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September 30, 2020
September 30, 2020
Business News コロナウイルスがスイス高級時計市場に与える影響

Business News コロナウイルスがスイス高級時計市場に与える影響

コロナウイルスが与えるスイス時計業界への影響について、最新情報を公開。

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先月、スイスでの二大時計見本市の開催中止発表によって、拡大するコロナウイルスの流行がスイス時計業界に与える影響に注目が集まっている。

 その影響は甚大だ。バーゼルワールドの中止は、その103年の歴史で初めてのことで、時計業界が前例のない事態に陥っていることを明白にした。

 状況はめまぐるしく変わり、予想がつかない。3月初めの時点で、この差し迫ったパンデミックに時計業界はどう対処すべきか、最終的に時計業界にどんな影響が及ぼされるのか、といった多くの疑問があるが、答えはなかなか出ない。

 確実なのは、スイス時計業界が本格的な危機に直面しているということだ。スイスにとって一位と三位を占める最も重要なマーケットである香港と中国での時計の売上、それが行き詰まることになった。各時計メーカーはこの流行中の感染症による影響に対処しようと必死になっている。中華圏での深刻な売上の鈍化に対応するための、また見本市の中止を受けて消費者と報道関係者に新作を発表するためのベストな方策を模索し、よりひどい混乱に陥っていく世界でどうやって上手く売上目標を達成するかを考えている。

 「プランBを用意していてもダメだ」とH.モーザーのCEOエドゥアルド・メイラン氏(Edouard Meylan)はホディンキーに対して語った。「プランC、D、Eと用意しておかなければならない」

 スイスの関係者はこの状況を「とても危機的だ」と表現した。コロナウイルスの危機がいつまで続くのか、市場の状況がどこまで悪化するのかは誰にも分からない。多くの企業は予算を削減した。出張を制限するところもあれば、労働者を解雇した企業もある。さらに、時計業界では犠牲となる会社がいくつも出るかもしれないという予感がある。先週にはひとつの企業、RJウォッチ(前ロマン・ジェローム)が破産を宣言した。「もっと増える可能性がある」とあるスイス時計のCEOから私は聞いている。スイスで伝わっている予測ではその数は30ほどとも言われている。

 ここに今までの状況をまとめてみたい。


中華圏の力強さの衰え
Shanghai

中国本土はラグジュアリーブランドにとって活況な市場であった。

 バーゼルワールドの中止がメディアで大きく取り上げられた。(レイチェル・マドー<Rachel Maddow>がMSNBCの自身の番組で言及し、ニューヨーク・タイムズがウェブサイトに記事をアップした)

 しかし見本市の取り止めは、この5週間にコロナウイルスの大流行がスイス時計の売上に与えた大打撃に比べれば、小さなことだ。問題は感染症の流行がスイス高級時計にとって、売上成長の力強い推進力であった中国本土と香港を直撃したことだ。

 香港と中国は合わせて、スイスの時計輸出全体の4分の1近く(23%)を占めていて、昨年は217億スイスフラン(約2兆4328億円)に相当した。

 コロナウイルスはこの二つのマーケットにダブルパンチを与えた。一つめは、既に困窮していた香港の経済状況をさらに悪化させた。昨年下半期の政治的混乱は高級時計市場に深刻な損害を与えた。スイス時計の香港への輸出額は2019年に11.4%減少した。この下降のインパクトは、スイス最大のウォッチグループであり、中国と香港に90の店舗を持つスウォッチ・グループによって明らかにされている。スウォッチ・グループによると、同グループはこの地域で昨年およそ2億スイスフラン(約224億円)を失い、それによって2019年の収益が2.7%減少し、82億スイスフラン(約9193億円)となった、世界のその他の地域での売上は伸びていたにも関わらず、この結果となっているのだ。

 12月終わりの中国におけるコロナウイルスのアウトブレイクは、香港の厳しい状況をさらに悪化させた。なぜかといえば、政治的紛争の間には、少なくともデモが止んだときには店を開けられたからだ。コロナウイルスの場合には、店はほとんどいつもからっぽだ、とそこで働く人々は言う。(現地の雰囲気を伝える一例として、学校は1月に閉鎖され、今だにそれが続いている)

プランBを用意していてもダメだ。プランC、D、Eと用意しておかなければならない。

– H.モーザー CEOエドゥアルド・メイラン

 中国にもたらされた二発目の打撃は、初めの一撃よりはるかにダメージの大きいものだ。コロナウイルスによって、中国本土はスイス時計業界のヒーローから一転して犠牲者となった。

 中国は2019年のスイス時計売上の原動力となっていた。輸出額は16%増加し、香港での減少を補う大きな助けとなった。中国はこの年の時計業界全体の成長を維持することに貢献していたのだ。スイスから世界への輸出は昨年2.4%減少したが、あらゆる国際的緊張(米中貿易戦争、英国のEU離脱、香港の政治問題など)を考慮すれば悪い結果ではないといえる。

 しかし今や、コロナウイルスは中国本土の売上に大打撃を与えている。売上への影響に関する公式なデータはまだないが、専門家による時計を含む高級品業界への影響予測は、惨憺たるものだ。例えばクレディ・スイスは2月24日の投資家への文書でリシュモン・グループの中国での2月と3月の売上は80%減少するだろうと予測している。さらに中国にあるカルティエ店舗の3分の1は閉まっており、残りの店舗は通常の午前10時から午後10時ではなく、正午から午後5時までの営業となっていると伝えている。

  ブルガリのCEOジャン-クリストフ・ババン氏(Jean-Christophe Babin)はスイス時計の経営者の中で珍しく、公式にコメントを出している。ブルガリは中華圏に51店舗を持っている。彼がCNNに語ったところによると、そのうちの半数は閉まっていて、残りの店舗は短縮営業をしている。「中国において通販だけが頼りのこの現状は、売上への深刻な痛手となっている」とババン氏は述べている。

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トラベルリテールの苦境
Boutique

コロナウイルスの脅威を原因とする、旅行者による買い物の減少がスイス時計の売上に打撃となった。

 売上の落ち込みは中華圏に限ったことではない。コロナウイルスによる中華圏からの旅行者の制限は、世界中の人気観光地での高級時計の売上にも痛手となっている。推定1億5000万人の中国人観光客が毎年世界を旅行していて、彼らがトラベルリテール領域の高級品購入の40%を占めていると推定されている。

 この数年間、中国人観光客はパリ、ニューヨーク、ロンドン、東京、その他の人気観光地におけるスイス時計の売上に大きく貢献してきた。(スイスも例外ではなく、例えばルツェルンでの時計小売における売上の70%は中国人観光客によるものだと、関係者は語っている)そのビジネス規模は大きく、コロナウイルスの脅威はトラベルリテールの勢いを著しく鈍らせた。中国人観光客を相手にする米国の小売業者は、ホディンキーに対し、いつ回復するのか全く見通しが立たないと語った。


見本市の相次ぐ取り止め
Baselworld

バーゼルワールドの開催は2021年1月を待たなくてはならない。

 立て続けに発表されたバーゼルワールドとWatches & Wonders Geneva(旧称:SIHH)の中止は、多くのスイス時計ブランドの新作発表の計画を台無しにし、各社は発表の戦略を立てなおそうと躍起になっている。

 ブルガリのババン氏は迅速に動きだし、Watches & Wonders Genevaが開催される予定であった4月下旬にジュネーブで急ごしらえの展示会を開く計画を進めている。ブライトリング、ジラール・ペルゴ、ユリス・ナルダン、H.モーザー、その他の独立系ブランドがそこに加わっている。このイベントは主にヨーロッパの小売、コレクター、報道関係者に向けて企画されている。

 一方で、そこまで急がなかったのはロレックスである。バーゼルワールドの取り止めが発表された日、ロレックスU.S.は報道関係に、新作発表予定を「年内には」連絡できるだろうと伝えた。

 いくつかの大手ブランドはローカルイベントで顧客と報道各社を迎える予定だ。グランドセイコーは3月3日から6日にかけて東京で世界各国からゲストを迎えてのサミットを計画していたが、これは中止となり、4月の初めに2日間の短縮版サミットをニューヨークで開催予定だ。今週チューリッヒで予定していたイベント「Time To Move」を中止したスウォッチ・グループもローカルイベントを計画している。リシュモン・グループも同様で、「現在、我々のブランドの新しいコレクションを皆さんに発表するために、代りとなるローカルイベントの計画に取り組んでおり、できるだけ早く再度皆さんにお目にかかりたいと思っています」とリシュモン ノースアメリカの社長兼CEO のアラン・ベルナール氏(Alain Bernard)はWatches & Wondersの中止が発表された日に、顧客とプレスに向けて記している。

 別の選択肢として、6月にラスベガスで開催されるCouture ShowやJCK見本市といったローカルな時計・宝飾品見本市がある。Couture Show の時計部門であるCoutureTimeの主宰者ステファン・カイザー(Stephen Kaiser)は、スイスの見本市中止が発表されてから、展示会への出展に興味を示す時計メーカーから数多くの問い合わせがあったことを明かした。

SIHH

先月にWatches & Wonders Genevaの中止が発表された。

 スイスの時計業界において、コロナウイルスの犠牲者はスイスで開催予定だった見本市そのものだ。この中止によって数百万フランの収益を失うことになる、とスイスの関係者は述べている。どちらの見本市もデジタル世界にそのフォーマットを新たに立て直そうと取り組み始めた。

 今年の展示会の損失はとりわけバーゼルワールドにとっては大きな痛手となる。バーゼルワールドの苦境は、親会社であるMCHグループが3億700万スイスフラン(約344億円)を過去2年間で失ったことを報告している主な原因であった。この見本市は来年の1月に持ち越すことを予定していて、これは出展者にとってはるかに好都合な時期である。Watches & Wonders Genevaは新しい日程を公表していないが、関係者によると、こちらも同様に1月に延期する方向で主催側が調整しているらしい。

 コロナウイルスの流行が続いた場合に、この春から夏にローカルな見本市に出掛けたいと思う人がいるのか、というのは時計業界が直面している多くの答えのない疑問のうちの一つである。その他に、現在中国に、そして8ヵ月にわたって香港に閉じ込められている高級時計の在庫はどうなってしまうのか、という疑問もある。

 最大の疑問は、この危機はどのくらい続くのか、そして中国のように他の市場をも麻痺させるのかということだ。その答えは? 誰にも分からない。