうしたディーラーが一角に集まるなか、会場のほかの場所では、プライベート販売用の在庫を披露していたダビデ・パルミジャーニ(Davide Parmigiani)氏率いるモナコ・レジェンド・グループをはじめ、オリバー&クラーク、アルフレッド・パラミコ(Alfredo Paramico)氏、ファウンドウェルのアラン・ベッドウェル(Alan Bedwell)氏、コレクタビリティのジョン・リアドン(John Reardon)氏、マシュー・ベイン(Matthew Bain)氏、ボブ・マロン(Bob Maron)氏といった聞き覚えのある名前が散在していた。まさにヴィンテージウォッチディーラーのトップが一堂に会する場となっていたのだ。
“オーバルリンク”ブレスレット付きの1969年製カルティエ ロンドン マキシ オーバル。“Florence, a trip to remember with love Joe(フィレンツェ、ジョーからの愛のメッセージを添えての思い出の旅行)”と裏に刻まれている。Courtesy of Monaco Legends Group.
マイアミビーチのコンベンションセンター内で、延べ12時間以上を過ごした。振り返ってみると、取材するべき内容は膨大だった。時計が並ぶエリアから離れ、ショーの別の側面を見て回るのも楽しかったが、伝説的ディーラーたちのブースに立ち寄ることは、時計の歴史とそして時計販売の実践を学ぶいい機会だった。時計に詳しい参加者が多い一方で、このショーの範囲は時計だけに留まらない。大半のブースではほかの種類の珍品も展示されていた。宝石、ヴィンテージジュエリー、アンティーク家具、アート、希少なアンティークの杖、ロシア製のスターリングシルバー食器などが並び、それぞれ異なる興味を持つ来場者を引きつけていた。
HODINKEEの観点からこれは時計のイベントとして紹介されているが、実際にはそうではない。その名前が示すとおり、これはアンティークショーだ。つまり時計ブースに立ち寄る人々も真剣なバイヤーたちも、“時計業界”の人間には“標準的”に見える時計に対して、新鮮な驚きや関心を示すのである。ロイ・ダビドフ氏が若いカップルに、イエローゴールドのヴァシュロン・コンスタンタン 222のきわめて良好なコンディションを強調しながら、引き締まったブレスレットやいくつかのカルティエのヴィンテージウォッチを披露しつつ、選択肢を説明している場面を目にした。少し雑然としたショーのなかで基礎からていねいに教え、新たな人々を自分の世界に引き入れるエキスパートの姿を目にするのはとても素敵だった。
ダビドフブラザーズのロイ・ダビドフ氏。
同様に、別のブースでは私にとってその週末で一番印象に残った会話が聞こえてきた。身なりのいい男性がYGのロレックス ポール・ニューマン デイトナに本気で興味を示していたのだ。ディーラーは、ブラックダイヤルに“チェリー”レッドのDAYTONAロゴが入ったこのモデルの希少性を説明する。提示された金額を聞いた男性は、本気でこう答えた。「まず250 GTOを売らないと」。それに対してディーラーは「そのクルマでディナーには行けますが、レストランのなかでは身につけられませんよ」と返したのだった。
私の逸話はこれくらいにしておこう。今回のショーで目にした素晴らしい時計の数々と、途中で目を引いたユニークなアイテムを写真でお楽しみいただきたい。
“オーバルリンク”ブレスレットが付いた1969年製カルティエ ロンドン マキシ オーバル。Courtesy of Monaco Legends Group.
ロレックス デイトナ ポール・ニューマン Ref.6265 “ミステリークロス”。Courtesy of Monaco Legends Group.
前述した“ミステリークロス”。
ジョン・ゴールドバーガー(John Goldberger)氏が“今回のマイアミ アンティークショーで最も印象的だった時計”と評した、ノースアメリカン七宝ダイヤルを備えたパテック ワールドタイム ポケットウォッチ Ref.605HU。Courtesy of Monaco Legends Group.
マライカが選んだのはグリーンエナメルのブルガリ セルペンティだ。Courtesy of Monaco Legends Group.
内部にバルジュー13VZASを搭載した1948年製オーデマ 天文台スタイルの精密時計と、ゴビ・ミラノ(Gobbi Milano)が販売した1930年代製AP クロノグラフ。Courtesy of Menta Watches.
見事な美しさを誇るバルジュー13VZAS。
ゴビが販売した時計を着用してみた。
ヴィンテージロレックス。Courtesy of Menta Watches.
メンタウォッチのブースで、とおりすがりの人が見せてくれたパテック Ref.1526J 永久カレンダー。
もうひとつのオーデマ ピゲ。こちらはWGのケースにダイヤモンドがあしらわれたダイヤル。Courtesy of Menta Watches.
裏には素晴らしい刻印も施されている。
まだまだあるヴィンテージロレックス。Courtesy of Menta Watches.
ギュブランが販売したWG製パテック Ref.3563。Courtesy of Foundwell.
モーブッサンの小型の懐中時計(パースウォッチ)。Courtesy of Foundwell.
数人の来場者と談笑するアルフレッド・パラミコ氏。その話題は…そう、コルムについてだ。
テオ・オフレのトゥールビヨン・ア・パリ。販売対象外。Courtesy of Alfredo Paramico.
トリプルカレンダー仕様のオスカー・ウォルダン クロノグラフ。Courtesy of Alfredo Paramico.
プラチナにダイヤモンドをあしらったIWC グランド・コンプリケーション。Courtesy of Alfredo Paramico.
アルフレッド氏が着用していたWG製ダニエル・ロート グランドコンプリケーション。
ユニークなアイテムで気分転換を。
時計の話題に戻ろう。
セルペンティが勢ぞろい。
さらに続く。
アバクロンビー シーフェアラーのペア。どちらもマーサズ・ヴィニヤード島のオリジナルオーナーのもの。Courtesy of Jones & Horan.
高級ディーラーばかりではない。
ウォルト グレース ヴィンテージ金曜夜に開かれた懇親会。
ジェラルド・ジェンタ サファイア パーペチュアルカレンダー Ref.G3459-5。パーティでは輝く相棒。
ここにモバードをこっそり忍ばせた。1970年代製のモバードだ。
プラチナでできた1920年代製カルティエ タンクノルマルを着用するジョン・ゴールドバーガー氏。
ロレックス オイスター パーペチュアル セレブレーション ダイヤル。
ヴェリースペシャルのファン・ディエゴ・ラヴェル(Juan Diego Lavelle)氏が着用する、パテック Ref.1450 “トップハット”。
パテック Ref.570。Courtesy of Matthew Bain.
選りすぐりのヴィンテージスポーツロレックス。Courtesy of Matthew Bain.
ヴァシュロン・コンスタンタン 222から、ミドルサイズのRef.46503/415と“ジャンボ”Ref.44518/415。どちらもメーカー純正のジェムセットだ。Courtesy of the Davidoff Brothers.
唯一無二の1本、ハリー・ウィンストン&FPジュルヌによるオーパス1 クロノメーター レゾナンス。Courtesy of Lunar Oyster.
来場者が見せてくれたブレゲ トリプルカレンダー クロノグラフ。Courtesy of Aubrey Thacker.
TikTokのマイク・ヌーヴォー氏のショーケース。
素晴らしい一体型ブレスレットAP。Courtesy of Mike Nouveau.
彼が直近で手に入れた、スティール製パテック Ref.96。Courtesy of Mike Nouveau.
パテック フィリップ製ではない、貴重なコレクタビリティの一品。サイをかたどった、19世紀末のバードボックスである。
パテックのエリプスを収めたボックス。Courtesy of Collectability.
一体型ブレスレットのパテックRef.3970と、パテック Ref.1518。Courtesy of Collectability.
パテックのカラトラバを収めたボックス。
ジョン・リアドン氏が最近購入したパテック“ノーチリプス” Ref.3770。ジェラルド・ジェンタ(Gerald Genta)氏による同モデルの原画の上に展示されている。
ボブ・マロン氏。
いくつかのヴィンテージアイテム。Courtesy of Bob Maron.
ヴィンテージ ロレックス。Courtesy of Bob Maron.
カルティエのミステリークロック。
ダンヒルの小型懐中時計(パースウォッチ)。
ジャガー・ルクルトのデスククロック。
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