世界中のミュージシャンたちから厚い支持を集めるオーデマ ピゲは、その結びつきをより強固にするかのように、2022年、ロイヤル オーク オフショア ミュージックエディションを発表して周囲を驚かせた。いつも新しいクリエーションを追い求め、それに呼応するミュージシャンたちの存在。自身も腕時計を愛好し、かねてからオーデマ ピゲのファンだというFPM 田中知之さんに、その魅力を体感してもらう。
世界的に、音楽業界からの注目を感じたロイヤル オーク オフショア
2023年、ロイヤル オーク オフショア ミュージックエディションに加えられた新たなモデル。それは37mmのブラックセラミックケースをまとった1本だ。基本的な仕様は2022年に発売されたモデルと同様で、10色のマルチカラーで仕上げられた“イコライザー”パターンのダイヤルが最大の特徴。37mm径で12.1mm厚のケースは、世界的には女性向けを志向したものだが、我々日本人男性ならばしっくり馴染むというサイズ感でもある。
大ぶりな時計を比較的好み、オーデマ ピゲでいえば42mmのロイヤル オーク オフショアを愛用しているという田中知之さん。最新作であるロイヤル オーク オフショア ミュージックエディションに関しては、“ボーイズサイズ感覚でつけられる”と非常によい感触を得たようだ。
「写真で見るより実物はさらによくて、撮影中につけていただけで欲しくなってしまいました。実はこの撮影が決まったあと、アンディ・ウォーホルの遺品オークション(1988年)のカタログをふと眺めていたんです。そこにはボーイズやレディスサイズの時計も掲載されていて、そのセンスが素晴らしいなと、撮影の3日前に偶然のインスパイアがありました。小ぶりなオーデマ ピゲというのは、自分のなかではありえないサイズだったわけですが、この37mmのロイヤル オーク オフショア ミュージックエディションに関してはすごくいい落としどころにまとめられているなと感じました」
田中さんがオーデマ ピゲに注目し出したのは2005〜2006年ごろ。当時、黒人ミュージシャンがロイヤル オーク オフショアをこぞって着用し始め、日本ではNIGOさんがそのトゥールビヨンモデルを購入したことがニュースになったりした時期だという。
「世界中の音楽業界の人たちが一斉に、オーデマ ピゲへ注目をし始めていたんですね。アメリカのラッパーたちが、成功の証としてチョイスしていたことも背景にあると思います。僕はというと、当時はいまよりカラダも大きくて大きな時計を求めていたころ。ロイヤル オーク オフショアはその意味でぴったりだったし、いまほどブランドが過熱していたわけではなかったけれど輝いて見えました。今後、絶対人気が出るのだろうなと感じたことを覚えています。僕が手にしたモデルはチタン製なのですが重さがしっかりあって心地よく、存在感があるんですね。いまでも愛用しています」
およそ20年前に田中さんが予感したものは、いままさに大きな波となっている。それは、オーデマ ピゲがロイヤル オーク オフショアのような自社のアイコンのひとつをモチーフとしながら、今回のロイヤル オーク オフショア ミュージックエディションや記憶に新しい1017 ALYX 9SM(Matthew Williams)とのコラボレーションに代表されるように、革新性を加えることを常に忘れなかったからだろう。
「なぜこのモチーフを使ったのだろう?と一瞬思うんですが、現物を見ると腑に落ちる時計に仕上がっているのがオーデマ ピゲというメーカーなのだと思います。ブランドに力があって、なおかつ遊びがないとできないことを当然のようにやる。現代を代表する時計ブランドが、遊びを本気でやっているって一番粋なことですよね。どんなジャンルでもこういうプロダクトが生まれる可能性はあるものだと思いますが、そういうものがポンと出現したときに、僕らは心引かれるのです。こうしたミクスジャー的感覚は70〜90年代に興り、現代に結実しているものだといえますが、ここへきてようやくオーデマ ピゲのようなブランドが選ぶアプローチ方法のひとつになってきたことも感慨深いことです。普通、クラシカルな方向で製品を作りつづけた方がマニア層の支持を得られるし、わかりやすいですから。ロイヤル オーク オフショア ミュージックエディションに限らずいまのオーデマ ピゲは、様々な文化やプロダクトを見てきた、眼の肥えた方々に響くものづくりをしていると思います」
音楽はもちろん、ヴィンテージの時計や洋服やハット、メガネ、カバンなど、数々のモノやコトに対して造詣が深い田中さんだからこそ、こうした機微に気づきいち早く作品を評価することができる。DJであり、自身もクリエイターであるがゆえにオーデマ ピゲへのシンパシーも感じているようだった。
「音楽でもものづくりでも、ずっとやってきたこと以外のことをやると必ず反発があるものです。クリエイターという人種は新しいアウトプットをしていきたいものなのですが、人気が高ければ高いほど反発は大きなものになります。ただ、それを繰り返してきた人ほど、伝説になるわけです。同じことを続けるのもひとつのクリエーションのあり方ですが、同じところを回り続けるのではなく、確実に次の世代に上がっていくことが広義でのファッションなのだと思います。ビートルズはまさにそうでしたが、革新的に前に進めているかどうか。僕自身は、録音物は自分のエゴイズムの結晶みたいなものを作るべきだと考えていて、そこにファンの声はあっていいと思うけれど、結局そのことは考慮していないというのが実際のところです」
「セールスやマーケティングみたいなことを考え出すと、クリエーションの純度は下がりますし、理路整然と、キレイに整いすぎたものに僕は違和感を感じてしまう。どこかに驚きをプラスしたいわけです。時計のようなプロダクトに置き換えれば、全員がわかるものとそうでないものは各時代に色々とありますし、自分のなかで流行のないものを作り、外部からのバイアスではなくてリバイバルの機運があるならそれはやった方がいいのだと思います。革新と原点回帰は同時に起こるものかもしれないし、それが多層的に行われるのもウソじゃないわけで、むしろそうなるのはブランド力の証明でもあるのだと思います」
最後に、リアルタイムでオーディエンスの温度を感じながら曲を紡ぐ、DJとしての視点からロイヤル オーク オフショア ミュージックエディションについて、改めて思うところを尋ねた。
「音楽でも時計でも一緒だと思うのですが、アレンジしていくということはオリジナルへのリスペクトありきだと思います。(DJの)プレイをしている最中は、みんなが好きな曲だけをかけていればいいのに、自分のなかで折り合いをつけながら選曲でチャレンジする瞬間を必ず入れます。僕は自分の仕事において、クリエイターとDJという両者の目があるから、このロイヤル オーク オフショア ミュージックエディションのようなクリエーションはすごく頼もしく感じます。みんなをビックリさせる何かを毎回必ず考えていて、カッコよく着地させることは本当に困難ですが、いかにアプローチするかが大事なこと。同じ作り手としては、ある意味恐ろしい、勇気あるクリエーションをしていると感じますし、そういうブランドだから僕は引かれてしまうのでしょうね」
Words:Yu Sekiguchi Photos:Akira Maeda(Maettico) Styling:Eiji Ishikawa(TRS)
話題の記事
Found アンティコルム 香港オークションに出品された、クール(で手ごろ)な機械式アラームウォッチ4選
“時が止まったロレックス”をとおして振り返る9.11
Hands-On ビバー 新作“オートマティック”と独自のマイクロロータームーブメントで復活